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〈海外情勢〉                     2017年5月15日

北朝鮮総攻撃決定!
日本を襲う昭和20年8月15日の衝撃!


米中が結託して北朝鮮に圧力をかけても、恐れずにミサイル実験を繰り返す北朝鮮。米空母カール・ビンソンを中心とした打撃群が4月末に日本海に到達したが、5月に入るとトランプが金正恩を「頭が良くて利口だ」と持ち上げ、米朝首脳会談の可能性まで口にしはじめた。この状況に、これまで「まもなく第二次朝鮮戦争勃発か」と騒いでいた評論家や大マスコミも「北朝鮮武力衝突は回避」と言い始めた。この状況こそ、じつは最も危険なのだ。

「親北」文在寅(ムンジェイン)韓国大統領に強烈な一撃

5月9日に投開票が行われた韓国大統領選で、下馬評通り「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)が当選を決めた。国内の混乱、経済の立て直し、対北朝鮮、対日政策などが新大統領にとって喫緊の課題。文在寅は選挙前から「慰安婦合意は間違いだった」と胸を張り、さらに圧勝間違いなしと分析された投票日前日の夜には「政権をとれば親日派を清算する」と、対日強硬姿勢を露骨に口にしていた。
3人の候補の誰が大統領になっても、対日強硬姿勢を押し通すことは選挙前からわかっていたことで、日韓の厳しい駆け引きは今後も両国民を苦しめ、憂鬱にさせるだろう。

「対日政策」とは違って「対北朝鮮」の立ち位置は大統領候補3者それぞれが異なっていた。新大統領になった文在寅が最も「親北」姿勢だ。昨年12月には「当選したらアメリカよりもまず北朝鮮に行く」と宣言し「北朝鮮のひも付き大統領候補」と揶揄されていた。状況が整えば平壌に飛んで金正恩との南北首脳会談に臨みたいとする姿勢は当選後も変わらないが、「米国より先に北朝鮮へ」という宣言は就任とともに引き下げ、「6カ国協議」の体制再建を目指すと宣言している。
文在寅政権は非常に厳しく困難な外交問題を抱える。それはまさに、「6カ国協議」に関わる各国との問題でもある。対日、対北朝鮮は前述のとおりだが、対ロ、対中、対米いずれも難しい問題が山積である。そうした状況下、大統領に就任した10日夜には、文在寅はトランプ大統領と30分間の電話会談を行い、米韓同盟の確認、北朝鮮核問題の認識の共有と協力で意見が一致。トランプは早期訪米を招請。文在寅は「なるべく早い時期にワシントンを訪問し、率直に意見交換をしたい」と応じた。

「対北融和」を掲げて大統領に就任した文在寅だが、就任5日目に北朝鮮から厳しい洗礼(一撃)を喰らった。ご存じのとおり14日午前5時27分に長距離弾道ミサイルの発射実験が行われたのだ。今回のミサイルは新型ミサイルと考えられ、高度2000km、着水域まで700km(韓国軍発表)~800km(日本政府発表)とされる。これに対し韓国軍は直ちに対応。「韓国国民と韓米同盟、国際社会に対する挑発」としたうえで「北がわれわれの警告を無視し挑発を続けるなら、わが軍と韓米同盟の強力な対応に直面することになる」と強調した。これを受けて文在寅大統領も「朝鮮半島と国際社会の平和と安全に対する重大な挑戦だ」と北朝鮮を強く非難。韓国軍が行った強気の発言と韓国NSC(国家安全保障会議)に文在寅が引きずられた形だが、北との対話を掲げる文在寅は就任早々に厳しい試練と直面することとなった。

「6カ国協議再開」への道は開かれたが…

大統領就任直後にトランプとの電話会談を終えた文在寅は、「(トランプ政権が)北朝鮮問題を最優先課題に位置付けていることを高く評価する」と語り、北朝鮮問題に正面から取り組む米国の姿勢を評価した。だが北朝鮮事情は、そんな悠長な状況にない。
トランプ大統領はオバマの「戦略的忍耐」という政策を根底から見直すと宣言、「あらゆる選択肢をテーブルの上に乗せながら解決に向かう」(3月1日)と表現している。「あらゆる選択肢」とは、「米朝国交正常化」から「北朝鮮軍事攻撃」に至るさまざまな選択肢を指すが、じっさいは、握手するか戦争するかの、2つに1つしかない。
トランプは大統領選に勝利してから就任するまでの間に、国務省、国防省、CIAなどと打ち合わせを行っているが、最も時間をかけたのは北朝鮮問題だった。中東問題や金融問題を初め対ロ、対中、対EUなど難問を抱える米国として、北朝鮮問題に長時間を割きたくない。できれば夏までに、どんなに遅くとも年内には決着させたい。――つまり米国は、北朝鮮問題解決を「6カ国協議再開」などといった悠長な手段に託しているわけではないのだ。

ペンス訪日、訪韓は「北朝鮮電撃訪問」の布石だった

ペンス副大統領が4月16日に韓国入りし、18日に来日、20日インドネシア、22日オーストラリアを訪問する日程が4月冒頭に発表された。このとき北朝鮮情報に詳しい者は誰もが「ペンスは平壌を電撃訪問する可能性がある」と直感した。
NYタイムズなど米マスコミ各社が暴いているとおり、米国務省は水面下で北朝鮮と接触を続けている。トランプが北朝鮮に対して軍事攻撃も辞さずという厳しい圧力をかけ、空母カール・ビンソンを主力とする打撃群が朝鮮半島海域に展開するという状況下、米朝は水面下で激しいやりとりを行ったはずだ。
ペンス副大統領が韓国に到着する直前の4月16日早朝、北朝鮮はミサイル発射実験を行い、発射4、5秒後に爆発してしまった。いったいこれは何を意味するのだろうか。水面下の米朝会談が決裂したと読むのが妥当なところだろう。あるいは発射直後の爆発(失敗)は、米国(ペンス副大統領)に対する何らかのサインだったのかもしれない。
いずれにしても、ペンス副大統領が北朝鮮を電撃訪問し、米朝が和解するという筋書きは、この時点で消えてなくなった。

北ミサイル連続失敗はサイバー兵器による攻撃だったか

このところ北朝鮮はミサイル発射実験を連続して失敗している。昨年にはムスダンの発射実験を7回連続失敗させ、8回目にやっと成功させた。今年2月にも3回連続失敗、4月5日のムスダン発射もわずか60km飛行したところで墜落し、これも失敗と見なされている。それに続いての4月16日の失敗。だが5月14日には新型ミサイルを成功させている。
たび重なる失敗について、ネット上だけではなく、欧米政府筋や韓国国情院、さらにはNYタイムズなどの新聞マスコミも「サイバー攻撃により撃墜された」「電磁気兵器による攻撃だろう」と推測している。発射されたミサイルを打ち落とすサイバー兵器や電磁パルス兵器、指向性エネルギー兵器説は、たしかにある。だが一般論としては、発射されたミサイルをサイバー兵器やパルス兵器で落とす事は非常に難しいとされる。
では、サイバー兵器などで、敵ミサイルを落とすことはできないのか。不可能ではないらしい。現実に米国は4年前に、対イラン用「レフト・オブ・ローンチ(left of launch)作戦」というプロジェクト名のミサイル撃墜作戦を展開した実績を持つ。その後の技術進歩を考えると、米国のサイバー兵器が作動して北朝鮮のミサイルを失敗に終わらせた可能性は、ないとはいえない。
北朝鮮のミサイル発射失敗の原因は、もう少し単純なものかもしれない。
ミサイルにはICチップが埋め込まれているが、北朝鮮はICを輸入に頼っている。このIC内に制御不能となるウイルスを埋め込んでおけば(ICに加工を施す事は国際法違反だが)、発射直後に爆発あるいは制御不能に陥る。北朝鮮のIC輸入元を突き止め、加工したICを送り込むことで、ミサイル実験を失敗させた可能性は高い。
もっとも、一方には北朝鮮のミサイル発射失敗は、北朝鮮自身がミサイル破壊実験を繰り返しているのだとの説もある。北朝鮮のサイバー部隊はすべて国外に置かれている。陸海空の軍隊とは違い、極論をいえばたった一人でも部隊運営が可能で、アジア各国に相当数のサイバー兵士が潜んでいる可能性もある。今月13日には全世界100カ国近くがサイバー攻撃を受けたというが、これらは一カ所、二カ所からの攻撃ではない。この時の攻撃はハッカー集団によるものだとみられているが、北朝鮮が行った可能性も十分ある。

北朝鮮攻撃が決定された

話を元に戻そう。
4月中旬のペンス副大統領の訪韓、訪日スケジュールは「平壌電撃訪問」を睨んでいた可能性が高い。ペンス本人が訪朝しなくても、同行していた政策集団の何人かが密かに訪問する事も可能だったし、ソウルや東京で交渉をする可能性もあった。だがそれは実現しなかった。トランプはオバマの「戦略的忍耐」を完全否定した。握手か、戦争か。そのどちらかしかない。それは早ければ夏までに結論が出される。
ペンスが何もせずにアジア豪州の旅を終えた。これは「握手はなくなった」と考えていいだろう。残るは「北朝鮮壊滅作戦」「金正恩斬首作戦」しかない。
トランプは5月に入ると、金正恩を「若くして権力者になった。とても頭がよく利口だ」と持ち上げ、また一方で中国を通して、「条件さえ整えば金正恩委員長の訪米を招請し、首脳会談に応じる」といった発言情報を流し始めた。だが同時に、「いずれ北朝鮮は優れた(核兵器)運搬システムを持つだろう。それは容認できない」としたうえで、武力行使の可能性を口にしている。冷静にこの状況を分析すれば、すでに米国は北朝鮮攻撃を決定したと判断できる。米国が設定した期限を過ぎても北朝鮮が屈服しなければ、米軍は一気に平壌に総攻撃をかける。従来までのジリジリとした忍耐戦というのは、軍産複合体が望む冷静構造なのだが、トランプは断固としてそれを拒否している。

平壌総攻撃の「Xデー」はいつか

このまま放っておけば、近い将来、北朝鮮は米本土を射程に捉える核ミサイルを開発するだろう。もう一刻の猶予もない。トランプは北朝鮮攻撃の肚を固めた。
もちろん水面下では、ギリギリまで交渉は継続するだろう。それが纏まる可能性は非常に低いが、あり得ないわけではない。北朝鮮は米国人を3人ほど拘束しており、彼らを解放するという名目で米国との水面下交渉に臨んでいるとみられる。また5月14日早朝に打ち上げられたミサイルは、「米国の圧力には屈しない」という強い意志表明と受け取れる。
金正恩がトランプをオバマやブッシュと同様に考えていたら、大怪我ではすまない。確実に命を落とす。チキンレースは今、最後の局面を迎えている。金正恩がいつ屈服するか、それとも屈服せずに米軍の総攻撃を喰らうかだ。
4月初旬に行われた米中首脳会談のトランプ、習近平両首脳の言動を見る限り、習近平も覚悟は決めたと思われる。もちろん中国としても、北朝鮮が折れて核開発放棄の道を選ぶことが望ましい。その実現のために、あらゆる圧力と隠密裏の交渉を続けていることだろう。だが、それが叶わないのであれば、米軍の「力による北朝鮮のレジューム・チェンジ(体制変換)」を容認するしかない。では、日本を含め、中国、韓国の状況を俯瞰して、米軍による北朝鮮(平壌)総攻撃の日は、いつか?
複雑な国際情勢の分析を飛ばして、結論を急ぐ。北朝鮮(平壌)総攻撃のXデーは7月初旬以降月末までの間。大胆に予測すれば、7月10日から14日までの間。おそらく晴天の未明もしくは早朝。作戦は24時間以内に終了するだろう。どんなに長引いても3日と続かないはずだ。長引けば日本の米軍基地や核施設、韓国全土が危険に晒される。

「その後の北朝鮮」が日本をひっくり返す

北朝鮮、金正恩政権が折れない限り、米軍による平壌総攻撃は避けられない。攻撃されたら北朝鮮は一矢報いるためにも韓国や日本の米軍基地に攻撃を行うだろう。被害は限定的だが、ミサイル攻撃、あるいはテロ攻撃を受けた衝撃は、日本人の横っ面に強烈なビンタを喰らわすことになる。もちろん、金正恩がチキンレースを途中で降りて、交渉のテーブルに着く可能性もある。確率は現在のところ五分五分とも思える。北朝鮮が米軍に攻撃されて体制変換を行った場合と、平和のうちに交渉のテーブルに着いた場合と、日本にとっての衝撃は変わらない。
昭和20年8月15日――。日本はポツダム宣言を受け入れ敗戦した。その途轍もない衝撃からわずかの期間で日本は激変した。価値観も何もかも、すべてひっくり返ってしまった。
平成29年夏――。日本はまたも途轍もない衝撃波を喰らうことになる。

強引に独立させられる日本

トランプ政権がやろうとしていることは、第二次大戦以降の枠組みの破壊である。極論をいえば、この数百年間で構築された体制、枠組みの破壊だ。平壌が総攻撃を受ければ、北朝鮮は必ず反撃する。それは日本、韓国に甚大な被害をもたらす。一発でもミサイルを喰らえば日本は激変する。
もし平壌総攻撃前に金正恩がチキンレースから降りたらどうなるか。極東の安寧は中国に一任され、米国はアジアから撤退する。在韓米軍も在日米軍も、数年以内に消えてなくなる。日本は米国の核の傘から離脱させられる。安倍政権が強引すぎるやり方で憲法改正を急いでいる理由は、そこにある。
いまなら、まだ日本人は冷静に物事を考えることができる。日本から米軍が去り、日本が真の独立国になったとき、どうすれば良いのか。いままさに、憲法問題を含め、日本のあり様を日本人が自らの意思で決めるべき最後の機会と自覚したい。



      



<海外情勢>                         
                             2017年4月13日

米中首脳サミットと中国共産党における決定的戦略思考の欠如

                        藤 井 厳 喜 (国際政治学者)

4月6日から7日、米中首脳会談が開催された。
トランプ大統領は習近平・国家主席を米フロリダ州にある自らの別荘マール・ア・ラーゴに招き、形式上は歓待を尽くして米中両大国の首脳会談が開かれた。
この首脳会談に先立ち、トランプはティラーソン国務長官を訪中させ、習近平と直接、会談させている。世情、言われるところでは、ティラーソンはチャイナ側のレトリックを二度も繰り返し丁重な姿勢で米中首脳会談の根回しを行なった。アメリカとしては何としても、米中首脳会談を4月6日から7日に仕掛ける必要があったのである。それは「首脳会談」という形で、習近平を人質にとり、東アジア情勢を安定させ、中東において米露連携において、一挙にISを叩き潰すという思惑であった。このトランプの戦略は、シリアのアサド政権による毒ガス兵器使用というアクシデントで、やや乱れはしたものの、基本路線は変わらずその後も進行している。
米中首脳会談の最中に、アメリカが59発のトマホークミサイルをシリアにぶち込んだのを見せつけられた習近平としては、さぞかし肝を冷やしたことであろう。トランプは毒ガス事件の逆手を取り、中国共産党と北朝鮮を大いに威嚇して見せたのである。

北朝鮮をめぐる米中の取引は有り得るか?
 
話を米中関係に戻す。ティラーソンが訪中時に習近平に伝えたメッセージは極めて単純であった。「中国共産党が北朝鮮のミサイルや核兵器の開発を抑え込むことが出来るならば、アメリカは今、計画中の対中経済制裁に手加減をくわえてもよい」というものであった。「その返事は、米中首脳会談でトランプに直接してくれ」というのがティラーソンのメッセージであった。
習近平とすれば、4月4日にシリアのアサド政権が毒ガス兵器を使ったということで、トランプが窮地に陥り、「米中首脳会談が厳しい交渉になることを避けられた」と一時的には思ったに違いない。ところが事態はそうはならなかった。トランプは事態を逆手に取り、クルーズ・ミサイル59発の発射という非常手段に訴えたのである。一方で、ミサイル発射については事前にロシア側に通告してあり、表面上、ロシア側は激怒したことになっているが、実際上は水面下で米露は連絡を取り合っていたのである。
西アジアと東アジアは連動している。西アジアのことを「中東」というが、これはヨーロッパ中心の呼び名である。ユーラシア大陸の東と西と考える方が、日本人には分かりやすいし、正当な呼び名であろう。
現在のトランプ政権の戦略は、単純明快である。第一に先ず、ロシアと協力してISを叩き潰し、即ち「西アジアの問題を片付け」、次に「東アジアの問題に集中する」ということである。東アジアの問題とは即ち、中国共産党帝国主義を如何に抑え込むかということが中心である。それに北朝鮮の問題も付随している。
中国共産党の立場からすれば、西アジアの紛争が続いている限り、アメリカは東アジアの問題に集中することが出来ないのである。当然、西アジアの紛争が長続きするように、中国共産党は影で画策しているのだ。今回のシリアの毒ガス使用事件にも、中国共産党の影がちらついている。
実際は、アサド政権が反政府軍の兵器庫を空爆したところ、そこに貯蔵していた毒ガスが流出したというのが事件の本質である。アサド政権が意図的に毒ガス兵器を使用したわけではない。勝ち戦をやっているアサド政権が、現段階で毒ガス兵器を使用する理由は全く存在しないのだ。
ともかくも、米中首脳会談をひっくり返すはずであったこの毒ガス事件が、トランプの反撃に遭い、全く無意味なものになってしまった。
それでは米中間で北朝鮮を抑え込む取引は出来るのかと言えば、それは不可能である。習近平には北朝鮮を抑え込む意図もないし、又、その能力もない。満州地方(所謂「中国東北地方」)では、中国共産党の幹部の利権と北朝鮮の利権は完全に癒着している。習近平が望んでも、北朝鮮利権を完全に切り離すことは出来ないのだ。それ故、当然、習近平としては、北朝鮮問題の解決を迫るトランプに対して、言を左右にしてその場しのぎをするしかなかったのである。これが過日の米中首脳会談の実態である。

中国共産党における戦略思考の欠如

それにつけても思うのは、中国共産党の指導者は、国際レベルで見た場合、戦略思考上、著しい欠陥を持っているという事実である。
中国共産党は「したたか」であるということになっている。これは一般的には、確かに正しい。そして中国共産党のトップの指導者たちは、世界一「したたかな」政治家であるということになっている。これも一般的には正しい認識だろう。
しかし国際的視野から見た場合、彼らの戦略思考には決定的な欠陥が存在するのである。
それは、単純化していえば、彼らが「勢力均衡」という考え方を理解しないことである。即ち、彼らの思考においては、政治的には「支配と被支配」の関係しか存在しない。個人の間でもそうであるが、これは国家間にも当てはまる。彼らの思考枠組みの中では、国家間には「平等・対等」の関係は存在しないのである。「支配か被支配」の関係しか存在しないのだ。自らが圧倒的に優越し、他者を支配するような状況にならない限り、彼らは安心することが出来ない。
勢力均衡とは、国家間が基本的に対等の関係にあり、その中で自らが比較的優位に立つことを十分とする思想である。即ち、他国を完全に支配する必要はないのだ。自らが優位に立ち、勢力均衡が自らに優位に機能している時点で、国家指導者はその状態に満足する。これが比較的優位に基づく勢力均衡の思考法である。
ところが、3000年にわたるシナ大陸の過酷な闘争を経てきた中国共産党の指導者には、そもそもこういった「相対的優位」の思想が理解できないのである。つまり「勢力均衡に基づく国際関係の相対的優位」をよしとする思想が、全く欠如しているのである。
あるのは、勝利か敗北か、支配する事か、支配される事かという、誠に苛烈にして残虐な現実だけなのである。
相対的優位が理解できず、勢力均衡が理解できないということは、即ち、国際法が理解できないということである。中国共産党の視点からすれば、現在の国際法などというものは、西洋列強諸国が作り上げてきた仮の約束事にしか過ぎない。そんなものには何の正統性もないし、いつかはそれを覆し、自分達なりの完全な中華秩序を世界に押し付けようというのが中国共産党指導者たちの本音であろう。
真に「したたかな」指導者ならば、自らが覇権を独占していない時点において、既存の国際法を自らの国益の伸長に巧みに利用する方が、賢明な、そして「したたかな」戦略である。中国共産党は法戦ということを唱えはするが、それは枝葉末節における法律論の乱用のことであり、国際法の精神を尊重することではない。それは彼らが南シナ海で行なっていることを見れば、何よりも明らかであろう。
つまり中国共産党は自らが圧倒的な支配者になるまでは、侵略と攻撃の手を緩めることが出来ないのである。自らが戦略的に不利にあるときは、それに忍耐してはいるが、その忍耐は決して勢力均衡論を受け入れた結果ではない。自らの領土を保全できれば、それで十分とは考えられないのだ。常に領土・領海を拡大し、拡張し、膨張し続け、他国を圧倒し、世界の覇権を手に入れるまでは、彼らは決して安心することが出来ないのである。
当然、中国共産党にはそんな実力はないから、領土や領海を拡張すればするほど、周辺諸国との軋轢は増大し、その為に国力を消耗し、既存の支配地域の統治コストも膨張して、遂には帝国は滅亡せざるを得ないのだ。
これが現在の中国共産党が陥っている戦略的病理である。あるいは戦略的思考の欠如による病理なのである。

孫子と毛沢東

孫子や毛沢東は、大変優れた戦略家だということになっている。それはそれで一般的な認識であろうが、孫子や毛沢東の思想の根底にあるのはニヒリズムである。近年、話題を呼んでいる中国共産党の戦略である『超限戦』という戦略思想についても、その基盤にあるのはニヒリズムである。
シナ大陸における戦争は3000年来、誠に苛烈であり、名誉ある敗北などというものは存在しなかった。勝つことが全てであり、勝つことに全ての人生の価値観を見出すしかない。価値ある全てのものを投入して勝利するというのが、唯一の生存法である。日本人が信じたがっているような「名誉ある敗北」というものは存在しないのである。孫子は「兵は詭道なり」と堂々と表明している。即ち、「戦争というものは、人を欺いて勝つことだ」と断言しているのである。欺瞞すべき対象である人は、先ず敵だと考えることが出来るが、そればかりではない。時には味方をも瞞着して戦争には勝たなければならないのである。
孫子的に言っても、戦の正道は、「五事七計」であろう。しかしこれは表であり、正々堂々の話である。戦は当然、それだけでは勝てないので、詭道という裏道が存在する。シナ大陸の戦争の歴史では、この詭道こそが正道に転化してしまったのである。「人を欺いて勝つこと」こそが戦略の基本である。いや、人生の基本である。人を欺いて出し抜くことが、即ち、人の世を生き抜く唯一の道である。こういったニヒリズムが、孫子の戦略思想の根底には存在しているように思われる。
そしてその思想は、毛沢東の「遊撃戦論」にも最近の『超限戦』論にも一貫して受け継がれているのだ。これについては、次回以降に詳しく述べてみたい。



      



<海外情勢>                         
                              2017年4月13日

世界激動 … 東アジア激震 … 仰天の結末を迎える北朝鮮!

米フロリダ州の大統領私邸で米中首脳会談を行っている最中に、地中海の米駆逐艦から発射された59発のトマホークミサイルがシリア空軍基地に炸裂した。トランプは武力を使うことに些かも躊躇っていない。それを見せつけながら始まった米中首脳会談では、通商・為替など多くの議題が取り上げられたが、最大の問題は「対北朝鮮」。習近平国家主席は北朝鮮問題が「深刻な段階に達した」との認識を認めながらも、北朝鮮を圧迫することを避けたいと考え、いっぽうトランプは、あらゆる選択肢を持っていると表明し、北朝鮮に先制攻撃することすらちらつかせる。北朝鮮問題は東アジアをいよいよ混乱に導いていくようだ。


勝負のネクタイで会談に臨んだ両首脳

フロリダ州パームビーチのトランプ大統領別荘で初顔合わせとなった米中首脳。トランプ大統領は赤のネクタイでメラニア夫人も真っ赤なドレス。いっぽう習近平国家主席は青のネクタイで、彭麗媛(ほうえいれん)夫人も青を基調とした服装だった。ファッション誌ヴォーグは「赤は中国の象徴。中国への理解を表した」と分析したが、多くの評論家は「トランプ大統領は勝負に勝つ意欲を赤いネクタイで示した」「戦闘モードの赤色」と見たようだ。
いっぽう習近平の青色については「平和モード」「落ちついた雰囲気を強調」と分析する者が多い。だが習近平の青は重大な意味を持つ。2015年春に台湾国民党主席が北京を訪ね「92年コンセンサス(1つの中国)」に基づいて会談した折りに、習近平主席も朱立倫主席も共に青のネクタイを締めて「1つの中国」を再認識するというパフォーマンスを世界に示した。青いネクタイとは「1つの中国」を誇示する色なのだ。

二転三転するトランプの対中政策

これまでとは毛色が変わった大統領トランプの登場は、世界中に衝撃をもたらした。
トランプは大統領選の最中から、「TPPからの離脱」「メキシコ国境に壁を作る」「イスラム教徒の入国禁止」などと過激な発言を繰り返していたが、大統領に就任するや、それらを実行に移した。中国に対しても「米国に入る中国製品には45%の関税をかける」と発言。また大統領選当選直後の昨年12月2日には台湾の蔡英文総統と電話で会談したが、これは米国首脳として初めての出来事で、米国が「1つの中国」という大前提をひっくり返す意思表示とも受け取れるものだった。
トランプには「1つの中国原則」など通用しない。トランプは中国と真正面から激突する可能性がある――。世界がそんな緊張感に満ちていた2月、安倍晋三が訪米し初の首脳会談を行うという時を選んで、トランプは習近平と電話会談を行い「1つの中国原則を尊重する」と発言した。トランプの一挙手一投足に敏感だった中国首脳はこの発言に大喜び。中国にとっては超ビッグニュースで、中国のテレビ放送はすべての放送を中止して臨時ニュースとしてトランプ発言を流したほどだった。ちなみにこの時、トランプとの電話に感激した習近平が「very very very…」とベリーを9回も続けたという。
3月中旬に日韓中3カ国を訪問したティラーソン国務長官は習近平国家主席との会談の後、「米中関係は対決の無いウインウインの関係」と表明、米中関係は新たな大国間の関係を築くと分析された。ところが、この流れを激変させてしまうのがトランプ流なのだ。

米中首脳会談は「失敗」か「成功」か

ティラーソン訪中の後、習近平の周辺はこんな感想を漏らしていた。「トランプは取引ができる男、話し合いを進めるには最高の相手だ」。この言葉の裏には「トランプは御しやすい相手」と見くびった雰囲気が見て取れた。
ところが4月6日、7日に行われた米中首脳会談は、両者にとって決して満足のゆくものではなかった。「議論は平行線をたどり、2日間続けた北朝鮮問題の調整は失敗に終わった」と韓国の『聯合ニュース』が報じたが、この評価がいちばんわかりやすい。他にも、「米中首脳会談は失敗」と分析した政治評論家は多かった。
たしかに米中首脳会談でのトランプの映像を見る限り、「われわれは長年にわたり不公正な扱いを受け、中国とひどい取引をしてきた」「中国がわれわれに何かしてくれたか?」など不満をあからさまにしていた。いっぽうの習近平が終始にこやかな表情で応じていたのには、事情がある。「首脳同士の良好な関係をアピールし、両国関係が改善している雰囲気を作ることが大切」(政権に近い筋の話)が習近平には必要だった。今秋に党大会を控え、首脳陣が入れ替わることになっている。太子党を率いる習近平としては、米中関係がうまくいくことが大切なのだ。
今回の米中首脳会談は、失敗とも成功とも分析できるもので、100年、200年先でないと正しい判断はできないだろう。

中国は北朝鮮に圧力をかけるか

米中会談の直前に「フィナンシャル・タイムズ」紙(英国)のインタビューに応じたトランプは「中国が北朝鮮問題を解決しないのなら、われわれが行う」「中国が北朝鮮への圧力を強めなければ、米国は単独で核の脅威を取り除く」と語った。
これに対し習主席は、「適切に処理し、建設的に管理しなければならない」(新華社通信)と応じたとされるが、じっさいは「対話重視」を強調するだけだった。これも当然のことで、隣接する北朝鮮と東北三省は物心ともに密接な関係にあり、軍事的圧力などかけられない。瀋陽軍区の兵士たちの中には、北朝鮮有事の場合には自分の生命を賭して北朝鮮のために働くと言い張る物も多い。石油などのエネルギーにしても、中国経由で他国から北朝鮮に流れることを拒否できない環境がある。石油だけではなく、北朝鮮に入っていくさまざまな物品はイランや中東、アフリカ諸国からのものが多いが、それらは北朝鮮が国連制裁の網の目を潜って貿易を行っていることを示している。ここに圧力をかけることは、中国国内の反発につながり、習近平の足元が危なくなる。中国政府が今まで以上に北朝鮮に圧力をかけることは考えにくい。

金正恩が訪中しないと習近平政権は苦境に陥る

2010年5月と翌2011年5月に金正日(キムジョンイル)総書記は訪中したが、このときには息子の金正恩(キムジョンウン)を同行させている。金正恩はこのとき、胡錦濤(こきんとう)国家主席に会い、習近平にも紹介されている。
ところが2011年12月に金正日総書記が亡くなってから、中国と北朝鮮の関係が冷え始めた。2013年12月に中朝両国のパイプ役だった張成沢(チャンソンテク)が粛清されてからは、中朝関係は断絶状態に陥ってしまった。「北朝鮮に圧力を」と熱望するトランプに対し「対話路線」を主張した習近平としては、金正恩を中国に招き、中朝会談を実現させないと面子が潰れてしまう。中国は口先だけで、北朝鮮に何一つできない国と見られてしまう。米中2大国だの、アジアの盟主だのと胸を張れなくなってしまう。
そこで中国は金正恩訪中の条件を模索し、①当分の間、核実験を凍結する。②金正恩の異母兄・金正男を抹殺する。という2条件が北朝鮮との間で極秘裏に結ばれたという説がある。これは証拠のない物語ではあるが、かなり信ぴょう性の高いものと考えられる。
では、条件が整った今、金正恩は訪中するだろうか。わからない。わからないが、夏までに金正恩訪中が実現しなかった場合、中国政界が激震することになりそうだ。

金正男暗殺事件で動いた「力」

3月13日にマレーシアのクアラルンプール(KL)国際空港で起きた金正男暗殺事件の真相は、未来永劫表に出ることはない。このとき殺されたのは替え玉で、ホンモノの金正男はすでに(シンガポールで)殺されていたなどといった噂話も流されたが、これは意図的な作為情報だ。金正男は間違いなく3月13日にKL空港で殺された。暗殺事件の真相は謎だ。しかしいくつか明確なことがわかっている。
金正男がマカオ、香港以外の外国に行くときには必ず2人のボディガードが付いていた。人民解放軍の「一騎当千」とされる精鋭中の精鋭で、彼らが常時身辺警護に当たっていたことは多くの証言からも明らか。ところが殺害現場のKL空港にはボディガードの姿が無かった。なぜいなかったのか。2人のボディガードの判断ではない。上からの命令があったことは明らかだ。人民解放軍のトップは軍事委員会主席である習近平である。習近平が直接命令したことはないだろうが、了解は取られたはずだ。
金正男は6日にKLに入り、同日シンガポールに移動。その後シンガポールに滞在し12日にKLに戻り、翌13日朝に殺害された。ではシンガポールで何をやっていたのか。米系の石油関連会社に通い詰めていたことが判明している。金正男に米国亡命を持ちかけていたとの情報もあり、状況から判断してじゅうぶんあり得る事と考えられる。だがそれが本当なら、北朝鮮としても中国としても決して許容できるものではない。北朝鮮と中国が共同作戦で金正男を暗殺したとの説は、こうした裏情報から流されたようだ。
金正男は北朝鮮が発行した外交官パスポートを所持していた。このことから、北朝鮮は金正男の存在を認め、金正男に国家の業務を委託していた可能性が高い。さらに金正男の息子、金漢率(キムハンソル)も北朝鮮発行の外交官パスポートを所持し、現在はスイス山中の北朝鮮所有の要塞のような別荘に滞在していることからも、北朝鮮との関係は良好と考えられる。暗殺事件の真相は闇の中だが、ボディガードを外した(暗殺に協力した)ことだけは間違いのない事実である。

北戴河会議で大波乱が起きる

金正恩が訪中しないと、習近平に対する圧力が高まる。
中国の党中央政治局常務委員会の7人、いわゆる「チャイナ・セブン」は微妙な勢力争いの構図の中にある。習近平率いる太子党が3人、李克強(りこっきょう)の共青団が2人、江沢民(上海幇)が2人だ。太子党と上海幇が手を組んだ結果として習近平が国家主席の座に就いている。
金正男のボディガードを外し、暗殺の片棒を担がせたことは、中国が持つ対北朝鮮カードを失ったことを意味する。その責任追及が行われるだろう。
中国では毎年8月に北京の東280kmに位置する高級別荘地、北戴河(ほくたいが)で政府首脳の非公開会議が開かれる。胡錦濤政権時代には一時中断されていたが、習近平政権になって復活した。今秋の党大会を前に、ここで人事その他に関する話し合いが行われる。完全独裁を狙う習近平は常務委員会を3名(習近平・李克強・王岐山)に減員することを狙っているが、共青団は習近平体制をひっくり返そうと画策中だ。金正男のボディガードを外したことは、共青団が突っ込む大きなポイントとなるだろう。
最大のポイントは、8月の北戴河会議より前に金正恩の訪中、中朝首脳会談が開かれるか否かだ。トランプにも「対話路線」と言い切った習近平は、金正恩の訪中がなければ窮地に追い込まれることになる。

米国の北朝鮮「ミサイル空爆」はあるのか

米中首脳会談から4日後にトランプは改めて「中国が協力を決断しなければ、われわれは独力で問題を解決する」と自身のツィッターに書き込み、米国が北朝鮮に軍事的圧力をかけることを示唆した。世界最大の原子力空母カールビンソンがシンガポールから朝鮮半島海域に進み、横須賀には原子力空母ロナルド・レーガンが待機。原子力潜水艦コロンバスも朝鮮海域に移動と、北朝鮮に対する軍事的圧力はいよいよ高まっている。韓国では「米軍が4月27日に北朝鮮を空爆する」といった噂が実しやかに語られている。
では、米軍は本気で北朝鮮を攻撃するだろうか。答えは「あり得ない」。
1993年末、朝鮮半島核危機が勃発した。このとき米国は北朝鮮の原子力施設である寧辺(ニョンペン)を中心に本格的攻撃を行うことを決意、日本に対しても秘密裏に通告を行った。
1993年(平成5年)年末、細川内閣時代に日本政府は連日徹夜続きの会議を行い、有事立法を閣議決定し、超法規的措置で自衛隊を沿岸警備に当たらせることなどを決めていた(石原信雄官房副長官の証言が現存)
韓国の金泳三大統領はこの計画に断固反対。破壊された寧辺の放射能が韓国全土を汚染し、日本にも流れる。そのうえソウルを初めとする韓国のあちこちが北朝鮮軍に攻撃され、火の海となることが予測され、「米軍による北朝鮮攻撃断固阻止」を表明。この意を受け米軍の攻撃は中止され、1994年6月にカーター元大統領が北朝鮮を訪れ、金日成主席と会談したという経緯がある。
状況は変わっていない。いや、1994年より遥かに悪化している。北朝鮮を空爆すれば、間違いなく報復ミサイルが発射される。それは韓国やグアム、あるいは日本国内の米軍基地を狙うだけでなく、米本土に飛んでいく可能性が捨てきれない。最高度の迎撃ミサイル・システムTHAAD(サード)ミサイルでも、迎撃率は44.4%しかない。核弾頭を積んだ北朝鮮のICBMが米本土に向かって発射されるかどうかは、わからない。だが発射される可能性がわずかでもあれば、米国は北朝鮮を攻撃できない。つまり、米国が北朝鮮を攻撃することは「あり得ない」。ただし、北朝鮮が先に撃って出たら、そのときは完膚なきまでに北朝鮮全土を爆撃する。

米特殊部隊が金正恩「斬首作戦」を実行する可能性

一部週刊誌などにも掲載された話だが、米国の特殊部隊が北朝鮮に潜入し、平壌の地下150mに潜んでいる金正恩のクビを刎ねることがあり得るのではないか――。
たしかに机上プランとしては、考えられないものではない。だが現実には不可能だ。米軍特殊部隊の存在は古くから語られてきたが、ネイビー・シールズが有名になったのは2005年6月のタリバーン幹部殺害作戦。このときシールズ隊員11名と航空連隊特殊作戦部隊8名の、計19名が戦死。世界最強の特殊部隊が壊滅状態に追いやられるという事態となった。戦死された兵士の名誉の問題もあるが、あえて端的に語れば「欧米の戦士はインディビジョン・コンバット(孤立した戦闘)には不向き」なのだ。
戦闘能力の問題を突き進めると人種差別のような話が出てくるが、差別の問題ではない。わかりやすく説明すると、欧米人は概して、語り合わないと状況判断ができない。連絡を密に取り、各員が作業分担して事にあたる。特殊戦のような、個人個人の瞬間判断に戦闘が委ねられる戦いには不向きな人種だ。東洋人は目と目で意思疎通を果たす。ときには真っ暗闇の中で目と目を交わすことなく、味方の作戦変更を了解してしまう。テレパシーとか暗黙の了解とか、説明は後から付けられる場合もあるが、どんなに訓練を積もうが、米軍の特殊部隊は東洋人と比較するとお子様の遊び程度でしかない。そんな連中に、平壌の地下壕深くに入り込んで金正恩のクビを斬ることなど、太平洋を泳いで渡る以上に不可能だ。

軍事力で北朝鮮を屈服させることはできない

米軍が北朝鮮を空爆すること、地上戦に突入することは絶対にない。そして前述のように中国が北朝鮮に軍事攻撃をすることも絶対にない。世の中には勝手な情報を書き並べて喜ぶタイプの人間もいて、中朝間に戦争が起きるという予告をする人もいるが、それは現実をまったく無視した、頭の中だけで世界を見ている人たちの創作物語だ。中国東北三省や北朝鮮に暮らしたことがあれば、そんなバカげたことが起きるはずがないことを肌で知っている。東北三省の人間の多くは北朝鮮と一心同体なのだ。
ここで疑問が起きる。いま世界中では、まもなく米軍か中国軍が、北朝鮮を攻撃すると騒いでいる。中国は北朝鮮に対して「一線を越えた場合には核関連施設を攻撃する」と通告している。米国は韓国への渡航に注意を促し、すでに在韓米人に避難準備を呼び掛けている。この騒ぎは何なのか――。
これこそが北朝鮮に対する圧力である。圧力はギリギリまで高められる。北朝鮮の暴発を誘っているのだ。だが常識的に考えて、北朝鮮が暴発する可能性はほとんどない。冷静に国際状況を眺めてみよう。
中国は金正恩の訪中を待っている。夏までに来てほしいと、懇願したいほどの状況だ。中東で新たな軍事展開を進めたい米国は、何とか極東を安定に導きたい。政治的に混乱状況にある韓国は、朝鮮半島が平穏無事であることを求める。そして森友学園問題で安倍政権崩壊とまで囁かれる日本も、北朝鮮の戦争は望まない。
たとえば仮に、日米連合と北朝鮮が手を結んだらどうなるか。米国は米朝国交正常化に向けて邁進し、拉致被害者が帰ってきたら安倍政権の不安は一気に吹っ飛ぶ。
また北朝鮮が中国と密接な関係を再構築すれば、韓国は中朝体制に飲み込まれながらも、極東は中国中心に安定に向かう。
冷静に眺めると、北朝鮮が東アジアの近未来を握っていることが理解できる。北朝鮮の判断一つで、中国が喜んだり、米国が舞い上がったり、日本が感激したりする。北朝鮮がキーマンであることを、北朝鮮は重々理解している。

連休前のひと波乱。そして夏前の大波乱

米国と北朝鮮が極秘裏に会談を重ねていたことが明らかにされたのは昨春、オバマ政権の時代だった。その後も米国と北朝鮮の秘密裏の交渉は継続している。また日本もストックホルムやウランバートルで北朝鮮と接触していたことが報じられた。孤立無援で、どの国とも付き合っていないように思う方もいるだろうが、北朝鮮は世界でも飛びぬけて外交が巧みな国なのだ。
いま世界のマスコミ情報を見ていると、いますぐにでも北朝鮮が攻撃され、「窮鼠猫を噛む」の例え通り北朝鮮が報復核攻撃をしそうな雰囲気にあるが、よほどのボタンの掛け違いが起きない限り、朝鮮半島に火の手が上がることはない。
そして北朝鮮は、アジアの命運を左右するカギを手にしている。外交巧者の北朝鮮は、それを自覚している。だがひと昔前と違い、北朝鮮にも時間はない。どのような選択するか、期限は迫っている。
米中首脳会談で話題がかき消された感があるが、米ホワイトハウスは4月6日(習近平訪米当日)、ペンス副大統領がアジア太平洋地域4カ国を歴訪すると発表した。16日に韓国入り、18日に来日して、20日にはインドネシア、22日にオーストラリア、24日にハワイを訪問の予定だ。ペンス副大統領は保守強硬派だが知名度はそれほど高くない。しかしトランプに比して最も重要な政治家との評判もある。勝手な推測だが、ペンスは韓国と日本を訪問する16日~20日の間に隠密裏に北朝鮮関係者と会合を持つ可能性がある。その会合のバックアップこそが今回の米軍による軍事的圧力と考えてよい。北朝鮮がどう対応するか。米側が歓迎するような結論であれば、ゴールデンウィーク前に答えが出されるだろうが、北朝鮮が日米連合との和解を拒否した場合、金正恩が5月か6月には北京を訪問し、習近平と笑顔で握手を交わすことになるだろう。もちろんこれは本紙の勝手な予測であり、必ずこうなるというものではない。果たして東アジアの未来はどうなるだろうか。



      



<海外情勢>                     
                              2017年3月15日

亡国に向かう韓国、建国に向かう台湾

                        藤 井 厳 喜 (国際政治学者)

3月10日、韓国の憲法裁判所は、朴槿恵大統領の弾劾を決定した。大局的に見ると、韓国は確実に亡国の道を歩み始めたようである。北朝鮮と韓国との関係を見ると、北朝鮮の方が圧倒的に有利な立場にある。
韓国における朴槿恵大統領弾劾運動の背後に控えているのは、親北朝鮮の勢力である。背後に控えているというよりは、大統領弾劾運動の先頭に立ち、その中心となって進めてきたのが、親北朝鮮の政治勢力であったといえるだろう。日本のマスコミはそのことをハッキリと指摘しないが、韓国における所謂「革新勢力」とは即ち、親北朝鮮の政治勢力であり、彼らが反大統領の国民運動をここまで盛り上げてきたのである。韓国の大統領選挙は5月9日になりそうだが、この大統領選挙でトップを走っているのが文在寅氏であり、彼は「共に民主党」の元党代表である。文在寅氏は、自殺した廬武鉉元大統領の側近であった。彼の親北朝鮮の政治姿勢は、彼の師である廬武鉉元大統領の政策を継承するものである。
ハッキリ言えば、彼は韓国と北朝鮮との統一を志向している。しかもその統一は、北朝鮮側が提唱する「高麗民主連邦構想」にのるものである。廬武鉉、文在寅の路線は、反米であり、北朝鮮にこそ真の朝鮮ナショナリズムがあると考える路線である。つまり、大韓民国というものは、所詮、アメリカの作ったものであり、彼らは北朝鮮にこそ真の朝鮮のナショナリズムがあると考えているのだ。

THAADミサイルで分裂する韓国

ここ数年来、米韓関係で大きな頭痛の種となってきたのが、THAADミサイルの配備問題である。チャイナはこのTHAADミサイルはチャイナのもつミサイルに対するアメリカの防衛網の最前線をなすものであると考えている。韓国がTHAADミサイルを配備するとは、即ち、韓国が反チャイナの立場に立つものであるとするのが、中国共産党の考え方である。
朴槿恵政権は、親米路線と親中路線を同時に歩んできた。米中関係が良好だった時代はそれでよかったのだが、オバマ政権末期から米中が対立状況に入るに至って、朴槿恵大統領の外交路線は完全に分裂状態に陥ってしまった。米中のまた裂きにあったのである。つまり、アメリカ側につくのか、チャイナ側につくのか、米中の両大国からハッキリしろと迫られることになったのだ。
この問題を最も先鋭化したのがTHAADミサイル配備問題であった。THAADを配備すればアメリカ側につくことになる。THAADミサイルを拒否すればチャイナ側につくことになる。
もとより韓国とアメリカの間には、米韓軍事同盟が存在する。これを優先させればTHAADミサイルを配備せざるを得ない。しかし朴槿恵政権になってから、韓国財界はなだれをうってチャイナ市場に参入した。今や、韓国の最大の輸出市場はチャイナであり、最早、アメリカではないのだ。チャイナにそっぽを向かれてしまえば韓国経済は崩壊してしまう。
事実、昨年秋にTHAADミサイルの導入を決定してから、チャイナの韓国に対する経済制裁が徐々に発動されてきた。3月6日に在韓米軍がTHAADミサイルの配備を開始した。これを見て、チャイナは韓国製品不買運動を即座に開始した。又、チャイナから韓国への観光客の足も一斉にストップしてしまった。2016年、韓国を訪れた外国人観光客の数は、1700万人であったが、この内800万人はチャイナからの韓国客であった。これが一斉にストップしたのである。

次期大統領は、北朝鮮との統一の道を選ぶ

チャイナからの経済制裁に遭って、韓国経済は悲鳴を上げている。5月9日に選ばれる次期大統領は、例え文在寅氏でなくとも、間違いなく親北朝鮮で親チャイナの大統領であろう。彼はTHAADミサイルの配備を撤回するに違いない。韓国は確実に北朝鮮との統一の道に歩み出すだろう。最早、半島の国家は、2000年来の伝統的なポジションに戻ってゆかざるを得ないのだ。
半島の国家は、海洋国家になることは出来ず、大陸の中心に発生する大国の属国としての運命を甘受してゆくしかない。これはイデオロギーを超えた地政学上の必然であろう。北朝鮮とチャイナの文明圏に、韓国は吸収され、溶解してゆくのであろう。

独立国家の道を歩み始めた台湾

台湾の蔡英文政権は、韓国とは対照的な道を歩み始めている。前・馬英九政権の時は、台湾は大陸との統一の道を歩むかに見えた。しかし、台湾で「ひまわり学生運動」なるものがおきて、台湾独自のアイデンティティの覚醒が一挙に進んだ。台湾人は台湾人であり、チャイニーズではないという自覚をもった人々が増えたのである。
国民党による数十年の教育は功を奏さなかったようである。そもそも台湾人の大部分は、原住民として存在したマレー系、ポリネシア系の人々と、大陸から渡ってきた人々の混血によって成立している。第二次大戦後、大陸の内戦に敗れた蒋介石・国民党の人々が台湾に渡ってきて、統治者階級となった。しかし、彼らと元々の台湾人の間には大きな文化的落差が存在したようだ。それは遺伝子レベルのものであると同時に、50年の日本統治が生み出した文化的落差でもあった。
台湾は、冷戦時代、強いアメリカの影響下にあった。それは韓国も同じである。しかし、日本文明の影響力とアメリカ流のデモクラシーは、台湾の土地の上に見事に花を咲かせつつある。台湾は、明確に海洋国家としての道を歩み始めている。そして、近代的な民主国家としての道を選択しつつある。
3月14日、台湾の検察当局は、機密漏洩などの罪で馬英九・前総統を起訴した。起訴された前総統は馬氏だけでないものの、このニュースは流石に驚きをもって台湾人に受け止められている。台湾が馬英九・前総統の国民党路線と明確に異なった独立の道を歩み始めた何よりの証拠であろう。
韓国は、チャイナからの政治的圧力のもとで、北朝鮮との統一の道を歩み始めている。即ち、大陸勢力への復帰である。
台湾は、大陸との統一の道を選ばず、海洋国家としての道を選択した。海洋勢力である日本やアメリカ、そして東南アジアの海洋国家と連携し、連帯する道を歩み始めたようである。即ち、大陸に成立している中国共産党政権とは、明確に一線を画し、独立した民主国家を志向する路線である。
米ソ冷戦時代、台湾と韓国の立場は極めて類似したものであった。しかし米ソ冷戦が終わり、四半世紀経った今、両国は完全に違った道を歩み始めたのである。それは、民主政治か独裁政治かという視野から考えることもできる。しかし、地政学的に言えば、大陸国家と海洋国家の対立という観点からいうと、この2国の異なった運命は、より明確な差異となって理解できるだろう。要は、南朝鮮に存在する韓国は、大陸国家としての道に復帰し、島国である台湾は海洋国家としての道を選択したのである。これは、そこに居住する人々の文明の問題であると同時に、地政学的なポジショニングが決定する必然でもあるだろう。
偶然ではあるが、台湾の総統も、3月10日まで韓国の大統領を務めていた人物も共に女性である。しかしこれら2つの国家は全く違った、そして実に対照的な道を歩み始めたのである。

日本が残した遺伝子はどうなったか

朝鮮半島も台湾も、かつて大日本帝国が統治した土地である。日本はその両方で、ほぼ同じような統治を行なった。台湾は50年、朝鮮半島は36年であったが、大日本帝国はどちらかと言えば、朝鮮半島の方を優遇した節がある。というのは、台湾は全くの未開の地であったが、朝鮮半島には王朝が存在し、この李王朝の末裔を、日本は厚遇したのである。両方の土地において日本は、民生の充実を図り、教育を普及し、近代化の基礎を作った。欧米の植民地統治とは全く逆で、近代化のインフラ投資に熱心であった。寧ろ、日本本土よりも力を入れて思い切った近代化のインフラ投資をしたといっても過言ではないだろう。
その結果はどうなったのだろうか。一時期、韓国では日本の残した遺伝子は見事に花開いたかのように見えた。朴正熙大統領のもとで韓国は高度成長を成し遂げ、産業的には日本のライバルになる企業群も出現した。
しかし、韓国における反日思想は強烈で、遂に両国に真の友好が育つことはなかった。経済も一時的には繁栄したが、財閥経済は極端な貧富の差を生み、遂に今やチャイナ経済に吸収されつつある。まさに一時の夢の繁栄であった。
一方、台湾に残した日本文明の種は、見事にすくすくと育っている。民主化は着実に進んでおり、何よりも台湾は世界一の親日国と呼ばれている。やはり海洋国家としての国民の同質性というものが最も大きな要素であったのだろう。
単純化していえば、日本が蒔いた種は、台湾ではすくすくと芽を出して立派に育ったが、大陸・半島の土壌には合わず、韓国では芽を出したかのように見えたが、若木の内に枯れて死んでしまった。今や南北朝鮮の共通した唯一の傾向は、反日思想なのではないだろうか。
日本の50年の統治を見事に生かし切って、それにアメリカ流のデモクラシーや合理主義を加味して、台湾は独自の近代国家として成長しつつある。
今、この両国は見事に、明暗を分けている。改めて、地政学という学問について、思いを致すべき時である。我田引水のようで恐縮だが、筆者には『最強兵器としての地政学』(ハート出版)という著作がある。地政学は文明論でもあるというのが、著者の見解である。是非、ご一読いただければ幸甚である。
ちなみに、シンガポールはこれは間違いなくチャイニーズの都市国家であるが、独特の文化をもつ金融都市として発展している。それは香港とも上海とも違う、一つのチャイニーズの文明の可能性を示しているように思える。これもまたシンガポールという街のもつ、地政学的な位置から、その発展形態を考えることが出来るだろう。



      



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                               2017年3月4日

金正男暗殺事件の深奥
アジア激変「開幕のゴング」が打ち鳴らされた!

 ――世界が報道しない衝撃の真相とは――

北朝鮮のトップ・金正恩の兄・金正男が暗殺された。新聞テレビは連日この情報でにぎわっているが、隔靴掻痒の感がある。暗殺実行犯の女たちや毒ガスの分析など事件の本質ではない。微細な面にだけ目が向けられ、肝心な問題が意図的に隠されている。だが巨視的な視野で事件を眺めていくと、真実の輪郭が姿を現し始める。この暗殺事件の奥には、複雑な国際情勢が隠されている――。

殺されたのは金正男の「影武者」?

