Home
・地方行政を読む
 ・川越市
 ・東松山市
 ・坂戸市
 ・ふじみ野市
 ・川島町
 ・鶴ヶ島市
 ・埼玉県全般
特集・短期連載
内外展望
国内情勢
海外情勢
噂の怪奇情報
読者投稿
ご挨拶
行政新聞社へのご要望ご意見は以下のメールで…
メール


内外展望

<国内情勢>                           
                                  2017年1月4日

変革の刻は間近に迫っている!
食い物にされる日本に残された道はアジアへの回帰しかない!


1月20日にトランプ大統領が誕生する。
一部では早くから予測されていたものの、軍産複合体や米マスコミからの情報操作に踊らされてクリントン勝利を予測していた世界は混乱している。未だトランプを認めたくない軍産は、この期に及んでなお「米ロ対決」や「IS国際テロ」を煽り、世界を混乱の方向に導こうと必死だ。だが混乱はそう長続きはしない。その後、世界に見えてくるものは何か。そして米中の狭間に立つ日本はどこに向かうのだろうか。


米中融和と日中緊張

昨年(2016年)12月2日、台湾の蔡英文総統がトランプに電話をかけた。米国大統領あるいは大統領となることが決まっている人物と台湾総統が話をすることは1979年の「米台国交断絶」以来初めてのことだ。中国は顔に泥を塗られた! 米中対峙は途轍もなく厳しいものになる! 最悪の場合、米中国交断絶だ――などと騒ぎだてるネット情報もあるが、これらは事実を見誤ったお騒がせ情報でしかない。
トランプ×蔡英文電話会談は周到に用意された「見世物」だった。トランプと蔡英文が電話で話している将にそのとき、トランプの使節として中国に飛んだキッシンジャー博士が習近平国家主席と笑顔で会談をしていたのだ。直後に中国の王毅外相が「台湾側の小細工に過ぎず、国際社会に形成された『1つの中国』という構図を変える事はできない」と表明したが、これも準備万端整えられたコメントだった。12月26日には中国の空母「遼寧」が台湾南部からフィリピン沖を通過して南シナ海に入り、米中の緊張が高まっていると報道されている。
王毅外相のコメントも、空母遼寧の南シナ海入りも、トランプ政権に対して「やれるものなら、やってみろ」と示威行動をとったと考えるのが常識的で、その意味合いも多分にある。だがトランプは米国経済再生によって米国を立て直そうとしており、軍事的緊張や軍事行動を行う気はまったくない。習近平×キッシンジャー会談の折りに、蔡英文との電話会談、そして空母遼寧の南シナ海入りまで米中両国が了解したと考えるのが当然だ。
トランプは米中対立など考えていない。しかし東アジアで中国が絶対王者として君臨することも許さない。だから台湾というコマを使ったのだ。トランプ政権が東アジア海域に軍事費を投入することはない。だが中国を牽制し続けたい。そのために台湾、韓国そして日本をコマとして使うつもりだ。使える見込みが立てばフィリピンも使うだろう。フィリピンのドゥテルテ大統領はオバマとは喧嘩になったが、トランプはドゥテルテを米国に招くなど、米比関係修復に動いている。
東アジアの現状はおわかりのとおりだが、それでは、米国抜きで中国とまともに対峙できる国が、東アジアにあるだろうか。フィリピンは不透明、台湾は無理、韓国は現在国内状況混乱のメチャクチャ状態。日本しかない。米国としては日中対立、あわよくば日中軍事的衝突まで考えているはずだ。
こうした状況下の年末12月26日、日本の公安調査庁が「中国の大学やシンクタンクが中心となって、沖縄で『琉球独立』を求める団体関係者などと学術交流を進め、関係を深めていると指摘している」ことを公表した。絶妙のタイミングでのこの発表は、背後に日中対立を煽る勢力が動いていることを示している。

失敗に終わった日ロ首脳会談

昨年12月15日・16日にプーチン大統領が来日し、日ロ首脳会談が行われた。日ロ首脳は2人だけで(通訳付き)95分間も話し合い、安倍晋三は「元島民の故郷への自由訪問、四島での日ロ両国の特別な制度の下での共同経済活動、平和条約について率直かつ突っ込んだ議論を行った」と胸を張ったが、北方領土や平和条約締結に向けての動きは完全な失敗に終わった。外務省の熱心な下工作もあり、「せめて歯舞諸島と色丹島は返ってくるのでは」との一縷の望みを託していたが、期待はもろくも崩れ去った。理由は「日米安保協定」「日米地位協定」にある。
プーチン来日の前日、米軍のオスプレイが墜落(公式発表は不時着)した。墜落直後に米軍は周辺を立ち入り禁止区域に指定。地元警察や国交省の事故調査委員さえも立ち入り禁止である。知事はもちろん、日本人は誰一人として現場に入ることはできない。そうしたなか、20代とおぼしき米軍の軍人がガムを噛みながら笑顔で現場に入っていく。沖縄に限らず、米軍が事故を起こせば必ずこのような事態となる。仮に北海道のどこかに米軍の無人ドローンが墜落したとしても、事態に変わりはない。歯舞諸島でも色丹島でも。その現実を12月14日に日本人は見せつけられた。
将に絶妙のタイミングで起きたオスプレイ墜落(不時着)事故だった。そして翌日、オスプレイ墜落事故とその後の対応をじゅうぶんに見定めて、予定より3時間遅れてプーチン大統領が山口の宇部空港に到着。突っ込んだ話し合いの末に、北方領土返還は消え去った。いや、返ってこなかったどころではない。「歯舞・色丹・国後・択捉はロシア領土」であり、そのロシア領土で、ロシアの主権の下で「共同経済活動を行う」と安倍首相は宣言した。日本の首相が北方領土はロシアの領土だと世界に宣言したのだ。こんなことなら、日ロ首脳会談などやらなくてよかった。
そして領土問題と平和条約締結問題の対立の深奥が日米安保、日米地位協定にあることを、プーチン同様に日本人ははっきりと理解した。日本は、まだ独立国ではないのだ。表面的でも比喩的でもない。日本は独立を果たせない忠犬ポチでしかないのだ。