2月13日の金正男暗殺事件に関して、新聞テレビはどこも同じような解説を繰り返している。いっぽうネット上や街の片隅では、あちこちで怪しげな情報が囁かれている。読者諸氏の中にも、怪情報を耳にされた方も多いだろう。たとえば、こんな話がある。

・金正男は既に殺害されていた。クアラルンプール(以下KLと略称)空港で殺されたのは影武者だった。
・金正男暗殺は中国と米国の合作。マレーシアは両国に脅されて舞台を提供した。
・ホンモノの金正男は生存している。1、2カ月以内に米韓合同軍が平壌を制覇し、金正男が北朝鮮のトップに立つ。


他にもさまざまな怪情報が流されている。これらの怪情報はデタラメである。世の中が混乱し始めると無責任な創作物語や妄想が真顔で語られるようになり、それが大怪我につながる場合もある。周囲にこのようなデマを流す者がいたら、そんな人間とは距離を置いたほうが良い。まもなく世界は激動激変の時を迎える。そのときに誤情報やでっち上げ創作物語を信用すると命取りになる。――ここまで言っても、なお「殺されたのは影武者だ」など主張する者がいれば、直ちに絶縁すべきだろう。
それでは本題に入ろう。
金正男は2月13日にマレーシアのKL国際空港で殺害された。事件の深奥に触る前に、「マレーシアKL空港」と「金正男」について、見直しておこう。

監視カメラ世界一の空港

米CIA情報によると2000年(平成12年)1月にマレーシアKLでアルカイダの幹部会議が開かれたという。さらに2001年9月の米同時テロの主犯たちはKL空港からニューヨークに飛び立ったとされる。(911同時テロの真相はともかく、CIA情報では「KLからテロリストが米国に向かった」とされる。)
2013年にはマレーシアKLを舞台に、日本人に帰化した元北朝鮮人の吉田誠一という男が米国軍事情報を中国へ流した事件が発覚。さらに2014年3月8日には、KL空港発北京行きのマレーシア航空370便が行方不明になるという怪事件も起きている。マレーシアKLとは、怪事件の宝庫のような場所なのだ。
このような場所のため、KL空港は「世界でいちばん監視カメラが作動している場所」として知られている。今回の金正男暗殺事件の際にも、金正男の行動、実行犯とされる2人の女の行動映像はたくさんの監視カメラに収められており、その一部は公開され、テレビなどで放送された。一般には公表されなかった映像も膨大にある。
2月13日にKL空港に現れたのは正真正銘の金正男だった。
「金正男は全身に入墨を入れている。腹に入墨模様がある写真が新聞にも掲載された。空港医務室の椅子にへたり込んでいる男の腹には入墨がない。だからあれは影武者だ」
そんな情報もあった。公表された画像を拡大すれば、その謎は解ける。シャツとズボンの間からはみ出している腹には、入墨を消した痕が見られるのだ。それだけではない。空港各所のカメラは金正男のあらゆる姿を捉え、掌紋も確認できる。世界一カメラが存在する空港だから、人間が入れ替われる死角もない。最終的に指紋照合も行われ、あの現場で殺された男が金正男だったことは、まったく疑う余地も無い。金正男本人がKL空港のあの現場で襲撃され、殺害された。
間違いなく金正男本人が殺害されたことを誇示するために、殺害現場として、意図的にKL空港が選ばれた。そう判断できる。

金正男の正体

金正男は2011年末に死んだ金正日の長男である。1970年6月10日生まれ(異説もある)の46歳、母は女優だった成蕙琳(ソンヘリム)だ。
金日成は金正日・成蕙琳の結婚を認めなかった。金正男を正式な孫とは考えなかった。金日成がそう判断した以上、忠実な部下たちもそれに従った。日本とも関係が深く、日本人拉致の中枢を担っていたとされる北朝鮮対外連絡部(後の225室)の姜周一(カンジュイル)も金正男を冷遇した。当然ながら対外連絡部の下部組織だった日本の朝鮮総聯も金正男を「次期後継者」などとは考えなかった。当時の総聯議長、徐萬述(ソマンスル2012年没)、も現在の議長、許宗萬(ホジョンマン)も、金正男には冷たかった。

余談になるが、金正恩の母とされる高英姫は大阪生まれの在日朝鮮人。金正日と結婚した後も、「あゆみ」という日本名で呼ばれていた。金正恩は生まれてスイスに留学する12歳まで、母である高英姫に学び、日本文化に親しんだ生活を送り、料理は藤本健二が作った和食、とくに寿司を好んで食べていた。日本文化漬けだった金正恩に、金日成も満足していた。
祖父である金日成に認めてもらえず、労働党幹部からも冷たい目で見られていた金正男は、しかしカネには不自由しなかった。平壌の最高級ホテル「高麗ホテル」の最上階(45階)にある高級クラブに入り浸り、党幹部の息子たちと豪快に遊んでいた。金正男の気風の良さは若い男たちの憧れだった。じっさい金正男は、いわゆる親分肌で面倒見がよく、不良子弟たちの人気者だった。

東京ディズニーランド見物に来た金正男

2001年(平成13年)5月1日、成田空港に降り立った金正男が入管に拘束された。世間でいう「ディズニーランド見物に来た金正男拘束事件」である。
このとき金正男はドミニカ共和国の偽造パスポートで入国しようとしたとされている。ネット上の百科事典といわれるウキペディアにもそう記され、他のほとんどの情報でも「偽造パスポート所持により拘束」となっている。だがドミニカのパスポートは正真正銘のホンモノだった。金正男であることは間違いないのだが、所持していたパスポートは本物で「中国人・胖熊(パンシォン)」となっていた。本物のパスポートを所持していた人間を意味なく拘束するのは国際法違反。このとき日本は「超法規的措置」として特別機を仕立て、外務審議官が付き添って北京まで金正男たち4人をお送りしている。

どうして、こんな事態になったのか。発端は北朝鮮の武器密売捜査である。当時(じつは現在も)北朝鮮は武器を密売していた。武器の密売先は中東やアフリカ、そのほとんどはイランであり、シリアも多かった。その他は微々たるものと考えられている。
密売の武器の流れ、そしてカネ(売買代金)の流れを追っていたシンガポール情報局は、金正男が密売代金を各国から受け取り、それを本国(北朝鮮)に送金していると考えた。金正男は本国北朝鮮を離れ、北京や香港、マカオで生活することが多く、イランへの武器密売はマカオが拠点だったと見られていた。
その金正男がドミニカのパスポートを手にして日本に向かっている――。情報を手にしたシンガポール情報局は、その情報を交流のある韓国の国情院(国家情報院)に連絡し調査を依頼した。当時の国情院は国家安全企画部から名称や組織を変えたばかりで、じゅうぶんに機能しておらず、交流のある日本の公安調査庁に連絡した。公安調査庁は自身で調べようともせず、即座に入管に電話。入管はどうしていいかわからず法務大臣(当時は高村正彦)に電話。高村法相は外務大臣(田中真紀子)と官房長官(福田康夫)に電話と、たらい回ししたのだ。最終的に福田官房長官は「入国と同時に拘束し強制送還」という決断を下した。

このとき平壌を日本の経済団体が訪問中で、彼ら40人を初めとして北朝鮮を訪れている日本人旅行客の生命の安全を保てないからという理由と、もし北朝鮮が日本にミサイルでも撃ち込んできたら収拾がつかないという恐怖があったからと説明されている。しかし日本政府がいちばん恐れていたのは、金正男を捕まえた途端に、彼が自殺することだった。1987年の大韓航空機爆破事件の実行犯・金賢姫(キムヒョンヒ)の例を見てもわかるように、北朝鮮工作員は毒物を隠し持っていることがある。金正男を捕らえ、彼が自決したらどうなるのか――。その恐怖があったという。
このとき金正男を捕らえず、厳重に尾行したらどうだったろう。彼はイランに売りさばいた武器代金をどうやって、どの銀行から引き下ろし、それをどうやって本国に送金するか、日本はその情報を入手できただろう。――千載一遇のチャンスをドブに捨てた日本の情報機関は世界の笑い者となってしまった。
「東京ディズニーランド見物に来た」など、日本当局が苦し紛れに創作した物語が、いまだにまかり通っているところも奇妙といえば奇妙な話だ。日本当局の無能ぶりを庶民大衆がグルになって隠しているようにも感じられる。

「人質」となり、「恐喝のコマ」となった金正男

成田で拘束され、指紋、掌紋、全身素っ裸の写真を撮られた金正男は、その後、「金正日の後継者」の地位から外れ、もっぱら北朝鮮のマネーロンダリングの主となっていった。平壌に戻ることは少なく、北京、香港、マカオときにシンガポールなどで遊び歩いていたようだ。遊び歩くといっても、半端なものではない。豪遊といっていいだろう。北京の屋敷にしても、驚くほどの豪邸である。広大な屋敷は高さ4mの高い塀に囲まれ、その周囲を武装した軍人が周回していた。中国政府にとって金正男は「大切な人質」だったのだ。
金正男を認めなかった金日成が1994年に死に、かつて金正男に可愛がられた軍や党の不良子弟たちは成長してそれなりの役職に就いている。日本で拘束され、全身入墨の裸体写真を撮られた過去があっても、何といっても北朝鮮の最高指導者・金正日の長男なのだ。

中国にとって金正男は、間違いなく「人質」だった。金正日を恫喝する材料だった。
だが2008年の夏に金正日が脳梗塞で倒れてから、少し様子が変わってきた。金正日は自分の長男である金正男に見向きもしなかった。脳梗塞で倒れ、余命いくばくも無いと感じた金正日は、三男の金正恩を後継者にしようとしていた。2009年5月に核実験を成功させた金正日は、核実験の翌日、各国公館に「後継者は金正恩」と通達。翌2010年5月、金正日は金正恩を伴って中国を訪問。このとき金正恩を胡錦濤国家主席と中央政治局常務委員の習近平に引き合わせている(胡錦濤はすでにこの時点で、次期国家主席を習近平と認識していたことがわかる)。さらに1年後の2011年5月にも金正日は金正恩を連れて訪中。またしても胡錦濤、習近平と会談している。このころから金正男の立場が変わった。「人質」ではなく「脅しのコマ」になったのだ。
金正恩が北朝鮮のトップに座ることは、もはや間違いない。その日が近づくにつれ、中国にとって金正男は「金正恩の立場を脅かす材料」となっていった。中国政府と親しい金正男が「北朝鮮にいる金正男派」と呼応すれば、金正恩政権は足元がグラつく。金正恩政権を脅す材料として、中国は金正男を大切にした。中国政府は金正男を丁重に扱い、万一の事態に備えて厳重な警備体制を敷いた。

金正恩の恐怖政治

1996年からスイスに留学していた金正恩は2000年秋に帰国し、一般人に紛れて偽名で金日成総合大学に進学。成績は極めて優秀で、本人の希望により金日成軍事大学へと進学、そのまま陸軍砲兵科に入隊した。偽名を使って一般兵として砲兵科で任務に就く金正恩の活躍に軍上層部が注目し、総参謀長だった李英鎬(リヨンホ)の耳に届く。面会した李英鎬は金正恩をタダモノではないと理解し、後に正体を知ってから、自分の知識をすべて金正恩に授けたという。この物語は本紙が入手したものだが、相当に脚色されていると思われる。しかし李英鎬の下で砲兵(ミサイル)の勉強をしたことは事実だろう。
2011年末に金正日が死去し、金正恩が実権を掌握すると、半年後の2012年夏には張成沢(チャンソンタク)の命令により李英鎬は全任務を解任され、最終的に粛清された。金正恩は、張成沢を使って軍のトップだった李英鎬を抹殺して軍の組織変更を行い、2013年末には叔父である張成沢を処刑して、誰も逆らうことが出来ない完全独裁体制を構築、恐怖政治で北朝鮮に君臨することとなった。
金正恩による恐怖の独裁政治に、日本人は眉を顰める。

しかしスターリンにせよ毛沢東にせよ、共産党独裁政権下では粛清は当然のものなのだ。とくに朝鮮半島では、弾圧と強権独裁政治は必然ともいえる。
朝鮮半島の民は世界でいちばん政治に興味を持つ民族である。多くが政治に対して一家言を持つ。自分の主張を弁舌さわやかにまくしたてる人間が多い。だから民主主義的に意見を求めると、ハチの巣を突いたように大騒ぎになり、まとまりがつかない。トップが圧倒的でないと、国が定まらない。全盛期の李王朝や、朴正熙の強権政治時代には、国家が繫栄し国力が充実した。金正恩は、そうした半島の民族性を熟知している。慕われる実力者であろうが血縁関係者であろうが、冷酷無比に粛清できる胆力こそ、国民をまとめ国家を隆盛に導くことを知っている。大衆が貧困に喘ぎ、国土が荒れ果てている現状を救うには、暴虐無情の恐怖政治を敷くしかない。現代日本とは異なり、民主主義を優先させる余裕などないのだ。

中朝国境の緊張

しかし、周辺国にとっては、これほど面倒な国はない。
とくに中国にとって、核と高性能ミサイルを保有し、190万の軍隊と飢えた人民を持つ北朝鮮は非常にやっかいな存在だ。中国軍は中朝国境の兵力を増強し、北朝鮮の暴発に備える必要がある。この状況を見て「中国と北朝鮮が戦争を起こす」と真面目に考える国際学者もいるほどだ。もちろん現実に中朝が戦争を始めることなど、あり得ない。中国東北地方に展開する瀋陽軍区の軍人、家族たちと北朝鮮の人々とは血族的にも密接で、中国政府が国連決議に従って制裁を強化しようが、両者は固い絆で結ばれている。たとえば仮に朝鮮半島有事で北朝鮮に韓国軍などが攻め込んだら、瀋陽軍区は一丸となって、義勇軍として、生命を投げうって北朝鮮の敵と戦うだろう。瀋陽軍区と北朝鮮は一体なのだ。
それでも中国政府にとって、北朝鮮はやっかい者である。だから金正恩を脅すために「金正日の長男=金正男」は重要なコマだった。
逆に、金正恩にとって、中国が手にしている金正男は、まさに目の上のタンコブ。自分のポストを脅かす最悪の存在である。自分を殺して金正男を北朝鮮のトップに据えようとする動きが起きることを極度に警戒していた。

2010年春、金正日と共に訪中した直後に、北京にいた金正男に北朝鮮の暗殺部隊が襲い掛かろうとした事件があったとの情報がある。公表はされていないがこれが世界中を駆け巡ったところを見ると、信憑性は高い。また張成沢夫人で金正日の妹でもある金慶姫は2012年にシンガポール情報局から、「金正男暗殺計画が発動している。金正男さんに細心の注意を払うよう伝えてください」と言われている。張成沢、金慶姫夫妻は、金正日から金正男の後見人との役割を与えられていたようだ。それが張成沢粛清の原因の一つでもあった。
金正恩が異母兄である金正男の命を狙うのは、当然のことでもある。
だからといって、今回のKL空港での暗殺事件が「金正恩の命令によるもの」と即断するのは早計である。今回の暗殺事件は、もう少し微妙な「国際的な圧力」が働いたと考えるべきだ。

朝鮮半島を巡る政略的駆け引き

今年(2017年)元旦のテレビ放送で、金正恩は「米国に届くICBMの試射発射準備が整った」と発言。これに大統領就任直前のトランプが噛みつき、「北朝鮮は米国の一部に到達できる核兵器の開発の最終段階に入っていると発表した。そうはならない!」と断言。米国が「そんなことはさせない」と言い切ったのだ。
金正恩、トランプの言葉遊びはともかく、じつはオバマ政権から今日のトランプ政権まで、米国は一貫して北朝鮮問題を重要視している。昨年11月に大統領選に勝利して以来、トランプは国防省やCIAと長時間の打ち合わせを行っているが、そのほとんどは極東情勢に費やされている。多くの人々はトランプが欧州情勢や対ロシア、あるいは中東情勢を問題視していると推測しているだろうが、じっさいにトランプが使った時間は7割が極東、そのほとんどは北朝鮮問題なのだ。日本人は隣国・北朝鮮に対して、あまりにも無関心だ。
中東問題、欧州問題と異なり、北朝鮮問題は回答を出せない難問として存在している。その難問を、天才トランプは中国にぶつけた。
北朝鮮の核開発に関する合意についての国際会議は「6者協議(6カ国協議、Six-Party Talks)」に委ねられている。この6者協議の議長国は中国である。北朝鮮と直接交渉ができない米トランプ政権は、議長国・中国を脅すことで北朝鮮をコントロールしようとしている。米国は北朝鮮の現状、中朝の環境を熟知したうえで、中国を脅している。脅す材料として「一つの中国見直し」を使うなど、米トランプ政権のやり方はえげつない。
「北朝鮮が国連決議を無視して核実験を行うのは、6者協議の議長国である中国に責任がある」
トランプはそう言い切ったが、これはオバマが言ったことでもある。北朝鮮の核実験は北朝鮮がやったものであり、中国に責任があるわけではない。だが米国は、ずっと中国の責任として糾弾してきた。――それは国際社会での駆け引きでもあった。
そうした最中、北朝鮮の核実験・ミサイル発射実験が頻発していたところで、新たな問題が浮上した。サードミサイルにまつわる「Xバンド・フェイズドアイ・レーダー」問題である。(この問題に関する詳細情報は本紙2月13日「底なし沼〈韓国〉に引きずり込まれるな!」をご覧ください。)
詳細は本紙2月13日情報をご覧いただくとして、要約すれば、いま韓国を巡って米中の綱引き真っ最中。つい先日まで親中国でまとまっていた韓国・朴槿恵政権は北朝鮮の核・ミサイルに怯えて米国のサードミサイル導入を決定。中国は烈火のごとく怒り、韓国は朴槿恵弾劾の結果、国内はガタガタ。中国が最も問題視している「Xバンド・フェイズドアイ・レーダー」をロッテが所有するゴルフ場「星州カントリークラブ」敷地内に敷設するというので、ロッテが中国の攻撃対象となり、厳しい状況に追い込まれるとの噂も強まっている。
この問題は米中の「政治的駆け引き」の一環なのだ。一見すると軍事問題のような政治的駆け引きは、他の局面でも深まっている。とくに問題なのが、3月1日から行われている米韓合同軍事訓練である。

北朝鮮のトップに対する「斬首作戦」

米韓合同軍事演習は韓国軍29万人、米軍1.5万人の兵力を結集させ、3月1日に始まった。毎年行われてきたものだが、これまでは「偶数年は巨大演習、奇数年は小規模演習」という慣例があった。今年は2017年、奇数年なので小規模のはずだが昨年並みの大規模演習になった。しかもその最中、3月中旬に最大の火ダネである「サードミサイル・システム」の運用テストを行うというのだ。また昨年同様、「キイ・リゾルブ」「フォール・イーグル」という作戦名が付けられた「敵のトップの斬首作戦」が継続されている。これは明確に「金正恩のクビを斬る」という作戦。米マティス国防長官は斬首作戦の拡大を示唆している。
斬首作戦の拡大とは何を意味するのか。具体的な解説はない。演習の領域から逸脱して、本当に平壌に侵攻して金正恩の首を叩き落すとも受け取れる。トランプ大統領は「北朝鮮は核を放棄し、体制を変革させる必要がある」と演説したが、体制を変革させるとは金正恩の首を斬るということにつながる。
この動きに中国も敏感に反応した。「米韓が北朝鮮に侵攻しようとするなら、中国は米韓軍の行動を阻止する」と応じたのだ。傍目から見ると子供の喧嘩のようにも見えるが、米中は真剣である。米中が戦争することなど現実にはあり得ない。あり得ないのだが、チキン・レース状況の下、偶発的に小さな衝突が起きても不思議ではない状況が作られている。現在の米朝、米中、中朝関係は複雑だが、簡単に整理すると、以下の通りになる。

・日本を同盟国とする米国は、一時親中国路線に傾いていた韓国を取り込んだ。
・米国と中国は戦争をする気などまったくないが、互いのメンツをかけた対立をしている。
・北朝鮮は中国の手綱から離れ、国際社会を刺激する核・ミサイル実験を繰り返している。
・中国と北朝鮮の関係は、金正恩政権になってから、ずっと冷え込んでいる。
・米国は北朝鮮の暴走の責任を中国になすりつけている。


この状況を理解すれば、今回の金正男暗殺事件の背景がわかってくる。

金正恩訪中に向けて

朝鮮半島周辺を巡って米中の政治的駆け引きが激化しているいま、北朝鮮がキャスティング・ボードを握っていることが理解できる。北朝鮮が日本や米国側についたら、中国は極東から締め出される。北朝鮮が中国につけば、これまで通りの米中対峙が続き韓国が綱引きの最前線に出る。外交問題で国内から厳しく突き上げられている習近平としては、北朝鮮を確実に中国側につけておきたい。
2010年、2011年には金正日が金正恩を伴って訪中。中国と北朝鮮が密接な関係にあることを世界に誇示した。その後、金正恩政権が誕生してから、中朝関係は冷え込みっ放しだ。この状況を打破し、世界に対して「中朝蜜月」を示す方法は1つしかない。金正恩が訪中して習近平と固い握手を交わすことだ。
では、どうすれば北朝鮮の金正恩が訪中するか。どうすれば金正恩訪中の必然が生まれるか。それが習近平政府に突きつけられた難問だった。中国政府は北朝鮮外交部との接触を重ね、5月以降今秋までの間に金正恩が訪中することが決定した模様だ。「金正恩訪中」の条件として中朝それぞれが条件を提示し、これが了解されたとの観測が流されている。この情報は間違いないものと考えられる。では中朝両者が「金正恩訪中(習近平と握手)」として互いに付きつけた条件とは何か。正確にはわからないが、以下の2点が推測される。

中国側「核実験を(当面の間)禁止する」
北朝鮮側「金正男
(及び北朝鮮亡命政府)を抹殺する」


金正男には北京でも香港でもマカオでも、完璧なボディガード体制がとられていた。金正男が外国に出たときには陰に陽に、中国人と思われる護衛が幾重にも取り囲んでいた。今回のKLでも、金正男がバーに入ったときなど、その店の周囲を護衛が固めていたことが報告されている。だが2月13日のKL空港にだけは護衛が一人もいなかった。――中国側が意図的に護衛を外した以外に説明はできない。

イラン核合意とミサイル実験

実行犯が2人の女であることは、おそらく間違いがないだろう。中国側が護衛を外し、北朝鮮側が殺害を確認していたことも、まず間違いない。実行犯に命令を下したのが誰か、どの国の人間か。そしてまた毒ガスを仕入れたのは何者で、どのような手順が組まれたかは、今後の捜査を待つしかないが、常識的に考えて、国家が関係している犯罪の謎がすらすらと解けるはずもなかろう。
だが、以上の推理で解明終了とはならない。喉元になお謎が引っ掛かる。一つは米国がどのように関係しているか。そしてイランへの武器密売は、金正男の死でどう変化するかだ。
本紙が何度か掲載したとおり、米国は水面下で北朝鮮と交渉をしており、そのことは米国務省も認めている。外交の天才ともいわれる金正恩が、中国との交渉だけで訪中を簡単に了承したとは考えにくい。米国のほうが良い条件を出せば、中国とは仲たがいを続けることも可能だ。米朝間の駆け引きに関しては残念ながら、まったくわからない。わからないが1つヒントは残されている。イラン問題である。
オバマ大統領によるイラン核合意をトランプは「これまでの対外交渉の中で最低の合意」と非難。その破棄または見直しを示唆している。イランの後ろ盾となっているロシアとはうまくやっていきそうなムードを一旦は作ったが、その後はロシアを突き放すなど、微妙な手綱さばきを行っている。大統領補佐官だったフリンを辞任させた理由も、ロシアやイラン問題と関連しているのだろう。それらの解読ともかく、問題はイランである。

今年1月30日にイランは核兵器搭載可能な弾道ミサイルの発射実験を行った。これが国連合意に背くか否かで議論が割れているが、このミサイルが北朝鮮製との分析もある。北朝鮮とイランはずっと以前から密接な関係にあるのだ。(じつは日本もまたイランとは特別に深い関係にある。)
2001年5月に成田空港で金正男が拘束されたとき、金正男はディズニーランド見物が目的ではなくイランに売却したミサイルの代金を回収するために来日したと考えられている。16年前から今日まで、北朝鮮はイランに武器を密売し続けており、今後もそうするつもりなのだろう。
米国はIS(イスラム国)問題はロシアに投げたが、中東全域に関してはさまざまな選択肢を持ちながら、イランと対峙していく必要がある。米国から見ると、イラン問題と北朝鮮問題は根が繋がっているのだ。

激動のアジア、大混乱の果てに見えるのは?

北朝鮮とイランが武器密売でつながっていることは世界中が知っている。知ってはいるが、その実態は不明だ。ミサイルにしても、一部は現地調達があるだろうが、部品や技術は北朝鮮からイランに流れている。それは陸路なのか、海路なのか、空路なのか。そしてカネはどうやって回収しているのか。
1980年代に発覚した「イラン・コントラ事件」があった。米国が禁輸対象であるイランに武器を売り、その代金をニカラグアの反政府勢力に流用していた事件である。武器密売や暗殺などの汚れた仕事は、欧米やロシアでは諜報機関が行う。映画や小説でお馴染みの「007」に代表されるCIAやMI6が汚れ役の主役だ。明治維新後の日本も最終的には欧米のようになった。だがアジアでは、国家機関が汚れ役を行うことはない。政府とは無縁の組織が汚れ役をやってきた。アジアにはさまざまな組織があり、それが機能していた。世界の諜報機関が把握しているのは、「マカオ=イラン」を結ぶルートだ。ここに金正男が関係していたと見られている。
金正恩が国家の頂点に立ったところで、北朝鮮の武器密売と金正男の関係は消えたと思うのは欧米的、日本的な考え方だ。金正男は長期間にわたって「北朝鮮=マカオ=イラン」の武器売買の主役をやっていた。そこには国家間の関係を越えた「組織の関係」が介在した。北朝鮮のトップが金正恩になったからといって、金正男が動かしてきた組織が金正男を切り捨てることはない。金正恩にとっては、その意味でも金正男が邪魔な存在だった。

マレーシアKL空港での金正男暗殺事件に関して、ほんらい最も注目すべきは「北朝鮮発マカオ=イラン」の武器売買密輸ルート問題である。そこに目をつぶって事件の解明をしようとするところに無理がある。
金正男がKL空港で暗殺された6日後、北朝鮮最高人民会議議長の崔泰福(チェテボク)が急遽イランを訪問している。これが金正男暗殺事件と密接な関係にあるにも関わらず、世界中のマスコミはそれを伝えようともしない。
金正男暗殺事件は、緊張を高める国際情勢の下、必然として起きた事件である。誰がどうやって殺したかは、警察が調べるものであり、真相は闇の中に葬られる。
背後に何が動いたか。それが最重要なのだ。そして、米中の綱引きの結果としてこの暗殺事件が起きたことが理解できれば、これが「序章」というか「第一幕」というか、物語の発端であることも理解できる。
米韓合同軍事演習、その後の金正恩訪中、その先にあるのは何か。
中東と極東を結ぶアジア大混乱は、筋書きを持たないまま、これから第二幕に突入する。その前に日本国内が混乱に陥ることは必然なのかもしれない。現状を正確に把握しない限り、今後の混乱時に右往左往するだろう。いまからでも決して遅くない。日本の立場、自分の立ち位置を明確にしておく必要があるだろう。



      



<海外情勢>                      
                             2017年2月13日

底なし沼〈韓国〉に引きずり込まれるな!

東アジア情勢が怪しい。火種は不安定な朝鮮半島、とりわけ韓国情勢にある。日清・日露戦争の原因を生んだ事大主義が、またも東アジア情勢を混乱に陥れようとしている。

サードミサイル・システム韓国導入に反対する中国

サード(THAAD)ミサイルとは「終末高高度防衛ミサイル」のことで、敵が発射したミサイルが自国に向け大気圏再突入を果たしたところで迎撃するミサイル。北朝鮮の度重なるミサイル実験を危惧した米軍が、韓国に配備を決定し、韓国の朴槿恵政権もこれを受け止めた。この決定がなされた昨夏以降、中国は「強烈な不満と断固とした反対」を表明。昨年11月4日には中国外交部の華春瑩報道官が「中国は、以前から一貫してサードの韓国配備に反対する立場を明らかにしてきた。中国は断固として必要な措置を取り、自国の安全と利益を守る。直ちにサードの韓国配備を停止するよう促す」と、韓国政府を名指しで厳しく糾弾した。
朴槿恵大統領の弾劾は、朴槿恵政権潰しのために中国が動いたと噂されたほどだ。「断固として必要な措置を取る」――サードミサイルの韓国配備に、なぜ中国はこれほど怒るのか。ミサイル本体が重大なのではない。レーダーシステムが問題なのだと解説される。ほんとうだろうか。

Xバンドレーダーを問題視する偏狭な軍事通

サードミサイルは2008年に完成し、翌2009年から本格運用が開始された。敵ミサイルを打ち落とす防衛ミサイルだが、実戦で使用されたことはない。当たるかどうかもわからないミサイルなど、じつは誰も問題にしていない。問題なのはサードミサイル・システムに組み込まれている「Xバンド・フェーズドアイ・レーダー」(以下Xバンドレーダーと略称)だと解説されている。
サードに使用されるXバンドレーダーは1000km以上先の野球ボールを認識する超高性能レーダーである。韓国の首都ソウルと中国の首都北京の距離は約960km。韓国にXバンドレーダーが設置されると、中国は軍事機密が守れなくなる恐れがあるとして怒っている。そのように多くの軍事通が語り、マスコミもネット上の情報もそうなっている。とくに中国が米国に向けて設置している核弾頭ICBM基地はほとんどが吉林省通化市にあり、その内情が米国に丸見えになってしまうことを恐れているといわれる。ソウルと吉林省通化の距離は約540km。米国攻撃用ICBM基地の状況が丸見えになることを中国が警戒し、「断固として必要な措置を取る」と強調するのは当然の事のようにも思える。だが、ほんとうはそれが問題なのではない。

日本の2カ所に設置されたXバンドレーダー

Xバンドとは軍事用に使われるマイクロ波で、サードミサイル・システムには「フェーズドアイ・レーダー」と呼ばれる特殊アンテナが組み込まれている。ミサイル本体とは別に、このXバンドレーダーの運用が米軍により企画され、米国以外で初めて、2006年に青森県車力基地(津軽半島日本海側)に設置され、2014年には京都府丹後市の経ケ岬通信所(米軍基地)にも設置された。津軽半島のレーダーは対ロシア極東軍用、丹後半島のレーダーは対中国用だといわれる。
経ケ岬通信所と中国の通化基地との距離は約970km、津軽半島と通化基地との距離は約1050km。サードミサイル・システムとしてXバンドレーダーが韓国に設置される前から、中国のICBM基地は丸見え状態にあり、いまさら問題にするのは奇妙な話なのだ。追い討ちをかけるようだが、もっとすごいXバンドレーダーがある。迎撃ミサイルとは別に、レーダーとして研究開発された海上Xバンドレーダーである。全長116m、幅73mという巨大なプラットホーム状で、球形のフェーズドアイ・レーダーを搭載し、自走できる基地だ。昨年9月・10月には日本海にこのレーダーがやってきた。目的は北朝鮮監視と説明されたが、極東ロシアや中国まで探査したと推測できる。

この海上Xバンドレーダーは5000km超先の野球ボールを確認する。5000kmという距離は途轍もないものだ。京都府舞鶴沖から5000kmというと、中国とカザフスタンの国境(4200km)とか、中国ネパール国境(4400km)、中国アフガン国境(5200km)などに達する。
韓国内にXバンドレーダーが設置されようがされまいが、中国全土は米軍による完全監視下にある。そのことは中国自身もとっくに理解している。韓国内サードミサイル・システム配置を中国が問題視する理由は、軍事的目的ではない。あくまでも政治的、政策的、外交問題の範疇にあるのだ。極言すれば米国としては、韓国を米軍のポチに仕立てる目的で配備を決めさせたものだ。だから中国は怒っている。朴槿恵政権は自国をエサに米中対峙を画策した。これを理解しないと東アジア情勢が見えてこない。

破綻に向かう韓国企業を買い叩く中国資本

昨年(2016年)8月に韓国最大の海運会社である韓進海運が破産申請した。同社は物流企業として世界的に有名で、タンカーなど200隻以上を所有。北米大陸横断鉄道を使って輸送を一手に引き受けるハンジン・ロジスティクスも子会社だった。韓進海運は今後解体され、主要部門が細分化されて、それぞれが外国企業の傘下に入ると考えられる。外国企業といっても、これを安値で買い叩くのは中国資本しか考えられない。
日本では状況がわかりにくいのが、裏金疑惑で財閥解体へと向かっているロッテだ。韓国検察は「日本ロッテ」の重光宏之が、「韓国ロッテ」の役員だった事が横領・背任に当たるとしているが、名義貸しや労働実態のない役員など常態化しているのが現実。検察としては李明博前大統領に絡む贈収賄事件を成立させたいようにも思えるが、在日企業を狙った作為的解体作業との噂も噴出している。こちらも解体されて中国にバラ売りされる可能性が高い。
韓国経済はサムスンにしてもヒュンダイにしても、先行きが厳しい。しかも朴政権支持率は0~5%という状態で司令塔不在。今後も財閥解体などという事態が続けば不良債権続出、韓国IMF管理も考えられる。そのIMFには米トランプ大統領が疑問を呈しているから、以前のような管理体制が敷ける可能性は低い。オーバーにいえば韓国は丸ごと中国に買い叩かれるような状況に陥りそうだ。サードミサイル・システムの韓国設置に激怒し、いっぽうで韓国企業を買い叩く中国。米中の激しい対峙を利用して漁夫の利を得ようとした韓国は、米トランプ政権誕生で方針を変換、米国の代わりに日本を引っ張り出そうとしている。日本にとっては対処が難しい物語となりそうだ。

袁世凱と日清戦争の歴史を忘れるな

1915年年末に中華帝国の皇帝の座に就き、翌年3月に日本を初めとする周辺からの非難で皇帝を廃止、6月には失意の下で病死した袁世凱をご記憶だろうか。袁世凱は清国の政治家だった李鴻章の下で軍人となり、朝鮮に派遣された。ここで朝鮮の政府高官や日本軍顧問、日本政府公館を狙った壬午事変(じんごじへん:1882年)や、「甲申政変」と呼ばれるクーデター(1884年)に遭遇する。
甲申政変のとき閔妃(みんひ)が密使を清国に送り国王と閔妃の救出を依頼。これを受けて袁世凱は1500人の軍勢で王宮を守っていた日本軍150名を蹴散らし、金玉均らによるクーデター「甲申政変」は失敗に終わった。この事件後、日本と清国は互いに朝鮮に関わると最悪の事態に突入するとの認識を共有し、天津条約を交わして双方とも軍を引き上げた。その後、袁世凱は朝鮮公使として陰から朝鮮の内政を動かし、それが原因となって10年後に日本と清国は日清戦争に突入する。ちなみに天津条約を結んだ伊藤博文と李鴻章は、敗者、勝者の立場を入れ替えて日清戦争終結の下関条約でも顔を合わせている。
歴史の解読は難しく、戦争の責任を一方に押し付けることは褒められた話ではない。だが概要を理解するには、ときに簡略化も仕方ない――日清戦争の真の仕掛け人は日本でも清国でもない。袁世凱でもない。強者に媚びを売り、自らをエサに強者同士を戦わせた朝鮮だった。そして2017年の今日、歴史は「袁世凱二世」と呼ばれる人物を登場させた。2012年から2014年まで駐韓国中国公使に就いていた陳海だ。公使だったにも関わらず大使以上の実力を振るい、いまなお韓国政界を牛耳っている。この状況は日清戦争直前とかなり似ている。

日韓修復を求める圧力が日本を底なし沼に誘い込む

駐韓日本大使が召喚されたのが1月9日のこと。すでに1カ月以上が過ぎたが、未だに出口が見えない。日本政府は釜山の慰安婦像設置問題で国交断交にもつながる大使召還を決定したが、国内での評価は高く、日本JNN(TBS系列)発表の世論調査では内閣支持率が67%に急上昇している(前月比+0.6ポイント)
大使召還が発表された直後の1月6日に、日本政府は日韓スワップ協議の中断を決めた。麻生財務相は「信頼関係をきちんと作った上でやらないとなかなか安定したものにはならない」とコメントを発表。こちらも日本国内での評価は高い。これに対して韓国企画財政部の宋寅昌(ソンインチャン)国際経済管理官は「日韓通貨スワップ交渉の中断による大きな影響はない」とし、「日本が議論の場に出てきたならば私たちも応じるが、このような状況で(交渉再開の)要求はしない」と強気な態度を崩さない。
傍目から見ると韓国経済は崩壊寸前に見えるのだが、韓国はなぜか余裕を見せている。それは外貨準備高が改善されていることに起因するようだ。

1997年のウォン危機時には300億ドル、2008年のリーマン危機時2000億ドルだった外貨準備高は2016年末には3711億ドルと良好な状態。そして何よりの強みが中国と結んでいる通貨スワップ協定である。それだけではなく、通貨スワップが終了したマレーシアと延期に合意し、アラブ首長国連邦とも延長の協議中。
さらに豪州との協議では通貨スワップ額を従来の2倍の100億豪ドルに増やすことが決定した(2月8日)
韓国のネットユーザー発言も強気なものが目立つ。「日韓通貨スワップ協定中断を機に、慰安婦問題も白紙撤回を」。「日本側が頭を下げて協定に出てくるのなら仕方ないが、こちらから協定を申し入れる必要などない」。
この状況に日韓修復を求めて動く勢力が日本国内で蠢いている。外務省や財務省ではなく、通産省系列に入る勢力だ。東アジアの全体情勢や歴史認識、あるいは国家の尊厳などを考えず、貿易、通商ばかりを考える連中である。硬直し、出口が見えなくなった日韓の闇の中で、歴史や国家の尊厳を無視した言動が強まると、日本は底なし沼に引きずり込まれる。政治家や財界人の言葉に、より一層の注意を払いたい。



      



<海外情勢>                      
                              2017年2月13日

米中新冷戦時代の到来
トランプ大統領で根本的に変わる米中関係


                        藤 井 厳 喜 (国際政治学者)

トランプ米大統領が世界を揺さぶり続けている。大統領選挙の期間もそうだったが、当選が決まって以降も、又さらに今年1月20日に正式に大統領に就任して以降も、トランプの形式も中身も型破りの政治がアメリカのみならず、世界を揺さぶり続けている。
外交政策では、特に注目すべきはISとチャイナとの関係だ。彼の第一の敵はIS、第二の敵はチャイナなのだ。筆者は予備選挙以来、トランプを見続けてきたが、彼は外交政策で何を行なうかをかなり明確に述べている。実は経済政策でもそうなのだが、トランプはかなり明確な行動計画を持っており、大統領に就任以来、物凄い勢いでその政策の実行にかかっている。よく日本のマスコミが「トランプ政権の政策は不透明だ」等と論評しているが、これは自らの不勉強を告白しているようなものである。ある意味でトランプ政権くらい分かりやすい政権はないのであり、その行動を予測することは決して難しいことではない。

トランプは「一つの中国」を認めていない

アメリカのマスコミの劣化も激しいが、日本のマスコミの劣化は恐らくそれ以上だろう。2月9日の木曜夜に、トランプ大統領と習近平国家主席が電話会談した。この電話会談でトランプが「ワン・チャイナ政策を認めた」と日本のメディアが報道しているが、これは全くの間違いなのである。一例として、産経ニュースを見てみよう。産経ニュースは、北京発で次のように報道している。
中国国営中央テレビ(CCTV)によると、トランプ氏は中国と台湾は不可分の領土とする「一つの中国」原則に関して、「米国政府が『一つの中国』政策を実施することの高度な重要性を十分に理解している。米国は『一つの中国』政策の実施を堅持する」と述べた。

そして、これに関して、何らの詳しいコメントを書き加えていない。これだけを読むと、トランプ大統領もまた、米歴代政権同様に所謂「ワン・チャイナ・ポリシー(one China Policy)」を継続するのかと思えてくる。トランプ大統領は就任に先立って1月13日、「one China Policy」を対中外交の原則にしない旨を語っていた。又、昨年12月2日には台湾の蔡英文総統と直接、電話会談を行ない、「one China Policy」を揺さぶる姿勢を見せていた。産経ニュースに限らず、これまで出た日本の報道を見ると、その報道の殆どが、トランプ大統領は「one China Policy」を前提として認めないと発言していたのにも関わらず、その前言を翻して「one China Policy」を認めるようになった、という印象を受ける。ところが、正確にニュースを読んでみると全くそうではないのだ。ホワイトハウスの報道官室が発表したステイトメントは、たった8行でそっけのないものであるが、この中で「one China Policy」については次のように述べている。
「トランプ大統領は、習近平主席の依頼に応じて、我々自身のone China Policyを尊重することに同意した。」肝心のところは、honor our “one China” policyというところである。この「our “one China” policy」というのは、当然、我々(アメリカ側)の解釈によるone China Policyということである。少し深く解釈すれば、トランプ政権の解釈しているところの「one China Policy」だと言ってもよいだろう。引用符がついているところが、また一つのヒントで、「所謂、one China Policy」というニュアンスである。

トランプの解釈によれば、「one China Policy」とは「台湾を中華人民共和国の領土として認める事」では全くないのである。これは1972年の米中国交回復の原点である上海コミュニュケに遡る。そこで認められた「one China Policy」とは何か、正確に理解しておく必要がある。上海コミュニュケにおいては、アメリカ側は次のような認識を表明した。「すべてのチャイニーズは台湾をその一部とするところの一つのチャイナの存在を信じている。そしてそのことをアメリカは認知している。」この「認知している」という表現には、英語の「acknowledge」という言葉が使われている。これは単に「知っている」優しく言えば「know」ということにすぎない。承認する(approve)とか、同意する(agree, consent)という言葉は使われていないのだ。1972年の時点では、台湾に存在する中華民国は、自らがチャイナの正統政府であると主張しており、その点で「one China Policy」を訴えていた。中華人民共和国の方も、自らが正統政府であると訴えており、one China Policyを唱えていた。両方の「チャイナ」の版図には、台湾も含まれると認識されていた。それが上記のような文言となったのである。つまり台湾海峡の両側で、全く中身の異なるone China Policyが主張されていた。双方とも、自らがチャイナの正統政府であると訴えていた。そして、双方が言うチャイナの地理的範囲には、台湾も含まれていたという事実である。そしてアメリカ政府はそのことを「単に知っている」と表現したのである。決して、台湾が中華人民共和国の不可分の領土だと承認したわけではないのだ。この原点にトランプは戻ろうというだけの話である。
こういった解釈が、アメリカ側がいう「Our one China Policy」なのである。だから、中国共産党が使う「One China Policy」の意味と、トランプ政権が使う「one China Policy」の意味は、全く似て非なるものなのだ。同じ言葉を使いながら、その内実においては、全く同意していないと言えるだろう。考えようによっては2月9日の電話会談は、one China Policyの食い違いを明らかにしたとも言えるだろう。

なぜ、このような食い違いが生じたのか

なぜ、こんなことになったのかと言えば、中国共産党の外交詐術にアメリカの政治家が欺瞞され続けてきたからである。中国共産党はone China Policyの本来の意味を少しずつズラシテ拡大解釈を続け、多くの海外の指導者にone China Policyとは「中華人民共和国の台湾領有権の承認である」と、騙すことに成功してきたのだ。これは日本の政財界のリーダーについてもあてはまることだ。
南シナ海問題で「サラミ・スライス戦術」という事が言われている。サンゴ礁に掘っ立て小屋を建て、徐々に拡大して遂にはサンゴ礁全体を埋め立て、そこに軍事要塞を築いてしまった。長い年月をかけて少しずつ目立たないような形で建設を続け、既成事実を作り上げたのである。日本を始めとする他国への領海侵犯にも同じ戦術が用いられている。徐々に、領海侵犯の頻度を高め、その地域を紛争海域とし、やがては領土と領海を略奪するという小さな既成事実の積み上げ戦術である。解釈を1ミリずつ、1センチずつ動かし、遂には土地の境界線を数メートルも数百メートルもズラシテ侵略を合理化しようという誠に狡猾なやり方である。one China Policyでも同じことが行われてきたのだ。

トランプの策略

トランプは、先ずISの壊滅を狙ってロシアと共同作戦を進めている。それが終われば次のターゲットはチャイナであることは間違いない。中国共産党がアメリカの覇権を脅かして世界の覇権国の地位を狙おうとする限り、アメリカは強烈なチャイナ・バッシングを続けるだろう。トランプはそのことを公言している。ヒラリー・クリントンが大統領に当選していたならば、彼女の基本スタンスは親中反露なので、そうはならなかったはずだ。ところが逆にトランプは親露反中である。アメリカにとって代わろうとする国家はどの国であれ、これを叩きのめさなければならないというのが、アメリカ国民一般の信念であるし、それはトランプの確信でもある。
中国共産党も着実に経済力を伸ばしてゆけば、いつかは米中関係は逆転するかもしれない。しかし、ある程度、経済的実力とそれに伴う軍事的実力をつけたと確信したのだろう。今や、アメリカにとって代わろうとする帝国主義的な意図を隠そうともしない。そこでトランプ政権としては、正面切ってチャイナ・バッシングを行なおうとしているのだ。

当面は、中東におけるIS攻撃が中心になるので、チャイナに対しては経済制裁を強化して話し合いの場に引き出そうとしている。早くも米国際貿易委員会(ITC)はチャイナから輸入される2品目をダンピング認定して高率報復関税をかける事を決定した。2月7日には、道路舗装用の素材を、続いて8日には化学肥料の硫酸アンモニウムをそれぞれダンピング認定している。矢継ぎ早の決定である。恐らくこれが、他の品目にも波及してゆくであろう。こういった形で、チャイナ経済を締め上げ、包括的話し合いの場に引き出してこようというのが、トランプの対中交渉戦略である。
その為に、2月9日の習近平との電話会談では、形式的には1歩後退し、one China Policyを認めるそぶりを見せたのである。いきなり初めに独自のone China Policyを主張したのでは、チャイナ側は交渉には出てこないので、これは交渉の場に引き出す為の餌のようなものであろう。このような複雑な駆け引きがあるにも関わらず、トランプがone China Policyを認めたと報道してしまっては、全く事の真相が見えていないことになる。いや、誤って伝えていると批判されても仕方ないだろう。冒頭にあげた産経ニュースも一か所は正確に表現しているところがある。それは「中国と台湾は不可分の領土としている一つの中国原則」と表現しているところである。これは上海コミュニケの比較的正確な言い換えと言えるだろう。つまり「台湾は中国の一部」なのではなく、中国と台湾がone China Policyを形成しているという認識である。こちらの方が上海コミュニケの原文に近いことは近い。

しかし北京発の産経ニュースを普通の人が読めば、トランプは前言を撤回して台湾は中華人民共和国の一部だと認めたのだという印象を持ってしまうだろう。肝心なのは、この産経ニュースが、中国国営中央テレビのニュースをそのままに伝えている事である。これは、国営放送だから、中国共産党政府の有利な、そして勝手な解釈を垂れ流すに決まっている。それを無批判にそのまま報道しただけでは、中国共産党の代弁者になってしまうだろう。報道機関に見識があるならば、「中国国営中央テレビはこういっているが、ホワイトハウスの発表は次のように言っている。両社の間には相当大きなニュアンスの開きがある」ということを指摘すべきであろう。産経以外のメディアの報道にはもっと酷いものもある。
 
継続する米大手マスコミのトランプ叩き

トランプは、アメリカの大手メディアと喧嘩しながら、その喧嘩に勝って大統領に当選した人物である。アメリカでは、大手マスコミのことをメイン・ストリーム・メディア、略称して「MSM」と呼んでいる。このMSMは、一部の保守系を除けば、殆どが反トランプ一色である。リベラル系のニューヨーク・タイムズやワシントンポストやCNNなどは、反トランプの急先鋒である。保守系のMSMであるウォールストリートジャーナル紙やFOXテレビなどは、親トランプ派と反トランプ派に分裂してきた。元々MSMの中では保守派は少数派である。その少数派が更に分裂したのだから、MSMの中でトランプ支持派は極めて少数であった。逆にトランプ支持者達が盛り上げ、そして支持していたのは、草の根のインターネットを中心とするメディアであった。
この図式はトランプが当選後も全く変わっていない。MSMの中でトランプ支持派はやや増えたかもしれないが、相変わらず主流派はトランプ叩きを継続している。
その為、MSMが報道するトランプ政権に関する情報は、益々現実を遊離した政治宣伝ばかりになっている。こんなことをやっているものだから、アメリカのMSMの影響力は、凋落するばかりである。一方、草の根の保守系メディアが大きな力を持ち始めている。

トランプ大統領はMSMの頭越しに、国民と直接、コミュニュケーションを取る為に、Twitterなどのインターネットの新しいメディアであるSNSを積極的に活用している。Twitterを使えば、大新聞や地上波のテレビを経由しないで直接、国民に正確なメッセージを伝えることが出来るのだ。MSMと戦っているトランプが、Twitterを武器とするのはあまりに当然である。大統領がTwitterを使って国民にメッセージを送ってはいけないという法律はどこにもないのだ。またそれを道徳的に規制することもできない。自分の頭越しにトランプが国民とコミュニケートするので、自らの存在理由を切り崩されているMSMは一層、激怒してトランプ攻撃を強化することになる。とにかく現在、アメリカのMSMを見ていたのでは、アメリカで本当に何が起きているのか、トランプ政権を巡って何が行われているのかを全く理解することが出来ないといってもよいだろう。
それにも関わらず、日本のMSMも又、アメリカのMSMが無批判に報道した内容をそのままに垂れ流しにしている。日本とアメリカのMSMという二重の歪んだレンズを通すものだから、日本国民の多くはアメリカ政治の実態について極めて歪んだ映像しか見られないことになってしまう。現実離れした幻想を見せられているといっても過言ではないだろう。
日本のメディアが腐っていると批判されて既に久しいのだが、トランプ政権の誕生で、その腐敗ぶりが一層ひどくなって我々の前に横たわっている。



      



<海外情勢>                      
                              2017年1月24日

揺れる韓国、揺れる朝鮮半島

韓国が揺れている。朴槿恵大統領弾劾決議で「朴槿恵罷免」「新大統領選」の道筋が生まれて以降、韓国情勢は不透明な泥沼に突き進んでいる。その不透明さを韓国自身が、そして日本を含めた世界中が理解していないところに、今回の「韓国異常事態」の根の深さが覗える。その深い根の先にあるのは、北朝鮮の闇だ。

韓国国内問題が、なぜか「反日」に切り替えられた

韓国国会が朴槿恵大統領の弾劾訴追を可決(12月9日)して、大統領権限が停止された。現在は黄教安(ファンギョアン)首相がその権限を代行している。朴槿恵大統領は親友だった崔順実(チェスンシル)に過大な権限と利権を与えたことは認めているが、違法行為はなかった、犯罪にはあたらないと主張。今月末か来月初旬には特別検察官の最終報告が提出され、憲法裁判所がそれを受けて判断を下すものと見られている。
この先、朴槿恵大統領が失脚し、新大統領を決める選挙が行われる可能性が高いように思われるが、これはあくまでも韓国の国内問題である。ところが現在の韓国情勢は大きく変化してきている。「崔ゲート事件」と呼ばれる国内問題が、いつのまにか「反日」に切り替えられている。
風向きが大きく変わったのは、昨年末の釜山日本総領事館前に「少女像」が設置された前後からだ。朴槿恵弾劾問題が浮上する以前から韓国内に、慰安婦像問題の日韓合意に対する不満は存在した。さらに昨年11月末に締結された「日韓秘密軍事情報保護協定」締結に際しても、韓国世論では反対が上回っており、不満がくすぶっていた。朴槿恵弾劾からまもなく、「反朴槿恵」が「慰安婦問題合意反対」と「秘密軍事協定締結反対」に大きくシフトし始めたのだ。このウラには明らかに作為的、意図的な韓国世論操作が感じられる。

慰安婦問題日韓合意とは何だったのか

ソウルの日本大使館前に「慰安婦像」が設置されたのは2011年(平成23年)12月のこと。そもそも大使館前や領事館前にこのような像を設置することはウィーン条約違反である。日韓両政府はこの問題についての協議を重ね、日本側が大きく譲歩して「和解・癒やし財団」を発足させ、元慰安婦の「名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やし」に取り組むことを決定した。これに対して日本では「存在しなかった慰安婦問題解決のために韓国にカネを支払うのはおかしい」といった批判もあり、また韓国世論も納得してはいなかったが、それでも米国オバマ大統領の後押しもあって日韓両国政府が歩み寄り、合意に達したのだ。2015年末のことである。
ところが韓国側は大使館前の像を撤去するどころか、昨年末には釜山の日本総領事館前に新たな少女像を設置したのだ。合意の当事者である朴槿恵が職務停止に追い込まれ、合意を履行するリーダーが不在となってしまった。そのうえ、朴槿恵に代わって大統領権限を代行する首相が、野党が過半数を占める国会では主導権を持てず、ただ右往左往していることも事実。だが昨年末から今日に至る韓国内の動きには、どうも奇妙な世論操作が感じられる。

釜山「少女像」を作り設置した人

「慰安婦問題」を煽り「慰安婦像」を設置したのは韓国挺身隊問題協議会、通称「挺対協」と呼ばれる組織である。この組織に北朝鮮の勢力が加担しているという情報がある。確証はないが北朝鮮の影響下にある団体と考えて間違いない。日韓融和は北朝鮮にとっては好ましいものではない。日韓間に隙間風を吹かそう、クサビを打ち込もうとする動きが起きることは必然だろう。現在の韓国内の「反日」は、釜山総領事館前の「少女像」設置問題から始まっている。
では釜山総領事館前の像は誰が作り設置したのか。像を作り設置したのは、「未来世代が立てる平和の少女像推進委員会」という新たな団体である。代表は釜山で原子物理学を学ぶ女子学生だ。この団体の後ろには「朝鮮日本軍性的奴隷および強制連行被害者補償対策委員会」(略称「朝対委」)がおり、さらにその背後には朴槿恵大統領により解散させられた親北勢力「統合進歩党」の残党が見え隠れしている。
韓国国情院は「挺対協」「朝対委」そして解散した「統合進歩党」のいずれもが北朝鮮と密接な関係を持つ「親北団体」と分析している。
昨年8月15日には「挺対協」と「朝対委」がソウル日本大使館前で2団体共同声明を発表したが、このときから既に「朴槿恵弾劾→反日運動」路線が決定していたようだ。ちなみにこのときの共同声明は以下の2点である。
① 日本政府に対して性的奴隷「慰安婦」に対する公的謝罪を求める
② 日韓軍事協力を白紙撤回させ、この体制を徹底的に破壊する

そして昨年末以降、これまで使用されていた「慰安婦」という言葉に代わって「性的奴隷」という言葉が前面に押し出されるようになった。いまでは「慰安婦」という言葉は使われず、世界的に「性的奴隷」と呼んでいる。日本のマスコミの中にもこの表現を使っているところがあるから驚きである。

「日本の残置国家」北朝鮮が「反日」運動を煽っている

北朝鮮という国は大日本帝国が半島に残した残置国家だといわれる。この表現は正しい。しかしここに、さまざまな怪説が上塗りされ、現実から乖離している場合もある。とくにネット上の一部陰謀論サイトでは相当怪しい情報が乱れ飛んでいる。こうした怪情報は現実判断を狂わせる。冷静に北朝鮮の全体像を眺める必要がある。
北朝鮮の初代、金日成にとって統一朝鮮は悲願だった。後を継いだ金正日も南北統一を目指していた。彼らが旧宗主国である日本を「偉大な存在」と捉えていたことは間違いない。金日成、金正日の時代は、北朝鮮はたしかに大日本帝国の残置国家だった。とくに金正日は日本の経済力や文化全体を優れたものと考え、憧れ、近づこうとさえしていた。日朝間が良い関係になることを切望していた。ところが金正恩の代になって、それが大きく変わった。
金日成も金正日も絶対的指導者として君臨していた。だが金正恩は、そうではない。金正恩は、いわば飾り物である。2011年12月に金正日が死亡し、金正恩が国家の最高責任者となってから、北朝鮮の体制は少しずつ変化し、昨年5月には36年ぶりとなる党大会を実施、6月には憲法まで変えて国家運営の最高政策指導機関「朝鮮民主主義人民共和国国務委員会」を作り上げた。これまで最高権力を持っていた国防委員会の上位に存在する機関である。さらに実力ある部署として名を轟かせていた人民武力部、人民保安部、国家安全保衛部は省に格下げされ、すべてを国務委員会が仕切ることになった。この国務委員会の中に20人前後の「金正恩ブレーン」がおり、北朝鮮の政策その他国家運営はすべて彼らがやっているという。
絶対君主・金正日の時代とは大きく変わったのだ。では、変身した北朝鮮はどこに向かうのだろうか。

米国に到達するICBMの試験発射準備が最終段階を迎えた

今年の元旦正午に金正恩は28分間のテレビ演説を行った。金正恩は就任以来、毎年元旦にテレビ演説をやっており、それ自体は特別に変わったことではない。
さて、この演説で金正恩は何を語ったのか。まず、国防力の近代化を成し遂げ、核大国になったことを告げ、さらに「米国に到達するICBMの試験発射の準備が最終段階となっている」ことを誇らしげに説明した。対米批判はほとんど行わなかった。だが3月に行われるであろう米韓合同軍事訓練の中止を強く求めている。南北問題に関しては韓国のろうそくデモに言及し、以前から槍玉にあげていた朴槿恵を強烈に批判。国内経済については「5カ年計画の概要」を述べただけで具体的内容には触れていない。そして最後に「指導者としての自分の力量が足りず自責の念にかられている」と反省の弁を述べ、人民のために働く決意を語ったのである。
このテレビ演説に嚙みついたのが米国のトランプ大統領(この時点では就任前)だった。
この演説の直後にトランプは「北朝鮮はつい先ほど、米国の一部に到達できる核兵器の開発の最終段階に入っていると発表した。そうはならない!」とツィッターに書き込んでいる。「そうはならない」とは「そうはさせない」という意味だ。力づくでも北朝鮮のICBMを完成させないと宣言したのだ。それから30分後、トランプはこの問題に関連して、新たな書き込みをしている。
「中国は完全に一方的に米国から富やカネを奪っている。それなのに中国は、北朝鮮に対して米国を助けるための手立てをしていない」
トランプは大統領就任前の12月に、国務省・国防省・CIAとそれぞれ数時間に及ぶブリーフィング(状況分析、現状報告)を行っているが、いずれの場合も北朝鮮が最優先課題であり、ほとんどを北朝鮮の核問題に充てている。トランプは北朝鮮問題を本気で処理するつもりで、北朝鮮が核放棄に応じるなど条件さえ納得すれば米朝国交正常化・朝鮮戦争平和協定に応じるつもりだと考えられる。米国は北朝鮮と独自に交渉する覚悟のようだが、それでいてトランプは、北朝鮮さえも中国との「ディール(取引、または駆け引き)」の材料にしているようだ。

国家構造、体制の若返りを図る金正恩

元旦の演説で金正恩は「自分の力量が足りず自責の念にかられている」と発言している。これをどう分析するか。――中国の整風運動の焼き直しとみて間違いないだろう。整風運動とは大東亜戦争の最中だった1940年代前半に中国共産党内部で行われた政治活動である。その目的は毛沢東が最高指揮官になるためのものだった。非常に難解で複雑な話だが、短絡的にまとめると、こうなる。
トップが自分の間違いを皆の前で反省する。それに刺激されて次つぎと上層部が自己反省を行う。下位の者たちも同様に反省する。そうしたなか、不都合な人間たちの自己反省の弁を逆手に取り、これを追い落とすのだ。
北朝鮮の名目上のトップである金正恩は今年1月8日の誕生日で満33歳になった。だが北朝鮮の国務委員会・国防委員会には、金日成の代から軍人として国家を支えてきた老兵たちが大勢いる。首相の朴奉珠(パクポンジュ)が78歳、外相の朴宜春(パクウィチュン)が84歳といったところを見てもそれがわかる。数字が捏造されているとの説もあるが、北朝鮮の平均寿命は68歳で、長生きの人が多いとされる。年寄りばかりの国家体制を一気に若返らせるために「北朝鮮版整風運動」が仕掛けられた可能性は高い。それを陰から指導しているのは、国務委員会の中にいる「金正恩ブレーン」たちだろう。

2年以内の南北統一を目指す北朝鮮

朴槿恵大統領弾劾、新大統領選という激流に翻弄されている韓国だが、いっぽうで北朝鮮との南北統一機運は高まっている。南北統一にはこれまでさまざまな取り組みがなされてきたが、今のところ金大中と金正日との間に交わされた「高麗民主連邦共和国」構想がいちばん可能性が高いと考えられている。北朝鮮側はその構想の中でも「最も低レベルの連邦制」を目指しているとされる。その構想によると、南北(韓国・北朝鮮)両国から同数の議員(200名ずつ計400名)を選出した国会を開催。大統領は国会議員の投票で決めるとされている。これを例えば現在実行したらどうなるだろうか。北朝鮮選出の議員は全員が金正恩に投票するだろう。では韓国の議員は100%韓国新大統領に投票するだろうか。誰か1人でも金正恩に投票したら……。
朝鮮半島の南北統一はあり得ない。何といっても中国がそれを阻止するという見方もある。だが今日、韓国国内が揺れている最大の原因は「高麗民主連邦共和国」成立が間近に迫っていることに関係してくる。米国が中国とのディール(取引)に台湾問題を重ね、朝鮮半島統一を後押ししてくる可能性もあるのだ。
釜山の少女像設置に関連して、1月6日に駐韓日本大使らが帰国している。併せて日韓通貨スワップ交渉も中断しているが、これは当然のこと。日本政府は揺るぎない姿勢を貫かなければ、この先、底なし沼に引きずり落されてしまう。だが同時に、半島情勢・アジア情勢全般を見極める必要がある。中国台湾問題に関しては機会を改めて触れてみたい。



      



<海外情勢>                       
                             2016年11月16日

トランプ大統領誕生を何故、予測できたか:グローバリズムから新ナショナリズム

                        藤 井 厳 喜 (国際政治学者)

2016年11月8日に行なわれたアメリカ大統領選挙では、大方の予想を覆して、ドナルド・トランプが勝利した。アメリカのマスコミも、そして日本のマスコミも押しなべてクリントン勝利、トランプ敗北を予想していただけに、この結果は多くの人々を驚かせたようだ。
筆者は、大統領本選挙が始まって以来、一貫してトランプの勝利を予測してきた。トランプ当選を予測した人は殆どいなかったので、トランプの当選確定後、多くの人々からお褒めの言葉と共に、「何故、トランプ当選を予測できたのですか」との質問を頂いた。筆者は、東京MXテレビの「ニュース女子」という番組に準レギュラーで出演している。たまたまこの番組で選挙直前に「トランプは必ず当選します」と断言したところ、当日、出席している他のコメンテータは皆、クリントン当選予測であった。
こちらは合理的な理由があって、トランプの当選を予測していたのだが、世の中から見ると、よっぽどの変わり者に見えた様である。それが又、予測が当たってしまった為に、少々、人々の注目を集めることとなった。しかし、筆者に言わせれば、当たり前のことをして当たり前の結論に達しただけであり、寧ろ、多くの評論家やコメンテータが何故、安易にクリントンの勝利を予測していたのかが、理解出来ない程である。


米大手マスコミの情報操作

肝心なことは、今年の米大統領選挙においては、アメリカの大手マスコミの報道が、全くあてにならないということであった。大手マスコミはこぞってヒラリー支持であり、トランプ・バッシングであった。マスコミ自身が主導して、トランプに対するネガティブ・キャンペーンを仕掛けていた感さえある。トランプの言葉は常に、誤解を招くような形でしか伝えられず、ことさらに悪者イメージが先行していた。これは偶然そうなったわけではなく、大手マスコミが政界のアウトサイダーであるトランプを徹底的に排除するためにある程度、意図的に行ってきたことである。リベラル系メディアは元より、予備選挙の段階からトランプ・バッシング一色である。
保守系メディアは通常、共和党候補を応援するのだが、今年の大統領選挙では、旗幟鮮明にしてトランプを応援した大手メディアは殆ど存在しなかった。保守系大手メディアも、トランプと反トランプに分裂していたのである。つまり大手メディアにおけるトランプ応援団は極めて少数派であったと言うことができる。それではトランプ支持者たちは、どのように運動を展開していったのかと言えば、彼らは、インターネットのTwitterやYouTubeをフルに活用して、大手メディアに対抗していったのであった。

アメリカの大手メディアがこういった状況であったのだが、日本の大手メディアが又、全く無反省にアメリカの大手メディアの情報をそのままに垂れ流しにしていた事には、更に驚かされた。アメリカの大手メディアの報道の歪みを日本のメディアが修正するのではなく、寧ろその歪みを更に拡大して日本国民に情報を流したのだ。つまり、日本国民としては、アメリカの大手メディアと日本の大手メディアという二重の歪んだレンズを通してしかアメリカの現状が見られなかったのである。
そういう事態を予備選挙の時点から把握していたので、筆者としては大手メディアが発表する両候補の支持率調査(世論調査)をそのまま信用することは全くしなかった。初めからあてにならないと分かっていたからである。
特に数字の改竄が酷いと思われたのがCNNである。CNNは、良識あるアメリカ国民からはクリントン・ニュース・ネットワークと仇名される程に、クリントン陣営べったりであった。報道機関というよりは、クリントン選挙対策本部の広報部になったような感じであった。大衆を情報操作するために、CNNは相当、意図的に支持率調査の数字をいじっていたものと思われる。

筆者としては、大手マスコミ絡みでない信用できる世論調査を見付けて、それを継続的にフォローすることにしていた。それらの比較的に政治的に中立性があり、客観的な世論調査が物語っていたのは、実はトランプ対ヒラリーの戦いは、抜きつ・抜かれつの接戦であったが、終盤に向けて明らかにトランプの支持率が上がっているという事実であった。又、当選予測の為には、支持率調査以外にも、いくつもの経験則のようなものが存在する。例えば株価との関係や、前回大統領選挙との相関関係などである。大統領選挙は4年に1度のアメリカ政治の一大イベントなので、この手の経験則の知識の蓄積にも膨大なものがある。中には参考とすべきものが多い。星占いまで持ち出す気はないが、今回、特に注目したのは、予備選挙の初期の段階の票の出方だけから、本選挙の最終結果を予測すると言う選挙予測法であった。結果として、これは今回も予測が的中している。又、ラスベガスの賭け率なども一応の参考になる。
こういった事象に加えて、最近はインターネットの時代であるから、先程申し上げたトランプ支持者からの直接のインターネット上の情報提供も又、極めて有益であった。

例えば今回、選挙戦の終盤に向けてトランプとクリントンの支持集会の様子が度々、個人のYouTubeで放映された。単純に言って、トランプ支持集会は満員で熱気にあふれ、クリントン支持集会は人が閑散として白けていたのである。そういった会場の現場を複数、観察していれば、クリントンが圧倒的に優位という世論調査は、どうもおかしいと思うようになる。これが健全な常識というものであろう。
大手マスコミの垂れ流す数字をうのみにしていた日本の所謂「評論家」たちは、生のデータを幅広く集め、虚心坦懐に自分の頭で物事を考えるという、ごく当たり前の努力を怠っていたのである。だから大マスコミに引き摺られてしまったのだ。今回のアメリカ大統領選挙を通じて、アメリカのマスコミの病根も明らかになったし、又、日本のマスコミの歪曲と無能さも白日の下に晒された感がある。
日本のマスコミはこれだけの無責任な報道を行なっておきながら、全く反省するそぶりさえ見せていない。次は直ぐ、トランプの組閣人事だということで、またまたハシャギまわって中身のない報道合戦を繰り広げている。

筆者自身のことで恐縮だが、トランプ当選の予測を的中させたというので、少しは大手の新聞や地上波のテレビ局からインタビューや出演の依頼があると思いきや、これが全くといっていいほど無かったのである。やはり自分達の失敗は、徹底的に隠蔽したいというのが、マスコミの体質なのであろう。こんなことをしていると、大衆は益々マスコミ離れをしてゆくことになるだろう。自ら墓穴を掘っていることに気が付かないのだろうか。
アメリカでは今回の大手マスコミのあまりに酷い情報操作に対する反感が高まっている。今後、大手マスコミは、その影響力を失い、個人発信のYouTubeテレビやニューズレターのようなものが影響力を拡大してゆくだろう。日本のマスコミは相変わらず無反省のようだが、彼らの力の衰退も最早、避けることができないであろう。

グローバリズムから新ナショナリズムへ

少し視野を拡げて今回のアメリカ大統領選挙を見ると、世界では現在、グローバリズムから新ナショナリズムへの大きな潮流の変化が起きていることが分かる。米大統領選におけるトランプ当選は、今年6月の英国のEU離脱と全く同じ方向の現象である。過去30年から40年、世界を席巻してきたのは、ボーダーレス・エコノミーを目指す経済グローバリズムの潮流であった。ボーダー、即ち国境を廃止し、人・モノ・カネが世界を自由に動き回るグローバル市場主義こそ、世界経済を成長させてゆくエンジンであると散々に喧伝されたのである。人々はその理論を詳細に検討することもなく、安易に受け入れ、世界経済はボーダーレス化の方向に変化してきた。

しかし振り返ってみれば、この市場経済最優先のグローバリズムは、先進国にとっては損するところが多く、益するところが誠に小さい構造変化であった。つまり、グローバル経済推進で大儲けしたのは一部の多国籍大企業だけであり、先進国の中産階級は押しなべて、その経済的地位が没落していった。多くの雇用が低開発国に流出し、先進国の勤労者の賃金は、相対的に引き下げられた。
先進国の大企業は、例えばアップルなどがそのよい例だが、低開発国で低賃金を利用して製品を製造し、それを先進国の豊かなマーケットで売って利益をあげ、更にその利益をタックスヘイブンに蓄積して先進国では納税しないという巧みな経済行動をとるようになってきた。多国籍企業というよりは、まさに無国籍企業である。こういった企業はグローバル化によって大儲けが出来たが、先進国の中産階級、特にアメリカの中産階級は、この動きにより大きな損害を受け続けてきた。
アメリカでは過去30年間、まさに中産階級は崩壊を続けており、それには歯止めがかからなかったのである。民主党も共和党も、アメリカ中産階級を救う政策を打ち出すことは出来なかった。その欲求不満がトランプ現象を生み出したのである。トランプは堂々と自由貿易を否定し、保護貿易によって中産階級を保護すると主張した。従来の二大政党が決して言い出せなかった政策である。結局、グローバリズムは先進国の国民、特に中産階級を不幸にしただけであるという結論が、もう出てしまっているのだ。もうグローバリズム幻想には騙されないぞ、というアメリカの有権者の出した答えが、トランプ当選であった。

イギリスのブレクジッドに関しても同じことが言える。イギリスという国家の独立を放棄して、EUの一部になり、経済的繁栄をイギリスが享受できていたなら、英国民はEU離脱を決して決断しなかったに違いない。結局、独立を放棄し、EUの経済統合に身を投じてみたが、平均的イギリス人の生活はよくなるどころか、寧ろ貧困化していったのである。イギリスの場合、特に金融業のエリート達は大いにグローバル化とEU統合によって利益を上げることができたが、その他の国民はコストのみを押し付けられ、不満は蓄積してゆく一方であった。そのコストの最たるものが外国難民の流入、特に中東からのイスラム系難民のイギリス流入であった。EUに留まり続けていれば、大量の難民を継続して引き受けなければならない。それはイギリスの国柄を完全に破壊してしまうことになる。経済的にもイギリスにプラスにならない。そう見限ったからこそ、イギリス国民はEUからの離脱を決意したのである。ここにおいても、グローバル化、ボーダーレス化がイギリス国民を決して幸福にはしなかったという厳然たる事実が存在する。
つまり、経済のグローバル化は先進国の国民にとって、決してよい結果をもたらさなかったというのが過去30年の結論なのである。それ故、もう一度、国民経済を再建しよう、国家という秩序を再構築しようという方向にイギリスとアメリカの国民は大きく舵を切ったのである。

2017年には、フランスで大統領選挙が行なわれる。2回投票制の為に、4月から5月に行なわれる選挙だが、ここでフランスのナショナリズムを代表する国民戦線のルペン候補が当選する可能性が高まってきた。ルペンが当選すれば、少なくともフランスは、統一通貨ユーロを離脱することになるし、国民投票を経て、場合によってはEUそのものから離脱するかもしれない。例え、ルペンが当選しないにしても、これ以上、国家の独立を犠牲にしてEUという国際共同体に権限を委譲するという流れは、完全に逆転しつつある。国家はその自己決定権を取り戻そうとしている。そして自国民の面倒は自国でみる、という方向に世界政治のトレンドは動きつつある。国境をなくしてみても、いいことより悪い事の方がはるかに大きかったということだ。日本もこういった国際社会の動向を踏まえて、国家秩序の再構築と国民経済の再生に取り組まなければならない。自由貿易を拡大すれば経済が自然に発展するなどというのは、全くの幻想にすぎなかったのだ。我々は過去30年から40年、社会実験を行ない、その結果が既に明らかになっているのである。同じ失敗を繰り返すことは許されない。


藤井厳喜氏プロフィール
藤井 厳喜 (ふじい げんき)
国際政治学者。拓殖大学客員教授。警察大学校専門講師。
(株)ケンブリッジ・フォーキャスト代表取締役。行政調査新聞社特別顧問。
昭和27年(1952年)東京都生まれ。早稲田大学政経学部政治学科卒。米国に留学しハーバード大学大学院博士課程修了。ハーバード大学国際問題研究所日米関係プログラム研究員、政治学部助手を経て帰国。帰国後は保守、愛国運動家として活躍。「日米保守会議」創設に尽力。日米間のパイプ作りに奔走。慰安婦像撤去のため米国、オーストラリアなどの各地を歴訪し慰安婦捏造問題を提起。強烈な保守論客と目されている。TPP には当初から反対を唱えていたことでも知られる。

         
 


      




<海外情勢>                        
                              2016年11月3日

見えてきたアジアの近未来像

2016年は「激動の年」と予測されていた。年頭に外務省の斎木事務次官(当時)が「今年は何が起きても不思議ではない」と語ったが、まさにその通りとなった。この発言の直後に北朝鮮が核実験を行い、6月には英国がEU離脱を決めた。国内では7月に参院選と東京都知事選があった。天皇陛下の生前退位の御意向発表も衝撃的なものだった。激動の2016年は2カ月近くを残し、米大統領選など、世界を激変させるニュースや事件がまだ続きそうだが、これまでの動きで世界がどこに向かっているか、かなり明瞭に見え始めた。そうしたなか、東アジアの現状と近未来像を予測してみたい。

ますます混乱に向かう世界

エントロピー増大の法則というものがある。本来は熱力学の用語だが、いまでは統計や情報などさまざまな分野で使われ、それぞれの分野で意味が若干異なる。一般的にはエントロピー増大の法則とは「秩序ある状態は、自然に、だんだんと無秩序に向かう」という意味で使われる。しかし、いま世界ぜんたいが無秩序に向かっているのは自然の法則なのだと納得してはいけない。中東・欧州・アジア…世界全域を混乱に向かわせているのは、「新たな体制に代わる」という変化を受け入れられない守旧派の足掻きなのだ。その観点から見れば世界の動きはわかりやすい。

朝鮮半島は統一に向かう

南北朝鮮の統一は誰もが望んでいる。統一を嫌っているのは中国くらいだろう。
どこの国も、緩衝地帯として敵国との間にいくつかの異なる地域があることを望む。その意味で、中国にとって半島の南北統一は、口では歓迎するものの心の奥では反対なのだ。韓国の朴槿恵大統領が中国に半島統一の後ろ盾になってもらおうと画策し、それが北朝鮮・金正恩の逆鱗に触れたが、当然のことだ。
韓国の金大中大統領と北朝鮮の金正日総書記が初めて会談したとき(2000年6月)、両者の意見は完全に一致していた。大雑把にいえば「まず南北が合体して『高麗連邦共和国』を作り、両国民の国民投票によって国家制度を決定する」というものだ。16年の歳月を経たが、この合意の精神はいまも生きている。
在韓米軍が消えれば、南北統一は難しい話ではない。米大統領選がどうなるか、直前になっても行方は混沌としているが、トランプが勝てば1、2年で在韓米軍は撤退する。クリントンが勝ったら現状がしばらく続くだろうが、それでも数年で撤退だろう。米大統領選はマスコミ報道ではクリントンがリードを続け、トランプに女性蔑視問題などが噴出してダメージが大きいように感じられるが、インターネット調査では、クリントン側のメール漏洩問題が強烈なダメージとなり、大激戦だ。11月2日にはトランプがクリントンを越えたアンケート報告を出したメディアもあると報道された。軍産複合体や産業機構、さらにはマスコミが総がかりでクリントン支持に回り、必死にトランプ潰しをやっても接戦状態なのだから、結果は11月8日の投票までわからない。どちらが勝つかで在韓米軍撤退時期に数年の開きが出るだろうが、在韓米軍が撤退すれば、2年以内に南北の境界は消滅する。それが東京五輪の前である可能性もじゅうぶんある。
境界線が消えれば、次に南北両国の国民投票が実施される。北朝鮮の人口は約2500万人。投票権を持つ者は2000万人。この2000万人は全員間違いなく「現状維持(金王朝支配の国家)」を選択する。
韓国の人口は約5000万人。投票権は4000万人。このうち投票に行く者は最大で80%、3200万人。では3200万人のうちどれくらいが「韓国のような民主主義国家」を選択するだろうか。一般的に「6割~7割」と推測されている。最大の「7割」として2240万人。残り960万人が北朝鮮になびくと2960万人対2240万人で北朝鮮側が勝利し、国民投票の結果として金王朝が統一朝鮮を支配することになる。仮に韓国の投票者の8割が民主主義国家に投票しても2640万人対2560万人で、やはり北朝鮮側の勝利になる。
じつのところ、現在の韓国は国家崩壊の危機にある。最大手海運会社の韓進海運が8月末に倒産。サムスンの「火噴き」はスマホだけに留まらず、現代自動車にも欠陥の噂が飛び交っている。大学卒業者の就職率は公式発表で56.2%。しかしこの数字が強引に作られた数字であることは韓国国民がみな理解している。就職できない者は中退という形を取らされるから大卒就職率に影響しない。それを反映させると大卒就職率は30.6%とになるという情報もある。7割近い若者が就職できないのだ。機密漏洩で人気最低となっている朴槿恵大統領に求心力などあり得ず、国民の多くは韓国からの脱出を求めている状況だ。近未来に朝鮮半島が北朝鮮主体の統一を迎える可能性は恐ろしく高い。

中国経済はアジアを支配する

9月9日の深夜、天津市代理書記だった黄興国が拘束され失脚した。黄興国は太子党のスターで、習近平を後ろ盾として、日の出の勢いで出世街道邁進中だっただけに衝撃は大きい。
中国には4つの特別市がある。北京・上海・重慶・天津だ。この特別市の書記になると、自動的に次の党大会で中央政治局入りする。習近平も、上海で起きた汚職事件の玉突き人事で2007年春に上海市書記に就任し、同年秋の党大会で特進、中央政治局常務委員に抜擢されている。黄興国もこの道を進むと考えられていたが、昨年の天津倉庫爆発事件のため代理書記の「代理」が取れず、挙げ句に今年9月に失脚してしまった。
黄興国失脚の理由はいろいろ語られているが、詰まるところ権力闘争の結果である。黄興国は習近平のお気に入りで、習近平が国家主席を10年続けた後にその後釜になると予想されていた。中国ウォッチャーの多くは「黄興国の悪事を1つ1つ丹念に、完璧な証拠を揃えて追及したのは李克強だ」と分析している。
中国では来年(2017年)秋の党大会に向けて、太子党と共青団の2派が激烈な闘争を繰り広げている。10月27日に閉幕した中央委員会第6回中央委員会(6中全会)では習近平主席を「核心」の指導者と位置付けた。核心の指導者という表現はこれまで、毛沢東・鄧小平・江沢民の3人にしか付けられなかった修飾語で、しかも習近平を核心の指導者と言い始めたのは失脚した黄興国なのだ。この辺りからも、中国の権力闘争の凄まじさが見えてくる。
李克強を中心とする共青団が習近平を追及している理由は主に2つある。1つは外交政策の間違い、2つ目は経済政策の失敗である。
南シナ海問題で近隣諸国との関係が悪化したのは習近平政権の失政だとする共青団の主張は、たしかに筋は通っている。これに反応して習近平は外交強化政策を展開。10月中旬にバングラディッシュ・パキスタン・インドを訪問しBRICS会議に臨んだが、経済援助と笑顔ふりまき外交で一定の成果をあげている。直後には北京を訪れたフィリピンのドゥテルテとも緊密な関係を演出し、外交は挽回しつつある。問題は経済である。
最近の発表では今年7月-9月の実質成長率は6.7%。この数字の評価は微妙だ。
政権が意図的に作り上げた不動産バブルに押し上げられた数字で、実態経済とかけ離れているとの批判もある。いやそもそも中国政府発表の数字は初めから粉飾されたものだともいう。輸出入が減り、何より電力消費量が減っているのだから、中国経済は下降しているとの分析も強い。しかし数字の粉飾はどの国にもあり、最大にごまかしているのは米国だろうし、日本の数字すら怪しい。中国政府発表の数字は米国よりよほど信用できる。
それでも、いくら甘く見ても中国経済が鈍っているのは間違いない。ここで、中国の名目GDPを10年前と比べてみよう。併せて、わが国の名目GDPを並べてみる。
  
中 国 日 本
2006年 270兆円 506兆円
2010年 500兆円 483兆円
2016年 1,100兆円 506兆円

中国の名目GDPはこの10年間に830兆円も増加している。年平均83兆円。これは中くらいの国家のGDPに匹敵する。トルコ(世界18位)の72兆円、オランダ(世界17位)の75兆円を超え、インドネシア(世界16位)の85兆円に迫る額である。中国経済は毎年、オランダやインドネシア1国分の拡大を続けてきたのだ。この拡大幅が異常なことは誰にでも理解できる。こんな状態が続くわけがないし、この勢いで上り詰めて破綻したら、世界大恐慌が起き、中国との貿易だけを頼りにしていた国々が壊滅してしまう。
中国経済が今後大きく減速していくのは当然で、周辺諸国や世界経済全体に強烈なデフレを引き起こさないためにも、中国は成長率をぐんと落とす必要がある。もちろんそれに従い、通貨人民元も中国株も下落するだろう。習近平政権は成長率6.5%、6.0%どころか、5.0%程度に下げようとしていると推測できる。仮に5.0%成長でも年間50兆円の拡大となり、スウェーデンの49兆円、台湾の52兆円に匹敵する。
「中国経済は破綻する、中国はもうダメだ」などという怪情報に振り回されては危険だ。中国は間違いなく今後の世界経済を牽引する。習近平はその現実を見越して経済成長率を縮小させている。この構造改革に対して共青団の理論派・李克強は金融市場改革を唱えているが、じつのところ両者の目指すところに差はない。
中国が党内対立でギクシャクしていることは事実だが、習近平政権が続いた場合でも共青団の李克強が政権を奪った場合でも、中国の方向性に変化はなく、中国は世界経済の中心となり、アジア経済支配は揺るぎないものになるだろう。

タイの終焉と東南アジアの中国シフト

10月13日にタイのプミポン国王(ラーマ九世)が崩御された。88歳で亡くなられた国王は、タイ国民が心から尊敬し、愛した、人気ある国王だった。
国王は70年間もその地位にいたが、国内で対立やクーデターが起きたときには、いつの場合もその政治的権力を行使した。タイでは2014年5月にクーデターが起き、国王の承認の下、現在は軍政の支配下にある。
タイには戦後の日本と異なり「不敬罪」が存在する。王家・王族に対する不敬の言動は違法であり、禁固15年の刑を食らうこともある。その影響もあって、王位継承権を持つワチラロンコン王子・シリントン王女に関する発言が出てこないが、じつのところ王位を継ぐことになっているワチラロンコン王子の評判は恐ろしく悪い。そのうえ、現在の軍政と王子は対立関係にある。
ワチラロンコン王子が王位に就くのは来年10月以降とみられる。タイでは来年10月まで喪に服すことが決まった。タイ政府は観光客に向けて「不適切や無礼な振る舞いをお控えください」など、服喪期間の推奨事項を公表している。飲酒制限もあり、歌舞優楽、高歌放吟の類も「ご遠慮願います」という。観光客が激減し、観光地などに落とすカネも極端に少なくなる。タイ全土に白黒装束があふれ、あらゆる活動が停滞する。
では1年の服喪期間が過ぎれば、タイは復興に向けて前進するのだろうか。まったく見通せない。多くの国民が嫌っているワチラロンコン王子の背後に現在亡命中のタクシン(本名・丘達新)がいることは誰もが知っている。タイは2014年のクーデターのときにも、タクシン派と反タクシン派が国を二分する大騒動を引き起こして軍政が敷かれただけに、また不安定な状況がやってくる可能性が高く、そうなるとタイはいよいよ経済・文化…あらゆる社会が混乱を迎えることになりそうだ。
東南アジアの中心の一つであるタイの混乱は、この地域ぜんたいの発展力、推進力を奪うことになるだろう。タイが勢力を失った時点で、東南アジア一帯を冷静に俯瞰していくと、中国の色合いが深まることが見える。もともと中国べったりのパキスタン・カンボジア・ラオス・ブルネイに加えて、10月に習近平が中国国家主席として30年ぶりに訪問し2兆4000億円の借款、さらには1兆4000億円の投資貿易協定を結んだバングラディッシュが中国経済圏に呑み込まれることは間違いない。アジアの国々を一つ一つ並べてみるまでもない。ひとことで言うなら、「アジアインフラ投資銀行」と「BRICS共同体」がアジアを動かしていくという現実を見据える必要があるということなのだ。

日本はどこに向かうのか

「放言王」「粗野な大統領」と呼ばれ、就任早々から言動が注目されていたフィリピンのドゥテルテ大統領。来日して安倍首相に会った際には、就任以来からの「米国離脱発言」について、「犬のように(米国に)パンを遠くに投げられる。問題があるたびに『援助を止める』と言われる」と米国に対する個人的な感情を伝えたと語った。
米国大統領がトランプになるかクリントンなのかで多少の違いは出るが、いずれにしてもフィリピン駐留米軍は追い払われ(あるいは自発的に撤退し)、この地域に米国は足場を失う。それは世界史の流れと見ても必然なのだ。ここはアジアの人々が暮らす地域なのだから。
10月末に来日、天皇陛下と会見(中止になった)することになった途端に、北京に行くことを決めたドゥテルテ大統領。中国と領有権を争っている南シナ海問題をどうするのか、注目されていたが、習近平との会談では、中国から巨額の経済支援を取り付けるとともに、南シナ海問題を事実上棚上げしてしまった。この時点で「ドゥテルテはカネをもらって中国の忠犬になった」と揶揄された。さらに、フィリピンは日米を見放し、中国についたと分析する者も多かった。ところが来日すると、「(東シナ海での日中対立には)必ず日本側に立つ」と表明。中国側に立ったと思えば日本にすり寄るなど、口先だけで日中どちらからも支援を呼び寄せようとしているともいわれている。
じっさいは、どうなのだろうか。
ドゥテルテが対米追従姿勢を切り捨て、日本や中国と強い結びつきを求めていることはたしかだ。そして――ここが大切なところだが、アジア全域が、心の奥底ではドゥテルテと同じ気持ちであることを理解すべきなのだ。
はるか昔から今日まで、東アジアで強大な文化力・経済力・軍事力を発揮し続けてきたのは、日本と中国であり、それは今後100年200年と変わることがないだろう。その流れの中で日本はどうすれば良いのか。まずは対米隷属を断ち切り、日本独自の確固たる外交を展開する必要がある。
それでは現在の安倍政権にそれができるだろうか。正直なところ、心もとない。安倍晋三の内心は誰にもわからないが、少なくとも表面的には安倍は対米隷属を続ける意思のように見える。北朝鮮に対しても米国追従で制裁するだけで拉致問題解決の糸口すら手にできない。ロシアとの関係、とくにの北方領土問題はどうなっているのか。12月中旬に安倍の地元、山口県にプーチンを招いて首脳会談を行う予定だが、「北方領土の主権は渡さない」(ロシア上院議長発言=11月1日)と強硬姿勢を崩していない。日本人の多くは「最低でも歯舞色丹諸島は返還してくるだろう」と期待しているようだが、外交の天才・プーチンと安倍晋三では勝負にならない感がする。安倍晋三には、むしろドゥテルテ大統領を見習っていただきたい。あるいは金正恩を見習ってもいい。1対1の対等勝負に自信がなかったら、他国の力を利用すればいいのだ。そのためには、八方美人と陰口を叩かれようが、軍事大国の狭間で巧みに生き残る外交技術を手に入れるべきである。その最も重要なパートナーとして、いまこそ中国と良好な関係を築くべきなのだ。
いまから10年前の平成18年(2006年)9月に誕生した第一次安倍政権で、安倍はまず中国を訪れた(平成18年10月)。小泉純一郎政権時代に、小泉は日中関係をメチャクチャに破壊し、対米隷属路線を突っ走った。その修復のために、安倍は政権誕生直後に北京を訪れ日中関係は修復した。しかしそのお陰で安倍は米国から睨まれ、体調を崩して首相の座を放り出し、復活して第二次安倍政権に返り咲いたときにはすぐに米国を訪れ、ひたすら対米追従路線を歩んでいるかのように見える。だが第一次安倍内閣誕生直後の、日中関係最悪の時代に安倍の訪中を成功させた谷内正太郎(当時外務事務次官)が現在内閣特別顧問として日中関係修復に動いている。それを指示したのは、もちろん安倍晋三だ。まだ日中が手を握り合える可能性はじゅうぶんある。そしてじつのところ、習近平側近からは、日中首脳会談・日中関係修復に向けてのラブコールも伝わってきている。
アジア全域の未来を考えたとき、日本と中国の役割は途轍もなく大きい。アジア問題を解決するのに米ロは必要ない。日中の重要性を日本人全員が自覚することが大切である。



      



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海外情勢>                       
                               2016年8月5日

迫り来るのは恐怖か、文明転換の号砲か
白頭山に大噴火の兆候


北朝鮮と中国の国境にある白頭山(中国名は長白山。標高2744m)が噴火直前にある。白頭山は有史以来何度か大噴火をしている火山だが、今回噴火した場合、わが国に甚大な被害をもたらす可能性が高い。だが問題は噴火の自然災害だけではない。白頭山の噴火をスタートの号砲として、世界規模の激変を行おうとする動きがあることだ。こちらのほうが日本の未来に重大な影響を及ぼすと考えられる。

日本の農業に大被害をもたらす白頭山噴火

中朝国境にある白頭山が噴火すると聞いても、危機感を覚えない方も多いだろう。日本から遠く離れた北朝鮮・中国国境の火山が噴火したら現地の人々はたいへんだろうが、日本には直接的な影響はない――そう思っている方もいるかもしれない。だがそれはとんでもない思い違いだ。白頭山が大噴火を起こした場合、日本は直接的に被害を受ける。

白頭山は西暦900年前後に大噴火を起こしている。その噴火の時期は『日本紀略』(平安時代編纂の歴史書)では西暦893年、韓国最古の歴史書とされる『三国史記』では917年とされ、両者に24年の差があり、どちらが正しいかわかっていない。あるいは2度噴火したのかもしれない。いずれにしても、このときの噴火は途轍もない規模で、それはこの2000年間に人類が経験した最大の火山噴火といわれている。このときには北海道、東北に5~6センチの降灰があった痕跡が残されている。こんにち5センチの降灰があれば、田畑が壊滅的打撃を受けることは説明するまでもない。それは北海道、東北に留まるものではない。中越、関東、東海にも降灰がある。日本列島全域の農業に大きな被害が出るだろうが、それだけでなく、噴煙により北半球全域に異常気象がもたらされ、地球が小氷河期に突入、食糧・エネルギー危機が誘発される可能性が指摘されている。

ただし、白頭山の噴火が必ずこのような被害をもたらすかどうかは、わかっていない。西暦900年前後、日本の平安時代前期に起きた大噴火以外にも、15世紀、16世紀、17世紀にも噴火したとの記録があるが、正確な噴火時期は特定されていない。その噴火規模はそれほど巨大なものではなかったようだ。

白頭山噴火が目前に迫っているこれだけの証拠

2002年から2005年にかけて白頭山周辺で群発地震が起きている。地割れや崩落が各所で起き、山頂の隆起も観測され、北朝鮮当局が神経質になっていた時期があった。頂上近くに建っていた石造りの鳥居もこのとき崩落している(鳥居は戦時中に宗教家の友清歓真が建立したもの)。
その後2006年には衛星画像の解析から山頂南側付近に激しい温度上昇が観測され、ロシア非常事態省は「数年以内に白頭山が噴火する兆候がある」と公表している。その4年後の2010年には、中国の火山学者の協力を得て白頭山の調査を行った韓国・釜山大学の尹成孝(ユンソンヒョ)教授が「白頭山は2014年~2015年の間に大噴火する」との予測を発表した。この予測は空振りに終わったが、白頭山噴火の可能性が弱まったわけではない。むしろより大きな噴火が予想されるのだ。韓国の気象庁は今度の白頭山の噴火規模を「2010年のアイスランド火山噴火の1000倍」と予測している。
そうしたなか、今年6月には科学誌として権威ある『ナショナルジオグラフィック』誌が国際調査チームの大規模調査結果として白頭山の異常を報道。日本や韓国のほとんどの火山学者が「日本列島に巨大地震が起きて数年後に白頭山が必ず噴火している」と口を揃える。東日本大震災(2011年3月11日)から5年が過ぎ、白頭山が噴火を起こしても不思議でない状況だ。
白頭山は日本の火山とは成因が異なり、プレート(岩石圏)境界というより「プレートの裂け目」ともいうべき場所にある。この特殊な環境に関しては東大地震研が詳細な研究を行っており、最近になってマグマが地表近くまで上昇しているという報告が政府中枢に届けられている。
安倍晋三首相も「10世紀の噴火で5センチの火山灰の堆積があったとされている。同規模の噴火が発生した場合には、降灰による大きな影響が発生すると考えている」と発言したが、同様に岸田文雄外相も「政府としても関連情報の収集に努めてきた」とし、日本政府が強い危機感を抱いていることを示している。
白頭山が噴火する可能性は限りなく高い。早ければ年内、遅くとも東京オリンピック以前に起きる。そのことはしっかりと頭の中に入れておくべきだろう。

白頭山噴火は北朝鮮を激変させる

今春行われた米韓合同軍事訓練で、米国は「キーリゾルブ」「フォールイーグル」という名の「核ミサイルの発射権限を持つ者の首を叩き斬る作戦」――北朝鮮のトップ金正恩の首を叩き斬るという軍事訓練を行い、北朝鮮を強く刺激。5月末には米シンクタンクの『ストラトフォー』が北朝鮮攻撃計画として「核兵器の脅威除去作戦」を公表している(本紙7月6日既報)。
北朝鮮に対する米国の強烈な脅しは、韓国にサード・ミサイル(終末高高度防衛ミサイルTerminal High Altitude Area Defense missile)を設置するために、米朝が暗黙裏に了解して行った可能性も捨てきれない。出来レースだったのか、本当に北朝鮮を脅したものだったのか、真相は不明だ。8月末にも米韓は「乙支(ウルチ)フリーダムガーディアン」という軍事訓練を行うと発表し、北朝鮮は(演技なのか本気なのか)、激しく非難。米韓だけに向けられていた北朝鮮の怒りは、8月3日にはノドンを日本海側に発射し、秋田県沖のEEZ(排他的経済水域)に着弾させ、「米国+韓国」対「北朝鮮」という闘争の中に日本を巻き込もうとしているようにも見える。

今春、オバマ大統領はテレビ番組の中で、「米国は北朝鮮の現政権を確実に倒す兵器を所有しているが、米国の最優先課題は北朝鮮周辺の同盟国を守ることだ」と発言している(4月26日)。これは一般論として「米国は北朝鮮を攻撃しないと宣言した」と受け止められる。
本音として、米国は北朝鮮を攻撃する気などないのかもしれない。しかし米国は、北朝鮮を攻撃などしなくとも、白頭山噴火で北朝鮮の体制が変質すると読んでいる可能性が高い。
北朝鮮の現体制が変質するとは、どういうことか。それは北朝鮮が「改革開放経済」に向かうことを意味している。北朝鮮情報通の話を総合すると、北朝鮮は明らかに新たな方向を模索している。革命第一世代と旧守派がその転換を抑えこんでいるのが現状のようだ。

北朝鮮は今年5月に36年ぶりに労働党大会(第七次)を開催している。金正日時代には一度も開かれなかった大会が開かれたことから、金正恩体制が盤石なものになっていることが理解できる。
日本のマスコミを見ていると、金正恩は「ストレス性過食に悩むバカ殿様」といった認識が当然だと思いたくなる。だが真実は逆だ。北朝鮮は世界170カ国以上と国交を結び、国連主導の経済制裁下にありながらも巧みに貿易を繰り返している「外交大国」なのだ。
もともと北朝鮮は建国以来、中国、ソ連、米国といった最強国家の狭間で巧みに生き抜く外交術を持っていた。初代・金日成も2代目・金正日の時代にも、北朝鮮の政治家たちは抗日パルチザン時代の延長で、生命を賭して世界と渡り合ってきたと表現していいだろう。だが金正恩の代になって明らかに体制内が変化を見せている。米国上場企業25社と金の密輸をやっていたことが『パナマ文書』公開で明らかになったが、中東やアフリカ諸国などを中心に、そしてスイスなどに籍を置く企業を装って、したたかに貿易を行っていることが次第に明らかになってきている。
「金正恩は頭脳明晰で政治巧者だ」というと厳しい反論が返ってきそうだが、今回の「労働党党規約改正」を見ても、金正恩は非常にクレバーである。正しく表現すれば「金正恩を祭り上げる北朝鮮の政策ブレーンは非常にクレバーである」となる。本人はともかく、ブレーンが賢いという点では安倍晋三と似ているのかもしれない。
北朝鮮の人民のほとんどが絶対忠誠を誓う金正恩を祭り上げ、北朝鮮を動かしている実体は、北朝鮮政治局中央委員の中にいるはずだが、その正体は不明だ。
北朝鮮の政治体制は、政治局常務委員5名(金正恩・金永南・黄炳瑞・朴奉珠・崔竜海)と19名の政治局員、129名の中央委員が政治のすべてを仕切っている。トップの5名+19名は金正恩を除けば古参の老齢上層部で、彼らは開拓精神や未来展望などは持たないが、細々とした分野で旧い体制を堅持することに終始している。その下に位置する129名の中央委員のうち70名は新参者である。世界に名も顔も知られていないこの70名の若手の中に、北朝鮮の現体制を動かしている「金正恩ブレーン集団」がいると考えられる。

5月31日に北朝鮮の序列8位、政治局員の李洙墉(リスヨン)朝鮮労働党副委員長(外相)が北京を電撃訪問し、翌6月1日に習近平国家主席と会談を行い、世界を仰天させた。小国の序列8位の人物が、いまや世界の大国と恐れられる中国のNO.1と対等に話し合うなど、国際外交の常識から考えてあり得ない話である。まして格式とか儀礼を殊のほか重要視する中国を相手に、こんな畏れ多いことをやってのけた背後に、北朝鮮の政策ブレーンの凄さが見て取れる。李洙墉はかつて駐スイス大使をやっていた北朝鮮の経済通。李洙墉を巧みに使うことからも、北朝鮮の政策ブレーンが「改革開放経済」を遠望していることが理解できる。

改革開放経済で生まれ変わる資源大国=北朝鮮

北朝鮮がいつ誕生したか、ご存じだろうか。1948年(昭和23年)9月である。
大東亜戦争で日本が敗戦を迎えたのは昭和20年(1945年)8月だった。それから3年間、朝鮮半島は当初、米国とソ連に支配され、米ソ両国は統一された信託統治地域にしようと模索したのだが、最終的に米国は38度線以南に李承晩が治める韓国を建国(1948年8月15日)、これに対抗してソ連は金日成を首相とする北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を9月9日に建国したのだ。
金日成・北朝鮮が建国される前年、1947年(昭和22年)の1年間に北朝鮮は10トンの金(ゴールド)を産出している。こんにちの金価格で約50億円分だ。北朝鮮の金鉱脈は日本統治時代に日本が探り当てたもの。明治末期以降、日本の金の産出量は飛躍的に伸びているが、これはすべて北朝鮮産の金のお陰である。
明治44年(1911年)に日本の特殊銀行として朝鮮銀行が設立された。朝鮮銀行は資金焦げ付きなどを起こして混乱したこともあったが、大正13年(1924年)には日本の大蔵省が監督する特殊銀行となり、朝鮮全土、満洲(現中国東北部)、シベリアなどに支店を出して拡大していった。全世界が金本位制で回っていた時代に、日本は北朝鮮から産出する金を後ろ盾として、東アジア市場を席巻していった。大東亜戦争開戦の原因の一つとして、欧米による朝鮮銀行潰し、円経済圏潰しが挙げられるが、それはすなわち北朝鮮産の金を日本から取り上げるところにあったということなのだ。

金一つを取り上げただけで北朝鮮が豊かな地下資源を抱えていることが理解できる。だが北朝鮮が抱えているのは金だけではない。
2010年に韓国統計局が発表した「北朝鮮の主要統計指標」によると、2008年時点で北朝鮮の地下鉱物資源は6兆4000億ドル(約650兆円)になるという。その内訳は金2000トン、鉄5000億トン、銅290万トン、マグネサイト60億トン、無煙炭45万トンなどなど。この地下資源量を見ただけでも北朝鮮が貧困にあえいでいるという話が作為的であることがわかるだろう。たしかに映像を見る限り、北朝鮮の一般人民が裕福だとは思えない。膨大な地下資源を売りさばく能力が欠如しているからだ。
若手中心の金正恩の政策ブレーンたちが改革開放経済への転換を企図するのは、当然の話なのだ。

貿易中継地点としての北朝鮮

世界が北朝鮮に熱い眼差しを向けている最大の理由は、北朝鮮が金融市場経済の空白地域だからだ。北朝鮮は「円経済圏」でも「(中国)人民元経済圏」でも「(韓国)ウォン経済圏」でもない。「ドル経済圏」でも「ユーロ経済圏」でも「ルーブル経済圏」でもない。ほんとうに世界唯一の「経済空白域」なのだ。
しかも北朝鮮はその背後に、中国東北部(旧満州)、ロシア東部、モンゴルそして中央アジアを従えている。これらの地域はすべて豊富な地下資源を持っているが、それを海路運び出すとしたら、北朝鮮経由が最も手軽なルートとなる。
北朝鮮の北東部を流れる豆満江は中国と北朝鮮の国境となっているが、この豆満江が日本海に流れ込むところに羅先市がある。向こう岸はロシアの沿海州ハサン町だ。羅先市は国連開発計画が1991年に300億ドルを投入し、「第二のシンガポール」あるいは「第二のロッテルダム」にしようと、北朝鮮自身が「自由貿易地帯」に指定した不凍港である。モンゴルや中央アジアの資源を太平洋経由で海外に送る場合に、最も使い勝手が良い港が羅先港なのだ。だから国連開発計画は「第二のシンガポール」としてこの港を選び、莫大な資金を投入したのである。北朝鮮が改革開放経済に進む準備は、万端とはいえないまでも、整っている。あとはタイミングだけだ。そのタイミングを生み出すのが白頭山噴火だと考えられる。

多少余談めいて恐縮だが、「覇権は東から西に移動する」という怪説がある。真偽のほどはともかく、そういう説があるというだけの話だ。中世には世界最大の覇権国家はオスマントルコだった。そのトルコに代わってヨーロッパが世界の覇権を手にする。ヨーロッパで最も巨大な覇権を手にしたのが欧州最西端の島国イギリスだった。それが第二次大戦後アメリカに移動し、こんにちまで延々と米国は世界最大の覇権国家として君臨していた。その米国がいよいよ危なくなり、覇権は太平洋を越えてアジアに移るといわれている。アジアのどこか? 日本であるべきなのだろうが、こんにちの日本は米国の属国に過ぎない。それならば、やはり中国しかない――。
こんな怪説を信じる必要はないが、米国が凋落し中国やロシアが世界政治の中心に出てくる日は、そう遠くはないだろう。だがそこに北朝鮮が名乗りをあげる可能性もあるのだ。
いくら何でも、そんなことはあり得ない――。日本中の、いや世界中の人々がそう思うかもしれない。だが北朝鮮には、世界の極となり得るすべてが備わっている。

白頭山噴火を契機として北朝鮮が改革開放経済に向かう可能性は非常に高い。
北朝鮮が改革開放経済に転じた途端に、世界中のさまざまな勢力が北朝鮮に押し寄せる。国連開発計画が羅先港を「第二のシンガポール、ロッテルダム」と謳い上げたのはウソやでまかせではない。ロシア、中国、日本に隣接している北朝鮮は、世界最大の貿易拠点になり得る地域なのだ。
その北朝鮮と日本は、いま、まったく国交を持っていない。「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化はない」と断言したことが、拉致問題の解決を阻害し、日本経済の発展を阻害し、何より夢を失わせてしまった。日本がもう一度大きな夢を抱いて立ち上がるためにも、北朝鮮との関係良化が絶対必要だと理解すべきである。






<海外情勢>                        
                                2016年7月6日


現実味を帯びる「東アジア核戦争」の恐怖

北朝鮮の中距離ミサイル「ムスダン」の発射実験成功を受け、米国は深刻な憂慮を表明する一方で速やかな軍事的対応を公表。半島情勢が一気に危険度を増した。だがその裏側で「危険な駆け引き」が展開されている――。

5回連続で失敗したミサイル「ムスダン」

さる6月22日午前に北朝鮮は2回続けてムスダンの発射実験を行い、最初は失敗したものの次にはミサイル発射に成功している。ムスダンの発射実験は4月に開始してから失敗続きで、何と6度目の挑戦でやっと成功したのだ。5度も失敗して6度目に成功。成功率16.7%。これで成功なのだろうか。韓国の「未だ成功したとは言い難い」というコメントが、じつに要領を得ている。そう考える方が多いかもしれない。だがこの発射実験の連続失敗、最後の成功の裏には衝撃的事実が隠されている。核戦争の恐怖が目前に広がっているのだ。これは決してオーバーな表現や脅しではない。
あまり解説されることのない北朝鮮の「ムスダン」発射実験について検討しようと思うが、まずは北朝鮮のミサイルについて概略を見ておこう。

北朝鮮は短距離ミサイル(射程300~700km)としてスカッドB、スカッドCというミサイルを持っている(北朝鮮では「火星5号」「火星6号」と呼ぶ)。これらは旧ソ連のスカッド・ミサイルに手を加えたもので、韓国を攻撃目標とするミサイルである。
ノドン(火星7号)というミサイルもある。スカッドをさらに改良したミサイルで1993年5月に発射実験に成功しており、射程は1200~2000km。韓国南部や日本を攻撃目標に置くミサイルである。
さらにテポドン1号、2号がある。テポドン1号は射程2000~2500km。日本全土が射程に入る。テポドン2号は射程13000kmで、米国本土を狙えるICBM(大陸間弾道ミサイル)である。
ノドンとテポドンの中間に位置するのがムスダンであり、射程は3200~4000km。北朝鮮は「米軍グアム基地を標的にするミサイル」と公言している。ムスダンは2003年に開発され、2005年には18基~20基がイランに輸出されている。2006年にイランで発射実験に成功したとの情報もある。ムスダンが実用化されれば、北朝鮮は短距離からICBMまで全種類のミサイルを保有していると胸を張れる。北朝鮮がムスダンの発射実験を行うことにはそうした意味があり、今年早々からムスダン発射実験を行うとの観測もなされていた。

今年の3月に米韓合同軍事訓練が行われた。「キーリゾルブ」「フォールイーグル」と名付けられたこの軍事演習は「核ミサイルの発射権限を持つ者の首を叩き斬る『斬首作戦』」という意味を持つ。明確に言えば、米韓は「金正恩の首を叩き斬る」という計画の軍事訓練を行ったのだ。これに北朝鮮が反応するのは当然のことだ。

米韓合同軍事演習終了直後の4月15日、故・金日成主席の生誕日でもあるこの日、北朝鮮で初となるムスダンの発射実験が行われた。だが発射と同時にムスダンは爆発したか墜落したか、とにかく失敗したのだ。常識的に考えて、このような失敗があれば、原因解明のため最低半年、場合によっては1年くらい次の実験は行われない。ところが北朝鮮は2週間近く後の4月28日午前に1度、午後にもう1度のムスダン発射実験を行っている。2回とも水平方向に打ち出し、直後に墜落もしくは爆発して大失敗に終わっている。水平方向に打ち出すこと自体、遠くまで飛ばそうという意思が感じられず、意図的にミサイルを破壊したのではないかとの憶測も一部で流れていた矢先の5月31日に、4度目となるムスダン発射実験が行われ、発射直後にまたも爆発を起こして失敗に終わっている。
4回連続の失敗。誰かが責任を取らされて死刑になるのではないか、そんな噂が流れる6月22日午前、またまたムスダンが打ち上げられ、このときは150km上空まで舞い上がって爆発した。多少は空を飛んだが、これも失敗である。この失敗に世界中がとりあえず安心した直後に、この日2回目となるムスダンの発射が行われたのだ。

驚愕的高度技術を駆使して発射されたミサイル

この日2回目となる発射実験は、ついに成功した。それもただの成功ではない。途轍もなく難しいやり方で成功している。難しいとは、発射角度のことである。
打ち上げの発射角度は83度だった。83度という打ち上げ角度は異常である。物体を遠方に飛ばすためには、真空中だと45度の角度が最適だ。空気抵抗がある場合、追い風、向かい風、横風など状況によって変化するが、およそ30度から35度の角度が望ましい。83度といえば垂直に近く、距離は稼げない。
この角度で打ち上げたため、発射されたムスダンは最大頂点高度が1413.6kmにまで達している。中距離弾道弾としては、あり得ない高度だ。大気圏をはるかに越えた外気圏の外まで飛び出している。これが地上に戻るためには外気圏・熱圏・中間圏(電離層)・成層圏(オゾン層)・対流圏と呼ばれる界層に再突入しなければならず、そのたびに方向が歪む可能性があるのだが、今回のムスダンはそれをものともせず、打ち上げられた方向の直線上400kmの日本海に着弾しているのだ。専門家の誰もが舌を巻く、想像を絶する高度な打ち上げ技術が導入されていることは確かだ。
この成功に金正恩は「日本に対してまったく迷惑をかけていない」と前置きしたうえで「正確にグアムに核弾頭を打ち込むことが可能」と大見得を切っている。北朝鮮はこの実験成功がよほど嬉しかったのだろう、ムスダン発射成功に高笑いをする金正恩など36枚の写真を公開している。韓国はこの実験に対し、「成功したとは言い難い」と解説し、日本でもそうした受け取り方が強いが、米国は「極悪無道な(flagrant)違反行為」(ホワイトハウス・アーネスト報道官)と真剣な懸念を表明し、「本気で対応する」と北朝鮮に対し制裁以上の行動に出ることを言明したのだ。

核兵器による北朝鮮の壊滅計画

制裁を越えた「本気の対応」とは何か。「北朝鮮壊滅作戦」、あるいは「核兵器の脅威除去作戦」と呼ばれる米軍の作戦計画実行である。この計画は米国の民間シンクタンク『ストラトフォー』が作成し公表したものだ。
『ストラトフォー』とは正式名称をストラテジック・フォーカスティング有限会社(Strategic Forecasting, Inc)といい、軍事情報通にはお馴染みの名である。20年前に創設された民間会社だが、情報通の間では「CIAの子会社」と囁かれている。軍産共同体の傘下と解説する者もいる。正体は明確ではないが、CIAを初めNSA(国家安全保障局)や国防総省などと深く関っているようだ。『ストラトフォー』はコソボ空爆(1999年)時の正確な直前情報開示で知られ、911同時テロ(2001年)の報道が正確かつ迅速だったことで名を高めた。2003年1月にはイラクを攻撃するための作戦として「イラクの自由作戦」を公表したが、3月19日から始まった米英軍によるイラク制圧戦はこの『ストラトフォー』が公表した作戦計画通りに行われたのだ。

その『ストラトフォー』が今年5月末に北朝鮮攻撃計画として「核兵器の脅威除去作戦」を公表している。この作戦の立案責任者はCIA主席分析官のジョージ・フリードマンであり、イラク戦争のことを考えると、この作戦計画に則って米軍が北朝鮮攻撃を開始する可能性が高いと考えられる。
ではその「核兵器の脅威除去作戦」とはどのようなものなのか。
公表された作戦計画書は全5章からなり、最後の5章に具体的な軍事戦略が記されている。それによると――。
B2ステルス爆撃機10機とF22ステルス戦闘機24機を投入し、各機が90kgGBU(バンカーバスター弾)を16発ずつ搭載。計544発で北朝鮮各地に点在する目標を破壊する。同時に北朝鮮の東西、渤海と日本海に沈んでいたオハイオ級原潜5隻~10隻が北朝鮮主要部に核ミサイル攻撃を行い、同海域に展開しているイージス艦数隻から計600発のトマホーク巡航ミサイル(核弾頭型と通常型)で目標を攻撃。予備攻撃用にグアムからB52爆撃機とミシガン級原潜が同空海域で待機する――。

イラク戦争とはまったく異なる。イラク戦争では、イラクが核兵器や生化学兵器を所有しているとの情報も流されたが、米英軍は初めからイラクにそんな兵器があるとは考えていなかったのではないだろうか。ところが北朝鮮の場合には、明々白々に核兵器を所有し、核攻撃が可能なミサイルを持っている。瞬時に、完璧にぶっ潰さない限り、米軍基地や韓国、日本が核攻撃される可能性がある。
そして『ストラトフォー』作成の「核兵器の脅威除去作戦」が実行に移された場合、北朝鮮が反撃する可能性は、どれくらいあるだろうか。『ストラトフォー』はこう答える――北朝鮮の反撃の可能性は完璧にゼロである。ただし北朝鮮の攻撃能力は日々進化を遂げている。反撃の可能性ゼロを維持するためには、可及的速やかにこの作戦を実行に移す必要がある。

北朝鮮のムスダン発射実験に隠された暗号

状況を冷静に見る限り『ストラトフォー』が作成した北朝鮮の「核兵器の脅威除去作戦」が実行に移される日が近いように感じられる。しかし一方で、オバマ大統領がテレビ番組で語った 「米国は北朝鮮の現政権を確実に倒す兵器を所有しているが、米国の最優先課題は北朝鮮周辺の同盟国を守ることだ」との発言、さらに「米国は北朝鮮を攻撃しない」というメッセージ(本紙5月6日既報)があり、この情報は間違いなく正確なものである。

この状況は北朝鮮第一次核危機の時と酷似している。
1993年に北朝鮮がIAEA(国際原子力機関)脱退を口にして「準戦時体制」を採り、ノドン・ミサイルを発射して、その一発が日本列島を越えて太平洋に着弾。翌1994年6月にジミー・カーター元大統領が北朝鮮を訪れ、核戦争の危機が回避されたことがあった。
じつは1993年末には米国は北朝鮮攻撃を行う直前にあったのだが、このとき米国は北朝鮮・寧辺の原子炉を爆撃により完全破壊する予定だった。ところが寧辺の位置が韓国に近く、放射能が韓国国土を覆う危険性が指摘され、米軍の軍事行動に待ったがかけられた。
今回、米軍が北朝鮮を攻撃する場合には「完全で徹底的」なものとなる。近年の核弾頭・核爆撃が飛躍的に進歩し、超小型核は目標を正確に捉え、放射能は劇的に少なくなっているとされるが、それでも数百発あるいは千発超の核が北朝鮮に炸裂すれば、朝鮮半島全域どころか日本列島にもその影響が出る可能性が高い。
オバマ大統領の発言通り、米国は北朝鮮を確実に倒せるが、周辺の同盟国の被害も甚大となる可能性が高いのだ。
そしてもう一つ、米朝関係には見逃してはならない兆候がある。
すでに本紙が「朝鮮半島に異常あり!」(5月6日)で詳述した通り、米国が水面下で北朝鮮と接触を続けていることは紛れのない事実である。朝鮮戦争休戦協定を平和協定にするための秘密協議と考えられるが、別な議題が話し合われている可能性もある。そして、米朝の秘密会談は昨年末以降かなり頻繁に継続されている。それはNSC(国家安全保障会議)と密接な関係を持つビクター・チャの発言からも推測できる。
4月以降に行われた北朝鮮のムスダン発射実験の失敗続きと、6月22日2回目の衝撃的高度技術のお披露目。ここには米朝間だけに理解できる「暗号」が潜んでいたのではないか。水面下の米朝交渉の議題に対する北朝鮮側の回答がムスダン発射失敗だったと考えて間違いないだろう。そして話し合いの決着がついたところで、北朝鮮は実力を誇示するように高度技術による異常角度打ち上げ実験を米国に見せつけた。金正恩の勝ち誇った笑顔の秘密は、そこにある。では、米朝はいったいどんな秘密協議を行っていたのか。

ムスダン発射実験でサード・ミサイル韓国配備が確定!