日本を締め付ける韓国の混乱

昨年12月9日、韓国国会は朴槿恵大統領の弾劾訴追を賛成234票、反対56票という大差で可決した。今後、憲法裁判所が180日以内に弾劾の可否を決定し、弾劾となれば大統領選挙が実施される。弾劾は間違いないと見られており、大統領選は避けられそうにない。
韓国という国はたいへん奇妙な国で、世界で唯一「建国記念日(独立記念日)」を定めていない。日本が大東亜戦争に敗戦した8月15日を「光復節」として祝うが、これは建国記念日ではない。ここからも理解できるが、韓国は「日本をコントロールするために米国が作った国」なのだ。韓国国民は自国の歴史を歪曲して学習させられる。韓国人の多くが「反日」であることは、米国の教育によってもたらされた必然なのだ。
初代大統領の李承晩は反共より何より「反日思想」が強い人物で、反日に凝り固まった人物。そんな人物を、米国は意図して大統領に据えた。朴槿恵の父である朴正熙は「(1910年の)日韓併合は日本の大英断で、韓国にとっては大正解だった」と分析する人物で、日本の陸士を卒業した大統領でもある。しかし表面的には「親日」というウソの仮面を被った、強烈な反日思想者だった。彼が反日になったのは、日本人との交流の中で差別されたことが原因だともいわれる。
朴正熙がクーデターで実権を掌握した直後に、韓国内に米国の力でKCIAという諜報機関が作られ、また在日韓国人ヤクザにより日本のウラ社会、そして日本の政財界が支配される構図が作られていった。東京のヤクザ組織のトップの座にいた東声会会長の町井(本名=鄭建永)は、韓国国会議員の資格があり、都内に数軒の妓生(キーセン)ハウスを持って日本の政界の大御所や財界人、ウラ社会の人間たちを懐柔していた。当時、妓生が外交官パスポートで来日していることが国会で追及されたこともあったが、韓国勢力による日本中枢取り込みは成功したようだ。東声会・町井の後を継いだのは山口組の柳川次郎(梁元鍚=KCIA日本支部長)である。この辺りについては『ヤクザと妓生が作った大韓民国~日韓戦後裏面史』(元公安調査庁・菅沼光弘著/ビジネス社)に詳しい。

朴正熙大統領時代の1965年(昭和40年)に日韓基本条約が締結され、日本は有償・無償・民間借款等で韓国に11億ドル(3960億円)を支払った。日本はこの他、1983年には特別経済協力として4000億円、1997年には韓国通貨危機特別支援に1兆円、2002年の日韓W杯スタジアム建設費として300億円の借款、2006年にはウォン高救済支援2兆円、2年後の2008年にはリーマン危機支援3兆円等を差し出しているが、そのほとんどが未返却である。
朴正熙による日韓基本条約締結の9年後、1974年8月に朴正熙夫人の陸英修が暗殺され、このとき以降、朴正熙と娘の朴槿恵に「永生教」という新興宗教の教祖、崔太敏(チェテミン)が取り憑いた。陸英修暗殺事件の翌年、崔太敏は永生教を解消して新興宗教「大韓救国宣教会」を設立。この宗教団体設立には文鮮明の統一教会と日本の巨大新興宗教組織が資金を供出したとの情報が流布されているが、裏付けデータはない。いずれにしてもこのときから崔太敏は青瓦台(韓国大統領府)に「自由に出入りできるようになった」という。この崔太敏の娘が今回話題になった崔順実(チェスンシル)である。
朴槿恵弾劾により、朴槿恵政権が締結した条約が無効になる可能性が出てきている。国際法上の常識からは考えにくいが、日韓の間には底知れぬ闇が横たわっている。およそ1年前となる平成27年(2015年)12月28日に安倍晋三、朴槿恵の間で結ばれた「慰安婦問題日韓合意」は、心もとない状態に陥ってしまった。日本は約束した10億円を2016年8月に支払っているが、昨年末に韓国釜山の日本総領事館前に少女像が設置されたとおり、もはや朴槿恵が日本と交わした合意は「ないことが当然」「国際法など無視しても日本に謝罪を要求」といった状態になっている。

日韓の間に刺さった永遠に抜けないトゲ――。慰安婦問題は、そう考えられていた。それがオバマ米大統領の口添えもあり、安倍・朴の歩み寄りもあり、奇跡的に何とか合意に漕ぎつけた。その矢先という絶妙のタイミングに起きた崔順実醜聞事件。これを「偶然」と見る人間には政治解説など意味がない。
歴史に対する反省は未来を見据えたときにだけ生きる。未来を見ない歴史分析など酒の肴にもならない。韓国に新しい大統領が誕生し、あり得ない罪状を突きつけられて、日本はまたカネを毟られる。その根底を理解しない限り、日韓両国民の間には復讐心と猜疑心しか残らない。現在のところ、新たな韓国大統領候補として潘基文(国連事務総長)を筆頭に、国民の党代表の大学教授・安哲秀や「韓国のトランプ」と呼ばれる李在明などの名が挙がっている。日本として最も求めたい人材は、韓国人の本音を正直に吐露できる人物である。求めるべきは、まさに李在明のような人物である。彼が大統領になった結果、日韓に厳しい対立が起きてもそれは必然なのだ。米国に搔きまわされた70余年の東アジア史を正常に戻すためには、日韓関係を一度凍結させる必要がある。