世の中で意味不明の出来事や辻褄の合わない事件が起きた場合、「この事件で誰が得をしたのか」を分析すると、事件の真相に迫れる場合がある。ただしこれは絶対ではないから、多少の注意が必要だろう。
では、今年4月以降、度重なる北朝鮮の「ミサイル発射、失敗」で、得をした者はいるだろうか。
北朝鮮国内のミサイル開発部署やミサイル部品製造会社などと答えたら、まず物笑いにされる。当たり前だが、これは正解ではない。正解ではないが、注意すべき点がある。というのは、ご存知の通りミサイルにも核兵器にも「賞味期限」がある。ミサイルの場合には燃料が固体燃料か液体燃料かで異なる。ムスダンが固体燃料なのか液体なのかは、わかっていない。固体燃料であれば相当な期間、ときには数十年は大丈夫。液体燃料の場合には、燃料を注入してから数日以内とされるが、最新の技術では数年間は使用可能だともいう。仮に数年は大丈夫だとしても、それでも使用期限はある。北朝鮮が賞味期限切れに近づいていたムスダンを意図的に打ち上げ失敗→爆発させた可能性は十分あり得る。

賞味期限切れのミサイルを破壊するために発射実験をした可能性はあるが、これを除いて北朝鮮の「ミサイル発射、失敗」で得をした者は誰か。答えは米国、正確にいえば米国の軍産複合体あるいはその代理人ともいえる国防総省である。6月22日のムスダン発射成功を受けて米国防総省は「サード・ミサイルの韓国配備を大至急行う必要がある」と述べている。

サード・ミサイルとは「終末高高度防衛ミサイルTerminal High Altitude Area Defense missile」のことで、敵ミサイルを迎撃、撃破するために開発されたミサイルと迎撃システムである。発射された敵ミサイルを撃ち落とすのが目的だが、何より重要なのは敵ミサイルの発射を察知するためのXバンドレーダーと呼ばれる超高性能探知レーダー装置である。米国の国防総省は以前から韓国にXバンドレーダー装置を含んだサード・ミサイル・システムを導入しようと画策してきた。「ならず者国家・北朝鮮のミサイルを監視するため」である。
米軍のサード・ミサイル・システム韓国導入には中国は猛反対を続けてきた。中国の共産党機関紙『人民日報』の国際版『環球時報』は「韓国がサードを配備すれば、人民解放軍は東北地域に強力な軍事配備で対応する」としたうえで「もしそうなれば、韓国の国土は、中国と米国が軍事配備を敷いて『碁を打つ』敏感な地域になる」と、韓国を舞台に米中戦争が勃発すると警告している。
なぜこれほど中国はサード・ミサイル・システムの韓国配備を拒否するのか。それはXバンドレーダーが韓国に敷設されると、中国の動向が米国に完全にバレてしまうからなのだ。Xバンドレーダー設置で、中国のほとんどの地域が、米国のレーダーにより丸見えになってしまうのだ。
今年1月の北朝鮮核実験、2月のICBMミサイル実験で朴槿恵大統領はサード・ミサイルの韓国導入をほぼ受け入れる状況になっていた。今回のムスダン発射実験は、いわばダメ押しのようなものだが、これによりサード・ミサイル・システムの韓国導入は決定的となった。米国防総省が北朝鮮をけしかけて、ムスダン発射実験を何度も行わせ、サードの韓国導入を決定させたと考えると、すべての辻褄が合う。ムスダンの度重なる失敗は、暴走する国家・北朝鮮を印象付けるための手段だった可能性は否定できない。

米中を操り漁夫の利を得る北朝鮮

ムスダンの発射実験は米国製サード・ミサイル・システムの韓国配備を決定づけるための演出で、軍産複合体と北朝鮮が裏で繋がっているとする説は、本紙だけの専売特許ではない。ネット情報を検索していないので明言はできないが、状況を冷静に分析すれば、この答えは導き出せる。だが北朝鮮の行動は、この程度の安っぽさ、生易しさで理解できるものではない。現在進行中の驚愕のプログラムを正確に把握する必要がある。

まずは北朝鮮という国の本質を理解するところから始めたい。
北朝鮮という国は、最初はソ連が作った傀儡国家だった。それがソ連と袂を分かち、中国を巻き込んで米国との朝鮮戦争を戦い抜き、その後は米ソ中という強大3大国に挟まれながら、したたかに生き抜いた国である。かつてブッシュ大統領が「ならず者国家」と呼んだが、その表現は当たらずとも遠からず。とくに初代の金日成の時代には、抗日パルチザンとして戦ったゲリラたちが、国家運営など考えずにヤクザ同様に生命を賭けて世界と渡り合って築き上げた国家だった。
2代目の金正日の時代も、幹部たちの多くは金日成時代のパルチザン、わかりやすくいえばヤクザ者同様の戦士たちだった。胆力だけが売りで、今日一日をどうやって切り抜けるかが重大事だった。ところが3代目の金正恩になったところで潮目が大きく変化した。

今年6月末に「6カ国協議」の変形版である「北東アジア協力対話」が北京で催された。
「6カ国協議」とは「朝鮮半島の非核化のための会議」である。ところが現在では、北朝鮮の非核化など不可能なことは誰もが理解している。「北東アジア協力対話」に出席した北朝鮮の外交部米州局・崔善姫(チェソンヒ)副局長は、「6カ国協議は北朝鮮の非核化を協議する会談だったが、今はその使命を変えなければならない」と根本的問題を突きつけ、応対する日米中ロ韓5カ国を慌てさせている(6月23日)。完全に北朝鮮のペース、北朝鮮がリードする会議に変わっている。いま北東アジア情勢を握りコントロールできる者は北朝鮮だけなのだ。

それを象徴するのが北朝鮮の序列第8位の李洙墉(リスヨン)朝鮮労働党副委員長の訪中と、習近平国家主席との対等な対話だった(6月1日)。
国際外交の常識から考えて、小国の序列8位が大国のトップと対等な形で会うことはない。例外的に、たとえば今年6月にケリー米国務長官とルー米財務長官の2人が揃って北京で習近平と会談したことがあるが、これは超大国米国だからできる話なのだ。仮に日本のNO.8や韓国のNO.8が訪中して習近平に面会を求めたらどうなるか。その人物が次期首相とか次期大統領であれば別だが、それ以外では面会すら不可能である。では、なぜ北朝鮮NO.8の李洙墉は習主席と対等に会うことができたのか。美味しい餌――中国にとって重要な情報――を所持していたからだろう。
ちなみに李洙墉は北朝鮮の外相格だが、元は駐スイス大使で金融の天才と噂される人物。話題になった「パナマ文書」で、米国の上場企業24社が北朝鮮と金(ゴールド)の取引を行っていたことが暴露されたが、北朝鮮側がタックスヘイブンに作ったペーパーカンパニーのオーナーは李洙墉だという。さらに余談になるが、北朝鮮の金産出量は膨大量を誇る。その金鉱は日本統治時代に作られたもので、大戦中でも年間5~6トンほどの金を掘り出していた。その金鉱の脇にウラン鉱が見つかったのは最近のことだが、もし日本が戦前戦中にこれを見つけていれば、歴史は変わったかもしれない。

話を本筋に戻そう。現在東アジアでは中国と米国が厳しく対立している。「中国VS米国」という構図が、南シナ海では米中直接対峙の形をとり、朝鮮半島では米中が韓国の奪い合いで対立する。大陸と台湾との関係にも、また日本と中国の関係にも、微妙に米国が関係して、東アジア全域で「中国VS米国」という構図が危険な雰囲気を高めている。その「米中対峙」をますます強めているのが北朝鮮なのだ。奥深く、じっくりと情勢を俯瞰していただきたい。北朝鮮は米中の本格激突を煽っていると考えられるのだ。朝鮮戦争は韓国対北朝鮮の戦争だったが、最終的には米国と中国が激突した。いま北朝鮮が望んでいるのは、東アジアを舞台に米中が全面戦争を開始することなのだ。
東アジアをこんな危険な状況に導いてしまった原因の一つは、かつて東アジアの盟主としてアジアに号令を発していた日本の弱体化であることを理解する日本人はどれくらいいるだろうか。






〈海外情勢〉                       
                              2016年6月14日     

北朝鮮を制する者はアジアを制する
―強盛国家への道を着実に歩む北朝鮮を読み解く―


性懲りもなくミサイル実験を繰り返す北朝鮮に対し、日本も中国、韓国そして米国も、いや世界中が冷ややかな視線を送る。北朝鮮の若い指導者(金正恩)は国家をコントロールする能力が欠如し、あの国は崩壊するのではないか――。そんな危惧を抱くのも当然だが、実態はどうなのだろうか。いま世界は北朝鮮を巡って厳しい駆け引きを展開中で、それを見誤ると日本の存在感が喪失されてしまう可能性が高い。

北朝鮮高官が訪中し習近平国家主席と会談

北朝鮮は今年(2016年)1月に核実験を実施、2月にはミサイル発射実験を行い、中朝の対立はますます深まった。北朝鮮の金正恩第一書記は中国のことを「修正社会主義帝国国家」と罵倒したが中国はその発言を無視し、それどころか北朝鮮制裁に反対し、石油や食糧援助などを行ってきた。しかしその中国も今年4月には、ついに国連安保理と足並みを揃え、国連制裁決議の「全面的かつ厳格な履行」(習近平国家主席)を表明したのだ。
中朝が全面対立か。そう思われた矢先の5月31日、北朝鮮が中距離弾道弾ミサイル(通称ムスダン)発射実験を行い失敗したとの情報が流れた。米軍グアム基地を射程に収めるミサイルと説明されるが、同時に中国内陸に向けての威嚇とも深読みできる。中朝関係が危険な水域に突入との観測が一部で流れる中、その5月31日当日に北朝鮮の李洙墉(リスヨン)朝鮮労働党副委員長(外相)が北京を訪問。中国対外連絡部部長の宋涛と面会した。翌6月1日になると中国政府当局は自国メディアに対し「北朝鮮の批判を禁止」する通達を口頭で発表。その後この日に李洙墉が習近平と会談したことが報じられた。

北朝鮮の労働党副委員長、序列第8位の人物が中国の序列第1位の国家主席と会うなど、異例中の異例。習近平は国家主席として会ったのではなく総書記として会ったと説明されるが、これは単なる言い逃れだ。国際外交の常識として、大統領には大統領が、閣僚には閣僚が、副大臣には副大臣が応対する。超大国と小国の関係でも、国王には国王が応じる。この常識を越えるのは、よほど特殊な場合だけだ。李洙墉は今回、北朝鮮労働党大会の報告と金正恩からのメッセージを口頭で伝えるために、国家の代表としてやってきた「特別な立場」との認識がなされたらしい。
いま東アジア全域の雰囲気として、中国が孤立している。南シナ海開発問題がその最大要因だが、これまでは韓国が中国支援の立場にいた。その韓国が中国離れ、米国接近に舵取りし始め、中国は北朝鮮を味方に引き入れようと動いた。こう考えればわかりやすい。これが一般的な見方で、そのような解説も多い。これを否定はしないが、別な視点も必要だ。
今年4月下旬に李洙墉が米ニューヨークの国連本部を訪れている。この動きと今回の「習近平・李洙墉会談」は関連しているとみるべきだ。
いくつかの情報機関は、李洙墉がこのとき国連本部で米国政府高官と密会したと伝えている。裏側で米朝が何らかの取引を行い、それを経て5月初旬に北朝鮮労働党大会が行われた。労働党大会の内容に、習近平・李洙墉会談の理由が潜んでいる。ではその内容とは何か。それを探るために、多少遠回りになるが、北朝鮮の実情を再検証してみたい。

北朝鮮繁栄論と崩壊論

4月末の話だが、元防衛研究所の武貞秀士氏と産経新聞ワシントン駐在論説委員の古森義久氏がフジテレビの番組で北朝鮮情勢について討論し、ここに中谷元防衛相、元自治官僚の片山善博氏などが加わって議論は白熱した。その後この議論があちこちに飛び火して話題になったこともあった。「北朝鮮は開放政策のお陰でこの3年で急激に変わった(経済その他が良くなっている)」という武貞氏に対し「北朝鮮の基本が変わったなどという証拠はない。全体として北朝鮮は崩壊に向かっている」という古森氏の論は、日本だけではなく世界中に通用するものかもしれない。では本当のところ北朝鮮はどうなっているのだろうか。

あんな大バカの国のことなどわからない。壊れようが戦争を始めようが、日本とは関係ないから、どうでもいい話だ――。日本の庶民大衆の感情としては、そんなところだと思われる。だが実際のところ世界中の多くの国は北朝鮮と密接な関係を築こうと必死だ。『パナマ文書』で米国上場企業25社が北朝鮮から極秘に金を購入していたことがバレて騒動になったが、米国に限らず世界中が北朝鮮とウラ取引をしているのが現状である。なぜ北朝鮮と密貿易をする必要があるのか。地下資源やカネの問題だけではない。崩れそうで均衡しているパワー・バランスの問題として、現在空白域となっている北朝鮮を取り込めば、一気にすべてを呑み込める可能性があるからだ。まさに「北朝鮮を制する者はアジアを制する」である。

その北朝鮮は、困窮して崩壊に向かっているのか、それとも経済その他が驚くほど好転しているのか。
議論は尽きない。たしかに両方の意見がある。本紙としては武貞氏の意見を支持したい。その理由は、本紙が独自に中国ルートから入手した情報によると、武貞氏の主張を超えて北朝鮮が好景気の状況にあり、一般大衆の表情が晴れやかだというのだ。たとえば平壌の「未来科学者通り」を訪れると、高層マンションが建ち並び、スーパーには大量の食料品から派手なレディスウエアまで商品が溢れ、大通りには自動車が次々と走り、客を乗せたタクシーまで走っている。――世界のあちこちの大都会と変わりが無いというのだ。

秘密が漏れてこない国・北朝鮮

米ソ冷戦の時代に「鉄のカーテン」という言葉があった。ソ連の情報は鉄のカーテンの向こう側にあり、なかなか漏れてこなかった。現在でも中国の情報はほとんど漏洩してこないように思われている。だが実際には中国の機密情報の最重要部は米国に盗られている可能性が高い。なぜか。政府高官が漏らすからだ。
中央政治局委員、重慶市書記という重鎮、薄熙来の部下だった王立軍(公安局長)の米国総領事館亡命事件(2012年2月)や、令計画(共産党中央委員、党中央書記処書記)の末弟、令完成亡命事件(2014年6月)など、党中央の極秘情報が漏洩した可能性がいくつもある。習近平が訪米した際に、米中がその対応策を巡ってやりあったことも報道されている。
こうした形であの中国ですら、政府の機密事項の一部が漏洩しているのだが、北朝鮮にはそれがない。脱北者の証言が山のようにあると思われるだろうが、政府高官・党や軍の重職といった大物は一人も脱北していない。脱北者は最高位で下士官クラス。政府や党の実情はまったく漏れてこない。(ただ一人例外として黄長燁(ファンジョンヨプ)労働党書記の脱北亡命がある。これは特殊な裏事情があり、黄長燁は北朝鮮の内情を一切話さなかった。)
北朝鮮は建国以来70年間、その内情を完璧に隠している国家なのだ。世界史上類例を見ないこの国は、亡命した元CIA、NSAのスノーデンが「北朝鮮の本当の姿を知る情報機関は世界中に存在しない」と語る通り、秘密のベールに包まれている。
すべてが、まったく不明なのだ。
今回36年ぶりに開かれた労働党大会に、全土から約3500人の党幹部・軍幹部が平壌に集結した。その模様は朝鮮中央TVを通して放映されたが、それは正確に報道するなら、「平壌駅と称される場所に、約3500人と説明される大勢の人間が集まった映像が流された」ものだ。労働党大会が平壌で行われたと証明するものは無い。その会場を見た報道陣もいない。5月6日から9日まで行われたことも、北朝鮮当局の発表でしかない。
疑えばいろいろ疑うことができる。しかし、北朝鮮当局発表の内容以外、わからないのだ。当局発表情報から推察するしかない。

「勝利者の大会」が意味するもの

北朝鮮の機関紙『労働新聞』は今回の労働党大会を「勝利者の大会」と表現した。これは見逃せない重要語句だ。この言葉は1934年の第17回ソビエト共産党大会のときにスターリンが用いた用語である。
1917年のロシア革命成功とそれ以降の生産手段国有化により、ソ連では餓死者が続出。ボルシェビキ革命の失敗、世界大恐慌、権力闘争の果てに、「永続革命論」を掲げるトロツキーと「一国社会主義論」を掲げるスターリンが激突。そしてトロツキー亡命、暗殺の後に開かれたのが「勝利者の大会」第17回党大会だった。この大会では大幅な人事変動もなく国有化を緩め、実行可能な経済計画が発表されたが、この大会こそ強国ソ連がその後存続できた足がかりとなったものだった。金正恩は明確にこの歴史を意識している。

今回の大会に約3500人の党・軍幹部が結集したが、合議制が確認され、政治局常務委員5名(金正恩・金永南・黄炳瑞・朴奉珠・崔竜海)と19名の政治局員、129名の中央委員が発表された。常務委員に新たに朴奉珠が加わり崔竜海が返り咲いたが、変革と表現するほど目新しいものではない。しかし129名の中央委員のうちの70名は、まったく無名の新人が起用されている。
これは奇をてらったり話題作りを狙った人事ではない。周辺諸国や世界に向けて金正恩の偉大さを誇示したものでもない。地に足をつけたを目指している人事だと理解できる。韓国ではこの大会を「独りぽっちの戴冠式」と揶揄している。その表現は当たっているが、それはまさに完全独裁を目指す金正恩が狙った形なのだ。

「大国と肩を並べる」という意識

党大会の2日目となった5月7日に金正恩は経済と核開発を両立させる「並進路線」を発表し「責任ある核保有国」の立場を強調して、北朝鮮が大国に肩を並べたことを世界に向けて宣言している。
どうぞ勝手に核大国と宣言してください。世界中の誰もそうは思いませんから――。そう言いたくなる方が多いだろう。だが実際は世界中の多くの国が北朝鮮を認めつつあるのだ。今回の労働党大会に外国からの来賓は無かった(最初に中国に声をかけて断られたため誰も招待しなかった説。中国を招待しないが他国も一切招待しないと事前に断ったとの説等もある)。その代わりではないだろうが、多くの祝電が寄せられている。同じ社会主義国家として仲の良いキューバやベトナムから祝電が届くのは当然で、中国やネパールも頷ける。他にはシリアやパレスチナといった中東諸国、そしてウガンダ・ギニア・コンゴなどのアフリカ諸国からのお祝いが目立つ。なぜ中東やアフリカ諸国がこれほど北朝鮮と親しいのか。北朝鮮による戦力支援である。
第4次中東戦争(1973年)の折り、エジプト軍に北朝鮮空軍が参入し、イスラエル軍機と激戦を交わしたことはよく知られている。このときの北朝鮮空軍の勇猛果敢ぶりは中東全域からアフリカに知れ渡った。その後アフリカでは各地で民族紛争が勃発し、どの国家、勢力も優秀な兵士を求めていた。ここに北朝鮮軍の兵士が「輸出」され、過酷なゲリラ戦の最前線に立ち、あるいはその教育を行った。現在でも平壌にはゲリラ育成学校があり、中東アフリカ諸国の兵士たちが学び、そして多くが母国に帰ってから軍の重鎮や、ときに政府中枢となっていることすらある。現実にシリアの政府軍(アサド軍)には平壌仕込みの軍人が多数在籍している。キューバのミサイル部隊も北朝鮮仕込みで、北朝鮮の軍人も多数がキューバに渡っている。北朝鮮は資源大国といわれ、金や鉄・マグネサイト・無煙炭を世界中に輸出しており、埋蔵資源は総額6兆ドルを越すともいわれるが、軍事技術・軍人輸出も相当なものになると考えられる。

5月初旬に米国の情報のトップ、ジェームズ・クラッパー国家情報長官が極秘裏に韓国を訪問した。米朝間ではこの1年以上にわたり、朝鮮戦争の「休戦協定」を「平和協定」に変えようとする協議が継続されてきた。米朝のこの動きに、中国もまた賛同していると考えられている(本紙既報)。任期半年を残すオバマが大統領として最後の大仕事「朝鮮戦争終結・平和協定締結」に動いても不思議はない。
北朝鮮は米国との数十年にわたる駆け引きに勝利したと考えていいだろう。

習近平・李洙墉会談で何が話し合われたのか

6月1日に習近平と李洙墉との間で何が話し合われたのか。
序列8位の労働党副委員長と序列1位の国家主席が対等の席に座り、何を議題としたのか。
韓国紙『中央日報』は北朝鮮の李洙墉が100万トンの食糧支援をお願いしたが、習主席は半分の50万トンの支援を約束しただけだったと報じている。もちろん、そんな話などあり得ない。食糧支援のためにやってきた副委員長に、国家主席が直接会うなど考えられない。しかも中国当局の発表した写真では、習近平主席と李洙墉副委員長がまったく同格のように扱われている。
話し合われた内容は「朝鮮戦争終結・平和条約締結」に関するものに間違いない。
朝鮮戦争休戦協定は1953年7月27日に署名された。正式署名したのは国連軍を代表する米陸軍マーク・W・クラーク司令官、中国人民志願軍司令・彭徳懐、朝鮮人民軍最高司令・金日成の3者で、条約は英語・中国語・朝鮮語で書かれた。中国は実質的には人民解放軍正規軍を出兵させていたが、公式的には「志願兵」だったため、最終的には米国と北朝鮮2カ国による休戦協定となってしまった。

米朝間の休戦協定が平和協定に変わると、どうなるのか。
国連による制裁が解除される。
北朝鮮とのヒト・モノ・カネの動きに制約がなくなる。
空白域として世界中が鵜の目鷹の目で狙っていた資源国家にさまざまな動きが爆発的に巻き起こる。では、日本は――。
「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化はない」。こう宣言した日本は、国連決議とは別に独自の制裁を行っている。
重ねて提言する。国交正常化をすれば拉致被害者を発見できる可能性が高まる。北朝鮮に人が訪れ、北朝鮮から人がやってくれば、情報も必ず付いてくる。頑なに北朝鮮制裁を続けることは、自らの首を絞めるのと同じだということを日本の全国民が認識すべきである。





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海外情勢>                      
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朝鮮半島に異常あり!

米中との外交戦に勝利する北朝鮮 // 孤立する韓国は溶融の危機に直面
   
核、ミサイル実験を続け、そのいっぽうで飢え、疲弊する北朝鮮。北朝鮮はやがて崩壊するとの観測が流れるなか、隣国の韓国では4月の選挙で与党が大敗、米中からそっぽを向かれ国際社会で孤立し、経済は最悪の状況を迎えている。半島全域が危機的状況に見えるが、厳しいのは韓国だけで、北朝鮮は好調の波に乗った模様。米中政府の公式発言を読みとれば、北朝鮮が天才的外交能力を駆使して米中を操り、数カ月以内に衝撃の結末を迎える状況が浮かび上がってくる。そのとき韓国は、そして日本はどうなるのか……。

「関わりたくないほど無責任な国」北朝鮮

オバマ米大統領は核、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮を「著しく常軌を逸している」「関わりたくないほど無責任な国だ」と厳しく非難した。米CBSテレビで人気キャスターであるチャーリー・ローズの質問に答えたものだ(4月26日)。さらに司会者ローズは言葉巧みにオバマの本心を問い質したが、オバマはこれに正対してこう答えている。
「北朝鮮のミサイル開発の脅威は高くない」
「米国は北朝鮮の現政権を確実に倒す兵器を所有しているが、米国の最優先課題は北朝鮮周辺の同盟国を守ることだ」
オバマの発言はじつにわかりやすいものだが、表面の文字だけ読むと誤解する。周辺の同盟国、すなわち日本や韓国を守るために北朝鮮を倒す兵器を使用することはない――。このオバマ発言の真意は「米国は北朝鮮を攻撃しない」ということだ。世界はそう考えるし、北朝鮮は「攻撃しません」という米国からのメッセージだと捉える。オバマのこの発言は極めて重要な意味を持つ。

明らかにされた米朝秘密会談

「米朝が秘密協議を行っていた」という衝撃情報が流されたのは2月末のことだった。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に「昨年末に米朝が平和協定締結に向けて秘密協議を行っていた」事実と、これに関し国務省が「北朝鮮とトークを行った」と認めたとの記事が掲載されたのだ(2月21日)。

北朝鮮は今年1月6日に核実験を行っている。この実験は米朝秘密協議の直後のことだったと推測できる。普通に考えると、米朝秘密協議が決裂し、それを受けて頭に血が上った金正恩が核実験を強行したと想像できる。だがその逆の可能性のほうが高い。米朝の協議は順調とはいえないまでも、方向性が明確に決まり、両者が了解した可能性が高い。

なぜそう判断できるのか。
かつて米国務省に勤務し、NSC(国家安全保障会議)日本・朝鮮部長を務め、現ジョージタウン大学教授のビクター・チャが「米国と北朝鮮との間で、平和協定のためのネゴシエーションができている」と発言し、これを大統領府が否定も肯定もしなかったことから、米朝が了解していることが見えてくる。ビクター・チャは大学教授だが、現在も国務省と繋がり、意図的にリーク的な発言をしたと考えていいだろう。
ちなみに2月の時点で国務省は北朝鮮と「トーク」したという言葉を使い、4月にビクター・チャは「ネゴシエーション」と言っている。この2つは米国で頻繁に使われる言葉で、トーク(talk)は単なる「対話」を意味し、ネゴシエーション(negotiation)は「合意を目的とした議論」という意味で使われる。
米国と北朝鮮は平和協定合意を目的として議論した。議論しただけでなく、一定の方向性を出したと考えるべきだろう。だがそれは東アジアの枠組みを壊す衝撃情報でもある。

米朝「平和協定締結」ウラ駆け引き

第二次大戦から5年後となる1950年に朝鮮戦争が始まった。東西陣営の激突である。当初は北朝鮮が圧倒し、やがて米軍中心の国連軍が押し戻し、1951年には戦線は膠着状態に陥った。その後ソ連を仲介にして休戦が模索され、紆余曲折を経て1953年7月に朝鮮戦争休戦協定が結ばれた。これは「休戦」であって「停戦」でも「終戦」でもない。
休戦協定を結んだ当事者は、国連軍代表としての米軍と、その対戦国だった北朝鮮軍、そして中国人民解放軍(名目上は人民解放軍志願軍)である。韓国は休戦協定に参加していない。韓国の李承晩(りしょうばん)大統領は、国連軍の武力を頼りに北朝鮮軍を倒して朝鮮半島統一を成し遂げようと考え、休戦には反対だったため、韓国は休戦協定に臨んでいない。

その後米軍は休戦協定の一部を一方的に廃棄、また北朝鮮側も何度も休戦協定の破棄を宣言しており、今ではどちらかが休戦協定を破って進撃しても、国際法上には何ら問題はないと認識されている。
いつでも戦争が再開される状況にある。それが朝鮮半島の現状なのだ。
オバマ大統領が「北朝鮮の現政権を確実に倒す兵器を所有している」と口にしたが、この状況はずっと続いていた。その恐怖があるからこそ、北朝鮮側は「ソウルを火の海にする」兵器を必要とし、核、ミサイル開発もしなければならなかった。

休戦協定を平和協定に格上げする必要がある。当然のことだが国際社会はそう考えてきた。平和協定さえ結べば突発的な戦争は回避できる。そこで条件として提案されたのが「朝鮮半島の非核化」であり、それを成し遂げるための「6カ国協議(六者協議)」だった。しかし9回にわたって行われた協議は破綻、中断され、核を手放せば反撃力を失うと考えた北朝鮮は非核化を無視、核開発、実験に踏み切った。
国際社会の批判を無視して核開発、ミサイル実験を繰り返す北朝鮮に対し、米国を中心とする国際社会は「制裁」によって北朝鮮を封じ込めようと巨大な圧力をかけたが、じつは実効性のある制裁はまったく無かった。

制裁を受けても経済状況が好転する北朝鮮

金正日の時代には北朝鮮はミサイルを売って資金を得ていたことが知られている。ミサイル開発に1億ドル、2億ドルを必要としたが、そのミサイルはイランを初めとする中東諸国に1基8億ドル、9億ドルで売ることができた。さらに北朝鮮は地下資源の宝庫である。電球のフィラメントや対戦車用徹甲弾の材料として知られるタングステン、ミサイルや宇宙船に必要な合金材料ベリリウム、あるいは耐火煉瓦用のマグネシアクリンカーなどは北朝鮮が主産地である。北朝鮮の外交官が中東や北アフリカで地下資源鉱物や金、レアメタルなどを密売し、ときに発覚することがあった。近ごろ話題になった『パナマ文書』の中には英国の銀行家が北朝鮮の武器販売に力を貸していた事実や、米国人が北朝鮮産の金を密輸していた事件が発覚するなど、北朝鮮は密輸大国となっている。国家が首謀して密輸を行っているのだから成功する確率が高く、密輸でかなりの利益をあげているようなのだ。石油は、以前から関係が深かったイランから、さまざまな国を経由して北朝鮮に届けられている。石油輸入国の中国が北朝鮮に石油を輸出していると騒がれることもあるが、中国から北朝鮮に流れる石油はイラン産のもので、中国の業者が(多くは賄賂で誤魔化して)行政の目を盗んで右から左へ横流ししているものである。

北朝鮮が数年前と比べて裕福になっていることは、北朝鮮に大使館を置いている各国の情報から理解できる。北朝鮮は世界163カ国と国交を結び、30カ国近くが平壌に大使館を持っている。大使館がある国は中国、ロシアを初め英国、ドイツ、スウェーデン、ルーマニア、チェコ、ポーランド、インド、インドネシア、パキスタン等々だが、これら大使館員を通して平壌市民が裕福になりつつある状況が報告されている。わかりやすい例として、2011年に平壌では、タクシーが走っている姿は滅多に見られなかった。見られるとしたら、それは外国人を乗せている車だった。それが今年春には「ときに空車が走り、外国人だけではなく北朝鮮の人間を乗せることもあり、街のあちこちで走っているタクシーを見かける」というのだ。タクシーが街を走るのは当たり前のことだが、その当たり前がやっと北朝鮮にもやってきている。
日本や米国を初めとする制裁に効果がないことは、じつは世界中がわかっていた。

米中両国が「平和条約締結」に動く理由

北朝鮮の核、ミサイルに対峙する米国のサード(THAAD終末高高度防衛)ミサイルのレーダー(Xバンドレーダー)設置をめぐって、中国・韓国が激しく対立し、最終的に米中の熾烈な駆け引きが展開されてきた。
サード・ミサイルとは米国の「ミサイル防衛(MD)計画」の中核をなすものだが、これは米中対立のいちばん敏感な問題でもある。
北朝鮮を目標としたサード・ミサイル・レーダーが韓国に設置されると、北朝鮮を遥か越えた中国の長春、ハルビンさらには北京、南京、上海までが米軍の目の届く範囲になってしまう。このレーダーを韓国に設置することを容認した朴槿恵に習近平が噛みつき、昨秋から米中が激しく対立する構図となってしまった。

中国が危惧しているのはXバンドレーダーだけではない。このレーダー設置が最終的にはサード・ミサイル配備に繋がるからだ。米国は「対北朝鮮用」として韓国にサード・ミサイル・システム(レーダーや射撃統制システム、ミサイル基地など)を導入しようとしているが、「対北朝鮮」は口実であって、それが「対中国用」であることは明らかだ。
中国景気が良好の時代には、中国にべったり擦り寄っていた韓国が、中国景気が悪化するのに同調するかのように、米国に秋波を送るようになっていった。これもまた中国を刺激したようにも思える。中国と韓国の微妙で複雑な関係はともかく、米国が韓国に「サード・ミサイル・システム」の一部(最終的には全部)を置こうとしているのは「対北朝鮮」という錦の御旗があるためだ。朝鮮戦争をめぐる「平和協定」が成立すれば、米国が韓国にサード・ミサイルを設置する必要がなくなる。――中国が朝鮮戦争の「平和協定締結」に動くことは、自国防衛のための必然と考えていいだろう。

こうした状況にある今年2月に中国の王毅外相が「朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換する協議を進行すべきだ」と発言し、物議を醸した(2月17日)。
日本の新聞テレビを見る限り、中国の外相が米国に対して「朝鮮戦争の平和協定を提案」したかのように思われるが、現実は中国としては「背に腹は代えられない」気分で、進行中の米朝秘密協議をあと押しし、平和協定を促したと見るべきだろう。その中国は一方で北朝鮮のトップの首のすげ替えも狙っている。

中国が狙う「金正男指導体制」

北朝鮮では序列第二位とされていた張成沢が国家転覆罪という罪状で2013年12月に処刑された。また金正恩の側近といわれていた玄永哲(ヒョンヨンチョル)大将が昨年(2015年)4月に反逆罪で粛清、処刑された模様である。その後昨年末12月29日には対南(対韓国)政策のトップでありスパイ組織統一戦線部長だった金養建(キムヤンゴン)が交通事故死しているが、これも粛清と考えられる。
北朝鮮では金正恩体制になってから、処刑の嵐が吹き荒れている。「恐怖政治」であり、「若い指導者が権力を見せつけるために暴走している」と、国際社会一般には受け止められている。だがじつは張成沢の国家転覆罪が示す通り、処刑・粛清された彼らは皆、本気で金正恩暗殺を実行しようとしていたのだ。金正恩を亡き者にして、金正男を北朝鮮のトップに据えるためである。

亡くなった金正日総書記には3人の男児がいる。長男・金正男、次男・金正哲、三男・金正恩である。儒教国家の北朝鮮では、他のアジア諸国同様、長男が家督を継ぐことが当然だと考えられている。その意味では金正男が北朝鮮のトップの座に就くことは当然である。

金正男というと、日本では「東京ディズニーランドに遊びに来た男」と思われている。2001年5月に成田で拘束され、事実上の超法規的措置で全日空特別便で北京に送られた事件は、記憶されている方も多いだろう。あのときの「ディズニーランドに遊びに来た」とは入国管理局、外務省、日本政府による出鱈目情報で、偽造パスポート所持も嘘である。(ドミニカ共和国発行のパスポートは本物で、もしドミニカ政府から文句を言われたら日本は反論できなかった。)当時多数の日本人が北朝鮮に入国しており、その生命保全と引き換えに金正男を国外退去させたとの説が濃厚で、たぶんそれが真相だろう。2001年5月に成田に現れた金正男の目的は、イランに売りさばいたミサイル代金を受け取り、北朝鮮本国に送金することだった。また2001年5月に限り、なぜ日本は金正男を拘束したのか。日本が国際社会に内緒で北朝鮮との接触を図り、それが進展していたことから、日朝間にクサビを打ち込まれたと推測される。ちなみに小泉純一郎の電撃的訪朝はこの事件の1年半後、2002年9月だった。

金正男は日本で拘束されるまで、一年の半分は母国北朝鮮で過ごし、あとは日本だけでなく香港、シンガポールさらには中東などを拠点に動き回っていた。父である金正日も彼を信用し、国際商取引を任せきっていた。持って生まれた親分肌の素質があり、侠気(男気)に富んだ人物で、北朝鮮の軍部では絶対的な信用があり、金正男のためなら生命を捨てるという者がたくさんいた。
成田で拘束され北京に送られた後、金正男は本国には帰らず、香港、上海などを拠点として生活。やがて中国共産党中枢と密接な関係を築く。とくに親しかったのは習近平を頂点とする中国共産党太子党の面々だった。

中国に取り込まれた金正男は父・金正日から見捨てられた。弟・金正恩が金正男暗殺部隊を派遣したことがあり、中国側がそれを排除して以来、金正男はますます中国べったりになったと説明される。一説では金正恩が暗殺部隊を派遣した事実はなく、それは中国側が捏造した物語だともされる。何が真実か不明だが、金正男が中国政府とくに太子党と密接な関係にあることは事実のようだ。

2000年に金正日が初めて訪中したとき会ったのは江沢民国家主席。その後金正日は4回も訪中し、一度は金正恩を同行させているが、会ったのは江沢民と胡錦濤であり、太子党の面々とは顔を合わせていない。また昨年の北朝鮮労働党創設記念日に北朝鮮を訪れたのは中国共産党序列5位で常務書記の劉雲山だが、劉雲山は胡錦濤と同じ共青団のメンバーで、習近平の太子党とは対立している。中国が金正恩を倒して金正男政権樹立を狙っていることは事実だが、それは現指導部を掌握している太子党の狙いであり、江沢民派や共青団がどう考えているかは不明である。
北朝鮮のトップが仮に金正男になっても、しかし、状況に変化は起きない。誰がトップになっても、米国は韓国にサード・ミサイル・システムを設置しようとするだろう。これを阻止するためには、米朝間に平和協定が締結されることしかない。
こうした事情から、中国は本気で朝鮮戦争平和協定締結を推進しようとしているのだ。

切り捨てられる韓国

米国を中心に国際勢力は「朝鮮半島の非核化」を強く要望してきた。平和協定締結の条件は、まず何といっても非核化だった。ところが現実には非核化は不可能だ。いまさら北朝鮮に核放棄を求めることには無理がある。そこで米国が北朝鮮に出した次の条件は「平和条約締結に韓国を参入させる」ことだった。
繰り返しになるが、1953年に結ばれた休戦協定は「国連を代表する米国」と「北朝鮮+中国」との間に結ばれたものだ。平和協定を締結する場合、米国としては韓国の安全保障を念頭に、韓国も平和協定の当事者にするのが当然だと考えた。ところが北朝鮮はこれを完全に拒否したのだ。金正恩第一書記にとって、中国を初め諸外国の勢力を借りて朝鮮半島を蹂躙しようとする韓国は決して許されるものではないのだ。父・金正日もまた、半島の統一に中国など外国勢力を介在させることを終生断固として拒否し続けた。
今回、米国は最終的に北朝鮮の言う通りに、韓国を「平和協定の当事者」から外すしか道はなかった。

朴槿恵の憂鬱、韓国の孤立

4月13日に行われた韓国の総選挙で、予想に反し朴槿恵率いる与党セヌリ党が過半数を大きく割り込む大惨敗を喫してしまった。朴槿恵大統領の任期は来年末だが、今回の敗北で朴槿恵はすでに「死に体」となったとの評されている。与党セヌリ党は第一党の座は確保。最大野党「ともに民主党」が肉薄し、「国民の党」が少数政党ながら第三極として鍵を握ることになりそうだ。
朴槿恵は経済、外交、安保、国政などさまざまな問題を抱えてスタートしたが、当初は「垣根を取り払って新しい経済体制を」作る雰囲気に満ち溢れていた。それがことごとく失敗し、経済は悪化の一途をたどり、韓国民自身が自分たちのことを「ヘル・コリア(地獄の韓国)」と呼ぶほどになってしまった。かつて自殺者がいない国と誇りにしていた韓国で、核家族化が進み、取り残された老人の自殺が急増している。若者たちは自分の国を捨てて海外で生活することを夢見て、中国へ、米国へ、そして日本や東南アジア諸国に出ていく。この状況は日本にとっては決して望ましいものではない。

特需を狙って朴槿恵はイランへ飛んだ

韓国大統領は外遊すると支持率が上がる。外国から評価を受けることが大好きな国民性のためだと説明される。韓国人は世界では嫌われ者で通っている。大統領が外国を訪問し、評価を受けると、韓国が高く評価されたと感じ、大統領人気がたちまち人気が上昇するというわけだ。総選挙で予想外の大敗を喫した朴槿恵が外国に行くことは予想されたことだった。朴槿恵はその外遊先をイランにしたのだ。
なぜイランだったのか。いくつもの理由が重なるからだ。
これまで核開発を理由に米国を初めとする国際社会から制裁を受けていたイランは、今年(2016年)1月に制裁が解除された。石油埋蔵量世界第4位の国でありながら輸出量は韓国並みの世界第15位。古代から世界最高の実力を持つといわれた「ペルシア商人」の国は、商売もできずに制裁の中でじっとしていた。そのイランが制裁を解除された。世界が「イラン特需」と口にする状況になった。朴槿恵大統領が大企業幹部など236人を引き連れてイランを訪問した最大の理由は、イラン特需を当て込んだものだ。
さらに制裁されていたイランと密接な関係にあった北朝鮮を見据えての行動とも受け取れる。イラン=北朝鮮の密接な関係にクサビを打ち込むといったことではなく、イランと親しくすることで北朝鮮とも良好な関係を構築しようとする意図がある。そしてもう1つ、安倍晋三より先にイランを訪問したという実績作りだ。
だが朴槿恵は外交を得意としていないばかりか、対中、対米、対北朝鮮、対日のいずれも大失敗続き。「ユダヤ人より手強い」ペルシア商人を相手に、朴槿恵がどれほど善戦できたかは、今後の韓国=イラン関係が示してくれるだろう。

北朝鮮労働党36年ぶりの党大会開催の真の意味

北朝鮮の労働党党大会が5月6日から開かれる。党大会が開かれるのは36年ぶりのことだ。
最初の党大会は建国直後の1946年に開かれ、1948年の第2回党大会以降、5年に一度開催されることが決められたが、その後は1956年、1961年、1970年そして1980年に開かれ、それを最後に36年間開催されてこなかった。
1994年7月に金日成が急逝しその後継者となった金正日は一度も党大会を開かなかった。

金正日は「先軍政治」という言葉に代表される軍国主義路線を採りながらも、英国、イタリア、カナダ等西側諸国と国交を樹立し、韓国との南北首脳会談を進め、日朝国交回復に向けての外交を展開するなど、開放路線を歩み、「共産主義」を否定していた。憲法を改正して共産主義の文言をすべて消し去るなど、徹底したものだった。

ところが今回の党大会に向けて、北朝鮮の政府機関紙である『労働新聞』は共産主義を復活させているのだ。一人は全体のために。全体は一人のために」という共産主義の有名なスローガンを、最初は3月19日に、そして21日に、4月に入ってからは毎日のように共産主義を登場させている。
さらに同紙社説では今回の党大会を「勝利者の大会にする」と断言している。
勝手に断言すればいいじゃないか、何が勝利者だ! 多くの方はこの言葉に何の反応もされないだろう。だがじつはこの「勝利者の大会」とは共産主義者にとっては重要でインパクトのある特別な言葉なのだ。これは1934年1月に催された第17回ソビエト共産党大会でスターリンが語った言葉である。

激変する北朝鮮が狙う新体制

「勝利者の大会にする」――スターリンのこの言葉は、まさにソ連共産党が旧来の皮を破って新たな社会主義路線を開くときに使用されたものだった。レーニンのボルシェビキ革命後の生産手段国有化と世界不況の中で多くの餓死者を出したソ連が、熾烈な権力闘争を経て、スターリンが実権を掌握し、高らかに新しい時代の到来を宣言したのがこの言葉である。このときの共産党大会で党執行部は一気に若返り(86%が40歳以下)、第二次5カ年経済計画を発表、農業国から工業国家への転身を果たしたのだ。

トロッキーとの権力闘争を抑えたスターリンは、粛清の嵐を越えてソ連を若返らせ巨大国家に成長させた。金正恩もまた、中国に逃れた金正男一派との権力闘争を乗り切り、党人事を一気に若返らせ、北朝鮮を「豊かな国」にしようと考えているようだ。
ソ連が崩壊し中国が改革開放路線を歩むなか、金正恩には「北朝鮮こそが民族解放運動の中心地」、「北朝鮮こそが世界共産党の中心地」との自負がある。

6日から行われる北朝鮮の党大会の会期は不明だが、少なくとも3日間、おそらくは5日間~1週間くらいかけられるだろう。そこでは経済計画が発表され、さらに人事面では一気に若返りが行われるはずだ。だが注目すべきは別なところにある。招待客、来賓としてどのようなメンバーが集められるかである。アジア圏の共産主義国家として、ラオスとベトナムから大臣級が来るだろう。かなりの確率でキューバから来賓が来る可能性がある。そして何より注目は中国である。常務委員級がやって来るか否か、そしてそれは何者なのか。まさに注目の党大会である。

そして最後に。北朝鮮が朝鮮戦争平和協定を締結すれば、制裁は確実に解除される。制裁解除の「イラン特需」を遥かに越える「北朝鮮特需」が起きる可能性がある。そのとき日本はどうなるのだろうか。



<海外情勢>
                              2016年2月6日

東アジアの枠組みを激変させる北の核ミサイル発射実験!
 ――日本が核武装する日――

今年(2016年)1月6日に北朝鮮は4度目となる核実験を行った。「地球観測衛星」という名目で長距離弾道ミサイルの発射実験を行うと通告しており、早ければ今日明日にでも発射実験が行われるかもしれない。国際世論に逆らう暴挙は、北朝鮮のますますの孤立化を招くと思われる。だがいっぽうでは、北朝鮮の「綱渡り外交」が着々と成果をあげているとの分析もある。この先、北朝鮮がさらに暴れ出せば、東アジアは激変する。それが禁断の「日本核武装論」に火をつける可能性がある。

「休戦協定」により休戦中の朝鮮戦争

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は国土面積約12万平方キロで日本の3分の1。ここに日本の5分の1以下の2450万人の人々が住む。建国は1948年(昭和23年)9月9日。(日本の敗戦後約3年間はソ連が占領していた。)

建国2年後の1950年6月25日未明、北朝鮮軍は国境線を突破して大韓民国に侵攻。朝鮮戦争が勃発した。この戦争は「米軍・韓国軍を中心とする国連軍」と「北朝鮮・中国軍(ソ連が物資支援)」との戦争で、朝鮮半島全域が戦場となった。開戦1年後には38度線を挟んで膠着状態となり休戦が模索され始めた。1952年1月には実質的休戦となり、1953年7月に「休戦協定」が締結された。戦死者数は不明だが、一般的に双方の兵戦死者100万人以上、民間人犠牲者も100万人以上200万人に近いとされる。

国連軍と北朝鮮、中国軍との間に交わされたのは「休戦協定」である。「停戦協定」ではない。協定に明白な違反があれば、通告不要で直ちに攻撃が可能となる。違反はすぐに出現した。協定では、両軍は「新たな武器兵器」を導入しないことになっていたが、米軍の説明によると北朝鮮がこれを破って新規の武器兵器を導入したという。これに対抗して米国は1957年に休戦協定の一部を一方的に破棄すると通告。1958年1月には核武装したロケット弾オネスト・ジョンを韓国に配備した。米軍はその後、ソ連や中国を射程に収める核弾頭ミサイルを配備している。

当初、北朝鮮はこれに対抗して地下要塞の建設を進め、米軍による核攻撃の被害を最小限にとどめようと努めた。その後北朝鮮は、米韓軍事演習を「北朝鮮への侵攻を企図する大規模軍事演習」と断定し、「もはや休戦協定は機能していない」、「失効している」と主張。1994年以降2013年までの間に何度も「北朝鮮は休戦協定に束縛されない」と宣言している。
北朝鮮は米韓連合軍(国連軍)の攻撃を非常に恐れている。
「休戦協定」を破棄し、新たに「停戦協定」を結びたい。それが北朝鮮の本音である。「停戦協定」を結ぶためには、戦力対戦力、武力対武力で互角でなければ対等の条約を結べない。その怖れを北朝鮮は感じている。

北朝鮮の核は世界一流

昨年(2015年)6月に米国大統領補佐官・国家安全保障担当のスーザン・ライスが極秘裏に韓国を訪問し、韓国軍と協議を行っている。その直後、米国DIA(国防情報局)が以下の情報を発信した。
「北朝鮮の核は非常に高度で、北朝鮮が韓国に対し軍事行動を起こす『根拠ある判断』を所有している」
米国の統合参謀本部偵察作戦を担当する部署の情報である。じつに衝撃的で、一般常識を覆す内容である。
「北朝鮮の核は非常に高度」とはどういう意味か。そして「韓国に対し軍事行動を起こす根拠ある判断」とは何を意味するのか。

大多数の国民が飢え、エネルギー不足、電力不足、灯油すら満足に求められず、科学技術も劣る最貧国が「高度な核技術」など持てる訳がない。これが多くの日本人の本音であり、世界中もそう考えていると勝手に推測している。しかし現実はそうではない。米DIAの分析によると、北朝鮮の核開発物資、開発作業員はソ連崩壊(1991年12月)直後にウクライナから持ち込まれたという。旧ソ連は米国と肩を並べる核大国だったが、ソ連の核兵器はウクライナで生産され貯蔵されていた。ウクライナはソ連の核開発、核技術の本拠地だった。それがソ連崩壊と同時に北朝鮮に流れたのだ。
さらに北朝鮮にはヨーロッパの最先端核技術が導入されている。
北朝鮮は現在世界の160カ国と国交を樹立しており、豊富な地下資源を輸出している。「貧困な北朝鮮」とは日本のマスコミが作ったイメージで、鉄鉱石、無煙炭、マグネサイトなどの輸出でかなり潤っているのだ。EU諸国では、アイスランドとフランス2国以外とは国交を持ち、イギリス、ドイツとの関係が深く、英・独とも平壌に大使館を置いている。ドイツは北朝鮮の羅先経済特区支援のために1兆9000億円投入を決定したばかり。第二次大戦以前から北朝鮮の医薬品、医療器具はドイツ製のものが使われ、両国の親密な関係が理解できる。そして北朝鮮の最先端核開発にはイギリスとドイツの科学者が深く入り込んでいる。

「核抑止論」から「実戦核兵器」へ

これまで核兵器は「使用されない兵器」と考えられてきた。対立する国が核兵器を使用すれば相手も報復攻撃を行い、両者が国土、国民すべてを失う大ダメージを受けるばかりか、全世界が放射能汚染され、地球そのものが破壊されると考えられてきた。だから核兵器とは、「実戦に使用されることのない『抑止兵器』」とされてきた。しかし……。