冬来たりなば春遠からじ

日本が置かれている現状をちらりと見ただけで、暗澹たる気分に陥ってしまう。経済的にも日本は苦境にあり、安倍晋三がどう詭弁を弄しようが、アベノミクスは完全な失敗に終わってしまった(日本経済のことを考えずに初めから米国救済のためだったと弁解しても、米国を救済できなかったのだから失敗である)。現在、日本の債務総額は1200兆円を超え、日本の総資産1500兆円に迫ろうとしている。その日本人総資産1500兆円も、すでにかなりの額が米国債などに形を変えており、下手をすると「日本デフォルト」という信じられない事態に突入するまでに至っているのだ。
日本を取り巻く国際環境も、韓国や中国、ロシアの問題だけではない。北朝鮮との国交回復も平和条約締結も、夢のまた夢といった状況にある。拉致問題は解決の糸口も見つからず、北方領土は諦めざるを得ず、日中、日韓は対立のまま。安倍晋三が成長戦略の柱としたTPPも立ち消えに終わりそうで、日本の未来は真っ暗闇のトンネルの中。そんな状況下にトランプ政権の誕生である。誰が何と言おうと、トランプの下で経済的にも外交的にも、日本が苦境に陥ることは間違いない。
だからこそ本紙はトランプ政権誕生を期待した。トランプ政権誕生は、一旦は日本を奈落の底に叩き落すかもしれない。だが日本の未来のためには、米国と手を切ることが大切なのだ。トランプはそれを教えてくれるだろう。
日本人の多くは隣国である韓国、北朝鮮、中国が嫌いである。嫌いどころではない、大大大嫌いかもしれない。「アメリカのほうがいいに決まってるよ」。そう考える人が多い。だが――ほんとうにそうなのだろうか。どうして、そうなったのだろうか。日本はアジアの国ではなかったのか。遥か昔からアジアを生き、アジアを漂流し、そしてアジア東端の島国で、アジア全域の価値観を閉じ込めて生きてきたのではないのか。
激動の2017年。――この新しい年を、日本人がアジアに戻る節目の年にしたいものである。






〈国内情勢〉                            2016年12月6日

大津波襲来!
耐え抜かなければ日本に未来はない!


米国の大統領選でトランプが勝利し、トランプに対する評価が姦しいが、枝葉末節の議論には意味がない。トランプ大統領出現だけではなく、日本国内で、そして日本にとって重要な関係各国で、日本を根底から揺るがす大問題が続々と発生している。トランプ衝撃は、いわばその第一波だ。引き続いて第二波、第三波と次々と押し寄せる巨大津波に日本は耐え抜くことができるだろうか。

日本マネーを巻き上げるトランプ

米国はいま瀕死の状態にある。「失業率が5%を切って安定」、「米経済は好調」などという大ウソに騙されてはいけない。米労働統計局は仕事に就けない人のうち9400万人を「働く意思がない者」と切り捨て、統計数字をごまかして失業率の数字を低く発表しているだけだ。米国のフードスタンプ(食糧費補助、日本の生活保護)受給者数は8000万人を突破し、一説には1億人を超えているという(米政府は2013年以降フードスタンプ受給者数を公表していない)。米政府の総債務残高は毎年増加し、2016年には20兆ドル(2300兆円)という天文学的数字になっている。
トランプはそんな米国を本気で救おうとしている。既成の国家構造を破壊して、米国をもう一度強大な国家に仕立てようとしている。自由主義国家の象徴として、世界に君臨する唯一の超大国に戻るために、トランプは頑張ると公言している。本当にできるかどうかは、わからない。だが彼が本気で米国を改造しようとすることは間違いない。
米国再生のためには、もうビタ一文、いや1ドルたりとも損をするような真似はしない。一部加盟国のどこかの分野で米国のカネを吸い取られる可能性があるTPPに参入することなど、絶対にしない。当然の事だ。
トランプは2~3兆ドルのインフラ投資を行い、労働市場・産業機構全体を活性化させるといっている。これができれば米国再生への道が切り開かれる。だが300兆円にも及ぶ資金を誰が出すのか。
3度にわたるQE(量的緩和による資金注入)でFRBが作った約400兆円は使い切り、日本の金融緩和による300兆円の一部、その後やや遅れて欧州で実施されたQEの150兆円の一部を吸い上げ、それでも青息吐息状態。鼻血も出ない。そんな米国の新たなインフラ投資300兆円は、どこから持ってくるのか。
日本からしか考えられない。カネが余っている国は日本しかない。
日本はじつのところ世界最高のカネ持ち国である。国家財政ではない、個人資産の話だ。日本の国民は、相当数が預金をしている。日本人ほど預金が好きな民族は世界中どこにもいない。日銀が今年(2016年)9月29日に発表した「家計資産残高」は1746兆円に達している。(実際はそのうちの約1200兆円は公債に振り分けられている。)現ナマが欲しいトランプにとって、カネ持ち日本は格好の獲物だ。飢えたオオカミの前に笑顔でたたずむ優しい赤ずきんちゃんなのだ。
日本のカネ(個人の預金や年金)は米国債や米社債に回され、巻き上げられる。
銀行預金は口座凍結やベイルイン(預金を銀行救済に充てる)の恐れがあるなどという情報も流され、タンス預金にする人や、現物の金(ゴールド)を購入する人も増えているが、それらすら危ない。どんな手段を使っても、さまざまな手法で日本のカネは米国に奪われる。「多少のカネで済むなら仕方ない」と諦めるしかない。これまで米国に盲従(隷属)してきたツケを払わされるのだと考えればいいだろう。

安倍トランプ会談と在日米軍撤退問題

在日米軍の駐留費、年間約2300億円を、日米は半分ずつ負担している。(実際に「おもいやり予算」という名で日本側が支払っている額は半分超の1848億円。さらに米軍駐留費以外に米軍基地存続のために日本は4500億円を投入している。)
トランプは米軍駐留費2300億円の全額を日本が負担すべきだと主張、「それができないのなら駐留米軍は撤退させる」といっている。日本政府としては対中国・対北朝鮮を念頭に、駐留米軍の撤退には応じられない。今後両国間で駆け引きが行われるだろうが、最終的に当面は日本側が譲歩して、在日米軍駐留費の負担額増――つまり在日米軍という名目でカネを巻き上げられる。だが米国にとっては、人件費増だけではなく、燃料・武器兵器の費用・維持費などの高騰を考えると、可能な限り海外駐留軍を削減したい。在日米軍を撤退させたいのが本音だ。
トランプが大統領選に勝利してすぐ、安倍首相は直接トランプに電話をして、11月17日(日本時間18日)にニューヨークで両者が会談した。ドイツのDPA通信社は「トランプが1対1で話し合った世界最初のリーダー」と安倍を持ち上げ、翌日のペルーAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会談では安倍が世界の中心人物かのような扱いだった。これは、どう考えてもトランプ流の演出だ。安倍に「貸し」を作ったようなものだ。