第二次大戦から70年の歳月が過ぎた。その間、科学は途轍もなく進歩した。第二次大戦時最速の戦闘機は時速700km程度。現在の最速は約5倍のマッハ2.5超。時速3500km近くになる。ビル1棟分も必要だったコンピュータは机の片隅に置けるようになった。科学技術の進歩は想像を絶している。では広島・長崎に落とされた原爆は70年前からどれほど進歩したのか。

軍事兵器に関して正確なことはわからない。かつて戦略核、戦術核と分類されていたが、1961年に旧ソ連が行った「世界最大の核実験」以降、米ソを含め核保有国は核の小型化を目指した。小型化、超小型化、超々小型化……。それが意味するところは何か。「実戦核兵器」である。北朝鮮が核兵器の小型化に挑戦していることは2006年の最初の核実験から一貫している。米DIA(国防情報局)は2013年4月に「北朝鮮は弾道ミサイルに搭載可能な小型核弾頭を開発した」とのコメントを発表。その後核の小型化はさらに進化し、実戦配備可能な状態になっていると思われるのだ。また、科学者には、作った武器兵器を試してみたくなる心情が存在する。ヨーロッパの科学者にとって極東で超々小型核を実験することを期待する気持ちが働いていることも事実だ。さらに超々小型核による放射能汚染をどうすれば除去できるのか……。

昨年6月、米DIAは「北朝鮮が韓国に対し軍事行動を起こす『根拠ある判断』を所有している」と発信している。その直前にライス大統領補佐官(国家安全保障担当)が韓国軍中枢と秘密裏に会談した理由は、北が単なる南進(韓国への侵攻)だけでなく、実戦核を使用する可能性に踏み込んだものと推測できる。

米国の「核の傘」が期待できない韓国

北朝鮮は2月8日から25日までの間に「地球観測衛星を打ち上げる」と公表している。金正日総書記の誕生日である2月16日直前の発射実験との見通しが強かったが、2月5日には燃料注入を開始した模様で、天候次第では8日、9日にも打ち上げるかもしれない。場合によると不具合の調整などで、実験が月末になる可能性もある。

北朝鮮が超々小型核兵器の開発に成功し、攻撃力をバックに南進を開始したら韓国はひとたまりもない。頼りは米国の「核の傘」だが、今回の北朝鮮の実験で使用されるミサイルは明らかに米本土到達能力を持っている。米国の「核の傘」には頼れない。韓国内では以前から核武装論がくすぶっていたが、今年1月の北朝鮮の核実験以降、与党セヌリ党の元裕哲(ウォン・ユチョル)院内代表や金乙東(キム・ウルドン)最高委員が「核兵器独自開発」を口にするなど、その声が一気に高まってきている。ミサイル発射実験が行われれば、その声はさらに高まるだろう。

韓国が核武装の検討を真剣に始めれば台湾も動くと考えられる。かつて中国の核実験(1964年)以降、蒋介石が核開発を開始し、米国がこれを制止したという経緯がある。1980年代には蔣経國政権下で本格的な核開発が進み、1987年にプルトニウム抽出まで行っている。この計画は李登輝政権時代に米政府の圧力で施設を閉鎖したが、蔡英文政権下で復活する可能性はある。韓国が核開発をすればその可能性は一気に高まる。そしてそれは中国との激しい摩擦を生む。

韓国、台湾で核武装論、核開発が進めば、当然ながら日本にも影響が出てくる。米国にも日本の核武装を求める声があり、とくにネオコンは日本にNPT(核不拡散条約)からの脱退を奨励している。この場合の日本の核とは、「米国製の核を日本が預かる」というものではあるが。

2016年、東アジアは大暴風雨を迎えようとしている。予想をはるかに超えた事件が勃発する可能性がある。政治的、経済的、軍事的なすべての面が凋落し、大統領選を迎えて国内論議に終始している米国は頼れる状況にない。安倍晋三政権の改憲議論も念頭に、本気で10年先、20年先の日本を見つめていく時が来た。




<海外情勢>
                           2016年1月27日


イスラム国テロが日本に飛び火する!
 ――邪悪な組織ISが日本を狙う理由――

1月14日にインドネシアの首都ジャカルタ中心部で爆発テロがあり、死者8人(うち4人は犯人)、負傷者26人の惨事となった。このテロで警察は12人を逮捕したが、「イスラム国インドネシア支部」を名乗る組織が犯行声明を出している。フランスでもテロ事件を起こした「イスラム国(ISまたはISIS)」がついに東アジアに進出してきたが、彼らが最終ターゲットにしているのは日本だという。なぜ日本が狙われるのだろうか。

「イスラム国」の現状

昨年(2015年)11月末にシリア・トルコ国境付近でロシア軍機が撃墜されたが、ロシア軍はこれに怯(ひる)むことなく、シリア・トルコ国境を行き来する「イスラム国」物資を攻撃している。お陰でトルコによる「イスラム国」支援ができなくなり、「イスラム国」は弱体化しつつある。

「イスラム国」は石油密売などで月に8000万ドル(約100億円)以上の収益をあげ、この潤沢な資金で傭兵を確保していた。ところがシリア・トルコ国境をロシア軍に制圧され、密輸ルートが断たれて収入が激減。「イスラム国」の傭兵は給料が減らされたうえ、税金まで取られるようになった。さらにトルコからの傭兵流入も難しくなり、1月8日には地中海に潜んでいたロシア潜水艦ロストフナドヌーが「イスラム国」にミサイルを発射。潜水艦からの攻撃は初めてだったが、シリア北部「イスラム国」支配地ラッカの弾薬庫、石油貯蔵施設、兵器工場が壊滅的ダメージを受けた。

米国とイランが和解し、イラン制裁が解除され、シリア内戦問題がロシアの手に一任された現在、「イスラム国」は早ければ年内にも終焉の刻を迎える可能性もある。ところが一部情報では「イスラム国」はなお健在で勢力を盛り返すだろうとの観測も流されている。中東の「イスラム国」が再生されるだけではなく、「イスラム国」戦士が各地に飛び散って、世界同時多発テロを行う可能性も指摘される。世界経済同時不況が予測されている今年、経済以上に危険な重大事件が起きる可能性が高まっている。

サウジとイラン「国交断絶」の意味

サウジアラビアとイランが国交断絶関係に陥った。アラビアとペルシア(イラン)といえば古代からこの地域の覇権を争う王者だが、これは中東ハルマゲドンの序章なのだろうか。
サウジは多くがイスラム教スンニ派で、スンニ派の総本山と目されている国だ。シーア派といえばイランを想像するほどで、イラン国民の96%がイスラム教徒でその内の70%がシーア派だ。スンニ派のサウジとシーア派のイランが昔から仲が悪かったことは否定できない。だがサウジの東部には多数のシーア派教徒がいて(東部州人口の43%はシーア派)、サウジとイランの国交断絶をスンニ派とシーア派の対立だけで語れるものではない。

サウジは1月2日に47人のテロリストたちを処刑した。正月早々の47人の死刑執行は、46人のスンニ派テロリストと1人のシーア派聖職者ニムル師だった。シーア派のニムル師は、サウジ東部の出身で若い頃にイランに宗教留学し、サウジに戻って反政府活動を展開していた人物。サウジ政府としては当然の処刑だったが、これに東部シーア派の人々だけでなく、イランやイエメンのフーシ派までもが激怒した。イランの首都テヘランではニムル師処刑に抗議する群衆がサウジ大使館に押しかけ乱入、放火する騒ぎまで起きている。

奇妙なことにサウジはニムル師など47人を処刑すると同時に、イエメンとの停戦協定を破棄。サウジと同盟国(従属国)バーレーン、それにスーダンを加えた国々と、イラン・イエメンとが対立する構図が中東に誕生した。サウジが意図的に作り上げた対立である。

いったいなぜこんな対立が出現したのか。イスラム教内部のスンニ派対シーア派の対立を煽る勢力(イスラエルなど)が介在したとの説もある。一般的に有力な説とされるのは、制裁解除で国際的地位を確保できるようになったイランをサウジが潰しにかかったとの説だ。アラビアとペルシアの覇権争いといえば、大昔からの構図で、これは当然の分析で国交断絶はそうした意味が籠められている。しかし、理由はこれだけではない。

原油価格が暴落しているうえ、制裁解除されたイランが原油輸出を拡大することで焦ったロシアが、中東混乱、石油価格暴騰を仕組んだという陰謀説も飛び出しているが、これは完全な見誤りである。真相はもっと単純だ。サウジとトルコが組んで、イラク北部の油田権益を奪いにいったものだ。しかもそこには姑息な方法だが、一時的にサウジによる「イスラム国」再生プログラムが作動している。

石油利権にたかる卑しい軍団

サウジが「イスラム国」再生のプログラムを発動させるなどあり得ないという人々もいる。サウジは米国勢と一緒に「イスラム国」を空爆し、殲滅しようとしている。そんなサウジが「イスラム国」を再生させるなど考えられない――というのは、表面しか見ていない常識人の判断である。砂漠の民は昔から対立する両方を支援してきたものだ。どちらが勝っても自分を「勝利者の仲間」にするためだ。現実にサウジは「イスラム国(サウジと同じスンニ派)」を攻撃しつつ、裏では「イスラム国」にカネを渡していた。それは決して複雑な話なのではない。中東では当然の物語なのだ。

サウジがニムル師を処刑した夜、テヘランでは群衆が騒ぎ、サウジ大使館に押しかけ放火したが、警察はほとんど動かなかった。そして大使館放火を理由にサウジはイランと国交を断絶した。表面的には――あくまで表面的には、サウジもトルコもイランも「イスラム国」を敵として叩いていた。だが現実には、トルコとサウジは「イスラム国」と通じ、裏から支援してきた。サウジとイランが断絶したことで「イスラム国」包囲網が分断された。

つい2年前までイラク北部の油田地帯はイラク(シーア派)が掌握していた。「イスラム国(スンニ派)」がこれを奪い、石油密売を始めた。ところがロシア軍の本気の攻撃で「イスラム国」が北部油田地帯から撤退する可能性が高まってきた。これを元のイラク(シーア派)の手に戻すのはもったいない。そこでサウジとトルコが手を組み、とりあえず「イスラム国」を支援し、最終的に自分たちが手に入れようと企んでいる。事実、1月1日からサウジはトルコとの「戦略的協力関係」を締結。これまで閉鎖していたバグダッドのサウジ大使館を再開させ、それに伴い、イラクから撤退したトルコ軍が再度サウジの支援を得てイラクに駐留し北部油田地帯に軍を展開させている。何のことはない、サウジとトルコが他国(イラク)の石油を山分けしているのだ。

「イスラム国」のテロリストが日本を狙う

「イスラム国」戦士は多くが傭兵である。傭兵にとって戦場はシリア、イラクに限定する必要はない。世界各地に「イスラム国」のテロが起きる可能性は高い。現実にパリではテロが起きているし、インドネシアのテロも「イスラム国」が介在していることは間違いなさそうだ。

ヨーロッパで最大のムスリム(イスラム教徒)を抱えるフランス、しかもシリアの旧宗主国フランスがテロの標的にされる理由は理解できる。インドネシアは世界最大のムスリム人口2億4000万人を抱える国家であり、ここでムスリムによるテロが起きることも想像に難くない。東南アジアには他にも1億人近いムスリムがいるフィリピン、9000万人を抱えるベトナム、7000万人のタイ、5000万人のミャンマーなどがあるが、ムスリムの人口が多ければテロが増えるわけではない。ムスリムと「イスラム国のテロ」とは、じつのところ無関係だ。

「イスラム国」を攻撃する米欧各国やロシアがテロの標的になることは理解できる。だがテロの矛先が日本に向かうことなど常識的には考えられない。ところが日本がテロの標的とされているというのだ。なぜか。「イスラム国」は「十字軍とその手先」を攻撃目標にすると公言している。(十字軍とはイスラム教徒の手に落ちた聖地エルサレムをキリスト教徒の手に取り戻す目的で作られ、中東に攻撃を仕掛けた中世のヨーロッパの軍隊のこと。十字軍が中東遠征を行った目的等は複雑なので、とりあえず簡単に表現した。)

米国の片棒を担いでいる日本は、たしかに「十字軍の手先」となっており、それだけでテロの標的とされる可能性があるのだが、日本を狙う理由は他にある。イスラム世界が日本を好み、あこがれている面がある。それを破壊したい勢力が存在するのだ。

日本にあこがれ尊敬するムスリムたち

日本と中東各国との間にはさまざまな絆があり、物語があり、歴史がある。
たとえばトルコだ。明治23年(1890年)にオスマントルコの軍艦が和歌山県沖で台風により沈没し死者行方不明者580名以上を出す大惨事となったが、このとき串本の住民が総出で必死の救出活動にあたり、約70名を救出、手厚く看護して生存者全員を本国に送り届けた。これはトルコでも大評判のニュースとなり親日感情が強まったのだ。さらにその後の明治37年に始まった日露戦争で日本がロシアを破ったこともトルコには好感をもたれ、それが1980年(昭和55年)にイラン・イラク戦争が勃発した際に、イランに取り残された日本人338名をトルコ航空機が救出するという世紀の大救出作戦につながり、多くの日本人が涙を流してトルコに感謝したものだった。こうして日本とトルコの間には強い結びつきが生まれ、その関係は現在も続いている。

イラン(ペルシア)とも結びつきは強い。古くは正倉院御物にペルシアのガラス白瑠璃碗があるところから始まる。明治11年(1878年)には榎本武揚がペルシア国王と公式会見しているが、日本イランの緊密関係は何といっても昭和28年(1953年)の日章丸事件だろう。

戦後独立したイランは石油の国有化を宣言した。だがイランの石油資源を握っていた英国がこれに怒り、イランが石油を売らないように英軍艦が海上封鎖を行った。出光興産の出水佐三社長はこの封鎖は国際法上正当性がないと判断。英海軍の包囲網の目を盗んでタンカー日章丸をイランの港に着岸させ石油買い付けを行ったものだ。戦後まもなく、日本が独立した翌年の話であり、当時は「敗戦国日本が英国海軍に喧嘩を売った」と騒がれたものだった。この件でイランは石油を売ることができ、これが原因でその後の世界の石油取引が自由貿易となったものだった。

日本と中東諸国との関係は枚挙に暇がない。昭和13年に東京代々木に建設された東京モスク(東京回教学院)や同年に東京に作られた回教圏研究所、あるいは大正6年に三菱の岩崎久弥が作った東洋文庫も中東との関係を密接なものにした研究所だったと思われる。そしてムスリムを惹きつけた巨大な事件は昭和47年(1972年)5月のテリアビブ空港乱射事件だろう。イスラムとは関係のない3人の日本人がカネのためでもなく名誉のためでもなく、自らの命を捨ててイスラムのためにテロを起こした――。この事件で一人生き残った岡本公三はムスリムから神のように尊敬され、この事件が元でイスラムの自爆テロが生まれたのだ。

中東の、そしてムスリムの多くは日本に対してたいへん好感を抱いている。世界の中で日本だけを特別視している。それが気に入らない人々がいる。とくにアジア進出を狙う欧州勢にとって、イスラム世界で日本が人気であることは許し難いものなのだ。日本と中東とが対立し、憎み合う形を構築したい。そのためにはイスラム世界が日本を嫌い、日本を憎むように仕掛ける必要がある。そしてまた、日本人がイスラム世界を嫌うようにしなければならない。こうした理由で「イスラム国」の傭兵が使われる可能性がある。この構図を理解しておく必要がある。

ジェマ・イスラミーアの変質

ムスリムが多く住む東南アジア諸国には古くからイスラム過激派が組織を作っていた。それらはひと言で「過激派」とまとめられるが、実態はそれほど過激ではなかった。とはいえ、貧しく虐げられた人々が反政府活動を展開するのだから、闘争がいくぶんか過激になることは必然だった。

こうした反政府イスラム過激派集団は、東南アジアではジェマ・イスラミーア(略称JI)がよく知られる。ジェマ・イスラミーアはインドネシアを中心にタイ南部、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、フィリピンに展開していた巨大組織だ。過激派としては他に、フィリピンで活動するモロ・イスラム解放戦線、アブサヤフ、あるいはタイ中心に活動するパッターニ統一解放機構などがある。これらとJI(ジェマ・イスラミーア)とは密接な関係を築いており、東南アジアのイスラム過激派はJIにまとめられるともいえる。
そのJIだが、911米国同時テロ以降、大きく変質した。一部には911テロ事件以降、おとなしくなったとか、地下に潜ったという評価もある。いずれにしても正体が掴みにくくなった。

911以降、JIが主導したと考えられる爆破テロがいくつかある。2002年のバリ島爆弾テロ、2004年のジャカルタ市オーストラリア大使館爆弾テロ、2005年にはまたもバリ島で爆弾が破裂。これらはJIの仕業だと考えられている。しかしその後警察の取り締まり強化、逮捕者の続出で組織は弱体化し地下に潜る。そしてJIの首領だったヌルディントップがテロ特殊部隊との銃撃戦で死亡(2009年9月)。翌年にはJIの精神的指導者と目されていた聖職者アブ・バカル・バシル師が逮捕拘束され、空中分解直前にまで陥ったJIは、遠く離れたパキスタンの活動家でヌルディントップの親分であるアッバスを頼ったが、アッバスは武装解除を宣言。2010年をもってJIは過激闘争を中止したことになっている。

ところがJIは現実には活動を中止していない。それどころかアジア各地のイスラム過激派と連携して、さらなる過激な地下活動を訓練中だという情報がもたらされた。東南アジアの闇組織からの情報で、確たる証拠はないが、精度の高い情報だと認識している。JIに接近しているのは中央アジアのキルギスやウズベクを中心に活動するヒズブアッタハリル(解放党)だという。

解放党は1953年にヨルダンで設立され、その後本部を英国ロンドンに移し、またパレスチナに移転したが機能の中心をロンドンに置いている。アルカイダとは別系統のアルカイダなどと表現されることもあるが、一説では彼らに資金を提供しているのはサウジ王家だとされる(これは噂の域を出ていないので、頭の片隅に入れておくことだと思う)。ロンドンに機能中心を置いているところが非常に気になる。

解放党の思想を注入されたJIは「虐げられた貧しい民は、新しい原則、新しい文明、新しい価値観としてのイスラームを樹立する」ための世界革命を起こすと語る。そこには古くから中東の民が持ち続けてきた親日的感情は存在しない。彼らが何者かに操られているとしたら、今年中にも日本にテロ事件が発生する可能性がある。




<海外情勢>
                              2016年1月19日

激震する朝鮮半島
――東アジアに残る難問――


北朝鮮が1月6日に核実験を実施。対抗措置として韓国は8日に軍事境界線近くで宣伝放送を再開。13日には境界線上空を北朝鮮の無人機が飛行し韓国軍が警告射撃を行うなど、新年早々から半島情勢が緊迫している。年末の日韓による慰安婦問題解決への動きが北朝鮮を刺激したのではないかとか、半島の南北統一が近いから北朝鮮が示威行動を行ったという噂も流れ、破滅直前の北朝鮮が自暴自棄の核実験をやったなどという説まで飛び出しているが、ほんとうのところはどうなのだろうか。

決意を籠めて行った「水爆実験」

北朝鮮が行った核実験が通常の原爆だったのか、あるいは北朝鮮自身が宣言しているように水爆だったのか。
核実験で引き起こされた人工的地震M(マグニチュード)5.1という規模から考えて原爆だろう。北朝鮮には水爆を作る能力などない。そもそも水爆――核融合爆弾などというものは作れず、米ソが行った水爆実験も本当の意味での水爆ではなかった……など、議論があちこちで展開されたが、そもそもこの議論自体が珍妙な物語なのだ。

北朝鮮の金正恩第一書記は頭がおかしいのではないか。核実験をやれば世界中を敵に回し、孤立し、制裁を受ける。住まいも衣服も不足し、飢えをしのぐのがやっとの国民を無視して、莫大な費用をかけて核実験をやるなど大バカだ……。日本のマスコミを見る限り、北朝鮮の核実験の意味などまったく理解できない。
当たり前だ。日本のマスコミは真実を知らないうえに、強烈な核アレルギーを持っており、さらに「北朝鮮は悪だ」と確信している。北朝鮮の核実験に怒り狂い、金正恩をバカ呼ばわりし、半島や東アジアの情勢判断を間違った方向に導いている。わかったうえで間違った方向に導いている確信犯ではなく、よく理解しないで、日ごろの不満を北朝鮮叩きにぶつけているだけと思われる。北朝鮮の核実験と、それが意味するものを正視する必要がある。

日韓政府の慰安婦問題解決と核実験の関係

昨年末12月28日に日韓両政府がとりあえず慰安婦問題の解決点に達した。これは米国からの強い要請があって日韓両政府が歩み寄ったものだ。米国は北朝鮮が新年早々に核実験を行うことを察知し、日韓政府に働きかけて強引に慰安婦問題解決に漕ぎつけたという説もある。この解説は本末転倒というか、国際情勢を理解していない説明だ。ただし北の核実験を意識して、米国が年末ギリギリに日韓両政府の尻を叩いた可能性はじゅうぶんある。
米国は数年前から日韓の不仲を嘆き、日韓関係がうまく行くよう圧力をかけていた。平成26年(2014年)3月には米外交問題評議会(CFR)の機関紙『フォーリン・アフェアーズ』は「衝突する日韓の自画像」という論文を掲載。ここで「未来志向の日韓共同宣言を」と訴えている。その後のオバマ大統領直々の要請、米政府からの圧力もあり、安倍首相は慰安婦問題解決を決意。内閣官房参与の谷内正太郎を密使として、韓国との水面下交渉を開始したのが平成26年(2014年)10月末のことだ。翌、平成27年には谷内は韓国の懐奥深くに入り込み、安倍=朴会談の下工作を継続して行っていた。このころ漠然とではあるが、北朝鮮が核実験をやるのではないかとの噂は流れていた。

米国にとってはもちろん、世界中にとって、慰安婦問題解決より核実験のほうがはるかに重大問題だ。北朝鮮の隣に位置する日韓がいがみあっている場合ではない。昨年12月20日の米CFR機関紙『フォーリン・アフェアーズ』には「日韓関係を管理する」というレポートが掲載され、その8日後に岸田外相が訪韓し、慰安婦問題の最終的合意に向けての発表が行われた。
北朝鮮核実験の9日前だったから、「日韓合意により北朝鮮の核実験を止めようとした」と解説する者もいるようだが、これはまったくナンセンス。日韓の合意が北を刺激して核実験を早めさせたことはあったとしても、日韓合意で北朝鮮が核実験を中止したり先送りさせることなど考えられない。
今回の核実験にあたり、北朝鮮は中国に30分前に通知しただけとされる。では米国やロシアは北の核実験をまったく予見していなかったのだろうか。そんなことは、あり得ない。金正恩が核実験の命令書にサインしたのは実験3週間前の12月15日のことだが、米国は遅くとも12月25日、恐らくはそれ以前から実験の兆候を把握していたはずだ。

なぜ北朝鮮は核実験にこだわっているのか

北朝鮮は2006年(平成18年)10月、2009年5月、2013年2月と、過去3回の核実験を行い今回が4回目となる。なぜ北朝鮮は核実験を行うのか。
核を持つことは、圧倒的な力を手に入れるということだ。北朝鮮の軍隊がどれほど勇猛果敢であろうと、兵員数が圧倒的であろうと、外交的軍事力としての意味は少ない。外交圧力としての武器兵器の中で、核兵器は別格である。
朝鮮戦争は公式的には終わっていない。休戦協定が交わされただけの話であり、いつでも戦闘を再開できる状況にある。ソ連が崩壊し(1991年)朝鮮戦争休戦協定に微妙な曖昧さが出たとき、北朝鮮が国家防衛の基本を考えて核武装を計画することは必然だった。そしてまた、核実験をやる度に国際的には経済制裁を受けながら、北朝鮮は裏から食糧支援や重油支援を受け、潤った事実がある。

北朝鮮の「核暴走」を止める「6者協議」

北朝鮮の核を封じ込めようという意図で作られたのが6者協議(6カ国協議、6者会合ともいう)である。北朝鮮と日・米・中・韓・露の5カ国が参加する会議で、議長国は中国である。なぜ中国が議長国なのか。北朝鮮の暴走を止める責任を中国に押し付けたものだ。しかしこの6者協議は現在ストップしている。
6者協議再開には「北朝鮮が核開発を放棄すること」が条件となっている。しかし現実には北朝鮮は核兵器を持ち、しかもそれを運ぶミサイルまで手にしている。米国も中国も、そしてその他の国々も北朝鮮が核を所持している現実を認めるしかない。
前回の核実験のときも、今回の実験後にも、北朝鮮の平壌市民の様子が朝鮮中央テレビ(国営放送)に映し出された。そこでは市民は核実験の成功を祝い、祖国防衛のために核を所有することは当然の権利だと胸を張っていた。
これは国営放送の映像である。ここで発言する市民は、ただの市民ではない。北朝鮮の国家代表である。テレビ映像を世界中に送ることで、北朝鮮は「核を放棄することなどありません」と宣言しているのだ。そしてこの映像を流している世界中が、北朝鮮の決意を理解している。6者協議の再開条件となっている「北朝鮮が核開発を放棄すること」などあり得ないことを理解している。
このままでは北朝鮮の暴走を止めることはできない。6者がテーブルに着くための新たな条件提示が必要だろう。北を納得させ、日・米・中・韓・露も了解する新たな条件を作る必要がある。

北朝鮮の暴走を止める「3つのNO」

じつは新たな条件案が出されていたのだ。北朝鮮が核実験をやった4日後となる1月10日、米国政治メディア『ポリティコ』(紙媒体もありネット上で読むこともできる)にウィリアム・J・ペリーが寄稿した論文だ。ペリーはクリントン大統領(民主党)時代の1992年から1997年まで米国防長官を務めた政治家である。
ペリーの論文の要旨は、北朝鮮が新たな「3つのNO」を了解したら6者協議を再開するというものだ。その「3つのNO」とは、①これ以上高性能の核兵器開発は行わない。②これ以上核兵器を増量させない。③核兵器を他国に持ち出さない。である。
『ポリティコ』に発表されたのは1月10日のことだが、論文の内容はとっくに北朝鮮に伝わっていただろう。
「①これ以上高性能の核兵器開発は行わない」という条件を考えたとき、北朝鮮としては「水爆実験をやった」という「発表」が重大なものとなった。現実に水爆か否かなど問題ではない。水爆実験をやったと発表してしまえば、以降、水爆以上の高性能核開発を行わないと胸を張れるからだ。
よく考えてみると、米国が北朝鮮の核開発を容認し、核実験をやるよう尻を押したとも考えられる。

北の核実験で苦境に立つ習近平政権

羅先経済特区開発の名目で北朝鮮はドイツから1兆9000億円という莫大なカネを手に入れることが決まっている。金正恩体制になってから、軍の特別経済(第二経済委員会)の見直しが進み、これまで阿漕な中間マージンを盗っていた軍幹部は粛清され、カネの流れに透明度が増している。その他もろもろの状況から、北朝鮮の経済が好調であることは、平壌などを訪れるヨーロッパの人々の共通した認識である。
北朝鮮は、たしかに確実な経済発展を遂げている。だがそれは、まだまだ発展途上である。どこかで躓(つまづ)いたら、崩壊する脆さを持ち合わせている。北朝鮮が困窮していちばん困るのは国境を接している中国である。だからこそ中国は北朝鮮の扱いには細心の注意を払い続けてきている。

4度目となる北朝鮮の核実験で、日米韓はそろって制裁強化を打ち出した。だが言葉は厳しいが、現実には日米韓の制裁強化など、もはや何の効果もないことは世界中が理解している。もう、やるべき制裁は全部やってしまっている。これ以上は何もできない。そのため当然のことだが、米国は中国に対し「北朝鮮への石油を禁輸し、北朝鮮の主力輸出品である無煙炭の輸入をストップしてほしい」と申し入れた。米国のこの要求に対し中国は回答を保留している(1月18日現在)。

中国の現政権(習近平政権)と北朝鮮・金正恩との関係は決して良好ではない。前の胡錦濤あるいはその一派である共青団とは関係が良好だが、習近平は金正日の長男・金正男や処刑された張成沢と関係が深い。習近平政権は金正恩の扱いに困っているのが現状である。そして米国は、そんな中国の弱味を巧みに突いているのだ。
中国経済が先行き不透明で世界同時株安が演出されている。現実には中国経済ではなく日米欧のほうがよほど危険なのだが、世界は中国バブルが崩壊し始めたと騒いでいる。そんな厳しい状況下、中国主導のAIIB(アジア投資インフラ銀行)がスタートし、中国には課題が山積している。北朝鮮核実験に対する中国の制裁がどのような形になるのか。日米韓の要求に沿うのか、北朝鮮に甘い顔を見せるのか。どちらを選択しても、東アジアが丸く収まることはなさそうだ。






<海外情勢>
                                2016年1月5日

東アジアに発生した巨大津波
――波瀾を呼ぶ慰安婦問題解決日韓合意――


年末12月28日、安倍晋三首相の命を受け韓国ソウルに飛んだ岸田文雄外相は、慰安婦問題の最終合意に関して尹炳世(ユンビョンセ)外交部長(外相)と会談を行い、両者がテレビカメラの前で「最終的、不可逆的な解決」を確認した。
日韓の間に立ちはだかっていた巨大な障壁が、ついに取り払われた。最大の難問が消えたからには、日本と韓国は今後固い絆に結ばれて良好な関係を構築していくであろうことを切に期待する。そして東アジアは安定に向かいバラ色の2016年が想定されそうだが、楽観は許されない。地獄の底に突き落とされる可能性も残っているのだ。

北朝鮮の諜報・工作機関トップが事故死

12月29日に北朝鮮の首都平壌近くで金養建(キムヤンゴン=統一戦線部長73歳)が交通事故で亡くなった。経済状況が好転し活気にあふれているとはいえ、まだまだ交通量は少ない北朝鮮。しかも事故が起きたのは午前6時15分頃という。金養建部長が乗る乗用車と軍の大型トラックが衝突し、金養建部長は「ほぼ即死」だったという。誰もが「事故を装った粛清ではないか」と思いたくなるところだ。国際情勢を理解している者であれば、この事故死の意味は一目瞭然である。慰安婦問題で日韓が合意したことで責任を取らされたのだ。

南北統一は北朝鮮の悲願である。
日本人拉致にしても、南朝鮮(韓国)で革命を起こすために、あるいは南進(韓国内への侵略)のために画策されたものだった。2000年6月の金大中・金正日による南北首脳会談以降は平和裏に南北が統一されることが現実味を帯びてきた。朝鮮半島の南北統一のためには、日韓が対立関係にあったほうが都合がいい。また北朝鮮にとっては日朝国交正常化も重大な案件であり、こちらについても日韓関係がギクシャクしていることが望ましい。北朝鮮にとって、日韓関係悪化は楽しく嬉しくバラ色の話であって、日韓対立のために裏からさまざまな仕組みを構築してきた。それを担当してきた部署こそ「統一戦線部」俗称「3号庁舎」である。
統一戦線部とは諜報と工作を担当する最高機関なのだ。この組織はさまざまな任務を持ち、当然のことだが外部からは理解しにくい。最大の任務は公然活動、非公然活動を通して南朝鮮(韓国)の庶民大衆を「親北朝鮮」「反日」に向かわせることである。その最高責任者が金養建統一戦線部長だった。

日韓合意は「最終的、不可逆的な解決」なのか

12月28日、あり得ないと考えられてきた「慰安婦問題の解決」が突如として実現化された。日韓両政府が解決に向けて合意した。裏からも表からも「日韓関係対立」を仕組んできた工作部隊のトップが責任を取らされたのは必然のことだ。韓国国家情報院は金養建の死亡に関して「暗殺などあり得ない」との見解を発表しているが、この発表の裏には北朝鮮に対する遠慮、北朝鮮シンパを刺激したくないという思惑が働いている。

慰安婦問題解決で日韓両政府は明確に合意に達した。全世界に報道され、「両国首脳の努力は称賛に値する」(ニューヨークタイムズ紙)など欧米各紙も大きく取りあげている。「最終的、不可逆的な解決」は世界に報道され、文書化されなかったものの、この合意をひっくり返すことは難しい。
しかし韓国内ではこの合意を認めない動きが活発化している。12月30日には、元慰安婦支援組織の抗議活動「水曜集会」が行われ、韓国政府を強く批判。韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)は今後も死力を尽くして合意に待ったをかける覚悟だという。韓国政府が立ち上げる基金に日本は10億円を拠出することで合意されたが、その条件の中に日本大使館前の少女像の移転が含まれている。
朝日新聞12月29日の記事に以下の記述がある。
「日本政府関係者はこう語る。『韓国がこれからかく汗の量は半端ではない』」
この文章は、日韓関係修復のためにはまだ克服しなければならない問題が巨大であることを物語っている。

慰安婦問題日韓合意に激震が走った東アジア

新聞各紙などの情報を整理すると、日韓両政府は1年以上も前から慰安婦問題解決に向かっての地道な話し合いを続けてきたようだ。だがその情報が表に出ることはなかった。世界中が日韓は厳しく対立していると判断していた。慰安婦問題解決に日韓両政府が合意という突然の出来事は、北朝鮮の統一戦線部長が粛清されたくらいでは終わりそうにない。
日本国内でも賛否両論の意見が戦わされるだろうが、最大の問題は当事国である韓国世論だ。基金に日本政府が10億円を拠出する条件として「少女像の移転」を掲げているが、韓国世論は66.3%が移転に反対、移転賛成は僅か19.3%だった(12月30日)。また日韓合意に関しては50.7%が「誤り」、で正しいと評価する者は43.2%と過半数を割っている。
こうした状況を理解しながらも、朴槿恵大統領は日韓合意を優先する意思を内外に表明している。
これまでの反日強硬路線を180度転換したようにも受け取れる。まちがいなく韓国内で強烈な抗議行動が展開されるだろう。最悪の場合、朴槿恵大統領に対する直接行動(襲撃、暗殺)すらあり得る。
今後の日韓が予定通りに安泰で明るい関係を構築できるか、しばらくは不透明感が漂う。日韓最大の対立問題が解決の方向に向かったことは、半島南北に激震が走っただけでは済まない。東アジアに想像以上の衝撃をもたらした。北朝鮮以上に衝撃を受けたのは中国だろう。

中国は韓国抱き込みに死力を尽くす

慰安婦問題解決日韓合意を受けて、12月29日(日韓合意の翌日)午前の定例会見で中国外交部は、「日本の軍国主義は中国各地で(女性に)慰安婦となることを強制し、重大な人道に反する罪を犯した。日本が切実に責任を負い、被害者の懸念を尊重することを促す」と述べ、日本側に「適切な解決」を要求している(中国外交部・陸慷報道局長)。これは当然の対応だが、中国にとって今回の「慰安婦問題解決日韓合意」はたいへんな試練となりそうだ。
日韓が水面下で接触していたことを中国はある程度は把握していたようだ。習近平に近い筋は早くからその動きを察知していたと漏らす。しかしその雰囲気から、今回の事態を予測していたとは思えない。「東アジアに大きな波風が立った」との考えを示す。

中国が問題視しているのは、歴史認識で共同歩調をとっていた韓国が慰安婦問題で合意し、今後この問題を蒸し返さないとしている点だ。12月28日に朴槿恵大統領と電話で話し合った安倍晋三首相自身、周囲に「韓国は、慰安婦問題に関するユネスコの記憶遺産への申請もしないだろう」と語っているが、韓国の方向転換は中国にとって痛手である。中国としては、韓国が反日姿勢を強め、そんな韓国を中国が応援する形が望ましい。韓国が反日色を弱めてしまうと、日中が正面激突する構図が生まれかねない。これまでの「日本×中国・韓国連合」から「日本・韓国連合×中国」へ東アジアの構図が変わることを安倍政権は狙っている。少なくとも中国はそう捉えている。

しかし韓国にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国依存なしでは韓国は存在できない。では中国は、韓国を経済的に締め上げて、またまた反日路線に転換させようとするだろうか。それはあり得ない。それは自分の首を絞めることにつながる。逆に中国は、今後さらに韓国に接近し、韓国を取り込み呑みこもうとするはずだ。中国が韓国重視政策に傾くことこそ、朴槿恵の狙いでもある。
日韓基本条約を締結して戦後新たな日韓関係を構築し、漢江の奇跡と呼ばれる経済復興を成し遂げた朴正煕(パクチョンヒ)大統領に倣い、経済的苦境に喘ぐ韓国を復興させ、韓国を東アジアでの重要なポストに置くことに成功すれば、朴槿恵は偉大な大統領としてその名を永遠にのこすことになるだろう。だが一歩まちがえば、父娘2代が暗殺されるかもしれないのだ。

東アジアに起きた巨大津波

年末の「慰安婦問題解決日韓合意」は、謂わば東アジアに突如起こった巨大津波のようなものかもしれない。津波は韓国を呑み込み、北朝鮮に爪痕を残し、中国を翻弄し、台湾にまで到達している。
日韓合意が発表された翌12月29日、中国で外交部の陸慷報道局長が記者会見を行ったのとほぼ同時刻に、台湾の馬英九総統は「台湾の慰安婦に対する謝罪と賠償を日本に要求し、女性たちの正義と尊厳を取り戻すという政府の立場は、終始変わっていない」と述べ、日本政府に直ちに交渉に入るよう求めている。さらに大晦日の31日には林永楽外交部長(外相)が「日本政府との協議が1月上旬から開始される予定だ」とも発表している。ただしこれについて日本の外務省は反応を示していない。
(正月休み期間中でもあり、日程等を模索中とも推測できる。)

台湾では1月16日(土)に総統選挙と立法委員(国会議員)選挙のダブル選挙が行われる。総統選には国民党・朱立倫、民主進歩党・蔡英文、親民党・宋楚瑜の3候補が立候補しており、争点(論点)はこれまで「中国との関係」「格差是正」にあった。年末の慰安婦問題日韓合意はこの3候補や立法委員選挙に新たなテーマを与えた。総統3候補は「日本に謝罪と賠償を要求する」と口を揃えている。
1月4日時点では慰安婦問題が選挙にどう影響するか、どの候補にプラスになるかは読み切れていない。しかし台湾総統選は「対中国」、「対日本」の姿勢が大きな争点となってきた。この問題が選挙の行方に影響を与えることは必然だろう。
この件で張りきっているのが、まもなく任期満了となる馬英九総統だ。政治家として最後の仕事を日本との慰安婦問題解決にあて、有終の美を飾ろうとしているようだ。それが国民党・朱立倫候補にとってプラスに作用するかマイナスに働くか、結果は16日に判明する。

東アジア激震は米国の戦略

慰安婦問題解決に日韓が合意した。それぞれ不満はあるが、その不満を呑みこんで日韓両国が緊密な関係を構築することは東アジアの未来に非常に重要だ。今回の合意は、前述のように政府と外務省が韓国中枢と1年以上も秘密裏の交渉を続けてきた結果である。だがこれは安倍政権の意思、外務省の思惑だけで進んだものではない。米国が切望した結果なのだ。
米国にとって、同盟国である日本と韓国が対立しののしりあう状況は好ましいものではない。ことに中国包囲網を構築するためには、何としても日韓が一体化して中国と対峙してほしい。「日本対中国」の構図の中で、韓国が日本を引き落とすことは止めさせたい。

ここで本論とは多少離れるが、日韓関係をめぐる米国の陰の勢力、そして米中関係の真の構図を考えてみる。日韓が対立することは米国の一部勢力(アジア担当部署)には望ましいことだった。日韓が対立すればするほど、日本も韓国も米国のアジア担当部署に寄り添おうとする。日本や韓国の政治家の中にも、日韓対立があればこそ、その仲裁が意味を持ち、対立する日韓の間に入って美味い汁を吸おうとする連中がいる。日米韓3国の中に積極的に日韓関係悪化を構築する政治家がいるのだから、日韓関係がうまくいく筈がなかった。こうした圧力を撥ねのけて、米国が日韓関係修復を強硬に推し進めた理由は、対中国包囲網という意識が優先されたためだ。だが対中国だけではない。対北朝鮮、あるいはその陰に隠れている対ロシア、対EUへの焦りもあったためだ。
米国と中国が全面対峙していると考えている方も多いだろう。現実には米国と中国は微妙な関係にある。比喩的に表現すると、怖い顔で向き合い頭をぶつけあう姿を見せながら、見えないところでは両手でがっちりと握手を交わし、それでいて両者は足で蹴飛ばしあっている――そんな関係なのだ。

昨年10月25日に横須賀を母港とする米イージス艦ラッセンが南シナ海の12海里以内を航行すると発表、27日早朝には哨戒機とともに「航行の自由作戦」を展開し、中国の王毅外相が「軽挙妄動」と烈火のごとく怒ったことがあった。だがじつは、これより6日前の10月21日に米太平洋艦隊幹部の27人が訪中し、中国の空母「遼寧」の甲板上で歓迎式典を行っている。ラッセンの南シナ海入りは米中両国が事前に了解したもので、胸を張った米国の主張も、烈火のごとき怒りも計算づくの芝居に過ぎない。
米中両国は対立しているようで裏で握手し、じつは仲が良いようで互いを激しく牽制している。そんな状況下で米国が「慰安婦問題解決日韓合意」を強引に設定したのだ。また北朝鮮にドイツが急接近し、羅先経済特区開発などに2兆円近い投資を行ったことも米国を焦らせている。

北朝鮮は驚くほどの経済復興を成し遂げており、数年後には北朝鮮主導で南北統一を進められる状態になるだろう。落ち目の韓国(米国の同盟国)を救い、もし統一がなされるのであれば韓国主導で、という戦略が米国にある。在韓米軍の問題、さらには在韓米軍の武器弾薬を貯蔵している日本(主に広島に貯蔵)との関係もあり、北朝鮮を睨んでの軍事的意味合いから考えて、日韓関係修復が急務だったのだ。残念ながらまたしても米国のアジア戦略に日本は加担するしかなかった。日韓和解は大歓迎で、これは素直に喜ぼう。そして非常に近い将来、日本が自主独立外交を展開できるよう期待したい。






<海外情勢>
                              2015年11月27日

パリ同時テロには続編がある!
世界大混乱を画策するISの奇妙な動き


シリア内戦終結に向けて多国間国際会議が共同声明を発表した翌日の10月31日に、エジプト東部の観光地から飛び立ったロシア旅客機がシナイ半島で墜落した。これがテロだとの結論が出る直前の11月12日、レバノンで43人が死亡する連続自爆テロが起き、IS(イスラム国)が犯行声明を出した。ロシアによる空爆で弱体化しつつあるISが戦乱地域を拡大するのではないか――そんな危惧が語られ始めた翌11月13日の金曜日夜、パリで大規模な同時多発テロが勃発。この事件に関連して18日にもパリ近郊で銃撃戦が繰り広げられた。そして20日には、西アフリカのマリでもフランス人利用者が多い高級ホテルに立て籠もった武装集団が銃乱射事件を起こしている。
フランスはIS空爆に空母を動員、英国もついにIS攻撃を決断したと伝えられる。そうした中、11月24日には、ISと同時にシリアの反政府軍も空爆していたロシア軍機がトルコにより撃墜される事件も勃発。イラク、シリア、レバノンだけではなく、トルコ、欧州全域にまで危険な匂いが生まれている。この先世界はいよいよ混乱混迷のハルマゲドンを迎える状況に向かうのだろうか。

なぜフランスが標的にされるのか

フランスでは今年(2015年)1月にもユダヤ系の風刺週刊新聞『シャルリ・エブド』が襲撃され12人が死亡し、表現の自由をめぐる議論が世界中で話題となった。今回もまた首都パリを中心とする大規模なテロ事件が起き、約130人が死亡している。
なぜフランスばかりがテロの標的になるのか。
これにはいくつかの理由が考えられる。第一にフランスにはムスリム(イスラム教徒)が多いことがあげられる。フランスのムスリム人口は欧州でいちばん多く、2010年時点で470万人のムスリムが住み、その後増加している。とくに難民流入のため昨年、今年の増加は多いが、数字は現時点では公表されていない。英国にもムスリムは多い(2010年290万人)が、出身地がフランスとは異なる。英国のムスリム出身地はインド、パキスタン、バングラディッシュなどだが、フランスのムスリムは中東や北アフリカ出身者が圧倒的だ。フランスにはIS(イスラム国)に近い地域出身のムスリムが多いのだ。

フランスがテロの標的になる第二の理由は、フランス軍によるシリア空爆である。今年8月にパリに向かう国際列車内でムスリム青年による銃乱射事件が起き、これを機にフランス軍がシリアのIS(イスラム国)を空爆した。ISの空爆はそれまで米軍などが主流だったのだが、フランスが加わったことにISは強く反発し、これを「十字軍」と呼んで非難している。十字軍とは中世に欧州の軍勢が聖地エルサレムを異教徒(イスラム)から奪還することを目的として遠征した軍隊のことだが、実態は交易、領土拡張、略奪などさまざまな要素を含んだものだった。
さらに忘れてはならないのが、シリアも西アフリカのマリも共にフランスが旧宗主国であるということだ。シリアやマリには多くのフランス人が滞在し、シリアやマリからフランスを訪れる者も多い。

これ以外に、あまり語られないが重要な要素がある。それは現在フランスでユダヤ人差別の雰囲気が醸成されていること、そして難民の増加にフランス庶民が危惧感を抱いていることだ。世界経済失速の影響もあり、フランスも世界中の多くの国々同様、貧困層が増大している。難民流入により、過酷な労働、低賃金が当然となり、それは生活をさらに圧迫する。その不満が「反ユダヤ」へと転化され始めている。もう一つ、付け加えておきたいのがフランス革命の歴史である。
18世紀に起きたフランス革命は「自由・平等・博愛」で知られているが、同時に封建社会とキリスト教会の破壊、所有権の確立、そしてユダヤ人の権利を全面的に認めた革命でもあった。またグローバリズムの萌芽がここに誕生したといえる。フランス、そしてパリは、世界がグローバリズムに向かう新たな一里塚としての意味を持つ。

窮地に陥ったIS(イスラム国)

本紙は以前からIS(イスラム国)を背後から支援しているのは米英イスラエルの好戦派だと主張してきた。その証拠は膨大なものとなり、いまでは世界中のネット情報のほとんどが常識のように流している。亡命した元米CIAのスノーデンも「ISの指導者とされるバグダディはモサドの工作員サイモン・エリオットだ」とその正体を暴露しているし、本紙とも付き合いのある元戦場ジャーナリスト加藤健二郎氏も「イスラエルがISを誕生させた」ことを自身のメルマガで分析している。
フランスの同時多発テロが起きた前日(11月12日)にベイルートで自爆テロがあり43人が死亡、ISが犯行声明を出している。そしてこの日、米軍はシリアで無人戦闘機が“聖戦士ジョン”を殺害したと発表した。“聖戦士ジョン”とは湯川遥菜・後藤健二両氏殺害の際にも覆面姿で登場した人物で、その正体は英国人のムハンマド・エムワジという男。“聖戦士ジョン”を米国が殺害したことで、「米国はISを相手に厳しい戦闘を実行している」と考える方がいるかもしれない。だがそうではない。“聖戦士ジョン”は米英(たぶん英MI5)がISに送り込んだ工作員である。ISから見れば報道官としての価値しかなく、戦力ではない。無人戦闘機が狙うような指導者や思想家ではない。では、なぜ“聖戦士ジョン”は米軍によって始末されたのか。それは、彼の役割が終わったことを意味する。さらに、彼との関係が判明すると不都合な勢力(米英イスラエル)が彼を抹殺したと考えて間違いない。無人飛行機の攻撃によるものかどうかも怪しいものだ。

9月30日から始まったロシア軍によるIS(イスラム国)攻撃は、重要拠点や武器弾薬庫、補給施設を徹底的に破壊した。ロシア軍はバンカーバスター弾も使用し、米国や同盟国の執拗で大規模な1年余の攻撃にビクともしなかったISが、わずか3日間の空爆で致命的なダメージを受けた(本紙既報)。11月18日にはロシア軍参謀本部が「原油を積んだタンクローリー500台を空爆により消滅させた」と発表したが、この空爆でISが受けた金銭的被害は莫大なものになる。ロシア軍の攻撃は的確で、拠点、武器庫、財源が次つぎと破壊されてしまった。ISがいよいよ追い込まれている状況が理解できる。プーチン大統領はISに向かって「テロリストを許すのは神様次第だが、神様の元に彼らを送りつけるのは俺次第だ」と見栄を切り、1年~1年半以内にISを壊滅させると宣言している。
いつの時代でもどんな闘争でも、窮地に陥った側が戦線を拡大するのは定石である。負け戦の戦線を縮小すれば、敵は束になって襲いかかってくる。戦線を無限に拡大すれば敵戦力は分散し、どこかに綻びが生じる。敵の手薄な箇所に攻撃ポイントを移し、勝利地区を作れば、形勢逆転もあり得る。窮地に陥ったISが戦線を拡大することは当然なのだ。

フランスを引きずり込む勢力

パリの同時多発テロの翌日から、フランス軍はISが首都としているラッカ周辺の司令部、武器弾薬庫、訓練施設など12カ所の拠点を空爆し破壊した。130人もの死者を出すテロ攻撃を受けたフランスとしては当然どころか、この程度では納得できないだろう。世界の多くの人々もフランス軍のIS空爆を当たり前のことと受け止めている。だがよく考えると、どこかおかしい。13日の金曜日の夜にパリでテロが起き、14日、15日にISの軍事拠点12カ所を攻撃――。フランス軍はISの軍事拠点を、いつ発見していたのか。いつ攻撃目標として空爆の準備を始めたのだろうか。パリの同時テロがなかったら、フランス軍の空爆はなかったのだろうか。
フランス軍がISに対して初めて空爆を行ったのは今年9月のことだった。アムステルダムからパリに向かう国際特急鉄道内でテロ事件が発生し、このテロに対する報復措置としてフランス軍がISを空爆することを決断した。しかしこの事件も奇妙なものだった。
事件は2015年8月21日に起きている。パリ行きの特急内トイレで武装しようとしていた男が見つかり、見つけられてしまった男が発砲。これを4人の乗客が取り押さえた事件だが、取り押さえた男のうち2人は米軍人(最初は米海兵隊員と発表されたがその後の公式発表は米空軍兵とオレゴン州兵)とその友人の米大学生、そして英国人。この事件の後にフランス政府はISに対する空爆を決断し、ISに人質になっていたフランス人が殺害された直後の9月19日から空爆に踏み切っている。

シリア情勢に関して、米国とロシアの対立が深まっていた。シリアのアサド政権を潰そうと考える米国は、反政府軍、アルカイダ、クルド勢力を支援する。いっぽうロシアはアサド政府を支援する。ロシアとしてはISのような過激組織が中央アジアに進出すると、グルジアだけではなくウクライナにも影響があると考え、その防波堤としてもシリアのアサド政権が重要なのだ。だがロシアがISだけでなくシリア反政府軍までを攻撃するとなると、一歩間違えると米ロが衝突する可能性も出てくる。そこで米国としてはサウジやヨルダンなどの湾岸勢力だけでなく、西側同盟国をIS空爆の仲間に引き込みたいのだが、英国は腰が引けて頼りにならない。そこで旧宗主国フランスを引きずり込もうと画策した――。ISを背後から操る勢力(米英イスラエルの好戦派)が意図してフランスを引きずり込んだと考えていいだろう。しかしフランスをIS空爆に引きずり込んだ理由は、他にもありそうだ。

難民問題との微妙な関係

2001年ニューヨーク同時テロの際、爆発崩壊し姿を消した貿易センタービルから犯人のパスポートが発見された。このパスポートにより犯人がアフガニスタン国籍のアルカイダ・メンバーだと特定された。しかしよく考えると奇妙な話である。飛行機もろともビルに突っ込んだ自爆テロ犯がパスポートを持っているものだろうか。あの粉々になったビルの廃墟から犯人のパスポートだけが見つかったという奇跡に、不自然さを感じるのが当然だろう。
11月13日のパリ同時テロでも、犯人のものと思われる偽造難民パスポートが見つかっている。身体に爆弾を巻きつけ、自爆テロを起こした人間が、偽造難民パスポートを身につけているものだろうか。ここに作為を感じるのは普通の感覚だと思われる。

パリ同時テロの犯人が難民のパスポートを持っていた!この「事実」が報道されるや、フランス各地で難民キャンプ放火が相次いだ。フランスだけではない。ドイツやスウェーデンでも、ごく一部だが、難民キャンプが燃えたと報道されている。パリ同時テロに怒った人々が難民イジメに走ったと解説される。あのような悲惨なテロ事件の直後に、古くから現地に住む住民の一部が冷静さを欠いて非道の行動に出ることは心情的には理解できる。だがここにも何か作為があったとの疑念が生じる。
経済的苦境に喘いでいるフランス人の多くは――フランスだけではない、欧州の多くの一般庶民は、理性や言葉では難民を受け入れようとしているが、心の奥で難民拒否の気持ちを捨てきれない。私たち自身の中にもそんな心がある。将来の話ではあるが、日本に多数の難民が押し寄せてきたとき、これを寛容の心で受け入れられるだろうか。自分自身だけでなく周囲の人々を思い浮かべて考えていただきたい。欧州の人々は難民を受け入れようと考えていた。だが、心の奥底には難民拒否の感情が眠っている。
今回のパリ同時テロで、隠されていたその感情がむき出しになり、難民キャンプに放火する事態を引き起こした。この後にくるのは必然として、難民問題の再議論であり、放火や難民拒否の心情に対する総括である。今回のテロを受けて、欧州全域に難民問題の再議論が巻き起こるだろう。それは最終的に博愛精神で難民を受け止めるという結論に導かれる。

IS(イスラム国)の脅威の根本

何度もくり返して恐縮だが、IS(イスラム国)を背後から支援しているのは、米英イスラエルなどの好戦派たちだ。プーチンは「ISに資金提供している国はG20参加国を含め40カ国にのぼる」と発言した(11月16日)が、これこそ真実である。ISを裏から支援しているのは米英イスラエルだけではなく、シリアのアサド政権と対立するトルコや、湾岸諸国の中にも数多い。しかしISの本当の恐ろしさは、陰謀論的な実態論ではない。
世の中に「ユダヤ陰謀論」と呼ばれるものがある。世界を動かしているのはユダヤ国際金融資本家たちで、彼らが陰謀をめぐらして戦争やテロ、大恐慌を引き起こしているという説だ。ISは、まさにこの説にピタリと当てはまる。「ユダヤ国際金融資本家たちが作り上げた過激集団が、金融資本家たちのカネ儲けの道具となって、テロや戦争をくり返している」というわけだ。だがISは、こうした陰謀論の上を行く。