多少余談になるが、この「安倍トランプ会談」はじつに興味深い。日本のマスコミ報道を見る限り、日本は大統領選でヒラリー・クリントンが勝つものと考え、安倍が訪米した際にクリントンとだけ会ったと報道されている。だが真相は異なる。安倍政権側は早くから「トランプ勝利はあり得る」と考え、9月末のニューヨーク国連総会の場でトランプ陣営と接触を持ち、10月21日にマイケル・フリン(トランプ政権下での安保担当大統領補佐官に内定)が来日したときに菅義偉官房長官が長時間の会談を行っている。このときすでに、日米安保問題、在日米軍撤退時期などに関して相当突っ込んだ話し合いが行われた模様だ。
いっぽう日本の外務省はクリントンが勝つと確信していた。外務省はトランプとの回路を持っていない。安倍トランプ会談は、外務省が介在することなく、安倍が直接トランプに電話したものだった。
トランプも変わっている。大統領選に勝利してから、トランプと国際電話で会話した世界のトップは32人にのぼる。ところがこの間、米国務省は一切これを関知していない。国務省が関係しない対外国交流など、米国では珍しい話なのだ。
安倍もトランプも、外務省、国務省の思惑を無視して動いた。従来の枠組みから外れて行動した。この傾向は今後も続く。マスコミはこの件に関し一切口をつぐんでいるが、極めて重要な問題である。今後に関してもマスコミ情報が意味をなさない可能性が出てくる。情報社会が刷新されることは確かだろう。

在日米軍撤退は以前から決まっていた

話を本筋に戻そう。
外務省や国務省とは無縁で行われた安倍トランプ会談で何が話し合われたのか。「TPP」と「在日米軍」以上に重大な話はない。他にあるとすれば「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」くらいだろう。AIIBの話が出たとしても、わずかな時間しか割かなかったはずだ。二人の会談の中心議題はTPPと在日米軍(東アジア安保問題)だった。会談後、安倍があれほど焦って国会を通過させたTPPに関して、トランプは「就任式の日(1月20日)にTPP離脱を宣言する」と従来通りの発言を続けている。TPPに関してトランプはまったく譲歩しなかった事が理解できる。だが在日米軍問題に関しては、トランプはその後何の発言もしていない。
選挙期間中のトランプ発言を聞いて、日米安保に亀裂が走ると危惧する意見もあるが、当選後のトランプは、「中国に対応するための日米同盟重視」といった発言に変わっている。「日本はアジアの安全保障に対してより大きな責任を負うべき」ともいっている。
情報通の間では常識となっているが、在日米軍が2020年以降2024年までに撤退することは、オバマ大統領就任(2009年)直後には決定されたことだ。じっさいには2003年以降の米軍再編計画の中で、ミサイルや無人戦闘機・精密誘導システムの充実などから駐留基地や兵力のあり方についての研究が深く進み、経済的要因より戦術的要因から、在日・在韓米軍の必要性が疑問視されたことに始まっている。今回の安倍トランプ会談では、その念押しが行われたと考えるのが当然。場合によるとトランプは、在日米軍撤退時期(2020年以降2024年まで)は変えることなく、「撤退表明を2018年に行う」とした可能性もある。
いずれにしても在日米軍が数年以内に撤退することは確実な話である。海兵隊グアム移転費3000億円負担問題など、まだまだ不透明な(利権屋が首を突っ込んでくる)話が残るが、在日米軍が撤退することは日米両政府の決定事項である。これは「トランプ衝撃」ではない。トランプであろうがクリントンであろうが誰であろうが、決定されている計画なのだ。基地利権に生きる人々、あるいは反基地闘争を生活の拠点としていた「既存体制派」は壊滅的打撃を受けることになる。

北方領土は、まだ返還されない

この2、3000年の人類史を顧みると、世界は「カネ」「力」「文明」の3つで動いてきた。
これから先、この価値観が激変する可能性はあるが、2016年現在この3つは相変わらず世界の動向を支配している。
在日米軍が撤退することは、東亜の軍事的勢力図を激変させる。それは世界中が理解している。トランプの出現(大統領就任)は、「内緒の話を表沙汰にしてしまった」という意味がある。在日米軍がやがて消えることは、ロシアも中国も承知していた。しかしそれは「ウラ情報」の話であり、表向きに語られるものではなかった。トランプの出現でそれが秘密ではなくなってしまった(もともと秘密でも何でもないのだが、表世界で語られることがなかった)。これは、じつは重大な意味を持つ。
在日米軍撤退とは、すなわち「東アジアでの米軍の勢力が弱まる」ことを意味する。もし同時にロシアが東アジアで勢力を高めたら、どうなるか――。ここに「駆け引き」が必要となる。2020年から2024年のどこかで、在日米軍が撤退する。その前にロシアが北方領土を「ロシア軍基地付き」で返還するなどという事態になったらどうなるか。東アジアの軍事地図が塗り替えられてしまう。日露の北方領土交渉は、東アジアの軍事勢力地図に重大な影響を及ぼす。
北方領土が返還の際に「ロシアの基地付き」というのは常識的な話である。それは表面的な基地(誰でも目にする基地)だけを意味するものではない。在日米軍撤退とロシア軍の日本進出が同時に起きることは、軍事バランス上好ましいことではない。それは米軍にとってはもちろん、ロシアにとってもよろしくない。
トランプ出現で在日米軍撤退話が表面化したことは、北方領土返還を「難しい物語」にしてしまった。トランプ陣営がそれを見透かしていた可能性もある。安倍トランプ会談は、北方領土返還交渉をブチ壊すための米側の戦略だったと読み取ることもできる。
とはいえ、安倍の地元、山口県にプーチンを招いての日ロ首脳会談が12月中旬に開催されるのだ。ここで「何も変わりません」では安倍の面子が立たない。それはプーチンも重々承知している。北方領土交渉は何らかの進展があると考えて当然だ。歯舞・色丹諸島だけの返還か、あるいは日ロ共同統治か、さらには返還時期の確定か、前進はあるが実利はない、そう考えておくべきだろう。