ISは「サイクス・ピコ協定」に対する怨念から生まれた過激組織だとする見方が世界的にかなり強い。サイクス・ピコ協定とは第一次大戦中の1916年5月に英仏露3カ国の間に取り交わされた秘密協定で、オスマントルコ崩壊後の分割案を示したものだ。中東地域の国境が人工的な直線で仕切られているのは、この協定のためだともいわれている。(国境が直線的な理由は、山や川といった自然が作る境界が無い砂漠地帯であることの影響が強い。)
しかしイラクやシリアに展開するISを見る限り、彼らが国境線にこだわっている雰囲気など微塵もない。それどころかISは「国境」という概念を無視しているように思われる。そしてここにISの恐怖の根源がある。
米国家情報長官室(J・クラッパー長官)は「ISには外国人戦闘員が2万5000人以上いる。そのうち少なくとも4500人は西側諸国の出身者。米国人は250人以上にのぼる」と語った(7月17日)が、一説にはISに合流した外国人戦闘員は5万人にのぼるとされる。西側諸国出身者のうち1000人程度は軍の下士官クラスだったと分析されている。ここにもISの恐怖が覗いて見える。ISを従前のテロ組織、過激派集団という概念で捉えてはならない。単純に「米英イスラエル好戦派の支援を得たイスラム過激派」という認識で見てはならない。彼らは「国境」という概念を破壊しようとしている。彼らは「難民」「移民」という概念を破壊している。その先に見えるのは、「国境のない過激派」であり、「一般庶民、大衆の中に紛れ込んだテロリスト」である。

IS崩壊とシリア安定化への道筋

ISの台頭とシリア内戦問題は密接な関係にある。「アラブの春」の流れに乗って、シリアに民主的国家が登場することを米国は望み、アサド政権を潰そうと考えてきた。シリアの反政府勢力とクルド勢力、そしてISはアサドと対立している。米国と同様、英仏の欧州勢も、トルコやサウジ、ヨルダンなども米国の考えに近い。いっぽうロシアは、ISを潰しシリアが安定する方向に持っていきたい。そして最近の多国間協議は、ロシアが考えている方向に進んでいる。その理由はオバマ大統領にある。米国内でオバマは、旧ネオコンを中心とする軍産複合体と対立している。対立勢力の勢いを削ぐ狙いをもって、オバマはシリア問題をロシア主導で片づけることを了解した。それは裏を返せば米国がアサド政権存続を容認したようにも思える。実際には米国はなおアサド政権を潰したいと考えているが、当面はロシア主導に賛成するしかない。

ロシアはISを潰しシリア内戦を1年半で終わらせる計画案を関係各国に提示し、多くの国がそれに同意した。もちろん米国もロシア案に同意を示した。
ロシアの計画では、まず年内にシリアの反政府勢力を「テロリスト(IS等を意味する)」と「それ以外の反政府勢力」に分類する。テロリストは大規模な軍事力により活動範囲を縮小させる。来年早々からアサド政権側と反政府側の話し合いを実施し、来年の春には暫定連立政権を樹立させる。次にはテロリストを完全に壊滅させ、1年以内に総選挙を実施して、シリアに正式政権を樹立させるというものだ。
順調にいけば、間違いなくシリアは安定の方向に進む。その可能性は高い。だがなおシリア内戦が続く可能性もある。また、シリアのISが壊滅しても、それはISが完全に消滅するわけではない。中東各地そして欧州各国、さらには米国、中国などに飛び散ったIS戦闘員は健在なのだ。

ロシア軍機撃墜の衝撃と波紋

ロシアの提案は大筋で関係各国の要望を満たしている。だがロシアがアサド政権存続を願っていることも明らかだ。9月30日からロシアはシリア領内空爆をくり返しているが、その2割、3割はISではなく反政府軍に対する空爆である。
トルコとシリアの国境付近には古くからトルクメン人が住みついている。トルクメン人とはトルコ系の民族で、トルクメニスタンやカザフ、イランなど中央アジアに広く分布している民族だ。トルコ・シリア国境付近のトルクメン人は反政府運動を展開するヌスラ戦線と合流しているが、トルクメン人の多くは仲買人をやっている。原油や武器、あるいは人材を移動させて商売をしているのだが、その多くはISとの間の商売である。ISの原油をトルコに売り、武器・弾薬・人材をトルコからISに送る。そして、このトルクメン人との商売で莫大な利益をあげているのがトルコのエルドアン大統領一家だと噂されている。(エルドアンの息子がトルクメン人相手に商売をしていることは本当である。)

IS潰しのために、ロシアはトルコとの国境付近を空爆している。その下にはISからの原油を積んだタンクローリーや、ISに売り渡す武器弾薬を積んだトルクメン人の仲買人たちがいる。11月20日にはトルコ政府は駐トルコのロシア大使を呼んで「トルコ・シリアの国境付近を飛ばないように」と厳しく注文をつけている。トルクメン人はトルコにとっては同朋なのだ。ところがそれを無視してロシア戦闘機がシリアを空爆し、トルコ国境を17秒間ばかり領空侵犯した。このロシア軍機に対してトルコ軍がミサイルを発射し、撃墜したのだ(11月24日)。
領空侵犯は1秒でも侵犯になる。だが脅威にならない限り撃墜することは国際法に反する。さらにロシア軍戦闘機からパラシュートで脱出したロシア兵を空中射撃し殺しているが、これはジュネーブ協定違反である。プーチンが「背後から刺された」と怒り心頭なのは当然だ。しかもその後、捕虜になったと考えられるロシア兵捜索のためにシリアに飛んだロシア軍ヘリまで撃墜されている。ヘリを撃墜したのはシリアのアルカイダ系反政府組織で、撃墜の際に使用されたのは米国製対戦車ミサイルTOWだった。米国がシリア反政府組織を陰から支援していることは、これだけでも明らかなのだ。

トルコ・シリア国境付近をロシア軍に制圧されると、トルクメン人たちは生活ができなくなり、シリア難民となって流浪する。これまでISやシリア反政府軍に物品人材を提供して美味い汁を吸っていたエルドアン大統領一族を初めとするトルコ人たちは、稼ぎにありつけなくなる。トルコ国内では9月20日からIS外国人戦闘員を募集したが、9月末までの10日間に2万人の応募があったという。この募集はその後も続いているが、どれほどの戦闘員がシリア領内に入ったかわからない。外国人戦闘員はシリア内で厳しい訓練を受けた後、彼らの出身地に戻りテロを実行することになるはずだ。
ロシアとトルコの緊張が世界大戦を引き起こすといった風説も流されている。トルコはNATO軍に加盟しており、NATOは加盟国のどこかが攻撃されたらNATO全軍が参戦する規則になっている。NATO対ロシアの全面戦争が考えられないわけではないが、現実には費用対効果から考えても、それはあり得ない。しかし世界各地に散ったISのテロは十分考えられる。シリアで暫定連立政権が誕生する春までに、パリ同時テロの続編が起きる可能性は途轍もなく高い。
そしていま、米国欧州中国はいずれも不況の嵐を目前にして立ちすくんでいる状況にある。中東から遠く離れた日本は安全だなどと高をくくっている場合ではない。欧州が、米国が、中国がテロの標的になったときには、日本も無事では済まされない。






<海外情勢>
                              2015年11月3日

暴風に立ちすくむ東アジア
――アジアは米国の圧力から脱出できるか――


9月末の習近平中国国家主席の訪米と米中首脳会談は「歴史上の大失敗」と評される。オバマ、習近平両者は一歩も譲らず、それが結果として南沙諸島に極度の緊張を生み出した。しかし手品師が振りかざす手に目を奪われると、重大な出来事を見損なうおそれがある。南沙や尖閣だけに目を奪われると、東アジア最大の問題点である朝鮮半島に対する注意がおろそかになる。
東アジア全体はどのような状況になり、今後はどう進展していくのか。半島情勢、米中対峙を冷静に見つめつつ、わが国がどうあるべきかを考えてみたい。

北朝鮮労働党創立70周年記念式典の奇妙な光景

さる10月10日、北朝鮮の平壌で「労働党創立70周年」祝賀記念式典と軍事パレードが行われた。わが国マスコミもひと通りの報道をしていたので、注目していた諸氏はお気づきだろうが、いくつかの重大事が見られた。
昨年来、北朝鮮と中国の関係が冷え切っているとの観測が流されていた。異常気象や水害の影響もあって北朝鮮の食糧事情が悪化しているなか、中朝関係悪化は北朝鮮にとっては命取りになりかねない。そんな状況下、9月3日には中国で「抗日戦争勝利70周年記念式典」が催され、北朝鮮からはナンバー3といわれている崔龍海(チェリョンヘ65歳)が出席した。ところが北京天安門広場にしつらえられたひな壇には、習近平主席の横に韓国の朴槿恵大統領が並び、崔龍海はいちばん末席の目立たない場所に座らされていた。
――やはり中朝関係は冷え切っている。中国は半島では、北朝鮮より韓国を重視している。
――誰の目にも、それが明らかだった……と見えた。

そんな状況からか、無責任なネット情報の中には「中国軍と北朝鮮軍が激突」とか、「極秘情報!北朝鮮が中国に攻め込む」などといった物語が載っている。これらの情報は、注目されたいがためのデッチ上げであり、100%どころか1000%あり得ない。こうした情報の発信者を信用してはならない。
話を本題に戻す。国家存亡の危機に直面する事態を迎えた場合、従来の北朝鮮のやり方といえば、国威高揚、人民鼓舞のためのミサイル(宇宙ロケット)発射や核実験だった。今回もその可能性が高いと、世界は緊張して北朝鮮の動向を見守っていた。
ところが10月10日の「労働党創立70周年」祝賀記念式典当日、金正恩第一書記は満面の笑顔で登場し、これまでには見られない自信にあふれた表情で演説を行い、危惧されていたミサイル発射も核実験もなかったのだ。なぜ金正恩はあれほど上機嫌だったのか。式典の当日、金正恩の横に中国の劉雲山がいたからである。
65歳の劉雲山は習近平体制の常務委員7人の一人。序列は第5位で中央書記処書記という超大物。これまで金正恩第一書記が迎えた中国要人の中でいちばん上位の人物である。金正恩と劉雲山2人がどのような話し合いをしたかは不明だが、大口を開けて笑っている金正恩の表情を見る限り、北朝鮮にとって喜ばしい話がもたらされたと考えていいだろう。

朴槿恵大統領はなぜ中国に擦り寄ったのか

9月3日に北京天安門前広場で「抗日戦争勝利70周年式典」が挙行された。この式典に韓国の朴槿恵大統領が出席し、習近平の横で笑顔を振りまいたことは記憶に新しい。日米韓3国連携が重要視され、中国寄りの姿勢を見せる韓国に米国が懸念を示しているなか、敢えて朴槿恵は北京に出かけた。いったい、どうしてだろうか。一般には ①経済的に中韓貿易を重視 ②半島統一の際の後ろ盾になってもらうため と解説されている。しかしこれについて韓国情勢に詳しい政府機関OBは、こう語る。
「その2つの分析は正しいだろう。しかし韓国・朴槿恵にとってもっと重要なことがあった。それは今回の『抗日戦争勝利式典』で韓国が『戦勝国』と扱われたことだ。韓国が戦勝国であれば、南北統一の際にも正統性を主張できるからだ」

朝鮮半島の南北統一については以前から、北朝鮮主体か、韓国主体なのかが話題となってきた。経済的には圧倒的に韓国に分がある。しかし「正統性」という面からは北朝鮮に分があるのだ。

北朝鮮のトップだった金日成は(事実か否かは別として)「抗日パルチザン」として日本軍を相手に戦い、英雄として北朝鮮に凱旋した。だがいっぽう韓国の李承晩は、大正8年(1919年)に上海に作られた亡命政府(大韓民国臨時政府)の大統領に就任したものの、すぐに弾劾され、最終的にはハワイに逃げのびて反日活動とは無縁だった人物。
また上海に生まれた韓国亡命政府はその後、中国各地を転々と逃げ回り、最終的には昭和15年(1940年)になって中国国民党政府軍の蔣介石の支援により重慶に落ち着き、ここで初めて軍隊(韓国光復軍)を組織できた。この光復軍はOSS(米戦略情報局)からの誘いを受けて日本と戦う準備をしているうちに終戦となり、現実には抗日戦争を体験していない(「韓国光復軍」の名で朝鮮義勇隊などが日本軍と戦った事実はある)。
南北統一の「正統性」を得るためには、韓国が「戦勝国」という名誉を手にする必要があった。

朴槿恵はその名誉を手に入れるために北京の「抗日戦争勝利70周年記念式典」に出席したのだ。

朝鮮半島南北統一を考える

非常に近い将来、朝鮮半島の南北統一はありえるのだろうか。
2000年6月に平壌で韓国の金大中大統領と北朝鮮の金正日総書記が初の「南北首脳会談」を行い、半島統一に向けての取り組みが開始された。しかし翌年9月の米同時多発テロを受けて南北間は再度緊張し、統一への動きは停止してしまった。その後2007年になって金大中の意を汲んだ盧武鉉大統領が再度平壌を訪れ、南北統一に向けての話し合いが再スタートしたものの、注目すべき成果はあがっていない。
南北双方に「祖国統一」の意思があることは明らかである。統一の障害になっているのは、米国と中国双方の思惑である。韓国に在韓米軍を残して統一されることは、中国にとっては好ましくない。在韓米軍を完全撤退し、北朝鮮主導で統一がなされることは、米国にとっては好ましくない。

朴槿恵が南北統一を自分の使命と考えているのか、単に歴史に名を刻みたいという欲望なのかはともかく、統一を意識して行動していることは確かである。9月3日に北京天安門前広場で行われた「抗日戦争勝利70周年記念式典」に出席した理由は、そこにある。
もちろん出席した理由としては、中韓貿易に大きな比重がかかっている韓国経済活性化の目論見もあったし、日本や北朝鮮に対するパフォーマンスの意味合いもあった。しかしいちばん大きな理由は、第二次世界大戦の「戦勝国の一員」というお墨付きをもらうことにあった。半島統一の際に北朝鮮を抑えるためには「戦勝国という正統性」が必要なのだ。その正統性を中国が保証してくれるという話なのだ。朴槿恵としてはどうしても行かなければならなかった。

では中国は、在韓米軍さえ完全撤退すれば、韓国主導の南北統一を了解するだろうか。韓国政界や朴槿恵大統領はそう思っているようだが、その可能性は少ない。政治、経済界で活躍している中国人に尋ねてみると、みな一様に「南北統一はとうぶんの間はないだろう」と答える。理由はさまざまだが、極論をいうと中国人は韓国人を信用していないということに尽きる。政界の人間ではないが、中国のある学者がこんな発言をしていた。
「モンゴルと同様に、北朝鮮を中国領の『内朝鮮』とし、韓国は独立した『外朝鮮』にすれば八方が丸く収まるのではないか」 何とも中国人の勝手な発言に思えるが、この言葉に中国人の思惑が透けて見えそうだ。この言葉の奥に、北朝鮮の金正恩第一書記が「労働党創立70周年」祝賀記念式典で見せた笑顔の意味を推測できる。北朝鮮が中国領となることが提案されたなどということではない。中国が北朝鮮の存在を何らかの形で保証したと考えていいだろう。

米国の後ろ盾を得られなかった朴槿恵

中国が主導するAIIB(アジア投資インフラ銀行)への参加をいち早く表明し、「抗日戦争勝利70周年記念式典」にも出席し、世界中から「中国べったり」と評されていた韓国の朴槿恵大統領が訪米し、10月16日にオバマ大統領と首脳会談を行った。
この首脳会談を通して朴槿恵がオバマに訴えたかったことは、11月1日、2日で行われる日中韓3カ国首脳会談で「慰安婦問題を取りあげること」に関し同意を得たかった点が1つ。さら北朝鮮のミサイル発射、核実験などに対して米韓が一致協力して対抗すること、そして韓国がTPPに参入する方針であることを認めてもらうことにあった。

ところが、対北朝鮮で連携していくこと以外、成果は得られず、逆に「日韓関係は米国にとって戦略的優先事項」と指摘され、日韓の関係改善に取り組むよう催促された。さらに中国に対しては「(中国が)国際法に違反した行為をした場合には米韓は連帯する」と厳しく諌められてしまった。挙げ句にTPP参入に意欲を見せ、それに理解を求めた朴槿恵だったが、オバマはそれも拒否。米韓は裏方で共同記者会見の前日は午前4時まで協議を重ね、最終的には「韓国はTPPに関心を示した」と、共同記者会見の内容としては陳腐なもので終わってしまったのだ。冷静に情勢を見つめる限り、米国も中国も、朝鮮半島統一を現時点では容認していないことが理解できる。

TPPとは「対中国包囲網」の一環

平成22年(2010年)春に始まった12カ国によるTPP交渉が10月5日に大筋合意に達した。日米以外、オーストラリア・ニュージーランド・ブルネイ・マレーシア・シンガポール・ベトナム・カナダ・メキシコ・ペルー・チリの環太平洋12カ国がまとまり、世界のGDPの4割を占める巨大経済圏が誕生したのである。 TPPに関しては日本でも賛否両論さまざまな意見が戦わされてきた。本紙自身、TPPに懐疑的な立場をとり続けてきた。農業とりわけ酪農家に多大な圧力がかかること、食の安全が守られるか否かに不安があること、そして何より最大の問題として「ISD条項(投資家対国家の紛争解決条項)」により他国企業から提訴された場合の恐怖が、本紙がTPP懐疑派であった理由である。
じっさい、TPP合意により日本の農業生産が打撃を受けることは間違いない。とくに酪農は悲惨な状況に追い詰められるだろう。「食の安全」「ISD条項」問題に関しては鶴岡公二(TPP政府対策本部首席交渉官)の言葉を信じ、全体としてクリアされていると考えたい。

ここで明確にしておきたいことは、こんにち「経済・金融」と「政治・軍事」とは完全に一体化しているものだという認識である。わが国の中には経済と政治は別モノだと考え、経済・金融のみに深い洞察をする学者や評論家がいるが、これはまったく意味がない。現在ではあらゆる局面で政治・軍事・経済・金融は完全に一つの枠組みの中で進行している。TPPとは交渉開始時点から終始一貫して「中国包囲網」を構築するための経済圏確立が狙いだった。この枠組みの中に日本は取り込まれたのである。
ここで疑問が出てくる。
中国包囲網の経済圏構想に、中国に取り込まれたと考えられる韓国が参入を希望している。米オバマ政権としては、韓国のTPP入りを歓迎し、「中国包囲網」をより強固なものにするのが当然ではないのか。米韓首脳会談の最終局面で、明け方まで議論が繰り返され、「TPP参入」を訴えたかった韓国に対し「TPPに関心を示した」などという小学生の作文レベルの表現で済ませてしまった米国の真意を疑いたくなる。
これには理由が山ほどある。簡単にいえば、かつて米韓FTA(自由貿易協定)で韓国に煮え湯を飲まされた思いが米国にあるからだ。米韓FTA締結直後に韓国政府の意図的な為替操作でドル高ウォン安が演出され、サムスンやヒュンダイなど韓国製品が米国市場を圧倒したことがあった。同様な出来事が重なり、米国は韓国を丸っきり信用しなくなっている。それがオバマ政権が韓国をTPPから遠ざけた最大の理由なのだ。
この結果、韓国の中国依存度がますます高まることも間違いないだろう。それでいながら韓国は、南沙諸島問題では米国と連帯することが取り決められ、現実に米韓軍事演習で海上訓練まで行っている。米中の板ばさみになっている朴槿恵政権の今後は非常に厳しいものになるだろう。

米国は習近平政権のアキレス腱を握ったのか

今年の春以降、米国各地で異様な雰囲気の中国人グループが目撃されていた。はっきりとその姿が確認されだしたのは6月以降、場所はシカゴ・デトロイト・デンバー・ダラス・ロサンゼルス・そしてテキサス州内の各地。中国人グループには2つのタイプがいた。
1つは背広ネクタイ姿の上品そうなグループ、もう1組は闇の世界から現れた匂いを漂わせていた。2組とも「特定の人物」を探していた。背広ネクタイの連中は各地の警察や市役所などを表から訪ね、人物名を口にして協力を求め、もう1グループは街の隅々を嗅ぎまわっていた。この作戦は「キツネ狩り作戦」と名づけられていたという。「キツネ狩り」で彼らが狩っていたのは令完成という中国人だった。

習近平国家主席が訪米し、オバマ大統領と首脳会談を行う前日、9月24日の夜、習近平とオバマは非公式の首脳会談を行った。この席で習近平がまずオバマに求めた。
「令完成の身柄を渡してもらいたい」
令完成とは胡錦濤政権時代に中央書記処書記として政権を支えた令計劃(れいけいかく)の弟である。令計劃は胡錦濤も所属していた「共産党青年団(共青団)」のエリート中のエリート。しかし200億とも250億円ともいわれる不正蓄財を行ったとして今年7月に党籍剥奪のうえ逮捕された人物である。その弟の令完成は中国共産党の極秘資料2700点を持ちだし、米国に飛び、亡命を申請中なのだ。中国政府は令完成が持ちだした極秘資料を奪還すべく膨大な人材を米国に派遣し、その活動に対し米国は「主権侵害」と強く抗議。どうやら令完成は米国の手厚い庇護下に厳重に匿われている模様だ。

余談になるが、令計劃、令完成兄弟は山西省出身で、本当の苗字は「令狐」である。山西省は中国では優秀なスパイを産出する省といわれ、かつて副総理だった薄一波や、その息子で習近平との政治対決に敗れ失脚した薄熙来と同族で親しい関係にある。令計劃兄弟は本来の苗字「令狐」から「狐」の字を削除して「令」一文字に改めている。
米国で展開された「キツネ狩り作戦」とは、これを意味したものと考えられる。
習近平はオバマが「協力する」とか、最低でも「そんな人間が米国に来ているか否か捜索する」といった回答を期待していた。しかしオバマの回答は、習近平の要求を断固として拒否するものだった。
――米政府は令完成の極秘資料を入手し、令完成を保護し、その極秘資料に基づいて中国対策を立てている。習近平は、そう理解するしかなかった。
次にオバマが習近平に求めた。「南沙諸島の埋め立てを直ちに中止してほしい」
習はこれを完全に否定した。この瞬間、翌日の本会談を前に、米中首脳会談は破綻したといっていいだろう。

南沙諸島海域での米中緊張

南沙諸島海域での中国軍による島嶼の埋め立ては平成25年(2013年)に始まっている。埋め立て開始ころから2014年春までの時系列の写真をフィリピン政府が公表したのは、昨年(2014年)5月のことだった。米国は人工衛星を使って世界中の動静をつぶさに観測、監視している。米国が中国の埋め立てに気づかなかったことなど、あり得ない。フィリピン政府が公表するよりずっと前から、米国は南沙諸島の埋め立てを知っていて黙認してきた。
今年(2015年)初頭からこの海域を、中国の海警局や海軍の艦船が頻繁に移動するようになって初めて、米国の哨戒機が異常接近し、緊張の度合いが深まっていた。そして9月末の米中首脳会談直後から、横須賀基地所属の米海軍イージス駆逐艦ラッセンがこの海域に侵入、中国海軍との間に熾烈な駆け引きを展開させている。米国の強硬な態度と令完成の極秘資料が米国に渡った時期が同じところから、さまざまな憶測が乱れ飛んでいる。
――米国は習近平体制の弱点を掌握したのではないか。令完成の資料の中には、習近平が近い将来に失脚するとする情報があったのではないか……。こうした憶測のどこまでが真実か、誰にも判断はできない。
南沙諸島問題、さらには尖閣諸島を初めとする東シナ海の問題も含め、感情的にならずに冷静に判断する必要がある。中国がこの海域で国際法に違反する行動をしているのであれば、この地域全体の問題と捉え、近隣諸国が一致して対処すべきであり、ほんらいそのリーダー的役割を果たすべき国は日本なのだ。東アジアの問題は東アジアの国々が解決するのが当然の形である。原則論や筋論だけでは解決不能との指摘も理解できる。
だが原則を軽々にすっ飛ばして米国の武力に頼るだけでは、東アジアに未来はない。

日中韓3カ国首脳会談の今後

3年半以上開催されてこなかった日中韓3カ国首脳会談が11月1日、2日に韓国のソウルで開催された。3カ国首脳会談を巡っては、直前に日程が修正されるなど、中韓の密着に日本側が振り回されるなど苦々しい思いをさせられた部分もあったが、とにかく3年半ぶりに日中韓の首脳が一つのテーブルに着いたこと、そして日中韓首脳会談が今後も定期的に継続して開催されることが決まった点は高く評価すべきである。
日程を巡っては、当初韓国側から「10月31日、11月1日開催」という打診があり、日本側はそのスケジュールに従っていた。ところが直前に中国から「李克強首相は韓国を公式訪問するのであるから、31日は中韓協議のみ」と要望され韓国はこれを受諾し、日本との協議は1日以降に延ばされてしまった。その後も日本側が提案した日韓昼食会がドタキャンされるなど日程上でギクシャクし、菅官房長官が不満を表だって口にするまでになったが、この辺りの事情は日本の主メディアは口をつぐんだままだった。韓国側の悪意というより、韓国の外交事務方の能力欠如の問題と考えていいだろう。

日中韓3カ国首脳会談の内容は思った以上に多岐にわたったが、深い内容は殆どなかった。中韓のFTA(自由貿易協定)推進に関しては両国が全力で邁進することが確認され、中韓両国メディアもこれを大きく取りあげたが、日中の間では評価すべき話し合いはなかった。また中国のメディアは中韓首脳会談に関しては大きく報道したものの、日中首脳会談が行われたことは新聞でもテレビでも一切報道されず、中国国民のほとんどは安倍晋三と李克強がソウルで会ったことすら知らないだろう。
日中首脳会談の冒頭で李克強首相が、「中日両国が正常な発展の道に戻るには、なお解決しなければならない敏感な問題が多く、道は遠い」と語ったが、ここに現状が滲み出ている。たしかに「道は遠い」のだ。しかしどんなに遠くても、乗り越えなければならない。李克強はまた「未来に向かって戦略的互恵関係を推進すべきだ」と熱く語っている。
安倍晋三もこれに応じて「平和発展への道を歩む」「日本は日中韓の経済一体化を願っており、中国とともに一日も早い三か国のハイレベル自由貿易協定の成立を願っている」と、共に未来志向の発言をしているところは評価すべきだ。

外交が世界でいちばん下手と揶揄される朴槿恵大統領だが、今回は地元の利を生かし、さらには中国のバックアップを得て「慰安婦問題」をぶつけてくることは分かり切っていた。安倍晋三は慰安婦問題を「解決済み」と切り捨て、話題にすらしないのではとの前評判だったが、安倍は、「未来志向の協力関係を構築していく上において将来世代に障害を残すことがあってはならないと考えている」(会談終了後の本人の言葉)として、この問題に関しできる限り早期の決着を目指し、交渉を加速させるとした。これにより日韓の間に突き刺さっているトゲが、やや弱まった感がする。
さらに安倍晋三は北朝鮮による拉致問題の解決を目指して中韓両国に協力を要請。これについては中韓両国とも「3カ国で連携して北朝鮮に強く促す」ことを確認している。これは今回の3カ国首脳会談の成果としていいだろう。

こんにち、中韓に少しでも近寄った姿勢を見せると「売国奴」のようなレッテルを貼られることが多い。米国と組んで中国の野望を叩き、韓国を屈服させるべきだとする奇妙な正義が大手を振ってまかり通っている。だが、それがほんとうに正しい姿勢なのだろうか。東アジアのことは東アジアが解決しなければならない問題なのだ。中国の王毅外相は米国を念頭に「地域外の大国(米国)によって日中韓の政治的な信頼が足りない」と発言しているが、これは正しい評価である。中国に媚びを売ろうとか、韓国と理解しあおうと強弁するのではない。米国の威を借りるキツネであってはならない。日本独自の外交戦略を確立しなければならないときに来ているのだ。
中東情勢や欧州、中央アジアを俯瞰しただけでも見えてくるが、政治的、経済的そして軍事的に、米国が凋落していることは明白な事実である。その米国は来年秋の大統領選を控え、大規模な対外戦略を打つことができない状況に陥る。南沙諸島の安全に関しても、米艦隊が消え日本の海自に丸投げされる可能性もあるのだ。
米国の政治・軍事力に頼ることなく、日本独自のアジア戦略、アジア外交を展開しなければならない。一般庶民であるわれわれもまた、常日ごろから日本独自外交のことを念頭に入れておくべきである。






<海外情勢>
                             2015年10月10日

中東の地図が塗り替えられる!
――米国が中東を手放すときが迫っている――



昨年(2014年)6月、中東の地に突如出現した「イスラム国(IS、ISIL、ダーイシュ)」はその後猛威を振るい、多くの地域を破壊し人びとを殺戮した。米国を中心とする多国籍軍の空爆など物ともせず、活動拠点をイラクからシリアに移し、シリア全土を滅茶苦茶に荒らした。「イスラム国」の破壊活動により、大量の難民がヨーロッパに押し寄せることとなった。このまま中東全域は戦乱に呑み込まれ、全世界を恐怖のハルマゲドンに巻き込む可能性すら考えられたが、9月になって、状況は激変し始めている。中東はこの先どうなるのだろうか。

ヨーロッパに流れ込んだイスラム国戦士

9月2日にシリア難民の3歳児アイラン君の遺体がトルコの海岸に打ち上げられ、この映像や写真を見た世界中の人びとが涙を流し、それをきっかけにヨーロッパで難民受け入れの気運が高まった。
シリアを中心とする中東やアフリカから欧州に殺到した難民の数は、第二次大戦後最大となり、9月末には16万人を大きく越えたと報じられている。その難民の中に「イスラム国」の工作員、戦闘員が紛れ込んでいるという疑惑は、かなり早い段階から浮上していた。しかし陸路あるいは海路、続々とやってくる膨大な難民について、その素性や身元を確認することなど、まったく不可能だ。英紙『デイリー・エクスプレス』はこの問題を大きく報じている。その報道によると、難民に紛れ込んで「イスラム国」の戦闘員が4000人以上も欧州に潜入したという。
中東情勢に詳しい専門家たちも「イスラム国戦闘員4000人が欧州に潜入」という情報を精度の高い情報と受け止めている。潜入した戦闘員が武器を入手する手段はいくらでも考えられ、欧州各地でテロが引き起こされる可能性が高まっている。

「イスラム国」潰しに動いた諸勢力

9月中旬に国際テロ組織であるアルカイダの最高指導者ザワヒリは、「イスラム国」の指導者バグダディを「偽物のカリフ」であると発表した。カリフとは預言者ムハンマド(マホメット)の後継者のこと。バグダディは「イスラム国はカリフ制国家」であり、「自分がカリフだ」と宣言していたのだが、同じイスラム教徒であるアルカイダNO.1のザワヒリが明確にこれを否定し、「バグダディのイスラム国はパレスチナ自治区などイスラム国の支配地以外ではイスラム教徒を支援していない」と厳しく批判している。アルカイダも「イスラム国」を敵と見なし、その殲滅を求めている。アルカイダに限らず「イスラム国」を敵視する国や組織は多く、物理的な攻撃も行っているが、その成果は現れていない。
昨年(2014年)9月以降、オバマ大統領は「イスラム国根絶」を目標に掲げ戦闘を開始した。米空軍機を中心に湾岸各国の爆撃機、戦闘機、あるいは無人機が「イスラム国」の拠点を空爆し、これまでにイラクとシリアで5万3000回の出動と6700回の空爆が行われたとされる。この作戦には合計37億ドル(約4440億円)が投入され、大規模な軍事攻撃が繰り返されたのだが、「イスラム国」に甚大な被害を与えたという実績は、残念ながらほとんどなかった。いっぽうで、米国と同盟国による「イスラム国」攻撃の結果、民間に大きな被害が出ており、一般人の死者数も600人に達している。
シリア政府軍と敵対し、同時に「イスラム国」とも敵対しているシリア反政府軍の装備と訓練に、米政府は5億ドルを投入することを決定。さらに「イスラム国」と地上戦を戦う兵士をトルコ、ヨルダン、サウジ、カタールで集め、今年中に5000人規模の軍隊を準備する予定があるとされる。しかし米政府が肩入れしている軍団だが、最初に作られたグループ54人は「イスラム国」の攻撃を受けて壊滅。現在は200人しか集められておらず、先行きが危ぶまれている。
米国も同盟国も、昨年から1年以上にわたって「イスラム国」を壊滅させようと努力してきたように見えるが、膨大な戦費を使ったものの、成果はゼロに等しい。

「イスラム国」を支える米国軍産複合体

本紙は以前から「イスラム国」の背後に米国とイスラエルが存在していると書いてきた。バグダディが重傷を負ったときにはイスラエルの病院に逃げ込んでおり、イラク軍はそれを確認し公表もしてきた。米軍は「イスラム国」と戦う相手に武器弾薬を支援するといいながら、(意図的に)間違えて「イスラム国」に武器弾薬を空から投下していた。
こう記すと「米国の背後にはユダヤ国際金融機関が存在し、彼らが米国を操っているのだ」と納得する人がいるかもしれない。あるいは「米国という『会社』の社長はオバマだが、実権を持つオーナーは軍産複合体だ」と、したり顔で解説する人もいるだろう。だが実際はそれほど単純ではなく、米国内部もいくつかに分裂している(とはいっても滅茶苦茶に複雑なわけでもない)。
イスラム国を支援し、彼らに武器弾薬を与え、中東を混乱に導いているのは米国の軍産複合体である。そして軍産複合体とは目標が多少異なっているが、とりあえず同一歩調をとっているのがイスラエルだと考えるとわかりやすい。この状況打開に、軍産複合体と対立するオバマ大統領はイラクと核協約で妥協し、さらにシリア問題の処理をロシアに投げかけた。オバマにとっては米国内部での政争に勝つためには、何としても軍産複合体を叩く必要があり、「肉を切らせて骨を断つ」覚悟でロシアとの協調を選んだのだ。この一事だけを見ても、米国が一枚岩ではないことが理解できる。

プーチン大統領がアサド政権を支援

9月28日の国連総会で、ロシアのプーチン大統領は演説の大半の時間を中東情勢に回し、「極めて危険な組織である『IS(イスラム国)』と戦う国際戦線の設立」を呼びかけている。その演説の中でプーチンは「アサド敵視をやめてシリアを安定させないと、欧州への難民の流れも止められない」とも語っている。プーチンのこの演説より1週間ほど前には、米国のケリー国務長官がロンドンでハモンド英外相と会談し、「シリア内戦の解決には政治的な安定が必要」との認識を示し、「国民から支持されていないアサド大統領の退陣」を求めている。
米英政府がアサド退陣を求め、ロシアがアサド支援にシリア内戦に介入することで、米露両軍が偶発的に衝突する可能性が出てきている。これを見越して米カーター国防長官と露ショイグ国防相は電話で会談している。米露両国のハイレベル接触は昨年3月のウクライナ危機で凍結され、今回はそれ以来の接触となった。しかし両国の駆け引きは、まだ始まったばかりだ。じつのところ、米露両国を最終戦争の舞台に引きずり出したいと考えている勢力は、シリア内戦にロシア軍が出張ってくることを期待している雰囲気がある。欧州に流入したに違いない「イスラム国」戦闘員の問題も含め、中東情勢は綱渡り状態が続き、いつ何が起きても不思議ではない。

ロシアがシリアの「イスラム国」を空爆

プーチンの国連総会演説の2日後となった9月30日から、ロシア軍機はシリア国内の「イスラム国」拠点やアルカイダ系のアルヌスラ戦線などを空爆した。どちらの組織もアサド政権と敵対するもので、空爆は3日連続で行われ、ロシア軍の発表では60カ所が爆撃されたという。60カ所のうち50カ所が「イスラム国」の拠点で、とくにラッカにある「イスラム国総司令部」の爆撃にはバンカーバスター弾が使用され、総司令部は完全に破壊され、同時に近くにあった武器弾薬庫も大爆発により消失したと発表されている。米国や同盟国の執拗で大規模な1年余の攻撃にビクともしなかった「イスラム国」だが、わずか3日間のロシアの空爆で致命的なダメージを受けてしまった。
「イスラム国」の兵士たちは家族を安全な地方や隣国に避難させ、また欧州各国から戦場にやってきていた600人の兵士は、自分の故国に戻ってしまったという。ロシア政府は今後もしばらくの間、同様の空爆を継続させると発表しており、あれほど頑健だった「イスラム国」が崩れ始めている。ロシアはさらに、イラクだけではなくイラン政府にも働きかけ、イラクの首都バグダッドに「対イスラム国戦情報収集センター」を設立した。この結果、ロシアとシリア、イラク、イランは完全に歩調を揃え、「イスラム国」殲滅に邁進することは間違いないだろう。この4カ国の強固な結びつきは、これまでの中東には見られなかった形式だ。そしてここにはさらにクルド系武装組織も加わりそうなのだ。

ロシアによる「イスラム国潰し」を演出したオバマ

これまでの1年余、米軍中心の対「イスラム国」掃討戦は効果がなかった。軍産複合体の支配下にある米軍本流は「イスラム国」を本気で潰そうとは考えず、むしろ支援しようとしてきた。同盟国のサウジやヨルダンなどは、米軍の情報を元に「イスラム国」の拠点を空爆してきたが、ほとんどのところで無人の砂漠を爆撃するだけに終わっていた。
ロシアの空爆は米軍とは違って、本気で「イスラム国」を潰しにかかったものだ。問題はこの先、シリア政府軍を支援するロシアと、反政府軍やこっそり「イスラム国」を支援している米軍が正面衝突する可能性があるか否かだ。じつのところイスラエルは本気でその演出をしたがっているし、軍産複合体が待ち望んでいる大戦争でもある。しかし米露両軍の激突の可能性は恐ろしく低い。ゼロに近いか、または完全にゼロだろう。なぜか。ロシア軍による「イスラム国」空爆の3日前、プーチンの国連総会演説の日にプーチンとオバマが会談しているからだ。
もともとシリア内戦を早期に収束させようと、ロシアを引っ張り出したのはオバマ大統領である。オバマは軍産複合体との政争に勝つためにロシアを引きずり出し、そして勝利した。黒人大統領オバマの見事な勝利の結果が「イスラム国」の落日に繋がっているのだ。

米国隷属情報しか流さない日本の大マスコミ

米欧だけではなく、日本のマスコミは軒並み、中東とくにシリアの内戦に関しては米国を評価し、ロシアを悪者扱いしてきた。米国を高評価しロシアを叩くことは、米ソ東西冷戦時代から続けられてきた「正義」だと勘違いしているマスコミや評論家たちが、いまだ日本では圧倒的なのだ。しかしシリア内戦、対「イスラム国」戦に関しては、ロシアの手法は理にかなったもので、米国のやり方は間違っている。
米国や同盟国は、国連安保理の決議など得ずに、しかもシリア政府を無視して、シリア国内を空爆していた。これは国際法上、完全に違法である。いっぽう今回のロシアによるシリア国内の空爆は、シリア政府の要請に従ったもので、国際法上は合法である。米国が「国民の支持のないアサド政権を守るために空爆することは許されない」とロシアに怒りをぶつけているが、これは法を守らない側の言いがかりである。日本の国際ジャーナリストとか大マスコミの解説者のほぼ全員が米国べったりの評論を繰り返しているために、中東情勢が見えなくなっている。そうした意味ではネット上の情報には正しい評価が多い。(たとえば最近では『MAG2NEWS』で「右翼よりも重症…日本人ジャーナリストたちの『米国への属国根性』http://www.mag2.com/p/news/118965」といった記事などがある。)

中東はロシアの手によって安定する

露外務次官ミハイル・ボグダノフはシリア問題解決のための会議を10月中に開催すると発表した。この会議は「コンタクト・グループ会議(連絡先集団会議)」と名づけられ、ロシア以外に米国、エジプト、イラン、トルコ、サウジアラビアの計6カ国で構成されるという。
当初、アサド大統領潰しのために米国と歩調を合わせていたトルコとサウジは、プーチンの説得に応じ、米国はもはやアサド政権継続もやむなしの状況に陥っている。難民が押し寄せて治安の悪化に悩む欧州各国は、プーチンの「シリアが安定しなければ難民危機は解消できない」という言葉に乗り、アサド政権を容認する方向に向かっている。とくにドイツのメルケル首相はプーチン案に好意的で、シリアでロシア軍が主導する多国籍軍(国連軍)が活躍する可能性も多分に出てきている。シリアでのこの方策が成功すれば、南スーダンでもマリ、ダルフール、コンゴでも同じ手法で問題が解決すると考えられる。中東やアフリカ各国の安定は、もはやロシア主体でしか考えられないのだ。
さらにシリアでのコンタクト・グループが成功すれば、ウクライナは間違いなく安定の方向に向かうだろう。とはいえ、安定を望まない強力な勢力が消えたわけではないので、世界が安定安寧に向かっているとは言い難いが。

世界の全体像を大雑把に理解すべき

日本の大マスコミ、有名評論家、ジャーナリストたちは「親米」あるいは「米国隷属」であって、中立的な判断が出来ない。「安保法制」では半世紀も前の反米闘争のような雰囲気を見せながら、全体的な国際情勢判断では完全に米国隷属の愚かな提灯持ちと化している。ヨーロッパで、ウクライナで、中東で、そしてアフリカで何がどのように進んでいるのか、大雑把に全体像を把握する必要がある。
とはいえ、それをここで開示するには紙幅もない。いきなり結論を言うなら、米国従属路線を直ちに放棄すべきだということだ。お断りしておくが、だからといって中国と手を組めなどとはいわない。日本の独自外交を切り拓くか、それが出来ないのであれば全方位外交を展開しろということだ。そしてわれわれ庶民大衆は声を大にしてその方向を支持することだ。
今回の対「イスラム国」戦に関して、中国はまったく関与しようとはしていない。しかしじつのところ、ロシアがシリアで力強く動くことが可能なのは、ウクライナ危機で欧州にエネルギーを売ることが出来なくなったとき、欧州に代わって中国が石油やガスを買って経済的に支援したからである。また中国は国連平和維持軍への参加の拡大を表明し、新たな兵力を南スーダンなどアフリカに派兵することを表明している。これまで米英主導で展開されていた世界平和の枠組み、行動に、ロシアと中国が大きく関与するようになるはずだ。安保法制の確立により、日本の自衛隊の海外派兵の道筋が作られたが、それは自衛隊がロシア軍や中国軍と行動を共にする可能性が強まったことを意味している。
経済的苦境のため、米国が世界の指導者の座を降りることは百パーセント間違いのない話である。ロシアや中国、あるいはEUが、米国に代わるわけではない。世界は集団指導体制のようになる。米国隷属を続ける限り、日本に未来はない。一刻も早く米国とのしがらみを断ち切り、真の独立国家にならなければならない。そのために庶民が声をあげるべきなのだ。






<海外情勢>
                               2015年8月20日

大欧亜共栄圏を目指す中国
――地政学に基づく巨大な夢を追う国家――


8月11日から3日連続で人民元が切り下げられ、中国の経済不安が話題となった。中国は変動相場制を採っているが、為替相場を人民銀行がコントロールできる体制が敷かれている。
8月11日から人民銀行が為替相場をより透明度の高い「中間値方式」に切り替えた結果、人民元の評価が下がり、3日連続の対ドル下落となったのだ。中国経済は先行きが不透明で、危険視されているが、今回の対ドル下落は「人民元の米ドルからの離脱」「中国の米国離れ」を演出する政策的な意味合いが強い。経済面に限ったものではなく、政治・軍事を含め精神的な面でも、中国は米国からの離脱を考え、遠大な夢・巨大な野望を抱いて邁進している。
そんな中国の本心を探ってみよう。 

地政学に生きる習近平中国

近代地政学の祖と呼ばれるマッキンダー(Sir Halford John Mackinder)が第一次世界大戦(1914~1918年)後に発表した 『ハートランド理論』 という地政学理論がある。こんにちの中国の動きを理解するには、まずこの理論を理解する必要がある。

ランドパワー(大陸勢力)とシーパワー(海洋勢力)の対立という地政学の命題にあって、英国生まれのマッキンダーは、大陸国家が覇権を握ることを阻止するために英国が何をすべきかを考えた。そのマッキンダーが辿り着いたのが 『ハートランド理論』 である。これは要約すれば、以下のようになる。

「東欧を制する者はハートランド(中軸地域)を制する。ハートランドを制した者はワールドランド(ユーラシア)を制する。ユーラシアを制する者は全世界を掌握する」
これは具体的には 「バルカンを制し、クリミアを制すればユーラシアを制覇できる」 と読み解くことができる。

この理論を呑み込んで進化した理論がスパイクマン(Nicholas J. Spykman)の 『リムランド理論』 である。スパイクマンはオランダ系米国人で、北方ユダヤ系の末裔。彼は米国が覇権を握るためには、海洋国家・英国と手を結び、大陸国家を制しなければならないと説いた。「リム」 とは自転車の車輪の金属部分のことで「外縁」と訳される。スパイクマンの 『リムランド理論』 を要約すると以下のようになる。
「シーパワー国家は、リムランドを制することができればユーラシアを制することができる。ユーラシアを制すれば全世界に君臨する」

スパイクマンがこの論を唱えたのはマッキンダーの 『ハートランド理論』 の後のことで、第二次大戦勃発前の話だ。この時点でスパイクマンは、ギリシアとトルコを離反させ、それぞれを米英シーパワー勢力が掌握すること、日本・朝鮮半島・中国大陸をそれぞれ離反させ、米英のコントロール下に置くことを説いている。じつに現在と同じ状況と考えていいだろう。
こんにちの米国の地政学はスパイクマン 『リムランド理論』 の延長上にあり、ロシアも中国もそれを十分理解している。地政学は 『ハートランド理論』 『リムランド理論』 以降も進化を続けているが、習近平主席は明らかに新たな地政学的見地に立って中国を動かそうと考えている。その表れが 『一帯一路』 構想であり、そのために AIIB (アジア投資インフラ銀行) 設立が必要なのだ。

新シルクロード 「一帯一路」 の全貌

習近平が第7代国家主席に就いたのは2013年3月。その半年後、初の外遊先として中央アジアを訪れた習近平国家主席は 「シルクロード経済ベルト」 構想を発表。翌10月にインドネシアを訪れた折りには 「21世紀海のシルクロード」(真珠の首飾り)構想をぶち上げている。
「シルクロード経済ベルト」 構想とは陸のシルクロード構想ともいうべきもので、中国から3つの陸路を想定し、それらをすべて鉄道で結ぶ(新たに鉄道を敷設する)という壮大な計画。「21世紀海のシルクロード」 は2つの海路を開発する計画である。
それは具体的には、

◆陸のシルクロード
①連雲―西安―クリミア―モスクワ―アムステルダム
②重慶―クリミア―イラン―トルコ―地中海沿岸―イタリア(ベネチア)
③重慶―ベトナム―ミャンマー―インド―パキスタン―アフガニスタン―イラン

◆海のシルクロード(真珠の首飾り)
①連雲―南シナ海―マレーシア―インド―スエズ運河―地中海―アムステルダム
②上海―南シナ海―フィリピン―ブルネイ―南太平洋諸島

陸路3ルート、海路2ルートの開発構想をまとめて「一帯一路」という。
ここで注意すべきは、陸のシルクロードのハブ(結束点、拠点)としてクリミアが選ばれた点と、海のシルクロードの拠点が南シナ海である点だ。習近平が 「シルクロード経済ベルト」 構想を語ったのは2013年9月のことで、ロシアによるクリミア併合はその5カ月後の2014年2月だった。

利をもって利となさず、義をもって利となす

習近平の 「一帯一路」 構想の基になっている歴史的事実がある。
漢(前漢)の武帝の命により大月氏国に向かい、結果的に西域との交易ルートを開拓した張騫(ちょうけん)の史実と、その1500年後、明の永楽帝の命により南シナ海からインド洋、アフリカ大陸までの海を制覇し、大交易ルートを開発した鄭和(ていわ)の活躍譚である。
漢の張騫も明の鄭和もカネ儲けを目的として陸路や海路を開拓したわけではない。
漢が大月氏国と同盟を結び、その間の匈奴を挟撃しようという軍事的目的で張騫は大月氏国に向かった。途中で匈奴に捕まるなど紆余曲折があり、やっとの思いで大月氏国に辿り着いた張騫だったが、大月氏国は漢との同盟を拒否したのだ。しかし張騫のお陰で西域交易ルートが活発化し漢は潤った。

鄭和は全長100mとも120mともいわれる超大型旗艦 「寶船」 を操り、7度の大航海を成功させ、その結果、明に朝貢する小諸国が莫大な数に上った。当時の明は、朝貢してくる国に対しては 「10倍返し」と呼ばれる下賜を行ったため、朝貢諸国の増大は明王朝の財政を圧迫したが、モンゴル帝国元に代わって漢民族が支配する王国として、明の正統性を世界に知らしめ、結果的に明は繁栄することになった。
目先の利を追うのではなく、義を以てユーラシア全域貿易網を構築する。習近平の掲げる理想は、まさに儒教 『大学』 中にある 「利をもって利となさず、義をもって利となす」(原文「此謂下國不以利為一利、以義為上利也」=読み下し文=これ国は利を以て利と為さず義を以て利と為すを謂うなり)にある。

中国 「百年の夢」

習近平中国は2つの 「百周年」 を盛大に祝い、国家を繁栄させる夢を持っている。2つの百周年とは 「中国共産党設立百周年の2021年」 と 「中国建国百周年の2049年」 である。
習近平は 「共産党設立百周年」 の2021年に向けて、「所得倍増計画」 を発表している。その内容は中国人の平均年収を2010年当時と比較して倍増させることである。かつて池田隼人首相がぶち上げた所得倍増計画をなぞったものだが、人民に与える夢としては効果がある。ちなみに2021年に所得が倍増されたとして、その金額は年収1万3000ドル(約160万円)である。これを中国では 「小康社会」 と呼び、その小康社会達成を実現しようと意欲的なのだ。
もう一つは 「建国百周年」 の2049年だ。中国はここに向け途方もない巨大な夢を掲げている。それが 「大欧亜共栄圏構想」 である。かつて大日本帝国が掲げた大東亜共栄圏構想をなぞり、東アジアではなくユーラシア全域に拡大したものだ。この大欧亜共栄圏を達成するために、中国大陸の東端からオランダのアムステルダムに至る陸のシルクロードと海のシルクロード構想が作られたのだ。
ここには経済優先とする姿勢はまったく存在しない。存在するのは 「世界の中心・中国の自負心」 であり、巨大な夢想なのだ。

夢を阻むもの

中国が掲げるこの巨大な夢の達成には障壁がある。障壁のうち巨大なものは、①腐敗した党 ②経済的苦境 ③老齢化 の3点である。他にもあるのだが、大問題となっているのがこの3点なのだ。

習近平は就任以来、「虎も蠅も叩く」 と表現される汚職、腐敗追放運動を展開してきた。人民解放軍上層部や共産党幹部が次つぎと逮捕され、その総数は6万人に及ぶという。その中には周永康や郭伯雄といった超大物も含まれていたが、最近では胡錦濤前首席の秘書官だった令計劃・党中央委員まで逮捕されている。令計劃は日本でいえば菅義偉官房長官を凌ぐ実力者。令計劃の逮捕で、胡錦濤だけでなく中国共産党の権威が地に堕ちてしまった。

中国に限らずアジアの国々では賄賂、汚職はいわば当然のようなものだが、現在の中国共産党は史上最悪と囁かれている。かつて 「最高に腐敗した王朝」 と呼ばれた清王朝を越え、「中国史上最悪」 と悪名高かった蔣介石・国民党政府ですら 「2割の清貧な政治家、軍人を擁していた」 という。それが現中国共産党は 「99%ではなく、100%が汚職腐敗分子」 というのだ。多少はオーバーな表現かもしれないが、そんな共産党政権下で 「虎も蠅も叩く」 汚職摘発を続けたら、最後は一人もいなくなってしまう――それほど汚職の蔓延が酷い状態にある。習近平の夢を壊す最大のものは、この汚職塗れの政治家、官僚、軍人たちだろう。金融財政問題も、習近平の夢をぶち壊す要因になっている。

中国の不動産バブルの崩壊、増大する地方債務を直視すれば、中国経済に黄信号が灯るといった状態を越え、「ハードクラッシュ(崩落)間違いなし」 と判断したくなるところだろう。現実に政府性債務の総額30.3兆元(約600兆円)に達している。そのうち中央政府の債務は12兆4000億元、地方債務は17兆9000億元である。しかし同時に中国は世界最大の米国債保有国であり、世界第二位のGDPを誇っている。14、15億人の市場がある以上、カネが回転しはじめたら、この程度の債務などあっという間に吹き飛んでしまう。「一帯一路」 計画は、そのための 「中国版ニューディール計画」 ともいえるだろう。だが、ここに汚職腐敗分子が蠢いたら、経済復活などあり得ない。習近平の汚職摘発運動がどこまで進むか、そこに掛かっている。
汚職とは別に、中国にはカネ食い虫が存在する。南シナ海の「埋立地」問題である。

海のシルクロード(真珠の首飾り)構想の拠点(ハブ)でもあり、軍事的に最重要ポイントである南シナ海の南沙諸島スビ礁やファイアリー・クロス礁などで、中国は人工島を作り滑走路を建設している。周辺諸国がこれを問題視し、米国も人工衛星からの監視を続けているが、この人工島の埋め立てには膨大な砂が必要。当初の計画では周辺の海砂で賄えるはずだったが、思いのほか砂を必要とし、最近では中国本土の山を切り崩して南沙諸島まで運んでいる。その費用が1兆数千億円となっているのだ。
しかし、こうした問題より遥かに重大で根源的な問題がある。老齢化である。

ついに始まった中国の 「老齢化」

習近平は 「2021年までに所得倍増」を掲げ、それを 「小康社会の達成」 といっている。2021年までに中国の平均年収が日本円で160万円になることは、不可能ではなさそうに思える。ところが実際はかなり厳しいのだ。立ちふさがるのは老齢化問題である。
中国の河南省を訪れたことが何度かあるが、広大に広がる畑で農作業をしているのは、いつも老人ばかりだった。河南省に限ったものではなく、中国の農業人口は激減しており、しかも支えているのは老人ばかりなのだ。中国はご存じの通り食糧自給はできておらず、輸入に頼っている。このまま農業人口が激減すれば、非常に近い将来、田畑は荒れ果て、農業生産は最悪の状態を迎えるだろう。

日本では団塊の世代が後期高齢者となる2025年問題が熱く語られ、これに関する書籍も何冊も出版されている。しかし中国の老齢化は、まもなく日本に追いつき、一気に抜き去るほどの勢いなのだ。理由は中国が36年前から始めた 「一人っ子政策(一孩政策)」 のためだ。中国の生産労働者人口(満16歳以上満65歳未満)は2015年すなわち今年の6月30日をピークとして、以降減少に転じている。
「小康社会」 が実現する前に中国には 「未富先老」 がやってくる――所得倍増より前に人民が老いてしまうという話が聞こえてくる。