韓国、朴槿恵大統領と日韓の今後

朴槿恵大統領と崔順実(チェスンシル)容疑者との不可思議な交流、そして一般人である崔順実が国政介入したことや、彼女の財団に関係する不正疑惑が浮上し、朴槿恵政権は韓国史上最大の混乱をもたらしている。
朴槿恵大統領の弾劾が決議されるか、あるいは朴槿恵大統領が与野党合意の上で来春に辞任するのか興味深いところではあるが、これは韓国内政の問題であって、海を隔てた日本が野次馬的揶揄発言をすべきではない。しかし来年のいつかは不明だが、韓国大統領が交替することは確定的だ。それは、日本だけでなく東アジアに大きな影響を与える。
朴槿恵に代わる大統領候補として、城南市長の李在明(イジェミョン)52歳や現国連事務総長の潘基文(パンギモン)72歳、安哲秀(アンチョルス)54歳の名が挙がっている。他にも何人かの有力候補がいるらしい。
「韓国のトランプ」と呼ばれる李在明の発言を知れば、日本の反韓国勢力や一部右翼は額に青筋を立てるだろう。李在明はこう言う。「慰安婦問題は端下金で合意する問題ではない」「無能な皇帝と、売国大臣が国権をひとつずつ移譲した旧韓末(日本に併合される前の大韓帝国末期)の姿がそのまま再現されている」「我々を侵略し独島(竹島の韓国名)への挑発を続けている事実上の敵国である日本に軍事情報を無制限に提供するこの協定を締結するなら、朴槿恵は大統領ではなく日本のスパイだ」――。
これは韓国の「愛国勢力」の代表的な発言と思われる。そして今日、ヨーロッパのオランダ・オーストリア・イタリア・フランスなど各国の動きに見られる「新ナショナリズム」に見事に一致した動きでもある。
韓国の「反朴槿恵運動」は単に朴槿恵大統領を排撃するだけでなく、朴槿恵政権下にできた条例や協定を無効にする動きになっている。国際社会の常識が日韓関係では通用しない。非常識が、日韓関係では常識になっている。
安倍政権下で苦労の末に締結に漕ぎつけた「慰安婦像問題」も「日韓秘密軍事情報保護協定」も、朴槿恵に代わる新大統領は白紙に戻してしまう可能性が高い。日本政府が莫大な時間と労力を費やし、世界各国に根回しまでして数十年の苦労を重ねて締結した条約・協定が消滅する可能性がある。これは残念ながら諦めるしかない。日韓の間に越えられない溝を作った、大東亜戦争終結時の米国の策謀を認めるしかない。
両国民の心の奥底で、互いに納得しないまま締結した条約を、本音でもう一度語り合うべき時が来たと理解すべきだろう。

朝鮮半島統合に向けての動きが加速する

今年夏までトランプの選対本部議長を務めていたポール・マナフォートが、8月下旬にトランプ陣営から去った。マナフォートは海外で広範囲な活動を展開。とくに親ロ派と反ロ派が入り乱れるウクライナで親ロ派の贈賄事件に関与したという疑いがもたれたため、トランプ陣営を去ったと考えられる。トランプが勝利後、ロシアや中国でマナフォートが北朝鮮側要人と会ったという情報が流されている。事の真偽は不明だが、明確なことはトランプが朝鮮戦争平和協定締結に前向きだということだ。
今年9月に北朝鮮が核実験を行ったことに対し、オバマ大統領は強く反発。追加制裁の必要性を叫び、国連安保理は11月30日に新たな制裁決議を採択。北朝鮮の石炭輸出量を制限し、一部外交官の資産凍結などを決定した。これより前、今年7月にはオバマ大統領は史上初めて、人権犯罪者として金正恩を制裁対象に指定している。これを知った金正恩が怒りに震えていたという情報も伝えられている。
オバマが失敗した政策を、逆方向から是正しようとする姿勢がトランプには各所でみられる。その意味でトランプが北朝鮮との和解を推し進める可能性は高い。
また、在韓米軍撤退は朝鮮半島の安定なしでは考えられない。現在「休戦協定」しか締結されていない朝鮮戦争に関し、「平和協定」が結ばれれば、在韓米軍は大手を振って撤退できる。トランプが既成の枠組みを壊し、米国を再生させようと考えれば、朝鮮戦争平和協定締結は必然のものとなる。
トランプは12月2日に台湾の蔡英文と電話で会談した。これは1979年の米中国交正常化以来初めての出来事であり、さらにトランプが蔡英文を「総統」と呼んだことで中国は激しく反発。これに対してトランプは自身のツイッターで中国の為替や南シナ海問題を批判。一歩も引かない構えを見せている。このままでは米中は激しく対立を続けるのではないかと心配する向きもあるだろうが、よく考えていただきたい。トランプは経済人であり、米国経済・米国金融界を立ち直らせるために必死になろうとしている男だ。カネのかかる軍事的対峙や対立など絶対にやらない。事実、当選直後には習近平国家主席と電話会談した際、「米中関係についての習主席の見方に賛成する。中国は偉大で重要な国だ。米中両国はウィン・ウィン(相互利益)を実現できる。あなたと一緒に両国の協力を強化したい」と語り、できるだけ早期に北京を訪問すると約束している。来年1月20日に就任するトランプは、おそらく1カ月以内に北京を訪れる。そしてその北京で、北朝鮮首脳も交えて朝鮮戦争平和協定に向けての話し合いが行われる可能性が高い。しかもトランプのやり方として、カネにもならない問題に時間をかけるとは思えない。驚くほどスピーディに平和協定に向かうと考えられる。
それは即ち、在韓米軍撤退と、朝鮮半島統一への第一歩となる。
現在の韓国の混乱状況が、このタイミングで現出したのは決して偶然ではない。朴槿恵大統領の混乱状況を北朝鮮側が余裕をもって見下している状況からも、それが理解できる。