中国・ロシアの 「核兵器」 を封じ込める米国

マッキンダーの地政学 『ハートランド理論』 やスパイクマンの 『リムランド理論』 を理解し、それを呑み込んだところに習近平の 『一帯一路』 構想があるという話を冒頭部で説明した。陸のシルクロード構想のハブ(結束地)がクリミアであり、ロシアによるクリミア併合事件の原因の一つは、地政学的な闘争であることもご理解いただけたと思う。
スパイクマンの理論を継承すれば、米英は大陸国家の覇権を阻むために 「ギリシア×トルコ」 を対立させ、それぞれを米英のコントロール下に置く必要がある。そして極東では 「日本×朝鮮半島×中国」の対立である。
2014年に起きたクリミア併合、ウクライナ内戦といった危険な状況下で、ロシアのプーチン大統領は「忘れてはならないことがある。ロシアは核大国なのです。ロシアは今回、核戦力に臨戦態勢をとらせることも検討した」 と発言して物議を醸したが、これに最も反応せざるを得なかったのは米国である。

敵の核ミサイルからわが身を守るのはMD(ミサイル防衛)システムである。
米国最高のMDは 「終末高高度防衛ミサイル」 通称サード(THAAD)と呼ばれ、飛来する敵ミサイルを大気圏外で赤外線画像シーカー(目標探索装置)によって捕捉、迎撃する。
ウクライナ危機が勃発した2014年夏以降、米国はトルコに基地提供を求めた。終末高高度防衛ミサイル・サードを配備するためである。これをトルコに配備しておかないと、万が一ロシアとの間に核戦争が起きたときに、敵ミサイルを撃墜できない。しかしトルコのエルドアン大統領は米軍への基地提供を頑なに断り続けた。そうしたなか、今年に入りIS(通称 「イスラム国」 ISIL、ISISともいう)の攻勢が厳しくなり、ついに7月23日、南部のインジルリク空軍基地の使用を許諾したのだ。
米国が終末高高度防衛ミサイル・サードを配備したがっているのは、トルコだけではない。トルコの基地は、いわば対ロシアの前線基地である。対中国を考える米国としては、朝鮮半島にサード・ミサイルの基地を置きたい。そこで2014年2月以降、米軍は韓国にミサイル基地設置を企画し用地調査を完了。朴槿惠大統領に基地設置許可を要請している。しかし朴槿惠は8月20日現在、回答を保留している。おそらく9月3日の対日戦争勝利記念式典までは答えを出さないだろう。

中国とロシアが結託、米英シーパワーとの対峙が本格化

スパイクマンの 『リムランド理論』 に則ったものか、あるいはその発展系かは不明だが、米英はシーパワーとして結束し、ランドパワーの大陸国家を締め付けている。そうした状況下、当然のことだがユーラシアの大陸国家である中国とロシアが手を握り、米英勢力と対峙する。
今年(2015年)5月に中国とロシアは地中海で合同軍事訓練を行い、それを世界に大々的に報道した。この報道発表こそ、米英に対する圧力である。この合同訓練では中ロ両国は高性能レーダーやミサイルシステムなどの完全共有化、潜水艦ソナー・デジタル情報等々の完全同時・即時共有化を果たし、世界に向けて 「地中海は中国とソ連が守る」 と宣言したのだ。

さらに中国は、米国が誇る終末高高度防衛ミサイル・サード・システムを破壊する兵力の保有を公言。それが大型戦略爆撃機 「戦神」(H-6K)である。航続距離2000Km以上、巡航ミサイル「長剣10(射程2500Km)」を搭載し、朝鮮半島、日本全土、グアム島が射程圏内に入っている。戦略爆撃機 「戦神」 専用の飛行場を現在南京郊外に建設中で、滑走路が延びる衛星写真は米軍が現在精査中だ。
また多少余談になるが、中ロ地中海合同軍事訓練の直前にモスクワで行われた対独戦勝利70周年記念軍事パレードにロシアの新型戦車T14アルマータが登場し、世界中の軍事マニア、戦車研究家、軍事マスコミを驚かせた。この新型戦車はステルス機能を有し、様々な共通情報を瞬時に入手して作動する、まさに 「まったく新たな戦車」 だというのだ。米国は中国を仮想敵国と捉えている。9月には習近平国家主席が訪米する予定だが、その米国の対中国政策はいま大きく変わり始めている。

対中国政策を変更する米国

元国防総省顧問で中国担当だったマイケル・ヒルズベリーが今春、『中国100年マラソン』 と題したレポートを提出。ここには日本の反原発運動にさまざまな形で中国が関与していることや、同様に日本のロケット開発阻止運動にもいくつもの面で中国が関与していることなどを報告し、「中国は米国に代わり世界の超大国を目指している」 と結論づけている。

1980年代後半から、米国は中国に大きく期待し、世界を牽引していくパートナーと捉えていた。そこには前世界銀行総裁のR・ゼーリックによる 「中国期待論」 が大きく影響していたと考えられる。この「中国期待論」 に基づいて、これまで米国は中国を以下のように分析し、その分析に基づいてパートナーに仕立てようとしてきた。

①中国を、世界安定に寄与する協力的な国に導く。民主主義国家と協調させる。
②中国は非常に緩やかに民主主義国家への道を歩んでいくだろう。
③中国は環境問題、貧富格差、教育格差等の大問題を抱える脆弱な国家である。
④中国は米国を羨み、米国のようになろうと希望している。
⑤中国にも愛国強硬派が存在するが、その勢力は無視できるほど弱い。

以上の5本の柱に沿い、中国を遠くから眺め、温かい目で育てていこうと考えてきた。ところが最近、米国の中国に対する見方が大きく変わってきている。まず第一に、これまで25年以上にわたって続けられてきた上記5本の対中国政策を 「間違っていた」 と結論づけ、「新しい対中国政策を立て、早急に実行に移す」 というのである。
米国の対中国政策がどのように変わったのか、正確にはわからないが、推測は可能だ。今年(2015年)4月に米外交問題評議会(CFR)が提出したレポート 『中国に対する国家戦略の変更』 を読めば、米政府の対中国政策が理解できる。さらにCFRのこのレポートが提出された前後から、ホワイトハウス、ペンタゴン、CIAなど政府関係機関から親中国派、中国系米人が次つぎと締め出されたことからも、米国の真剣で強硬な対中国政策を伺い知ることができる。またこの直後から、中国国内のいわゆる 「人権派弁護士」 などが逮捕、拘束されたことも、米中関係の現状をよく物語っている。因みに中国国内のいわゆる人権派弁護士、民主活動家のほぼ全員は米国の私人、私企業から資金援助を受けているが、カネを出している私人、私企業を辿ればCIAに辿り着くことができるものなのだ。

今年4月にCFRが提出したレポート 『中国に対する国家戦略の変更』 の中に、「中国は対米戦略を以下のようにするだろう」 という予測がある。これを読めば、CFRが立てた米国の対中政策をより明確に推察できると思われる。CFRが予測する 「今後の中国の対米戦略」 は以下の5点である。
①米国とアジア同盟国との分断を図る。ターゲットは第一に韓国、第二に日本。
②「アジアの安全保障はアジア人の手で!」 と叫び、アジアから米国排除を目指す。
③アジアにおけるバランス・オブ・パワーを根底からひっくり返そうと企図。
④あらゆる手法により米国をアジアの指導者の座から引きずり下ろす。
⑤米国の死活的利益を一気に弱める。

国家 『百年の夢』 に邁進する中国、足元すらおぼつかない日本

 『一帯一路』 による大欧亜共栄圏の夢を追う中国は、一般日本人の想像を超えて、現実味をもってこの事業を実現させようと考えている。汚職塗れの党、破綻直前の経済、老齢化する社会、それらの危機をすべて呑み込み、ロシアと手を組んでユーラシア覇権を掌中に収めようと画策している。
2021年の共産党設立百周年、2049年の建国百周年という節目の年を夢として国民に与え、遥か100年先、200年先を遠望している。
ふり返って、わが日本国はどうなっているのか。安保法制議論も噛み合わない議論に終始し、憲法改正問題など夢のまた夢。国際情勢の分析も中途半端で、素人情報通が意味不明の戯言を口にし、足元すらおぼつかない。

中国が日本の海上自衛隊の艦船を攻撃するとか、尖閣諸島に攻め込んでくるなど、漫画のような物語を本気で信用する日本人が実際にいるのだ。信じられないことに、安保法制が通れば日本に徴兵制が敷かれ、戦争が始まると心配している人が実在しているのだ。笑い話では済まされない。まったく世界の実情を知らないから、そんなバカ話を真剣に受け止めてしまう。日本から夢が消えている。
上海市場の暴落を期待し、中国の金融崩壊を対岸から眺めているような愚かな日本人になることだけはやめよう。少なくとも中国のトップは国家百年の夢を提示している。
それを越える壮大な夢を、日本人が持てない筈はない。






<海外情勢>
                              2015年4月6日

習近平の「本気の腐敗追及」で
革命的変化を遂げつつある中国の現実


「蠅も虎も」と評される汚職・腐敗追及運動が展開される中国。これまでは、「単なる権力闘争の一環」「適当なところで手打ち(仲裁)が入るだろう」と高をくくって傍観していた周辺諸国も、習近平が本気で革命的腐敗追及を行っている現実に驚愕し、変貌を遂げつつある中国に刮目するようになってきている。いま中国では何が起きているのか。

中国の「激変」を実感した木寺大使

中国はいま恐ろしいスピードで変わりつつある。2年前と1年前では、中国事情はまったく違う。1年前と現在では、さらに違う。ちょっと前の中国を知っている人間が、以前の感覚で中国を考えたら、誤った判断を下してしまう。

そんな中国の現状を駐中国・木寺昌人大使が見事に分析している。

木寺大使の発言をご紹介するが、その前に木寺昌人氏が駐中国大使となった経緯が興味深いので、ご紹介しておこう。

木寺昌人。昭和27年生まれ。東大卒。外務省入省、中国課配属。フランス語研修を経て経理畑を歴任。平成4年には日中国交正常化20周年記念に関する業務に就いた経験はあるが、中国とは無縁の立場にいて、フランス語が堪能なことから平成6年の天皇皇后両陛下訪仏の際の通訳を勤めている。平成13年には駐フランス公使となりフランス国際関係研究所客員研究員も兼ねた。平成24年には内閣官房副長官補に昇進。入省したとき中国課に配属されたこと、国交正常化20周年記念事業に関わったことを除き、中国とはまったく無縁で、ずっと経理畑を歩んできた人物だった。

平成24年当時、尖閣諸島問題や中国総領事館移転問題で日中関係は凍りつき、平成22年から駐中国大使を勤めていた丹羽宇一郎が両国間の狭間で立ち往生することが多々見られた。丹羽大使は元伊藤忠会長、元日本郵政取締役だが、中国では商人が政治に口を挟むことを嫌う風潮がある。政治の世界に商人が出張ることを忌避し、政治世界では商人を馬鹿にする雰囲気がある。正常な状態にあれば問題ないことだが、日中間が冷たい対立をしているときの大使として、伊藤忠出身の丹羽宇一郎が不適格だった可能性は否定できない。政府は平成24年9月に丹羽大使を更迭し、代わって西宮伸一外務審議官を大使に抜擢した。

西宮伸一は公使、大使経験も豊富で、米国と中国の事情に詳しく、両国に幅広い人脈を有し、TPP交渉でも関係各国との調整に辣腕を振う人物だった。その西宮が中国大使の辞令を受け取った2日後に渋谷区の路上でとつぜん急性心臓麻痺で倒れ、帰らぬ人となってしまったのだ。新任された直後の大使の路上急死事件は大きく報道され、「暗殺ではないのか」といった噂まで出たほどだった。

日中間の関係が微妙な状態で、丹羽大使が更迭され、新大使に任命された西宮が急死!

この事態に政府は大慌てで新たな大使を任命した。それが中国語も話せず、中国のことなどまったく理解していない木寺昌人だった。

平成24年の年末、12月25日に急遽北京に赴任した木寺大使は、初めて目にする中国に些か戸惑ったようだ。赴任して3カ月後には全人代が開催され、ここで正式に習近平国家主席以下、現中国の閣僚が決定された。このとき北京に駐在する各国大使は午後に招集がかかり、人民大会堂で習近平新国家主席、李克強新首相らと挨拶をして握手するという恒例の行事が行われた。木寺大使の順番は121番目。なんと5時間も待たされての、習国家首席との挨拶、握手となった。もっとも習主席以下の要人たちは6時間以上もかけて各国大使と挨拶を交わしたのだから、どちらにとっても大仕事だった。

現在の中国を物語る5つの「キイ・ワード」

とつぜんの辞令を受け、木寺大使が北京に赴任して2年余りが経った。白紙の状態で北京に行った大使は、いまどんな感想を持っているのか。それについて木寺大使は中国国際放送局や共同・時事通信社、日本のマスコミ各社のインタビューに積極的に答えている。それらをまとめると、木寺大使が読み解いた興味深い中国情勢が見えてくる。大使は以下の「5つのキイ・ワード」で中国を表現している。その5つとは――。

①早い
変化が早い。2年前と現在では、考え方、あり方すべてが激変している。「中国とはこんなもの」と思い込んでいる日本人は、その変化を理解しようとしない。

②重たい
日中関係は恐ろしく重たい。日の丸の旗を立てた大使が乗る車を見ると、笑顔で談笑していた人々の視線が冷たく重いものに変わる。日中間の空気は恐ろしく重たい。日中関係の悪化状況は、簡単に修復できるものではない。

③強い
中国人同士の「絆」は想像を遥かに絶する強さがある。「宗族」の連帯の強さだ。この想像を絶する「結びつき」を理解しないと、中国が見えない。

④長い
歴史観、未来観が長い。ずっと先のことを見ている。物事を長い目で見る。

⑤世代間に差がある
中年以上は反日、嫌日。だが若い層は日本に好感を持つ。かつて特別の事情がない限り、日本語を学ぶ者はほとんどいなかった。ところがいまは、日本語を学ぶ若者が多い。その大半は「アニメを原語で見たい」。残りは「漫画を原語で読みたい」、さらに「日本文化に憧れ、日本語を学びたい」。嗜好そのものが「中国的」から「日本好み」に変わりつつある。自動車一つをとっても、中年たちは「堂々と大きく、威圧するスタイル」を好むが、若者たちは「お洒落でスマートなスタイル」を求める。

蠅も虎も叩く

現在の中国が猛スピードで変化しているということをご理解いただいたうえで、中国情勢を再度見直していきたい。

2013年に国家主席に就任して以来、習近平の「反腐敗」に対する取り組みは尋常なものではなかった。とくに2013年夏以降、前政治局常務委員である周永康に対する汚職摘発事件は世界中が目を見張ったものだった。周永康は今年(2015年)4月3日に天津市第1中級人民法院(地裁)に起訴され、そのニュースは世界中で話題になったほどだった。

2013年以降に始まった「汚職摘発運動」はその後ますます強化され、昨年(2014年)の中国全土における「10万元(1900万円強)以上の汚職」件数は前年比+42%の3,664件。

ここから立件され裁判所送りとなった(ほぼ100%有罪)人数は5万5101人。この中には「蠅(わずかな汚職)」も「虎(巨額不正事件)」も含まれている。

この「反汚職運動」の結果、公務員たちが脱力化しはじめている。

中国は社会主義国家であり、最低限の衣食住は保証されている。私企業で働く者はカネを稼ぐために必死だが、公務員たちは賄賂目当てに意欲を燃やしていた。賄賂を受け取れる地位に就けるよう、必死で努力してきた。出世しても賄賂が受け取れなくなるのだったら、無理して出世しようと思わない。こんな若者たちが公務員の中に現れ、それが社会の脱力化を生んでいる。もちろん多くは真面目に働いているのだが、目をギラギラさせて出世しようとする若者が減ったことは事実のようだ。とくに地方にそうした気配が濃厚だという。

摘発できない人物は存在しない(『解放軍報』)

贈収賄、汚職、ウラ金といった問題は中国独特のものではない。全世界のあらゆるところで大なり小なり、さまざまな形で汚れたカネが動いている。中国の場合は著しい経済発展のために、汚職額が想像を絶するものになってしまったのだ。

2013年の周永康に続いて2014年春には入院中だった前中央軍事委員会副主席の徐才厚が当局に連行され、6月末には党籍が剥奪された。その後徐才厚は今年(2015年)3月に多臓器不全で亡くなっている(71歳)。さらに今年2月には党統一線工作部長の令計画に対し「重大な違反容疑」が発表され、人民解放軍機関紙『解放軍報』は「もう摘発できない人物は存在しない」と、汚職摘発に聖域がないことを明言している。

習近平が国家主席に就任し「汚職追放運動」を展開しはじめた当初、日本だけでなく、世界中が「中国政界の恒例の権力闘争」と分析していた。汚職摘発運動が始まってまもない2013年には「江沢民派(上海幇)を使って胡錦濤(共青団)を叩いている」と分析する評論家も多かった。しかしそれが派閥を越え、あらゆる階層で「汚職摘発」が展開され、まず「ウラ金交渉の舞台」といわれていた高級飲食店が軒並み潰れ始めた。飲食だけではなく高級嗜好品を扱う店も倒産が続く。これはもはや権力闘争ではない。本気で汚職を追放しようとしているのだ。そこに気づく必要がある。

習近平はこれまで「太子党」と分類されてきた。いま習近平は「太子党」といわれると顔を歪め、ときに激怒する。彼は自分を「紅二代」と自称する。

「紅二代」とは何か。

「中国共産党の元高級幹部の子弟で構成されるグループ『太子党』のうち、1949年の新中国成立の前に共産革命に参加し、日中戦争や中国国民党との内戦で貢献した幹部たちの子女の呼称。一方、戦争を経験せず平和な時代に党や政府の指導者となった幹部らの子女は『官二代』とよばれる。たとえば、1928年に共産党に入党した習仲勲(1913―2002)元副首相を父親にもつ習近平国家主席は紅二代であるが、1964年に共産党に入党した胡錦濤前国家主席の長男、胡海峰(1971― )嘉興市共産党委員会副書記は官二代とよばれる。紅二代の父母は『共産革命のために血を流したことがある』として、太子党のなかで、官二代より格上とされている」(『大日本百科全書』より一部引用)

以上が一般的な「紅二代」の解説である。しかし習近平が「紅二代」と自称するのは、革命世代の二代目というより「二回目の革命の戦士」としての自負があるようだ。

右肩上がりの急成長を果たし、世界最大3兆ドルを越す外貨準備高を保有。弱体化しつつある欧米やロシアを尻目に強国となった中国も、地方と都市、貧富の格差問題、独立運動、さらには土地バブルの崩壊といった危険因子をたくさん抱えている。国際問題評論家の中には「中国はまもなく崩壊する」と予言する者すらいる。最後の国家主席になるのではないか――習近平がそのように見られていることは確かであり、習近平自身がその危惧を抱いているはずだ。

このまま放っておけば、中国はクラッシュする。それを止めるには何が必要か。それが「聖域なき汚職追放運動」となって表れたのだ。習近平はいま革命の戦士として汚職腐敗に立ち向かっている。

汚職の最大の巣窟は、どの国でも同じだろうが、政界だろう。しかし習近平がいまいちばん重要視しているのは「人民解放軍」、とくにその中の陸軍である。

「軍」さえ掌握していれば、中国の崩壊はない。中国共産党が終焉することはない。それ故に習近平は軍――人民解放軍陸軍の汚職追放に躍起となっているのだ。

人民解放軍に入軍、昇進するために必要だった賄賂額

2、3年前までどころか、ほんの1年ちょっと前まで、中国では人民解放軍の志願者が膨大な数に上り、人気の職業と考えられてきた。ところが昨年(2014年)夏以降、それが真逆になり、人民解放軍への応募状況が悪化しているという。それを伝える新聞記事がある。

「中国人民解放軍は8月の採用から、これまで認めてこなかった精神障害者や入れ墨のある志願者についても容認する新基準を導入した」(2014年6月17日英字中国紙『チャイナ・デイリー』)

2013年以降に汚職摘発が進み、2014年春に前中央軍事委員会副主席の徐才厚が拘束されて以降、人民解放軍の応募が激減したのだ。政界ほど巨額ではないものの、軍人として出世すれば巨大な利権や賄賂にありつける。そう考えられていたから、これまでは人民解放軍に応募が殺到していた。賄賂が摘発されはじめると、たちまち軍への志願が急減したということは、入軍志願者の多くが「賄賂目当て」だったことが理解できる。

それでは、かつて軍が人気の職業だったとき、軍内部ではどの程度のウラ金が動いていたのだろうか。中国当局発表のデータはこう語っている。

・入軍の際に必要なウラ金=6万元(日本円で約114万円強)

・兵から下士官に昇進するためのウラ金=50万元(約950万円強)

・下士官から将校に昇格するためのウラ金=3000万元(約5億7000万円)

将校の給料は月給1~3万元(19万円~57万円)。年収にして228万円から684万円。衣食住が付いてこの金額だから、高給取りといっていい。しかし、5億円、6億円といえば100年分の収入以上。ウラ金を支払ってでも将校になりたいということは、それ以上の賄賂を受け取れるということになる。今年3月に病死した徐才厚(死亡により不起訴)は拘束された折り秘書を通して当局に8億元(約152億円)を返却したが、一説では米・豪などに200億ドル(2兆5000億円)の資産を隠したとも噂されている。こうした腐敗の温床を次つぎと倒していくことは一般からは歓迎されるだろうが、恨みも買うはずだ。

2011年、2012年に5億円以上の賄賂を注ぎ込んで将校になった軍人たちは、支払った賄賂分をこれから取り戻すところだ。それが不可能になれば、数億円をドブに捨てたことになってしまう。汚職追放運動は、彼らにとっては「許されない話」なのだ。

暗殺を恐れる習近平

香港紙『東方日報』3月23日版が北京の噂話として伝えた情報によると、これまで習近平主席は6回も暗殺未遂に遭遇したという。最初は2012年8月のことで、このとき習近平はまだ副主席。北戴河会議で時限爆弾が仕掛けられたという。2度目は定期健康診断を受診しようとした中国人民解放軍総医院で毒針注射で狙われ、直前で犯人が逮捕され、それが周永康の側近だったと噂されている。2013年8月末から9月中旬にかけて3週間近く習近平が姿を見せない時期があったが、このときは交通事故に遭遇しケガをして入院したともいわれる。いずれも噂話で、真実かどうか怪しいものだが、習近平が命を狙われる可能性はある。

「習国家主席は万一の場合に備えて5人からなる『政権代行チーム』を発足させた」「そのリーダー格として李克強首相が任命された模様」――これらは香港紙『東方日報』や政論誌『動向』の記事だが、海外の中国語メディアも同様の情報を流している。

国家主席の護衛はこれまで武装警察が行ってきた。「武警」と省略されることもある武装警察は「人民公安隊」が発展したもので、中国独自のもので、米シークレット・サービスやロシアの内務省治安部隊に近い存在。人民解放軍陸軍と密接な関係を持つ。習近平が国家主席となった2013年以降、国家主席の護衛は空軍空挺団を中心とする特殊部隊に替わった。

2013年春までに前政治局常務委員の周永康に捜査の手が伸び、家族、親類など300人以上が取り調べを受けたが、周永康は「情報」「公安」「検察」「司法」を直轄する政法部門のNO.2とされる大物。武装警察は身内のような存在だ。習近平が護衛を空軍特殊部隊に替えたことは納得できる。

激変期にある中国。括目して動向を見定めよ

暗殺の恐れがあるのは習近平国家主席だけではない。汚職追放運動の先頭に立つ党中央規律検査委員会書記の王岐山に対しても、数回の暗殺未遂事件があったと伝えられる。

巨額な賄賂を手にした悪人たちは、稼いだ悪銭をさまざまな形で隠し、蓄財するが、かなりの額が海外に流出している。多額賄賂を稼いだ悪人たちの家族は海外に渡り、滅多に中国に帰ってこない。悪人たちは海外にいる妻や子供たちにカネを送り、妻や子供たちはさらにそれを分散させている。悪人たちは単身で北京に住み、ときに愛人を囲っている場合もある。大金を稼ぎ、単身で住んでいる悪人を「裸官」と呼ぶ。裸官の中には数人の愛人を作り、愛人を海外に送り出してそこにもカネを送り蓄財しているともいわれる。

党中央規律検査委員会の王岐山書記は、そうした海外に隠されたカネを暴き、これを回収しようと活動しているから、命が狙われるのも当然なのかもしれない。王岐山が率いる党中央規律検査委員会がとくに目をつけているのは米国への資金流出で、米司法当局も中国政府当局に積極的に協力し、不法な資金は凍結される可能性が高まっている。

現中国政府の「汚職追放運動」は想像を越えた「覚悟」で進行している。習近平は中国国内メディアに対し、「腐敗取り締りのため、個人の生死と名誉を顧みない」という発言をたびたび繰り返している。

習近平は、本気なのだ。本気で生命を賭している。真っ向から本気で汚職をなくそうとしている。その覚悟がはっきりと伝わってくる。

成功するか、それとも習近平が暗殺されるか、それはわからない。しかし中国政府のこの本気さを理解しなければ中国を語ることはできない。

中途半端な中国観測はやめて、今後の中国情勢をしっかりと見つめる必要がある。

同時に、日本もまた本気で政治改革を行う時期にあることを、誰もが認識すべきだろう。






<海外情勢>
                               2015年3月13日

悪魔の手先イスラム国!
それを背後から支援するイスラエル、そして米英!
混乱の世界で、日本はどう動く?


イスラエルのネタニヤフ首相が訪米し、米上院でオバマ大統領の政策を批判する演説を行った。オバマとネタニヤフの関係悪化は、かねてから知られるものだったが、今回のネタニヤフによる米政策批判演説で、米国政界が二分される異常事態となっている。その延長上で、米国内で対立する勢力が中東でも激突し、米国の内戦を中東で戦わせているような状態だ。この戦闘が拡大すれば中東全域を巻き込んだ今世紀最大の戦争が勃発する可能性もある。こうした状況下、日本はどうなっていくのだろうか。

イスラム国指導者がイスラエル入り

元米CIA職員E・スノーデンは「ISISを作ったのはモサド(イスラエル情報機関)だ」と断言し、世界中が衝撃を受けたが、これは今では一般的な見方になっている。イスラム国(ISISあるいはISIL)を暴れさせ、悪者にすることで、対立するイスラエルを正義の味方に仕立てたいらしい。しかしモサド(イスラエル)や米CIAが背後から支援しているイスラム国は、指導者バグダディの言いなりにならず暴走している面も見える。

イラクの通信社『アルヤウム・アルサーメン』は「イラク・シリアの国境付近の町カイムが空爆され、テロ組織ISILの首領アル・バグダディを含む多数が負傷。バグダディを初め多くの負傷兵がゴラン高原経由でイスラエルに入るところが目撃された」と伝えた(2月28日)。本紙1月28日「急務!『イスラム国』を理解せよ」にも記したが、「イスラム国と敵対しているはずのイスラエルが、負傷したイスラム国兵士をイスラエルの病院に連れ帰って治療、回復させ、再び戦場に送りだしている」という情報は真実と考えていいだろう。

イスラム国(ISISあるいはISIL)を叩くために、米軍やサウジ軍、ヨルダン軍などが空爆を続けてきたが、目立った効果が上がらなかった。

「米軍はISILと敵対するクルド族に空から武器を投下するといって、間違ったフリをしてISILに武器を渡している」

「サウジ軍はイスラム国兵士がいない砂漠地帯ばかりを空爆している」

確認はできないが、そんな噂話が真実のように聞こえる状況にあった。

イスラム国包囲網

ところが昨年11月以降、この状況が少し変化しはじめた。オバマ大統領が、国防総省を通さずに直接中東の米軍司令官に軍事行動を命令しはじめたのだ。オバマは軍産複合体が嫌いで、その影響下にある国防総省も信用していない。オバマが最前線に指示を出すようになったためか、それとも別な事情によるためか、破竹の快進撃を続けていたイスラム国があちこちで敗走するようになっていった。さらにオバマ政権は、イスラム国と対峙するシリアのアサド政府軍やレバノンのヒズボラを側面支援し、イスラム国包囲網を構築しつつある。

しかしここでも米国内対立が浮き彫りされる事件が起きている。

4月または5月に入ってから、イスラム国が首都と定めているイラク第二の都市モスルを、米イラク軍合同部隊が攻略する計画があったが、これを米軍が公表してしまったのだ。攻撃計画を事前に漏らすなど、軍事作戦上非常識極まりない話で、この結果、モスル攻撃は当分延期(事実上の無期限延期=頓挫)となってしまった。米軍内部に政府とは違い、イスラム国を護りたい勢力が存在する証だ。この公表にイラク軍は激怒。イラクのオベイディ国防相は米政府に憤懣をぶちまけている(2月23日)。

米軍の作戦計画公表により、イラク軍と米軍がイスラム国の首都モスルを奪還する計画は白紙に帰したように思える。だがイラク・米合同軍に代わりモスルに攻め込む強力な軍事力が存在する。イランのシーア派民兵団だ。

イランに近づくオバマ大統領

イランには政府軍(イラン軍)より強いといわれるシーア派民兵団がある。イランのシーア派民兵団はイラン国内だけではなく、イラク、シリア内のシーア派武装組織とも連携する強力な軍勢だが、今年に入ってシリアではイランのシーア派民兵団と連携する「シーア・リダー旅団」という新たな民兵団が組織された(3月3日「クッルナー・シュラカー」)という報道もある。シーア派民兵組織がイスラム国潰しのために動き始めていることは間違いない。

イスラム国が、そして支援するイスラエルが最も恐れているのはイランのシーア派民兵団である。

イランといえばつい最近まで核開発疑惑で制裁対象とされていた国。オバマは以前からイランの核開発には疑問を持っていたようだ。イランの核開発疑惑をぬぐい去り欧米諸国との対立を解消しようと国連総会で演説し(2013年9月)、その直後にはイランのロウハニ大統領と電話会談を行い、「歴史的事件」と話題になったものだった。その後イランが核開発に関する透明性を高め、その見返りとして、2013年11月に制裁の一部緩和が実施されている。

昨年末以降、米国とイランの接触はさらに深まり、3月に入って間もなく、ケリー国務長官とザリフ・イラン外相がスイスで協議を行っている。イスラエルのネタニヤフ首相が米国入りしたとき、スイスのモントルではケリー・ザリフ協議が行われており、この協議の結果3月15日以降に欧米6カ国とイランとの間で包括協議が再開されることが決定した。しかしケリー・ザリフ協議の中では、イスラム国攻撃に対する意見交換が行われたことは常識的に考えて当然のこと。場合によってはさらに深いモスル奪還共同作戦まで話し合われた可能性もあるのだ。

「これは非常に悪い取引だ」

米国議会でネタニヤフ首相が、オバマ大統領とロウハニ大統領の合意について厳しい口調で真っ向から反対意見を語ったのは、スイスでケリー・ザリフ会談が行われているとき(3月3日)だった。イスラエルにとって米国とイランの蜜月は絶対に承知できないものであることは、世界中の誰もが理解している。しかしいまや、イスラエルは絶望のどん底にあるといっていいだろう。

ますます過激に、悪魔的になるイスラム国

湯川遥菜氏、後藤健二氏が首を刎ねられた映像をご覧になった方もいるだろう。すでに昨年からイスラム国は残酷な手法で捕虜の首を刎ね、その映像をネット上に公開している。最近では巨大な刀で大勢の捕虜を同時に斬殺する画像も流している。殺すにしても、あまりにも非道な方法に世界中が眉を顰め、怒りを露わにする。

この残酷な処刑法とその映像公開は、明らかに意図的なものである。

「イスラム国は残虐非道だ」と、世界中から非難を浴びるために、わざわざ悪魔的な手法を用いている。モサドの主導により「イスラム国は悪」であることを強調するためだ。

後藤健二氏の拘束、殺害事件の際に捕虜交換として話題になったヨルダンのカサースベ中尉にしても、生きたまま火あぶりの刑に処せられたという。何と残忍なやり方だろうか。

ヨルダン政府の謎の動き

さて、ここで疑問が浮上する。

後藤健二氏拘束、身代金要求が明らかになったのは1月20日のこと(後藤健二氏の家族には昨年11月以降に身代金要求のメールが届いていた)。その後ヨルダンに捕らえられている女性死刑囚との捕虜交換話が出た際に、カサースベ空軍中尉の件が浮上した。ところが現実には、カサースベ中尉は1月3日にすでに火あぶりの刑に処せられていたのだ。しかもその処刑の模様は米国の情報衛星で明確に捉えられていた。またヨルダン軍もその事実をとっくに承知していた。さらにカサースベ一族という砂漠の遊牧民は、はるか彼方の動きを神掛り的に察知する民族として、砂漠で恐れられている一族である。彼等が超能力者かどうかは別として、米軍、ヨルダン軍を初め(日本政府以外の)多くが「カサースベ中尉は残忍な火あぶりの刑に処せられた」ことをとっくに知っていた。そして、これが最も重要なことだが、イスラム国は「カサースベ中尉が処刑された事実を米軍もヨルダン軍も知っている」ことを理解していた。

それなのにヨルダン政府はイスラム国に対して、捕虜交換の条件として「カサースベ中尉生存の証拠を出せ」と要求している。イスラム国側から見れば、これは明らかに「交渉決裂」のサインと受け取れる。

現地対策本部はなぜヨルダンに置かれたのか

日本政府はすでに昨秋の時点で、後藤健二氏がイスラム国に拘束されたことを知っていた。これは後藤氏の家族からの情報によるものだ。

1月20日に後藤氏拘束情報が明らかになった時点で、トルコ政府から非公式に「何かお役に立つことができるでしょうか」との問い合わせがあったが、安倍の側近やブレーンたちはこれを断り、ヨルダンに現地対策本部を設置することに決めたという。

この時点ではイスラム国との交渉が最優先課題だった。全世界の中で(ウラで繋がっているモサドや米CIAは除いて)わずかではあるが、イスラム国と接点を持つ国はトルコだけだ。またトルコのエルドアン大統領と安倍晋三首相は親しく、信頼関係にある。常識的に考えてトルコに対策本部が置かれ、トルコ政府に交渉役を依頼するのが当然の話だった。

また、ヨルダンに置かれた現地対策本部の本部長には中山泰秀外務副大臣が抜擢された。しかし中山副大臣は「日本イスラエル友好議員連盟」の元事務局長で、イスラム国が嫌うと公言しているイスラエルと密接な関係がある政治家。ヨルダンに現地対策本部を設置したことと併せて、この人事も疑問が残るものだ。安倍政権内部に「あらゆる機会を通して安倍の足を引っ張ろうとする勢力」があることは周知の事実で、閣僚人事にはそうした力が働いていると推測できるが、その力学がここでも働いたと思われる。

中東情勢は英国抜きでは理解できない

ヨルダンという国についてよく知る必要がある。かつてはオスマン・トルコ帝国に属していたこの地は、第一次大戦でオスマン帝国が崩壊した後は英国委託統治領のヨルダン王国となった。この王国を管理していた英国の代表は当初はトーマス・E・ロレンス中佐。オスマン帝国に対するアラブ人ゲリラを主導した「アラビアのロレンス」として知られる情報将校だった。第二次大戦後、英国から独立を果たしたが、国王は預言者ムハンマドの血統を受け継ぐハーシム家で、国民の過半数はイスラエルを追われたパレスチナ難民。未だに英国の圧倒的な影響力の下にある国家である。

中東のこの地域はかつて大英帝国が治めていた。現在のイスラエルも、第一次大戦の後にオスマン帝国から英国統治領となったもので、第二次大戦後に英国から独立している。

第二次大戦後、中東における英国の陰は薄くなったようだが、じつは未だに隠然たる影響力を駆使し、さらにその力を拡大しようと躍起になっている。

イスラム国に米軍が武器弾薬や食糧を投下して援助しようとしていることは、さまざまな証拠映像からも明らかだが、じつは英軍も同様にイスラム国を支援している。イランのメディアは英空軍機やヘリが武器食糧をイスラム国に投下している映像を公表している。

中東大戦争の戦費を日本が負担する必要はない

後藤健二氏だけではなく、米英人捕虜を殺害して「死刑執行人」とも呼ばれた覆面姿のイスラム国兵士は「ジハーディ(聖戦士)・ジョン」という通称があったが、その正体はクウェート生まれ英国育ちのモハメド・エムワジ容疑者(27歳)であることが確定的となった。

エムワジ容疑者はかつて英国MI5のスパイになるよう誘いを受け、それを断ったためにMI5から嫌がらせを受け、ついにはイスラム国に傾倒するようになり、トルコ経由でシリア入りしたと伝えられる。しかし評論家の中にはエムワジ容疑者がMI5の要員である可能性が強いと見る人々も多い。陰謀論者の中には、「そもそもイスラム国とMI5は同じ穴のムジナ」だと指摘する者もいる。

いずれにしても今日のイスラム国やイスラエル、パレスチナ界隈の紛争は、米英イスラエルがテロを主導することで混沌が作られている。明らかに米英の一部に、中東大戦争によって懐を潤そうと企んでいる勢力が存在する。日本国内には、米国の軍産複合体やネオコンが戦費調達の名目で日本のカネを狙っていると分析する評論家も多いが、英国も同様に、いやそれ以上に危険な匂いを持っている。英国が最近、日本に急接近していることのウラの意味を感じ取る必要がある。

湾岸戦争(1990年)の折り、日本は多国籍軍に対して世界最高額の40億ドル(当時の金額で約5600億円)を拠出している。今回、イスラム国に対する戦闘がいかに拡大されようと、日本がその戦費を負担する必要はない。

その意志を示すためにも、日本は明確な政治理念、姿勢を確立する必要がある。






<海外情勢>
                              2015年2月25日

欧州で高まる「反ユダヤ気運」
ハルマゲドン(世界最終戦争)を画策する勢力たち

ヨーロッパ各地で「反ユダヤ」の流れが止まらない。正月明けに起きたパリの『シャルリ・エブド(週刊シャルリ)』襲撃事件で、この勢いが「反アラブ」に転化されたかのようにも思えたが、日本のメディアが伝えないところで「反ユダヤ気運」はますますの高まりを見せている。ヨーロッパの「反ユダヤ」は、中東世界の「ハルマゲドン(世界最終戦争)」誘発への導火線になる雰囲気に満ちている。

テロ再発の恐怖に怯えるヨーロッパ

2月14日午後から15日未明にかけて、デンマークの首都コペンハーゲンは恐怖に包まれた。「イスラム教」と「表現の自由」に関しての討論会が行われていたカフェと、ユダヤ教の礼拝所シナゴーグが襲われ、2人の市民が死亡、5人が負傷。犯人とされる男はその後射殺された。この事件を受け隣国ドイツでは北部の町で予定されていたカーニバルが中止されるなど、全ヨーロッパでテロに対する警戒感が強まっている。

これより11日前の2月3日には、南仏ニースのユダヤ系施設でテロを警戒中だった兵士3人が刃物を持った男に襲われた。犯人はその場で拘束されたが、犯人と一緒にいた2人は逃走してしまった。どちらの事件も犯人や背後関係は現在調査中だが、イスラム過激派による事件と考えて間違いはないだろう。

今年1月7日に起きたパリの『シャルリ・エブド』襲撃事件以来、ヨーロッパ全土が恐怖の渦に叩きこまれた感がするが、その深い意味を再考する必要がある。ここで1月のパリのテロ事件を見直してみよう。

『週刊シャルリ』襲撃事件の背景

2015年が明けて間もない1月7日に、パリにある週刊誌『シャルリ・エブド』編集部に覆面姿の男2人が侵入し、編集長やイラストレイターら12人を自動小銃で射殺。犯人は自分たちがアルカイダに所属すると語り「預言者ムハンマドの仇をとった」と叫んだという。犯人たちはその後パリ郊外に立て籠ったが、警察の特殊部隊に射殺された。この犯行と連動して、別なテロリストがパリ南部で警察官を殺し、2日後にはパリ東部のユダヤ系スーパーマーケットに立て籠りユダヤ人4人を殺害。この犯人も警察に射殺された。

2つの事件の深奥を理解するために必要なことは『シャルリ・エブド』とは何かを理解することだ。「エブド」とは「週刊誌」といった意味で、「シャルリ」とは英語では「チャーリー」となる。『シャルリ・エブド』とは『週刊チャーリー』といった意味である。では「チャーリー」とは何か。ネット上で調べると「アメリカ漫画『ピーナツ』の登場人物チャーリー・ブラウンに因んだ名」とか、ときに「シャルル・ドゴール大統領に因んだもの」といった表現も見られる。これらは大間違いだ。『シャルリ・エブド』の名は喜劇王「チャーリー・チャップリン」に因んだものである。

よりわかりやすく言うならフランスの事件は以下のように説明できる。

――ユダヤ人の喜劇王チャップリンの名を冠したユダヤ系週刊誌をイスラム過激派が襲撃。時を同じくしてユダヤ系スーパーマーケットが襲撃され、ユダヤ人4人が殺害された。

パリの事件は「イスラム過激派によるユダヤ人テロ攻撃」と見なすことができる。

ヨーロッパ←→イスラエルへのユダヤ人移動

米国にピュー研究所(ピュー・リサーチ・センター)という組織がある。世界の人的問題、情報を調査するシンクタンクである。このピュー研究所が2月9日に興味深いレポートを公開している。ヨーロッパのユダヤ人人口についての数字だ。

それによるとEU圏内に住んでいたユダヤ人は、1939年(第二次大戦前)には950万人だったが、現在は140万人しか住んでいないという。大戦中にヨーロッパからユダヤ人が大量に亡命したり、ナチスによるホロコーストでユダヤ人の数が減ったこともあるが、最近10年間のユダヤ人流出も大きな要因となっているらしい。

これに呼応するかのように、イスラエルのメディアはこう伝えている。――ヨーロッパにおける「反ユダヤ主義」は強まっており、今後もEUからイスラエルへの移住は増加し、EU圏のユダヤ人は減少の一途をたどるだろう――。

ヨーロッパの「反ユダヤ運動」がユダヤ人のイスラエルへの移住を促している現状が見えてくる。しかし別な要因も頭に入れておく必要がある。かつて米CIA(中央情報局)、NSA(国家安全保障局)に在籍していたE・スノーデンの分析である。スノーデンは「パリのシャルリ・エブド襲撃事件にはイスラエル移民省が関与している」と断言しているのだ(ロシア紙『コメルサント』1月12日)。スノーデンの主張の概略を語ると、以下のようになる。

「イスラエル国内ではユダヤ人が海外に流出しているが、いっぽうでパレスチナ人は人口増が激しい。イスラエル国内のパレスチナ人の増加に、イスラエルは危機感を抱いている。こうした懸念からイスラエル政府は、移民省の関係者を使って、諜報機関モサドに対して外国への移民を止めるのを助けるよう要請させた」

「この要請に応じ、イスラムの預言者ムハンマドを侮辱する風刺画を発表することで、西側諸国で作戦を開始し、ヨーロッパ在住のユダヤ教徒を嫌悪する雰囲気を作り出し、やむなく彼らがイスラエルで生活するように仕向けた」。

スノーデンの分析がどれほど正しいものなのか、判断は難しい。だがいずれにしても、ヨーロッパで「反ユダヤ」の気運が高まったためにユダヤ人がヨーロッパを脱出していることは事実であり、イスラエル政府がユダヤ人帰還運動に熱心なことも間違いない。

コラージュ写真で「反イスラム」を盛り上げた仏メディア

パリの『シャルリ・エブド』襲撃事件の後に興味深い話が浮上した。

事件後に、犠牲者を追悼するデモが行われ、フランス全土で370万人が参加。いちばん大きなデモはパリで行われた追悼デモで、当局発表で参加者は120万人~160万人。このデモの先頭を犠牲者の家族が歩き、その後を追うように、オランド仏大統領、メルケル独首相、キャメロン英首相、レンツィ伊首相、ラブロフ露外相、パレスチナ・アッバス議長、トルコ・ダウトオール首相、ネタニヤフ首相など各国の首脳が続いたという。この写真はフランス各紙のトップを飾り、日本のマスコミもその模様を伝えた。いまでもインターネット上には、そう書かれた記事が残されている。しかしこれは「ねつ造」話である。

フランス全土で370万人が参加したという数字もたぶん誇張されたもので、それほど多かったとは思えないが、ねつ造は「各国首脳がデモの先頭に続いた」という写真と報道である。各国首脳は別な場所で追悼集会に参加し、犠牲者遺族が参列した追悼デモには合流していない。フランス各紙を飾った「各国首脳が追悼デモに参加」という写真はコラージュで、これに関する報道もデタラメ。「反イスラム」を意図的に盛り上げたものと判断できる。

イスラエルとトルコの対立

『シャルリ・エブド』襲撃事件とその後の追悼デモには、さらに興味深い話がある。トルコがイスラエルに噛みついたのだ。

一般大衆が参加したパリの追悼デモとは別に、各国首脳が追悼集会を開き行進したことは先に述べたが、これに対しトルコのエルドアン大統領がこんな苦言を呈した。

「(テロ反対の集会に)パレスチナ人にテロを行っているイスラエルが参加することは、おかしいのではないか」

ダウトオール首相も大統領に続いた。

「イスラエルはガザでパリのテロと同じことをやっている」

大統領と首相の発言を受けてだろうが、トルコの新聞各紙はオランド仏大統領とネタニヤフ・イスラエル首相が握手をするシーンを第一面トップにデカデカと掲げ、フランスとイスラエルの親密さを印象づけている。因みに前大統領のサルコジはユダヤ系だったが、オランドはそうではない。

トルコの大統領と首相の発言を受けて、イスラエルも黙ってはいなかった。パリのテロ事件が一段落した1月中旬にアジア欧州圏の全大使を本国に召還してリーバーマン外相が「反ユダヤ・テロ」に注意を促したのだが、その際リーバーマン外相はトルコを厳しく非難している。「現在のトルコはナチスと同じである!」

これに対してトルコのメディアが厳しい評論を加えている。

「イスラエルと米ユダヤ勢力が『イスラム国』を使嗾して中東大戦争を仕掛けている」

どうやらトルコでは、「イスラム国(ISまたはISIL)は米国及びイスラエルのユダヤ勢力が支援する組織」という認識が当然らしい。その「イスラム国」を使って、ユダヤ勢力が中東大戦争を仕掛けようとしていると見做しているようだ。

パレスチナがイスラエルを提訴

イスラエルとパレスチナの泥沼の争いはイスラエル建国以来続いてきた。イスラエルを巡っては過去に4度の大戦争が起きている。イスラエル建国と同時に起きた第一次中東戦争(1948年)、第二次中東戦争(1956年)、第三次中東戦争(1967年)、そして第四次中東戦争(1973年)である。この間にも消耗戦争(1960年代末期)など、小規模な戦闘はたえず行われていた。昨年(2014年)夏には第四次中東戦争以来最大とされるガザ戦争も繰り広げられた。この戦争は8月末にイスラエル・パレスチナ両政府が無期限停戦を受け入れ、いちおう戦闘が中止されている。

長年にわたるイスラエル対パレスチナの戦いは、今年になって様相が変わってきている。武力戦争から法廷での闘争に変わる可能性があるのだ。昨年からパレスチナ側は国際刑事裁判所(ICC)にイスラエルを提訴することを模索してきたが、今年1月7日、ついにその提訴が受け入れられることが決定した。ただしパレスチナの提訴受け入れは今年4月からとなる。

この決定にパレスチナは大喜びだ。

「パレスチナの人々にとって歴史的な日だ。これまではイスラエルの責任を問えなかったが、それもこれで終わりだ」(パレスチナの交渉担当アリカット氏談)

ICCで裁判が始まれば、パレスチナが勝利しイスラエルが敗北することは誰の目からも明らかだ。しかしICCはなぜ、すぐに受理せず「4月から提訴を受け入れ」としたのか。理由はイスラエルの総選挙にある。3月17日に行われる総選挙で、もし強硬右派の現政権ネタニヤフが勝利すればICCは予定通りパレスチナの提訴を受け入れるだろう。だがネタニヤフが敗北して中道政権が樹立されれば、和平交渉の道筋が立てられるだろうからICC提訴の意味合いがなくなる。ICCはイスラエル総選挙の結果を見守っているのが現状なのだ。

混乱の中東情勢と「イスラム国」の存在意義

今年4月にパレスチナの提訴を受け入れると明言したICCに対し、イスラエルと米国は遺憾の意を表明した。これは当然の流れだと思われる。その直後の1月17日にはICCはなぜか「イスラエルに対するパレスチナの提訴問題に関して予備調査を開始する」と発表したのだ。これにはイスラエルも米国も激しい非難を浴びせたが、パレスチナ側は歓迎の意を表明。大まかに言えば世界的には「イスラエルの入植地建設継続を世界は否定する」(ビルト・スウェーデン外相)というところが常識的なところだろう。

しかし予備調査開始の報を受け、イスラエルのリーバーマン外相はドイツ、オーストラリア、カナダに対し「(従来行ってきた)ICCへの資金提供を直ちに停止せよ」と注文をつけている。国際世論がそれを求めているというのだ。

そもそもイスラエルが主張する国際世論とは何か、実体は不明だが、イスラエルの主張は明らかに「イスラム国(ISまたはISIL)」を意識している。いま世界中が「イスラム国は悪」という雰囲気に満ちている。イスラム国とイスラム教徒あるいはイスラム圏国家とは無縁のものだが、イメージとしてのイスラムは、イスラム国のお陰でかなり分が悪い。パリの『シャルド・エブリ』襲撃テロ事件にしても「イスラム過激派は悪」という印象を世界中に植え付けた。スノーデンが「事件の背後にイスラエルが存在する」といっていることも、ある程度納得できる。

イスラエルを嫌うオバマ大統領

3月17日に総選挙を控えるイスラエルにあって、ネタニヤフの動向に注目が集まっているが、ここにきて選挙前にネタニヤフが米議会で演説することが話題になっている。そこから、ネタニヤフがオバマ大統領に嫌われていること、さらにはオバマが反イスラエルの動きを加速していることが見えてくる。

当初、イスラエルと近しい関係にある米下院のベイナー議長がネタニヤフ首相に2月に米下院で演説しないかと持ちかけたらしい。ところがスケジュールの関係で、ネタニヤフは3月3日に訪米して演説すると返答したのだ。3月には米国ワシントンで「米国イスラエル共同問題委員会」という会が開かれ、ネタニヤフはそこに参加するために訪米するので、そのときに米下院で演説するというのだ。

話が逸れるが、3月のネタニヤフ訪米のほんとうの目的は選挙資金稼ぎである。ネタニヤフは莫大な選挙資金をほぼ全額、在米ユダヤ財閥の寄付で賄っている。「ネタニヤフはユダヤ財閥に対し、イスラエルに帰国するかカネを寄付するか、どちらかを選べと言ってユダヤ財閥を脅してカネをまきあげている」といった、ほんとうか否かわからない噂話が語られているが、脅しているか否かは別として、とにかく選挙になるとネタニヤフは訪米して資金作りを行うようだ。

3月にネタニヤフが訪米し、下院で演説する(選挙資金作りをする)という話に、オバマ大統領は嫌悪感を露わにしている。もともと米国の政治家、議会には親イスラエル派が多いのだが、大統領任期2年を切ったオバマはイスラエルに媚びを売る必要がなくなったのだろうか、「ネタニヤフが来ても会わない(首脳会談は行わない)」と明言したのだ。

ここまでは国際政治の専門家たちも、ある程度了解できるものだった。ところがオバマがネタニヤフ面会拒否を明らかにした直後に、バイデン副大統領(兼上院議長)もネタニヤフに会わないと発表した。バイデンの場合、外遊予定が入ったため会えないということのようだ。外遊して米国にいないというなら、仕方のない話だ。ところが直後にケリー国務長官も「ネタニヤフ首相と会談は行わない」と明言した。政権側のこうした態度は、米政権がイスラエルを忌避し始めた明白な兆候と言っていい。

ベイナー下院議長が招待して演説するのだから、大統領と首脳会談ができず、国務長官を初めとする政府中枢と会談できなくともネタニヤフにとっては問題ないだろう。だがバイデン、ケリーに続いて、ファインシュタイン上院議員やルイス下院議員をはじめとする民主党有力議員がネタニヤフの演説ボイコットを示唆する発言をしている。もはや米政権側がネタニヤフを嫌っていることは誰の目にも明白になってきた。

中東大混乱に向けて足掻く旧ネオコン勢力

これまで国際問題の常識として、米国はイスラエルと一体化して中東問題に対処していると考えられてきた。ここにきて米国とイスラエルとの間に溝が生じ、その溝が拡大の一途をたどっていることが理解できる。

「イラクのアルカイダ」から発展して、今ではイラク、シリアにまたがる一部地域を掌握しているイスラム国が、徐々にパレスチナ問題に関わりを持つようになってきている。イスラム国はイスラエル諜報機関が作った組織だという風説が正しいか否かは議論が尽きぬところだが、イスラム国の存在をイスラエルが巧みに利用していることは間違いない。

そのイスラム国に対する米国の空爆攻撃について、シリアのアサド大統領は「米国などによるシリア領内での空爆情報は得ている」(英BBCテレビのインタビューでの発言)と、米国と連絡がついていることを示唆している。これは米国の国防総省や軍産複合体、あるいは旧ネオコン勢力などの「好戦派」とオバマ政権側に対立があることを明示している。何より、先に記した通り、共和党が実権を握る米議会とオバマ政権側が対立していることからも明らかな通り、米国中枢は一枚岩ではない。そのことが世界に危険な匂いをまき散らすことに繋がっている。

しかし同時に、シリアが米国と暗黙の了解のうちに、米軍のイスラム国空爆を容認しているとするアサド大統領発言を英国BBCテレビが放映するところに、ある種の奇妙さが感じられる。これは「米国はもはやイスラエルの味方をしない」というシグナルを英国メディアが発信しているということになる。それは何を意味しているのか。戦争を避けようとする強力な意思である。

混乱が続くウクライナでも、ドイツ、フランスの必死の説得がプーチンを動かし、とりあえず停戦に向かって前進している。しかしこの地域でも米国の軍産複合体や旧ネオコンは戦争を始めたい意欲にあふれていた。ウクライナで失敗したからには是が非でも中東で大戦争を引き起こしたい――それが好戦派たちの強い思いである。

すべては3月17日のイスラエル総選挙と、その結果を受けての連立、野合政権の構成、そしてパレスチナとの和平交渉進展にかかっている。その結果次第でイスラム国はますます存在感を強め暴れまくるようになるかもしれない。それは連動してウクライナを混乱に導き、さらには新疆ウイグルからアジア全域に拡大する可能性がある。

事実、ほとんど報道されていないが、1月28日には新疆ウイグル自治区ホータンで警官と警備員3人が襲撃され、容疑者1人が射殺されもう1人が拘束されるという事件が起きている。31日にはチベットでテロ、暴力事件に向けての特別制度が開始されている。イスラム国から脱出を図って失敗し処刑された者の中に中国人が3人含まれていたことも報道されているが、中国国内にウイグル独立運動推進派やイスラム活動家が大量に潜入していることに中国当局は頭を悩ませている。

今春以降、世界はますます混迷の度合いを深めていきそうだ。それは同時に、安倍首相の外交手腕が試される時ともいえるだろう。






<海外情勢>
                              2015年1月10日

巨大圧力が「日朝国交正常化阻止」に動いた!

北朝鮮の金正恩を暗殺するというコメディ映画『ザ・インタビュー』の公開を阻止するために、北朝鮮が米国の映画会社をサイバー攻撃したという。しかし北朝鮮関与を否定する情報があふれており、ほんとうは誰が何をしたのか明確ではない。その背後に見え隠れしているのは「日朝国交正常化」を阻止しようとする圧力である。

映画『ザ・インタビュー』とサイバー攻撃犯

北朝鮮の金正恩暗殺という映画が製作されているという情報が流れた昨年(2014年)7月に、北朝鮮は映画製作を中止するよう訴えていた。「現役の国家元首をコメディ・タッチで描写して暗殺するなど、国家に対する冒涜だ」と、強い口調で非難したのだ。

たしかに中立的立場に立ち、冷静に考えると、北朝鮮の主張は間違ってはいない。しかし、北朝鮮を悪魔的な独裁国家と見なし、そのトップである金正恩を嫌う人々が世界中に多数存在することも事実だ。

昨年11月21日に映画製作会社ソニー・ピクチャーズエンターテインメント(略称SPE。以下SPEと表記)にハッカーが入り込み、同社の従業員の個人情報やパスワード、幹部の給与明細、さらには同社が製作した未公開の映画や台本などをコピーしたという。その後犯人は同社のサーバー上の情報を全削除してしまった。

そして11月24日には、コピーされたデータの一部が「ペーストビン」などといった共有サイトで公開されたのだ。

12月に入って1週間ほどたってから、米国のマスコミなどが、「SPEにハッカーし情報を盗み出し、それらの一部を共有サイトに流したのは、映画『ザ・インタビュー』と関連しているのではないか」と騒ぎ始めた。何か証拠があったわけではない。「金正恩暗殺を扱った映画に北朝鮮が拒絶反応を示していた。製作会社のSPEをハッカーし、SPEの個人情報を公開したのは北朝鮮に違いない」という憶測が流れただけである。

犯人と推測できる「平和の守護者」(Guardians of Peace。GOP)と名乗る個人ないしグループは、昨年11月末からSPEに対し、ハッカーして情報を盗ったというメールや、カネを用意しておけといった脅迫メールを送っている。しかしその時点で「映画公開を中止しろ」といった類のメールは一切しなかった。が、米マスコミなどが「今回の事件は、SPE製作映画の件で北朝鮮が関与しているのではないか」と報じた1週間後ほどたった12月16日になって、初めて犯人(?)側はこの映画に言及するようになった。

ネット・セキュリティ世界の人々が首を傾げた「北朝鮮犯人説」

12月19日に米FBI(連邦捜査局)はSPEに対するサイバー攻撃は「北朝鮮の犯行」と断定した。これに基づきオバマ大統領は北朝鮮を非難する声明を発表。1月2日には北朝鮮に対する追加制裁を承認した。

ところがこれに対して異論を唱える専門家がたくさん現れた。

まず著名なセキュリティ研究者のマーク・ロジャーズが「北朝鮮の犯行というのは、おかしい」と発言した(「ニューヨーク・タイムズ」紙12月24日)。続いて12月26日に、米サイバー・セキュリティ企業の副社長カート・スタンバーグが「SPEに対するサイバー攻撃は北朝鮮によるものではなく『内部犯』によるものだ」とCBSニュースで発表したのだ。スタンバーグによると昨年5月まで10年間にわたりSPEに勤務してクビになったレナ(愛称)という女性が真犯人だという。彼らだけではない。サイバー攻撃などに詳しい専門家たちのほとんどが「北朝鮮の犯行などではない」と大合唱を始めたのだ。

北朝鮮犯人説の根拠はどこにあったのか。

犯人はサーバーのデータを全削除するプログラムとして「RawDisk」を使っていた。このプログラムは、昨年に韓国の銀行やマスコミのサーバーがデータ全削除の攻撃を受けた事件の際にも使われ、これは北朝鮮の犯行と見なされている。だから今回も北朝鮮に違いないというのだが、この「RawDisk」というプログラムは、他にも使われているもので、北朝鮮オリジナルではない。また公開プロキシ(経由サーバー)がかつて北朝鮮が使用したものだというのも北犯人説の根拠の一つになっているが、手慣れた人間ならこの程度のことはクリアしてしまう。

その他専門的分野の話は割愛するが、「北朝鮮犯人説」を業界の多くが否定していることは事実なのだ。

それでもFBIは「北朝鮮犯人説」を主張する

SPEに対するハッカー攻撃は「北朝鮮が行ったものではなく、内部犯行」とする主張が強まり、1月に入ると日本のテレビ局も「内部犯行=レナ犯人説」を放送するようになった。

ところが米FBIジェームズ・コメイ長官は「サイバー攻撃に使われたIPアドレスは、北朝鮮の関係者のみが使うもの」として内部犯行説を全面否定。改めて「ソニーをハッキングした犯人は分かっている。ソニーをハッキングしたのは北朝鮮だ」と改めて断言した(1月7日)。しかしFBI長官が強弁しても、もはや世界のハッカー専門家たちの口をふさぐことはできない。「北朝鮮は濡れ衣を着せられた」というのが今では常識になりつつある。だが問題はその奥にある。なぜ北朝鮮は濡れ衣を着せられたのだろうか。

SPE攻撃は日本イジメなのか

今回の物語を整理する必要がある。サイバー攻撃されたのはSPE。ソニー・ピクチャーズエンターテインメントという映画製作会社である。SPEはソニーの完全子会社で、株式上場はしていない米国の会社である。米国の会社ではあるが、ソニーの子会社だから誰もが「日本のソニーの子会社=日本の会社」と受け取っている。

FBIのコメイ長官も記者会見で「ソニーをハッキングした」と語り、米国映画会社が攻撃されたのではなく日本のソニーが攻撃されたようにも受け取れる発言をしている。

しかし金正恩暗殺のコメディ映画を製作したのは、米国の映画会社SPEである。ソニーが直接関与したわけではない。

冒頭にも記したが、世界中に評判の悪い人間ではあるが金正恩は一国の元首である。国家元首をお笑いのネタにして暗殺するという内容は、いかがなものだろうか。何より品性の欠片もない。そんな映画をSPEが企画、製作したところに、既に問題があったのだ。

戦後レジーム脱却には「北朝鮮との国交正常化」が不可欠

安倍晋三は平成18年(2006年)成立の第一次安倍内閣から今回の第三次安倍内閣まで、終始一貫して「戦後レジーム(体制)からの脱却」をスローガンとして掲げている。米国によって押し付けられた「戦後体制」と決別すると表明している。それは大賛成だ。だがそれより前に、「戦後処理」を終える必要がある。

平成27年(2015年)の今年は「大東亜戦争終結70周年」の節目の年である。

戦後70年もたった。

70年も過ぎてなお、日本は2つの局面で戦後処理を終えていない。1つはロシア(旧ソ連)との平和条約締結であり、残る一つは北朝鮮との戦後処理、国交正常化である。

この2つが残されたままになっているのも、米国が押し付けた戦後体制によると考えていいだろう。

アベノミクスが成功するか否かは、まだわからない。正直なところ、今年いっぱいは見せかけの好景気のような経済状況が作られる可能性は高いが、格差は増大し、社会全体に不満が充満するようになる可能性もある。その潜在的不満が爆発する前に、何としても2つの戦後処理を終え、地政学的にもアジア経済圏的にも日本が復活する必要がある。安倍が昨年以来拉致問題解決など北朝鮮問題に真剣に取り組んでいるのは、そうした意味がある。

昨年5月のストックホルムでの日朝協議、そして10月末に平壌で行われた日朝協議は報道されたが、じっさい日本政府は昨春以降ずっと隠密裏に北朝鮮との交渉を継続しており、今日もなお交渉中である。どのような話し合いが続いているか、推測以外は不可能だが、国交正常化に向けて前進していることは間違いない。だが米国はこれを断固阻止したい。

日朝の対立は、日米韓の連帯を強化するために必要な因子なのだ。仮想敵国・北朝鮮は、米国が日本や韓国をコントロールするために必要な存在なのだ。

日本のソニーの子会社に対し北朝鮮がハッカー攻撃を仕掛けた!

米国は北朝鮮に追加制裁実施を決定した!

日本も米国に倣って北朝鮮制裁を強化すべきだ!

そんな声が出てくる可能性が高い。極秘裏に日朝国交正常化交渉を進めている安倍晋三にとって、今回の事件は「踏み絵」となる可能性が高い。

安倍晋三はそれでも断固として「戦後レジームからの脱却」を主張できるだろうか。






<海外情勢>
                               2014年10月4日


かすかに光が見え始めた日中関係
―日中両国は、政治的対立を越え民間交流を急げ―


7月末の福田康夫元首相と習近平の「秘密会談」を皮きりに、手探りながら日中両国関係修復に向けての動きが出始めている。9月末には200人超規模の経済人が中国を訪れるなど、11月のAPEC日中首脳会談に向けた地ならし工作も進められた。経済分野ではわずかに光が見え始めているが、政治的対立は根が深く、簡単には両国首脳が手を握れる状況にはない。日中関係の未来のために、いま何をすべきかを考える。

情報漏洩で逮捕された公使参事官

中国大使館の公使参事官だった湯本淵が行方不明となり、中国公安局に拘束されている可能性が強いとの報道が9月に入って間もなく新聞各紙で流された。湯本淵は平成21年(2009年)に来日し、中国大使館NO.3のポストに就き、昨年(2013年)7月に帰国した。ところが今年5月頃から連絡が取れなくなり、日本国内では病気入院説が出ていた。中国の公安当局は、湯本淵が日本の国会議員や外務相職員、警察情報関係者らに機密情報を売り渡したという嫌疑をかけている模様だ。

さらに9月17日には、米国の中国情報サイト『明鏡新聞網』が、馬継生・駐アイスランド大使と妻が、日本に国家機密を漏洩した疑いで中国の国家安全当局に逮捕されたと報じた。馬継生もまた平成3年(1991年)から4年間、そして平成16年(2004年)から4年間、合計8年間にわたり在日中国大使館で公使参事官の職務に就いていた。

この二人が日本に自国の重要情報を漏洩したことは事実か否か。それは日本人のわれわれには調べようがない。

二人の大物公使参事官に共通していることは、共に日本情勢に明るく、親日家で、二人とも共青団(共産党青年団)の出身であることだ。

習近平が国家主席になってから、中国では大物政治家が汚職などの容疑で次々と失脚している。人類史上最大の汚職国家と陰口を叩かれるほどの国だから、彼らが日本に情報を売って懐を潤していたことも考えられないわけではない。憶測だけで判断することは危険だが、しかし、世界中の情報通たちは誰もが、中国国内で苛烈な権力闘争が繰り広げられており、彼等はその敗北者だと見做している。7月に汚職容疑で逮捕され失脚した周永康も、そして公使参事官だった湯本淵、馬継生も、その権力闘争に敗れたと見ていいだろう。

そしてその権力闘争の奥に、中国のさらなる苦悩が見て取れる。

中国共産党の存在意義

中国はご存じの通り中国共産党一党独裁の国家である。

中国は13億4000万人の人口を抱える(2010年)。これは統計上の数値であり、国籍もなく記録もない人々を含めると15億人とも16億人ともいわれる。

この膨大な人口の中で、中国共産党員は8260万人(2012年)。総人口を公式発表の13億4000万人としても、共産党員の数はわずか6%でしかない。

この6%の党員によって選ばれた全国代表大会が国家を運営する。現実には大会で選出された共産党中央委員会が最高機関となっている。

13億あるいは15億、16億ともいわれる人民を、ひと握りの中国共産党が支配できる理由は、中国共産党が確固とした存在意義を持っているからだ。その存在意義を振りかざして、中国共産党は庶民大衆の上に君臨している。

では、その存在意義とは何か。

第一に、中国共産党が日本軍国主義の侵略と戦い、これに勝利したこと。

第二に、中国共産党だけが中国の経済発展を保証し続けること。

以上の2点である。この2点しかない。

中国の経済発展は1978年の鄧小平「改革解放経済」に始まっている。この年、鄧小平は共産党が持ち続けてきた「階級闘争路線」の放棄を宣言し、「経済が他の一切を圧倒する」という政策を打ち出した。以降、中国経済は日の出の勢いで右肩上がりの成長を続けてきた。1984年には15.2%、1992年には14.2%、2007年14.2%と、異常なまでの伸び率だった。

ところが2012年には、それまで死守してきた「保8」―8%の経済成長率を守れなくなり、7.8%にまで落ち込んでしまった(「破8」とも称された)。さらに2013年には7.7%に落ち込み、今年2014年は7.6%か、それを下回る可能性まで出てきている。

「中国の経済発展を保証し続ける」はずの中国共産党は、その看板を下ろすしかない状態なのだ。では、経済の看板を下ろしたら何が残るのか。

日本軍国主義に勝利――「反日」しかない。

都合の良いことに、中国の目からすれば安倍政権は「日本軍国主義」の復活を目指しているように見える。いや、そう見なければ論が成立しないのだ。

抗日戦勝利記念日の開催

今年(2014年)2月、中国政府は「抗日戦勝利記念日」を新たに制定した。

戦争が終わって69年も経っているのに、なぜ今年になって改めて「抗日戦勝利記念日」などを制定したのか。理由は前述の通り、中国共産党の存在意義を明確にするためだ。

ちなみに「抗日戦勝利記念日」は9月3日である。

なぜ終戦の8月15日ではなく9月3日なのか。日本がポツダム宣言に正式に調印したのは昭和20年9月2日で、米国ではこの日にトルーマン大統領が勝利宣言を行っている。ところが蒋介石率いる中華民国では、日本がポツダム宣言に調印した翌日、昭和20年9月3日から3日間を「戦争勝利記念休暇」として盛大なお祝いした。それ以降9月3日を「勝利記念日」とし、台湾などには現在も「93通り」「93小学校」など、その記念日を象徴する名が残されている。

中国では今年になって初めて「抗日戦勝利記念日」が制定され、9月3日に、中国初の記念式典を盧溝橋に近い中国人民抗日戦争記念館で開催。ここで習近平国家主席は「中国は中日関係の発展に努力し、中国共産党、中国政府、中国中央軍事委員会は中日関係の長期の安定かつ健全な発展を望んでいる」という重要講話を発表している。

日中戦争の歴史と意味を振り返ろう

「抗日戦勝利記念日の制定」などと聞いて気分を悪くしたり、反中感情をますます悪化させた方がいるかもしれない。だが、むしろこれは喜ぶべきことで、習近平国家主席に感謝すべきだ。皮肉で言っているのではない。心底からそう考える。

いまわが国の多くの若者は日中戦争のことを知らない。知ろうともしていない。

なぜ日本と中国が戦争をしたのか。戦争に突入した原因は何だったのか。戦争中にどこで何が起き、どんな戦闘が繰り広げられ、日本はどうして敗れたのか。――中国による抗日戦勝利記念日制定は、日本人がそれらを思い起こすために与えられたものなのだ。

本紙は歴史教科書ではない。また短い紙幅で省略してしまうと、どこか恣意的な、あるいは独りよがり的な文章になってしまうので、日中戦争の原因、経過等はご自身で学んでいただきたい。

だがここで、戦闘経過を事実としてだけ簡単に記しておく。

日中戦争は満洲事変(昭和6年1931年)から始まるとされる場合があるが、一般的には盧溝橋事件(昭和12年1937年)からの戦闘を指す。今年9月3日の中国初の「抗日戦勝利記念日」が盧溝橋の記念館で催されたことを見ても、この事件が日中戦争の皮切りとなった認識は、日中両国に共通している。この事件以降、それまで中国国内で内戦を戦っていた国民党軍と共産党軍が手を握る(国共合作。その後再び対立し、また合作もしている)。以降、昭和20年8月の終戦まで日本軍は中国大陸各地で戦闘を継続した。

昭和12年8月の察哈爾(チャハル)攻略、直後の上海事変、日本陸軍北支方面軍の南下と続き、日本軍は次々と敵軍を突破し、占領地域を広げていく。この時点で一旦は和平交渉が行われたが決裂。日本軍による南京侵攻、徐州攻略、漢口・広東攻略、さらには国民党軍の政府があった重慶攻撃、江蘇省の要衝占領など、戦域は途轍もなく拡大されていった。

こうした戦闘の中で、日本軍が敗れることはほとんどなかった。局面の中で日本軍部隊が大被害を受けたことはあるが、全体としては日本軍が負けた戦闘はなかった。

日本軍が戦った相手は蒋介石率いる国民党政府軍である。国民党軍とはたびたび激戦を繰り返した。しかし、毛沢東の八路軍と日本軍が戦闘状態に陥ったことはない。八路軍によるゲリラ攻撃は何度も繰り返されたが、日本軍と全面対峙、正面激突といった例はない。

昭和16年(1941年)12月に日本軍は米英軍との戦争に突入したが、中国大陸の戦闘は消耗戦になりながらも、日本軍は昭和16年年末には香港を占領、昭和17年には浙江省、江西省を攻略、昭和18年には汪兆銘率いる南京政府と日本が結託(日華協定)、昭和19年に入ると鄭州さらには洛陽を占領する。その後、国民党軍との戦闘は泥沼の激戦が続き、雲南省の拉孟・騰越の戦いなど、ときに日本軍が玉砕する場面もあった。

細かな戦闘状況、戦況の推移はぜひご自身でお調べいただきたい。いずれにしても、盧溝橋から終戦まで、日本軍が戦った相手は国民党軍である。共産党八路軍は、日本軍と国民党軍が消耗戦を続け、それにより漁夫の利を得ようとしていただけである。そんな中国共産党政府が「抗日戦勝利記念日」を制定し、これを祝賀するのは、明らかに「反日」パフォーマンスでしかない。

「政冷経熱」を望む日本の経済界

安倍普三が憲法改正を基軸とする「戦後レジームからの脱却」を主張していることと、中国の「反日」政策は、見事なまでに対立する構図となっている。ここに尖閣諸島問題が絡み、政治の世界での日中和解は落としどころが見つからない。

日中間の政治的対立は経済にも多大な影響を与え続けてきた。今年(2014年)1月にジェトロ(日本貿易振興機構)が発表した数値によると、日中貿易は2年連続の大幅減少。日本の対世界貿易は過去最大の貿易赤字を計上したが、最大寄与国である対中国貿易赤字の増加が日本経済に与えた影響は大きい。ちなみに対中貿易輸出入別では、輸出が1,298億8,328万ドル(前年比10.2%減)、輸入が1,821億1,190万ドル(前年比3.7%減)で、貿易収支は日本側の522億2,863万ドルの赤字。輸出に頼る日本経済にとって、最大輸出相手の中国輸出の激減はたいへんな痛手である。

政治的対立が日中経済を冷やしていることは誰の目にも明らかだ。日本国内にも中国製品に対する不信感があるが、中国側の日本製品不買の動きはきわめて大きい。これが日本から中国への輸出大幅減となり、日本の貿易赤字の最大要因となっているのだ。

政治の対立はさて置き、経済的には仲良くやっていこう――日本側が積極的に「政冷経熱」を望むのは、当然の流れである。

9月22日から、経団連の榊原定征会長をはじめとする200人超という過去最大規模の日中経済協会訪中団が北京を訪れたのは、こうした願望に沿ったものだった。

訪中団は汪洋副首相ら中国要人との会談で、日中の経済交流を再び活性化することで意見の一致を見た。汪副首相は「中国と日本が協力することが両国に利益をもたらす。両国が争えば共に傷がつく」と述べ、主要閣僚による「日中ハイレベル経済対話」を再開したい考えを示した。

「日中ハイレベル経済対話」は、日中の閣僚が経済分野の意見交換をする場として、平成19年(2007年)12月に北京で初会合を開き、日本からは財務、経済産業、農林水産などの閣僚が参加した。これまでに3回開かれたが、日中関係の緊迫化を受けて平成22年(2010年)8月の開催を最後に中断していた。

今回の日中経済協会の訪中により、日中対話に向けての期待が高まり、あわせて「政冷経熱」――政治はともかく経済面だけはうまくやっていきたいとする日本側の熱意は十分に伝わったと思われる。しかし中国側にはなお、「領土問題や歴史認識へのしかるべき誠意が示されることを期待したい」(汪洋副首相)との認識があることも事実である。

政治経済に左右されない文化的交流を

日本側がいかに「政冷経熱」を求めようが、中国共産党政権下の中国に「政治対立は放っておいて、経済分野だけを活性化させましょう」という提案は、不可能ではないが至難の業である。対中国輸出を増やしたい日本としては、どうしても遜(へりくだ)るしかない。そのために財界が政界に圧力をかけるような事態が生じる可能性もある。

では、どうすれば良いのか。政治でも経済でもない分野において、日中交流を拡大するしかない。

日中に限らず日韓だろうが日米、日露であろうが、2国間で「政治・経済」しか軸を持たないことが危険なのだ。これは一般的な対人関係とも似ているし、突き詰めれば個人の生き様にも通じる。一人の人間が複雑な対人関係社会で生き抜くためには、「仕事と家庭」といった2軸だけでは、危険な状況に陥る。こんな人間は、仕事がうまくいっているときは家庭も好調だが、仕事がダメになると家庭までダメにしてしまう。「仕事と家庭」という軸とは別に、たとえば「趣味」であるとか「政治活動」「宗教」「スポーツ」「ボランティア」などといった別な軸をもう1つ持てば、人間の幅が広がり器まで大きくなる。

日本と中国は古来、文化交流を活発に行ってきた。古代から中世、近世を通して中国の文化の中には日本文化の源流となったものもあるし、近現代においては日本の文化も中国に大きな影響を与えている。最近では食文化や漫画、アニメ、芸能といった分野で日本は中国をリードし、日本文化に憧れる中国人も多い。

こうした分野での活発な文化交流こそ、いまの日中関係に必要なものである。

しかもこうした大衆文化は、庶民大衆が支えている。6%の共産党党員ではなく、94%の一般人民を相手にすれば、太子党も共青団も上海幇も関係がないし、国家機密の漏洩などの事件も起こりようがない。何より、私たち庶民大衆が無条件に動き、参加できるものなのだ。

政治が冷え込み、経済分野は条件付きで微かな光が差し込んできている日中関係だが、文化交流が活発になればもっともっと大きな光が差し込むことになるだろう。その分野での読者諸氏のご健闘に期待したい。






<海外情勢>

911同時テロ再発か?
新疆ウイグルにも魔の手が襲いかかる!

―世界を地獄に放り込む「イスラム国」の脅威―

イスラム教スンニ派武装集団として知られたISIS(イラクとシリアのイスラム国)あるいはISIL(イラクとレバントのイスラム国)が、さる6月29日に「イスラム国」として国家樹立宣言を行った。だが世界はどの国も「イスラム国」の独立を承認していない。しかしイスラム国は膨れ上がり、イラク北部からシリアの一部、さらにはレバノンにまで触手を伸ばし、中東の強大勢力になりつつある。総兵力は10万人に達していると見られるが、その3割以上は外国人のようだ。それもカネで雇われた傭兵ではなく、イスラム教に改宗した白人が多いという。

非常に近い将来、イスラム国が「地獄からの使者」として世界中に恐怖をバラ撒くことは間違いないだろう。

そんなイスラム国の深奥を探ってみよう。

石油を売って1日3億円を稼ぐイスラム国

2003年のイラク戦争でフセインを排除した米英は、2004年からイラク暫定政権を支え、2006年にはシーア派連合政権を正式発足させた。しかしシーア派の内部抗争が激しく、2008年には一時内戦状態に陥ったこともある。この後、シーア派2大勢力が国家を掌握するようになり、2010年には米本隊は撤退、翌2011年末には米軍の全兵力が撤退した。

シーア派と対立するスンニ派はISIS(イラクとシリアのイスラム国)あるいはISIL(イラクとレバントのイスラム国)という勢力として実質的に北部イラクを掌握。今年6月にイスラム国として独立を宣言した。

イスラム国建国宣言の6月時点でイラクを支配するのは、マリキ首相政府が率いる政府軍、クルド人勢力、イスラム国という3者となった。

世界第3位の石油埋蔵量を誇るイラクだが、北部地域は政府軍の力が及ぶ範囲ではない。この地域でイスラム国は手に入れた石油を売りさばき、1日に3億円も稼いでいた。イラク政府にしてみれば「盗掘された」ということだが、独立宣言をしたイスラム国にしてみれば「自国産石油の売買」に過ぎない。メジャーを中心とする石油資本にとって、イスラム国の台頭は許しがたいものがあり、堪忍袋が切れた国際金融資本は米国をけしかけ、遂に8月8日にイスラム国を狙ってイラク北部に米軍による空爆が実施された。

イラクのマリキ政権は米軍に対し、これまでに何度もイスラム国への空爆を要請していた。しかし米オバマ政権としては、全面撤退したイラクに再度兵力を投入することは、撤退が間違いだったと糾弾されかねない。軍事費削減を掲げるオバマ政権自身、再度イラクの泥沼に戻りたくはない。それでも空爆を行ったのは、イラク北部石油利権を掌握したイスラム国を放っておくわけにはいかないと判断したからだろう。空爆は翌9日も翌々10日も続けられ、米軍空爆に支えられたクルド人兵力がイスラム国支配の2つの町を奪還した。イスラム国が撤退したのはこのときが初めてで、米軍の空爆がいかに強力だったか理解できる。

8月11日にはマリキ首相が引退し、同じシーア派のアバディが首相になったが、米オバマ大統領はこれを歓迎。マリキのような強引さを消し、アバディに穏やかな連帯を模索することを選ばせたようだ。これによりイラク政府は、クルド族との連携だけではなく、穏健派スンニ派までもを取り込もうとする動きを活発化させていくとみられる。

増える外国人兵、膨張するイスラム国

イラクのマリキ首相退陣、アバディの下での挙国一致体制に、米国ケリー国務長官は「名誉ある決断を歓迎する」と、最大限の支援メッセージを送っている。米軍の強力な空爆によりイラク北部を追われたイスラム国はシリアに入り込み、態勢の立て直しを図っているが、米国はシリア空爆も視野に入れて、何としてもイスラム国を壊滅に導きたい考えを露わにしている。

イラクが体制を立て直したと感じられた8月20日、イスラム国は以前から捕まえていた米国人ジャーナリストを殺害、その映像を公開した。このとき米国人を殺害したイスラム国側の人間は20代の英国人だとされ、キャメロン英首相もそれを認めている。英政府によると500人ほどの英国人がイスラム国に参加しているという。

英国人500人に驚いてはいけない。ドイツ、フランスを筆頭として、これより遥かに多い人間がヨーロッパ各地からイスラム国に参加しているのだ。オランダ、ベルギーからも参入している。もちろん米国人もいる。8月末現在でイスラム国の兵士総数は10万人と考えられているが、そのうちの少なくとも2万人、最大で5万人が非イスラム圏の外国人だというのだ。その中には中国の新疆ウイグルから志願してやって来た兵士たちもいる。

米ヘーゲル国防長官はイスラム国について、「高度な軍事力と豊富な資金力が結合した、これまでに見たことがない組織だ」と語っている(8月21日)。

このとき同席したデンプシー統合参謀本部議長は、イスラム国を倒すために「シリア国内でも空爆を行う必要性がある」との認識を示している。

懸念される911同時テロ再発

総兵力10万人という規模は、少ないものではないが、脅威的に巨大という勢力とは思えない。そのイスラム国に対し、米国がこれほど過敏になっている理由は何か。

ヘーゲル国防長官の以下の言葉から、それが理解できる。

「イスラム国は単なるテロ組織の枠を超越している。米国はイスラム国に対する長期的な戦略を継続しており、米軍の関与が終わることはない。2001年9月の米中枢同時テロのように米本土が直接攻撃されることも含め、あらゆる事態に備える必要がある」

「米国は長期的な戦略を追及し、考えられるすべての戦略を除外することなく検討していく」

デンプシー統合参謀本部議長はシリアでのイスラム国を標的とした空爆も視野に入れながら、当該地域の協力組織への支援を念頭に置いた発言をしているが、ヘーゲル、デンプシー両者が共通して危機感を抱いていることは「911同時テロ」である。米国防長官や統合参謀本部議長の言葉を待たずとも、イスラム国の戦士が世界各地でテロを起こす可能性が極めて高いことが理解できる。

イスラム国には、かなりの数の欧米人が参入している。ほんらいキリスト教徒かユダヤ教徒かの人々がイスラム教に改宗して、銃を手に戦闘に参加しているのだ。彼らはイスラム国での戦闘を終えれば、自分の母国に帰る。――イスラム国の戦士という誇りを胸に秘め、反イスラム勢力との闘争を継続するために。

多くの米国民の頭をよぎるのは2001年の911同時テロだろう。たしかにイスラム国には米国人も相当数参入している。しかし今、イスラム国が狙う目標として最も考えられるのは、中国の新疆ウイグル自治区と思われる。

背後で操る者たち

イスラム国はいったいどのような歴史から生まれ、育ってきたのか。彼らを支えてきたのは何者なのか。

イラク戦争でスンニ派のフセイン政権が倒され、シーア派が実権を握ろうとしたころ、彼らはスンニ派過激組織として活動を開始していた。

その後彼らは、イラクとシリアのイスラム国(ISIS)、イラクとレバントのイスラム国(ISIL)などと名乗っていたが、その深奥にあるのは「サイクス・ピコ協定によって欧州が勝手に作った体制を打倒する」という思いだったはずだ。

サイクス・ピコ協定とは、第一次大戦中に英仏露が交わしたオスマントルコ分割案のこと。第二次大戦後に日本を縛っているYP(ヤルタ・ポツダム)体制のようなものと考えればいいのかもしれない。とにかく彼らは英仏露が勝手に決めたサイクス・ピコ協定を引っくり返すために結集した。「イラクとレバントの国ISIL」とレバントを名乗っているところにもその主張が見えている。ちなみにレバントとはシリア、レバノン、ヨルダン、パレスチナといった中東の地域を指す。

そんな彼らが強大な武力を手にし始めたのは、2006年にイラク政府がシーア派統一会派として成立したころである。2004年ころには「イラクの聖戦士アルカイダ」と名乗っていた組織が分裂、解体、連合の後に2006年には「ムジャヒディーン(聖戦士)諮問評議会」と名乗り、スンニ派をまとめ始めた。これがイスラム国の初期(ISISまたはISIL)の姿だ。

彼らは当初、米国の民間軍事会社ブラックウォーターから武器を購入していた。その事実からも、アルカイダ同様に米CIAと密接な関係を持っていたと考えられる。中東地域の戦乱を拡大したい旧ネオコンが背後にいるのではないかとの噂もあったが、ネオコンが関与したという具体的な証拠はない。

元米国家安全保障局、元米CIAのE・スノーデンは「イスラム国の指導者であるバグダディは、モサドとCIAとMI6が育てたエージェントである」と分析する。スノーデンは証拠を提示していないが、その可能性は高い。

イスラム国の戦術、あるいは広報・ロビー活動を見ると、中東的イスラム的な要素は極めて少なく、欧米的でスマートな手法が目につく。米人捕虜処刑をユーチューブで配信し、「処刑した」と言っておきながら、その殺戮シーンを見せずに希望の灯を微かに覗かせる厭らしい手法など、「モサドとCIAとMI6が育てた」という雰囲気に合致する。

さらにスノーデンは、「モサド(イスラエル)は、ISISとイランを戦わせ、スンニとシーアの両方を消耗させて弱体化するためにISISを作った」とも語っている。

スノーデンのこの言葉を裏付けるかのように、イスラエルのネタニヤフ首相はこう言っている。「イスラエルや米国は、ISISとイランとの戦いを傍観し、両者が弱体化するのを待つべきだ」

この他にも、イスラム国が確保していた石油利権をクルド人に奪わせるために米軍が空爆するなど、イスラム国の背後に米英イスラエルが関与している雰囲気は十分にある。ユダヤ陰謀論者が喜びそうな材料には事欠かないといった雰囲気なのだ。

イスラム国の狙いは世界を焼き払うこと

企業破綻や倒産、あるいは奇妙な事件が起きたり戦乱が拡大すると、決まって顔を見せるのが「ユダヤ陰謀論」だ。証拠など存在しなくても、「悪いことはすべて国際金融資本が仕組んだもの」と決めつけてしまう。事実、数多くの事故、事件あるいは騒乱の中には、裏に金融資本家たちの謀略があったこともある。しかし、すべてをユダヤ金融資本、あるいはロスチャイルド一族の仕業と決めつけると真実が見えなくなる。「ユダヤ陰謀論」とは、真実を覆い隠すための方策であり、安易にユダヤ陰謀論を唱える者は、無料で悪事に加担する協力者あるいは愚かな共犯者に過ぎない。

イスラム国に関してスノーデンが「モサドとCIAとMI6が育てた」と言っていることだけを取り上げて、「イスラム国とは国際ユダヤたちの陰謀で生まれた」と分析するのは、いささか暴論である。

なぜ暴論と断言できるか。――何よりイスラム国に参加している3万人とも5万人ともいわれる外国人の数だ。彼ら外国兵の多くは、イスラム教に改宗して戦闘の前線に立っている。イスラム国の指導者バグダディがかつてイスラエルに捕まり、モサドの洗脳によりスパイ訓練を施されたという情報が正しかったとしても、バグダディが3万人の外国兵をイスラム教徒に改宗させたわけではない。前線に立つ兵士たちは命を賭している。カネよりも命よりも大切なものがあることを知っている。

イスラム国からそれぞれの母国に戻っていく外国人兵士の「今後」を考えると、ユダヤ陰謀論など何の意味もないことがわかる。そもそもユダヤ陰謀論の根底には、ユダヤあるいは白人が「高位」にあり、世界の一般人とくに有色人種は「下位」にあるという劣等感(優越感)が下地にある。ところが、いまやユダヤ陰謀論の足元そのものが危うくなりつつある。

陰謀論者たちは、イスラム国を見てもこう言うだろう。

「国際ユダヤ資本が狂信的過激集団を背後で操っている」と。

しかし現状は、真逆なのだ。陰謀論者的に言えばこうなる。

「狂信的過激集団が国際ユダヤ資本を操って資金や武器を集め、国際ユダヤ資本を叩きのめそうとしている」

イスラム国の真の怖さは、唯物史観に則っていないところにある。

有史以来、人類史は「ヒト・モノ・カネ」で動いてきた。近世以降、カネの比重が恐ろしく肥大したが、それでも「ヒト・モノ・カネ」が基本にあった。「ヒト・モノ・カネ」を基本に置く国家があり、国家間の闘争があり、国境があった。イスラム国にはその基本がない。

イスラム国誕生に向けて、モサドとCIAとMI6が動いたかもしれない。既成の価値観が通用するのであれば、イスラム国は陰謀集団に操られる「第二のアルカイダ」で終わってしまうはずだった。だが彼らはその道を進んでいない。彼らにとって国境など意味がない。イラク、シリア、レバノンの国境に意味など認めない。国境に意味を認めない以上、彼らの戦いの場はどんどん拡大する。結集した兵士たちの母国に、その戦いの場が広がる。

イスラム国の姿を一般論で表現するなら、「世界革命を目指す狂信的カルト集団」とでも言うしかない。イスラム教という一神教に則ったイスラム的正義に生きる思想集団なのだ。ユダヤ教やキリスト教といった、同じ位置に立つ一神教世界には、彼らを調伏できる者は存在し得ない。彼らを調伏できるのは、一神教とはまったく別次元の宗教観、哲学を持つ者だけだ。

世界が地獄の業火に包まれる前に、日本が立ち上がることができるだろうか。






<海外情勢>
                               2014年7月4日

2015「日本孤立化作戦」発動
――中国・韓国の作戦に嵌まり「孤立する」日本――


東アジアの将来を左右する「2015年問題」。昨年(2013年)2月に、韓国に初の女性大統領・朴槿恵が誕生し、彼女が反日姿勢を貫いていることから、「2015年問題」の方向性はほぼ決定された。

日韓首脳は平成24年(2012年)5月に北京で野田佳彦・李明博が会談して以来、2年以上も開かれないという異常事態に陥っている。韓国の状況を見て、日本政府だけでなく庶民大衆の側にも「仕方がない」といった諦めの気持ちはあるものの、日本人の多くは2015年問題に何ら危機感を抱いていない。

東アジアでは今、中国・韓国が中心となり、全世界を巻き込んで日本孤立化作戦が展開されている。このまま放っておけば、日本は本当に孤立し、危険な状況に陥ってしまう。

2015年問題とは何か

昭和40年(1965年)6月、「日韓基本条約」が締結された。このとき日本は「朝鮮半島における唯一の合法政府は韓国である」ことを確認し、日韓の国交が正常化された。日本は韓国に対し莫大な経済援助を行うことを約束し、この援助は約束通り履行されている。また日本はその他の援助も行い、これにより日本の韓国併合から大東亜戦争に至る「両国間の財産、請求権一切の完全かつ最終的な解決」を確認しあった。

このとき日本から3億ドル(1080億円)の無償供与、2億ドル(720億円)の長期低利貸付、3億ドル(1080億円)以上の民間借款が行われた。莫大な金額だったが、これらの多くは個人補償には回されず、ほとんどがダムや工場建設、道路整備といったインフラに投入された。その結果、それまで世界最貧国の1つとされ、生産技術も能力もなく、国民が飢えに喘いでいた韓国は「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展を遂げたのである。

来年、平成27年(2015年)6月に「日韓基本条約」締結50周年の節目の年を迎える。

日韓両国民が祝う記念行事が盛大に行われて当然の年なのだ。ちなみに基本条約を締結し、「漢江の奇跡」を起こしたのは朴正煕大統領。現在の韓国大統領・朴槿恵の実父である。

(朴正煕と朴槿恵の父娘関係に関しては本紙「「恨日」に凝り固まった朴槿恵」参照。)

韓国の重要な祝日の一つに「光復節」がある。

昭和20年8月15日に日本はポツダム宣言を受諾し、大東亜戦争に敗戦。これを以て1910年以降足掛け36年間日本の統治下にあった朝鮮は、日本支配から解放されることになった。韓国ではこの日を「光復節」と名づけ盛大なお祝いをしている。

来年、平成27年(2015年)8月に韓国は、日本から解放70周年の節目の年を迎える。

日韓の間で「日韓基本条約締結50周年」の大祝賀会が催されるのか、「日本からの解放70周年」のお祝いが韓国で催されるのか。この2つが同規模で行われることは常識的にあり得ず、どちらかが選択されることはずっと前からわかっていた。

反日思想に凝り固まった朴槿恵が大統領である以上、「光復節70周年」が大々的に催されることは予測できる。だが、単純に「日本からの解放70周年」祝賀イベントだけでは終わりそうにない計画が進められているのだ。その現実を日本のマスコミは隠し続けている。

光復軍を知っているか?

日本統治時代に中国で創立された韓国臨時政府「光復軍」の記念碑が中国の陝西省西安市に設置され、今年(2014年)5月29日に除幕式が行われた。

「光復軍記念碑」と聞いてどれほどの人が反応するだろうか。そもそも、こんにちの日本人の中で、「光復軍」を理解している人間がどれほどいるだろうか。

光復軍、あるいは光復節について正しく理解するには、歴史書を読みほどき、現実に何があったか理解する必要がある。そんな面倒は厭だという方のために、以下にきわめて簡単に韓国近代史を紐解いてみる。

韓国併合と独立運動

朝鮮半島最後の王朝は14世紀から20世紀初頭まで続いた李氏朝鮮(最後は高宗が王の時代に「大韓帝国」と名乗った)である。李氏朝鮮は、日本の室町時代から明治に至る時代に朝鮮半島に君臨した王朝だ。この李氏王家の実体は清国(中国)の傀儡であり、李氏朝鮮は王家と両班(貴族階級)が国を統治するという中国の属国、似非国家でしかなかった。

清(中国)の属国から独立しようと考えた人々は、王家打倒を目指して何度も決起し、ときには東学党の乱のように農民が立ち上がったこともあったが、そのたびに清国により反乱が鎮圧されてきた。

朝鮮半島に対して清(中国)が過大な影響力を及ぼしていることを危惧した日本は、日清戦争により半島から清の勢力を一掃した。ところが李氏朝鮮の王家と貴族階級の両班は、清(中国)に代わってロシアの庇護を求めるようになる。王家と両班にとっては、ご主人様が誰であってもかまわない、強ければ良かったのだ。

その後、日露戦争でロシアを破った日本は、朝鮮の閣僚たちの要求に従い、朝鮮を独立させるのではなく「日韓併合」を実現させた。明治43年(1910年)のことだった。

日本が朝鮮を併合すると、今度はこれを不当と考える勢力が反日運動を展開するようになった。この運動に参加したのは、かつての貴族階級・両班と、もう一つは共産主義者だった。両班と共産主義者という、思想的には真逆の勢力が反日でまとまった。

日本の朝鮮総督府による取り締まりが厳しかったこともあったが、何より独立を目指す勢力が分裂したことが反日運動の盛り上がりを阻害した。この当時、知られているだけで「大韓独立軍」、「大韓光復軍政府」、「耕学社」、「勧業会」、「扶民団」、「大韓人国民会」等々、独立を望む20以上の反日・抗日組織があった。どれも数人から数十人規模の団体で、連合することもなく、反日勢力が大きく成長することはなかった。

3.1運動と臨時政府の樹立

第一次世界大戦末期の1918年に米国のW・ウイルソン大統領が「植民地の公正解決――民族自決」を唱えたが、これに触発されて、朝鮮半島内に若者を中心とした独立への欲求が一気に高まった。もともと一気に沸騰点に達する民族的特性もあり、それまでの反日運動とはケタ違いのうねりが朝鮮半島内に生まれたのだ。

ちょうどこのとき、李氏朝鮮26代の王で、「大韓帝国」の初代王になった高宗が亡くなった(1919年1月21日)。この高宗の葬儀に合わせて1919年3月1日に大規模な独立運動「3.1運動」が開始された。このとき朝鮮半島の反日勢力が初めて結集されたといっていいだろう。

この運動を機に、バラバラだった朝鮮半島の反日運動は統一され、上海に「大韓民国臨時政府」が創設された。漢城を中心に活動していた勢力やウラジオストック等の反日・独立運動もこの臨時政府に統一された。臨時政府は李承晩を大統領に据え、韓国独立を唱えた活動を開始したが、間もなく半島の民族独特の主導権争いが勃発。抗日・反日勢力は分化、細分化を重ね、臨時政府もそうした勢力の中の弱小な一団体へと転落してしまった。

光復軍の創設

共産主義勢力は朝鮮半島北部や満洲で「抗日パルチザン」活動を展開し、また日本人の黒田善次によって設立された「朝鮮義勇軍」は中国国民党軍の支援を受けて日本軍将兵の暗殺などを繰り返していた。ところが上海の「大韓民国臨時政府」は軍組織を持たず、抗日活動などまったくしていなかった。活動もしないうえに臨時政府は日本軍を怖れて逃げ回り、上海から杭州、長沙、広州、柳州と点々と移動を繰り返し、1940年(昭和15年)にやっと重慶に落ち着いた。

1940年9月、重慶に落ち着いた「大韓民国臨時政府」はその軍事組織として「光復軍」を創設。ここで、「光復軍は韓国・中国2国の独立を回復するために、共同の敵・日本帝国主義を打倒し、連合国の一員として抗戦する」と高らかに宣言を行った。しかしその実体は軍組織と呼べるものではなく、1年ほど経てやっと200~300人規模の人員を確保したに過ぎなかった。

ここで大きな疑問が沸き起こるはずだ。

韓国の亡命政府を名乗った「大韓民国臨時政府」は、上海から点々と移動し重慶に落ち着き、ここで初めて光復軍を設立した。しかし今年5月に中国政府が「光復軍の記念碑」を設置したのは、重慶ではなく陝西省西安市である。

なぜ西安なのか。ここに中韓の野望が透けて見えるのだ。

米戦略情報局の活動

重慶で設立された光復軍は、軍とは名ばかりの組織で、実戦経験も訓練もほとんどゼロに等しかった。それでも当初、形だけは第1支隊、第2支隊、第3支隊など5つの支隊に分かれ、中国国民党軍に混ざって軍事訓練を行おうとしていた。

そんな矢先の1941年(昭和16年)12月に、日本は米英軍との戦争に突入する。

日本軍によるマレー半島とハワイ真珠湾攻撃により、日本と米英軍との戦争が開始されたのはご存じの通りだが、じつは日本が米英に宣戦布告をするよりずっと前から、米英軍は中国軍を支援していた。中国軍支援のために「援蒋ルート」という道筋が作られ、香港経由あるいはベトナム、ビルマ(現ミャンマー)から陸路、中国内陸の昆明や延安に物資が送り続けられていた。援蒋ルートは蒋介石の国民党軍だけではなく、毛沢東の人民解放軍にも支援物資を送っていた。

このルートを使って、米OSS(戦略情報局)も中国の内陸に深く入り込んでいた。

OSSとは1942年(昭和17年)に「情報調整局」から発展して作られた米国の諜報機関である。OSSを作り、それを駆使して活躍したのがウイリアム・ドノバン大佐(最終階級は少将)。ドノバンは「CIAの父」とも呼ばれており、OSSが進化したものがCIAと考えてほぼ間違いはない。

欧州戦線におけるドノバンとOSSの活躍はよく知られているが、じつは中国でもOSSは活躍していた。

余談になるがドノバンのOSSはフーバー長官が率いるFBIとは非常に仲が悪く、またマッカーサー将軍もドノバンを毛嫌いし、OSSのフィリピンでの活動を禁止したほどだ。後の朝鮮戦争にもドノバン対マッカーサーの軋轢が見られると分析する者もいるほどだ。

米国を巻き込んだ「日本孤立化作戦」

1942年(昭和17年)に誕生したドノバンのOSS(戦略情報局)は、太平洋での戦闘で捕虜にした日本兵を選別することから始まった。当時は日本兵といっても、日本国籍の朝鮮人も台湾人もいた。OSSは日本人捕虜の中から朝鮮人を選び出し、彼らに対日戦のための再訓練を施して中国の西安に送り込んだのだ。

捕虜となった日本兵の中から選別され、徹底的に対日戦を訓練された朝鮮兵は、西安の光復軍第2支隊に送り込まれた。ここにはじつは、朝鮮人になりすました日本人もいた。米軍に捕虜となったとき、日本人と判ると殺されるとの恐怖から朝鮮人のふりをした日本兵もまた、西安の光復軍第2支隊に送り込まれた。こうして光復軍第2支隊はどんどん勢力を拡大していった。

また余談になって恐縮だが、OSSが捕虜の兵士を訓練したのは、西安だけではない。陥落後のサイパン島やチベットでも、朝鮮兵などの戦闘訓練を行っていた。光復軍第2支隊やサイパンで育て上げられた兵士は、全員が韓国軍兵士となったわけではない。OSSの目的は日本軍との戦闘を有利に展開するためにある。光復軍第2支隊に編入された優秀な兵士の中には、満洲や北朝鮮に入り込み、抗日パルチザン活動を展開した者もいた。彼らはやがて北朝鮮の人民軍兵士となり、朝鮮戦争時には前線で韓国兵を相手に戦った。さらに、朝鮮人に化けたつもりが日本人であると判明し、それでも対日戦を戦い抜く米側の兵士となって日本本土に潜入させられた日本人もいた。実現はしなかったが、彼らは皇居襲撃、天皇陛下暗殺の司令まで受けていたといわれる。

話を本題に戻そう。中国と韓国が結託して韓国臨時政府の「光復軍記念碑」を西安市に設置した理由は、もうおわかりだろう。

中韓両国は「光復軍記念碑」を西安に置くことで、「米国もわれわれと一緒に日本と戦った同志だ」という事実を強調し、「戦後70周年記念イベント」の主客として米国政府要人、できれば大統領を招こうとしている。

全世界から日本を排除する

「戦後70周年記念イベント」に米国を招待することは、100%間違いのないことだ。しかも中国は、この記念イベントをロシアと共同で開催するという。

5月に訪中したロシアのプーチン大統領は、習近平との首脳会談で中露戦略連携パートナーシップを謳い上げ、共同声明で「戦勝70周年」を祝う記念行事を、中露共同で行うことを発表している。

「第二次大戦における欧州及びアジアの戦場でのドイツ・ファシズム及び日本軍国主義に対する勝利70周年を慶祝する活動を共同で行い、歴史を歪曲し、戦後国際秩序を破壊する企みに引き続き断固反対していく。」

中韓だけではない。米露も巻き込んで「日本に戦勝したお祝い」をやり、日本を孤立化に追い込もうとしているのだ。しかし西安に「光復軍」の記念碑が設置された奥底に、もう一つ別な意味が隠されている。南北問題に関係するものだ。

朝鮮半島の南北統一は、北朝鮮にとっても韓国にとっても望ましいことで、両国はその日が来ることをずっと待ち望んでいた。かつては遠い夢物語だった半島統一は、いま非常に現実味を帯びた話になってきている。

半島統一の話題が出るたびに、北朝鮮主導か、韓国主導かが問われる。経済的には韓国が優位にあるが、精神的には北朝鮮が優位だ。どの程度が真実かは別として、北朝鮮建国の指導者である金日成は、抗日パルチザンとして戦い抜いた英雄。いっぽう韓国の李承晩は、上海の亡命政府(大韓民国臨時政府)の初代大統領だったが1年もしないうちに追放同然で米国に渡り、米国では韓国独立より「朝鮮半島の国連委任統治」を主張していた人物。朝鮮民族としてどちらを採るかとなれば、明らかに金日成に軍配が上がる。

しかし、大韓民国臨時政府が日本に対して抗日パルチザンばりの武力戦を挑んでいたとしたら、話は変わってくる。歴史とは真実の物語ではない。いかに説得性を以て語られるかである。

光復軍の物語は、金日成神話に対抗するためにも必要な物語であり、重要な記念碑なのだ。

今年になって日朝交渉が速度と内容を伴って進展している。日本独自の制裁は一部が解除され、日本人妻を初めとする大人数の日本国籍者が帰国する可能性も出てきている。このスピードで進展すれば、平壌宣言に基づいた日朝国交正常化も早期実現の可能性がある。そして日朝交渉に合わせるかのように、韓国の対北政策も変化し、統一を遠望した物語が動き始めている。

日朝国交正常化は、日本の政治経済に莫大な影響を及ぼすだけでなく、北東アジアの勢力図を大きく変化させる。しかし中韓だけでなく、米国を初めとする世界は、日朝国交正常化を望んでいない。とくに反日感情が強い韓国にとっては、日朝国交正常化は許しがたいものがある。

また北朝鮮、韓国両国民にとって、日朝よりも半島統一が優先されることも確かだ。

日朝国交正常化交渉が煮詰まってきたとき、半島統一というエサが撒かれれば、必然的に日朝交渉は後回しになる。韓国の動きは、近未来に半島統一がなされるという前提のものとも考えられる。そしてそこでは当然ながら、「反日思想に基づく半島統一」という理念が叫ばれる。

2015年(平成27年)に向けての「日本孤立化作戦」が着々と進んでいる。それは今この瞬間も、そして今年の終戦記念日、韓国の光復節の際にも、はっきりと姿を現すだろう。






 

過去の海外情勢

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記事タイトル

掲載年月日

1

急務!「イスラム国」を理解せよ!

 2015128

2

巨大圧力が「日朝国交正常化阻止」に動いた!

 2015110

3

拉致被害者の再調査開始決定!

 201464

4

あまりにも悲惨!あまりにも出鱈目!目を覆う韓国船沈没事故の無策!

 201451

5

直近に迫った朝鮮半島統一!

 201447

6

混乱期を迎えた東アジアを展望する

 2014115

7

中国の防空識別圏設定はアジア激変の第一章

 20131228

8

激動の朝鮮半島 日本が立場を鮮明にすべき時が来た!

 20131221

9

エジプト大混乱は中東大騒乱につながるか

 201386

10

減速する中国経済と金融ハルマゲドン

 201385

11

東アジアで揺れ動く日本を安定させるには、変貌を遂げた北朝鮮との「国交正常化」しかない

 201379

12

高まる東アジアの軍事的緊張 新たな構図を作る中国と朝鮮半島

 201358

13

雄叫びをあげる北朝鮮と経済混迷で動けぬ中国

 2013311

14

中国全軍に「戦争準備」指令!尖閣で激突の可能性高まるなか北朝鮮は「高度な核実験」を予告!!

 201325

15

激動の東アジア、激変する勢力地図!暗闇の日本に光明が射す日は、来るのか?

 20121129

16

「尖閣」から見える世界情勢

 2012106

17

ユーロ危機と食糧危機を背景に2012年秋、世界は新しい価値観に突き進む

 201296

18

変わりつつある北朝鮮は「強盛大国」への道を突き進む

 201283

19

混乱に向かう米欧、緊張の極東

 2011117

20

中国から読み解く世界の近未来

 20111024

21

世界大混乱が始まった!中東に吹き荒れる民主化ドミノは中国、北朝鮮にも波及する!

 2011225

22

「北朝鮮との協議を再開!」―前原外相発言は極東情勢に変化をもたらすか

 2011126

23

変貌を遂げた北朝鮮!~金正恩登場は日本に対するメッセージなのか~

 20101023

(北朝鮮)

24

次期「国家主席」が確定した「大陸のプリンス」習近平国家副主席 その特異な「政治的素質」を読み解け!

 20101023

(中国)

25

激動の東アジア!荒海の中、日本が進むべき方向は?

 2010923

26

米中の熾烈な駆け引きのなかで揺れる東アジア「強盛大国」を目指す北朝鮮に「異常あり」か!

 201099

27

今秋、極東は激変を迎える!その不気味な兆候と、背後で蠢く勢力の狙いは?

 2010810

28

世界中に走り始めた奇妙な「亀裂」そうしたなか、中朝間に生じた亀裂は何を意味するのか

 201075

29

演出される「北朝鮮の孤立」~北東アジアの緊張を高める者~

 201067

30

火を噴くか、朝鮮半島!「外交」・「安保」という視点を失っている日本政府は非常事態に対処できるのか?

 2010428

31

上海万博以後の中国 ポスト胡錦濤時代を率いる「1つの党、2つの派閥」

 2010420

32

波瀾の寅年・激動の東アジア情勢を読む

 201016

33

中国、米国、北朝鮮 各国の熾烈な駆け引きを把握する、民主連立政権の手綱さばきに注目しよう!

 20091227

34

極東に渦巻く怪情報は日本、中国、北朝鮮を襲う大異変の前触れか?

 20091111

35

オバマのノーベル平和賞受賞は米国崩壊に向けてのカウントダウンか

 20091030

36

波瀾の東アジア 中国は?北朝鮮は?そして日本は?

 2009109

37

激動の渦に向かう世界、蠢動を続ける極東。新政権が舵を取る日本丸は、どこに向かうのか?

 2009928

38

激変の序章が始まった 複雑怪奇な世界情勢に対応するために日本が選ぶべき道は?

 2009821



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