大揺れの中、衆院解散総選挙実施か

日本を取り巻く状況は不透明だ。隣国中国ですら、権力闘争の結果がどのように転ぶか判断が難しい。新国王を戴くことになったタイは、タクシン派と反タクシン派の闘争がなお続くと見られ、タイはあらゆる面で視界不良に陥っている。台湾との関係、フィリピンとの関係も難しく、激流の中に揉まれている日本は舵取りが極めて難しい状況にある。
こうしたなか、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備推進法案が2日の衆院内閣委員会で可決された。IR法案(カジノ法案)に関しては自民や維新が積極的だが公明、民進では党内意見が割れている状態。全体としては賛成派が圧倒しているようだが、本紙は基本的にこの法案には反対である。それはともかく、政府与党はこの法案の採決を急いだ感が強い。TPPにせよカジノ法案にせよ、なぜこれほど急いでいるのか。密やかに(それでも多くが知っているところだが)衆院解散時期が迫っているためだと囁かれている。
なぜ解散するのか。安倍首相の任期延長と憲法改正論議が目的だとされる。
安倍の任期延長は自民党内での協議事項だ。そこに総選挙圧勝という箔が付けは文句なしといったところだ。そのうえで安倍晋三は憲法改正論議を煮詰め、任期内に改正まで行いたいようだ。では解散はいつか。いま囁かれているのは「年内解散年明け総選挙」である。
これには与党である公明党の事情が関係する。公明党が最重要と考えている東京都議選が来年の夏に行われるが、公明党としてはその前後数カ月間は総選挙はやってほしくない。安倍自民党としても、公明党の事情はよくわかっているから、来春以降来秋までは総選挙をやらない。となると、新年早々か来年秋以降しかない。どちらを選ぶか。問題は12月15日の日ロ首脳会談にある。
プーチン大統領を山口に招いての日ロ首脳会談で「前向きの提案」がなされれば、安倍は間違いなく年内解散に打って出るだろう。この選挙こそ、日本の未来を決定する最重大事になるはずだ。






〈国内情勢〉                            2016年9月14日

巨大な壁を乗り越え日露新時代を構築せよ

さる9月2日にウラジオストクで行われた安倍首相・プーチン大統領の首脳会談は3時間10分に及んだ。会談では経済協力や北方領土問題だけでなく、北朝鮮、ウクライナ、シリアなど複雑な国際情勢に関して緻密な意見交換が行われ、両首脳はプレゼントを交換し、プーチン大統領の12月訪日を公表。日露関係はいかにも順調に見えるが、両国の間にはなお相当の隔たりがあり、その溝を埋めさせまいとする国際圧力も存在する。日露両国にとって経済や領土は重要だが、何より両国が、世界の近未来をリードする新たな関係を築くことが出来るかが問題である。

米国の警戒心を無視しロシア接近を図る安倍首相

安倍首相は今年のゴールデンウィークに英・仏・伊・ベルギー・独を歴訪し、最後にロシアでプーチン大統領と首脳会談を行った。しかし安倍訪露の前に米国から「懸念」が伝えられていたことをご記憶だろうか。安倍首相の訪欧、訪露が決まってまもない2月23日夜、在日米国大使館政治部から時事通信社を通してこんなニュースが流された。
「オバマ米大統領は電話による日米首脳会談で、安倍首相が予定しているロシア訪問に対して懸念を伝えた」。
安倍首相は一般的に「米国の忠実なポチ」だと評価されている。そんな安倍首相に米大統領が「プーチンに会うな」と言ったのだ。マスコミ各紙も以下のように報じている。

「米大統領、訪ロ自粛を促す―9日の電話会談」(日本経済新聞2月24日)
「首相訪露にオバマ氏懸念―9日電話会談、延期求める」(読売新聞2月24日)


米国が安倍の「対露」に注文をつけたのは、これが初めてではない。昨年(2015年)4月末に訪米した安倍首相はオバマ大統領から「ロシアとの外交関係修復時期は慎重に見極めてほしい」と注文を受けている。
2014年3月にロシアがクリミア半島を併合し、ウクライナで「親露対反露」勢力の激突があり、以降米露関係は厳しい対立状況に置かれ、プーチンとオバマは「犬猿の仲」に陥った。日本は米国にならって対露経済制裁を行い、安倍首相は「米国のポチ」ぶりを如何なく発揮していた。そんな状況下の昨年4月の日米首脳会談でオバマ大統領は、日露外交関係修復を目指す安倍首相に「日露交渉を延期するよう」求めたのだ。ところがこのとき、安倍はオバマの要求をはっきり断った。その固い意思表示に、同席していたスーザン・ライス補佐官(安保担当)が思わず凍りついたという。
もともと安倍首相が対米従属なのか、対米自立志向にあるのか、米国自身判断に苦しんでいた。一般的日本人の目からすれば、ほとんどの局面で安倍は対米従属、対米隷属路線を歩んでいるように見える。だが対露関係に関してだけは、安倍は米国のポチではなかったようだ。

着実に陣地を広げるプーチンの世界戦略

2014年の「クリミア半島ロシア併合」と、直後に起きた「ウクライナ危機」に対して、欧米と日本など旧西側諸国はロシアに対する経済制裁を行った。日本の対露経済制裁はわずかだったとの見方もあるが、数字からみると、2014年と2015年の日露貿易取引は金額で59%の落ち込みである。制裁で日露貿易は半分以下になったのだ。経済制裁が発動されるまで、ロシア経済は順調だった。BRICSの中でも好調なほうだった。ロシア経済が順風満帆だった理由は、資源高騰とか欧州=ロシア間の安定とか、いろいろ分析されるが、じっさいのところは何より「リーダーとしてのプーチンの魅力」にあった。
ところがウクライナ危機以降、ロシア経済は奈落の底に落ち込んだ。とくに地続きの欧州との輸出入が激減し、ウクライナ危機を煽る米国に対しプーチンが過敏になっていた時期もあった。こうした状況下、ロシアに代わってEUとの取引を活発化させたのが中国と韓国である。さらに中国、韓国はロシアとの交流も活発化させ、米欧日が手を引いたところで「漁夫の利」を得ていた。安倍が米国に逆らってまで対露経済交流を真剣に考える背後に、中国や韓国に対する牽制という意味もある。

最強リーダーと目されるプーチンは、経済的苦境にありながら中東では対IS(イスラム国)撃滅戦、シリア内戦終結に向けて活発な外交戦、軍事戦を行い、成果をあげてきた。ロシア軍機がトルコ軍によって撃墜され、ロシアVSトルコの関係が険悪になったこともあったが、今年8月のエルドアン大統領訪露によって、両者は和解した。もともとプーチンとエルドアンとは仲が良かったが、IS(イスラム国)問題で政策が食い違い、対立するようになった。その後、ロシア軍機撃墜にサウジや米国が関係していたことが明らかになり、さらにトルコが「親IS」から「打倒IS」に大きく方向転換、エルドアンがプーチンに謝罪したことで、両者の関係は今まで以上に親密なものとなりつつある。まさに「雨降って地固まる」である。
こうしてロシアとトルコはがっちりと手を握り合う緊密関係になった。しかしそれは欧米諸国(実は米国だけ)にとっては歓迎できるものではない。なぜか。トルコはNATO軍の一員であり、NATOの南側はトルコが守っている。NATO軍とは対ロシア戦を前提とした軍であり、その一翼がロシアとがっちり手を握ると、もはやNATO軍の存在意味はなくなる。欧州諸国とくにEUにとって、地続きのロシアとの関係は重要である。エネルギー、食糧だけではない。相互は深い経済的・人的関係を樹立してきたし、今後はもっと深まるはずだ。ロシアが浮上してこないようにと、欧州とロシアの間にクサビを打ち込もうとしているのが米国で、その象徴がNATOである。トルコとロシアが手を握ることでNATOの一角が崩れ、くすぶり続けていたNATO不要論が現実のものとなりつつある。EUを初め欧州諸国は、米国の手前はっきりとは言わないが、内心ではこの動きを歓迎している。

ロシアから黒海の地下を通ってブルガリアやオーストラリアを経由し、欧州各地に天然ガスを送る計画「サウスストリーム・パイプライン・プロジェクト構想」は立ち消えとなり、ロシアはトルコを経由する新パイプライン構想を発表。ロシア=トルコの関係はますます強化される。ロシアはイランやシリアとは古くから密接な関係にあり、最近では米国を見限ってイスラエルまでがロシアに接近している。ISが断末魔の叫びをあげている今、トルコと繋がったロシアはこの地域を完全に掌握しつつある。
ユーラシア大陸の西側でロシアが存在感を示し始めたが、じつはユーラシア東側でもロシアは力強くなっている。米欧日の制裁で天然ガスを中心とするエネルギー資源を売り損ねていたロシアは、昨年11月に中国との間で世界最大級のエネルギー協約(約40兆円)を結んだのだ。これで露中関係がますます緊密になるのは当然。そのうえ、その資金調達のため中国が米国債を切り崩していく可能性もある。
プーチンは巧みな外交能力を駆使してユーラシア全域にその存在感を示し始めている。日露平和条約締結は、その延長上にある。その国際状況を把握しないと、日露交渉の問題点が見えてこない。

どうなる、北方領土

プーチンの外交能力のお陰でロシアは存在感を強めているが、苦境に陥っていることも事実だ。経済制裁で通貨ルーブルは下落し、海外投資家の資本は逃げ出し、公的債務返済も遅滞している。金融、経済面に限ればロシアは、まさに八方ふさがり状態なのだ。ロシアが日本との活発な経済交流を求めることは当然の話。ロシア極東経済活性化のためであれば、北方四島どころか千島全域を日本に預けたいと思っていることだろう。それなのに9月2日のウラジオストク安倍プーチン会談の様子を見る限り、両者は共に、どこか白々しいというか、互いに納得できない雰囲気、超えられない壁を前にしている雰囲気が強かった。
2人が裏でかなり突っ込んだ話し合いをして、激突と和解の果てに結論が出されたことはまちがいない。プーチンは12月15日に安倍の故郷山口を訪問することになっているが、そこで「北方4島同時返還」という大サプライズが発表される可能性は高い。
日本のマスコミを見ている限り、多くは「歯舞・色丹2島だけ返還」とか、もっと悪い表現では「経済交流だけ前進。北方領土問題は先送り」といった観測が流されている。それなのになぜ「4島返還の可能性が高い」と見ているか、説明しておこう。

中国浙江省杭州市で開かれたG20に出席していたプーチン大統領は北方4島について、「旧ソ連が日本へ返還を打診したが、日本は拒絶した」と語ったことが報道された(9月6日)。プーチンが語ったこの言葉にこそ、プーチンの思惑が透けて見える。
ウラジオストクでプーチンとの会談の前日、日本政府は「ロシアとの交渉で北方領土が日本に帰属するとの合意が実現すれば、既に北方領土で暮らすロシア人の居住権を容認すると提案する」方針を固めたとの発表を行っている。日本の領土に外国人であるロシア人が居住し続けるというわけだ。70年以上も住み着いていた人々を追い出すのは忍びない、それも仕方ないだろうと、この政府発表に多くの日本人は納得している。歯舞・色丹の返還は、この提案によって大きく前進したと見るべきだろう。だが問題は国後・択捉にある。そこにはロシア軍が基地を建設しているのだ。

ロシアは領土に強欲な国といわれる。その評価は、それほどまちがっていない。たしかにロシアは古くから領土に強欲なところがあった。「そんなロシアが、70年以上も支配してきた北方領土を手放す訳がない」という意見もある。だがロシアが日本の北方領土のうち、とくに国後・択捉に固執しているのは、単に強欲だからではない。軍事的意味合いが重要なのだ。これを理解する必要がある。
近未来に核戦争が実現するか否かという論争はさておき、各国の軍は自国を守るためには最悪の事態を想定しておく必要がある。細かな分析は省く。ロシアが死守しなければならないのはオホーツク海に静かに待機している核弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)である。SSBNは、核戦争で地球が全滅するときに最後まで生き残る箱舟といわれる。オホーツクの海の底深くに潜るロシアの原潜が太平洋に向かう時には、国後・択捉海域を通過する。中国が南シナ海を死守し、あの海域に軍事基地を建設しているのと同じように、いやロシアにとってはそれ以上に重要なものがオホーツク海であり国後・択捉の基地なのだ。ロシアが国後・択捉の基地を手放す可能性は限りなく低い。ゼロに近い。だから「歯舞・色丹の2島しか返ってこない」となる。
しかしよく考えてみよう。恐ろしく困難な問題のようではあるが、問題はたった1つだけである。勇気をもって前進すれば解決できるはずだ。いちばん単純な方法は、「北方4島一括同時返還。ロシア軍基地は残留」である。
日本政府は「北方領土で暮らすロシア人の居住権を容認」すると発表している。同様に「北方領土のロシア軍駐留を容認」すればいいだけの話である。
冗談ではない!と怒り狂う方がいるかもしれない。しかし日本は現実に、わが国土に米軍が駐留していることを容認しているではないか。米軍も駐留し、ロシア軍も駐留する日本。国軍を持たない独立国なのだから、それも仕方ないことだろう。
もちろん他にも解決法はある。国後島と択捉島をそれぞれ半分に分割して、日本とロシアが統治するというやり方も考えられる。将来的には千島列島全域に日本とロシアの共同管理体制が広がる可能性もある。ロシアに騙されてカネだけ盗られ、領土が帰ってこないのではないかと危惧する方もいる。
だが未来を創るためには、ここで日本とロシアが手を結ぶ必要があるのだ。米大統領選の今年こそ、日露新時代の幕開けの絶好のチャンスでもある。12月15日の安倍プーチン会談が楽しみになってきた。






〈国内情勢〉                            2016年6月5日

核の恐怖の中で被爆国日本がとるべき道
――オバマの広島演説を喜び、大統領候補トランプの幻影に怯える日本の対米従属派を切り捨てよ――

シンガポールで開かれたアジア安保会議(通称シャングリラ会議)で、南シナ海での中国の行動が議題となった(6月5日・6日)。米中両国だけでなく周辺諸国や日本も含めて舌戦が繰り広げられたが、その深奥には「核問題」が存在する。南シナ海とは「戦略核」を巡る米中両国の駆け引きなのだ。それを飲み込めないと南シナ海問題が理解できない。
唯一の被爆国である日本は、この問題をどう捉えるべきなのか。5月末にはサミットのため来日したオバマ大統領が広島を訪問し話題となった。多くの日本人から賞賛されたオバマの広島演説だったが、オバマの「核なき世界」論にはどこか怪しさが残る。
南シナ海問題の延長上にあるようにいわれる東シナ海問題や駐留沖縄米軍問題、そして「在日米軍撤退」を叫ぶ大統領候補トランプ。乱気流のまっただ中にいる日本は、今後どうすべきなのか。庶民大衆はどう考えていくべきなのだろうか。


オバマの言動は「核なき世界」の理念に沿うものなのか

5月27日のオバマ広島演説には、胸を打たれるものが確かにあった。
「戦争は人類が持つ最大の矛盾だ。核兵器は、戦争の矛盾性を劇的に象徴している」
「人々は豊かになっても、崇高な大義を言われると、いとも簡単に戦争や暴力を正当化し、戦争が人類最大の矛盾行為だということを忘れてしまう」
「戦争や核兵器の邪悪さを私たちに思い知らせるために、核兵器による破壊の現場であるここ(広島)に来た」
「私たちは、戦争が、紛争解決の良い手段であるという考え方を改めねばならない。外交による紛争解決や停戦を成功させ、戦争を正当化する論理を廃れさせねばならない」
「核なき世界」、「平和な世界」を希求すると語ったオバマ大統領だが、彼は核兵器のボタンを手にして岩国基地から大統領専用機で広島に降り立っている。「核兵器廃絶」を口にしながら核ボタンを手に持つという現実は、オバマが矛盾を併せ持つことを象徴している。

伊勢志摩サミットの前段階として、4月初めにG7外相会議のために広島を訪れたケリー米国務長官は、各国外相と共に広島原爆死没者慰霊碑に献花し、原爆資料館も訪れ、「誰もが広島を訪れるべきだ。米国の大統領にもここを訪れてほしい」と語った。ところがこのニュースは米国ではほとんど報道されなかった(『ニューズウィーク』など一部は電子版でのみ報道)。国務長官広島訪問すら報道されない米国。大統領の広島訪問が米国にとって微妙な問題であることは、この一事を見ても理解できる。
オバマと大統領府はケリーの提言をさまざまな角度から検討し、米国の国内世論を考慮しつつ、広島訪問を決定したと考えられる。この決定は評価できる。だがオバマは広島演説の直前に、岩国基地で「米軍最高司令官」としての演説を行っている。その演説の内容に関して、日本のマスコミは報道を控えている。テレビでも放映されていない。この演説と、広島演説を並べると、矛盾が目につく。オバマは岩国ではこんな演説をしているのだ。
「私は、米国が再びアジア・太平洋地域で主導的な役割を果たせるよう、取り組んできた」
「米国海兵隊は自衛隊と力を合わせ、平和を守り、域内のパートナーと連携し、人道支援および災害救援を行っている」
「諸君の行動は、自由・民主主義・人権・法の支配といった、日米両国が共有する価値観に根ざしている。その結果、日米同盟は両国だけの安全保障にとって不可欠となっただけでなく、域内および世界で欠くことのできない安定の源であり、繁栄の土台となっている。諸君は、われわれの生活の質を支える礎なのだ」
軍事行動を起こすこと(戦争)について、岩国ではこれを肯定し、直後の広島では否定する。マスコミはその両方を同等に扱うのではなく、聞こえの良い言葉だけを報道している。マスコミとは所詮プロパガンダの道具に過ぎない。

プラハ演説でノーベル平和賞を受賞したオバマの言動

大統領に就任して3カ月後の2009年4月9日に、EUとの首脳会談のためにチェコを訪れたオバマは「プラハ演説」と呼ばれる名演説を行っている。
「核兵器のない平和で安全な世界を追求するというアメリカの公約を、明白にそして確信をもって明言します」
この演説と国際社会への働きかけが評価され、オバマはこの年の秋にノーベル平和賞を受賞している。しかしこのときオバマは「核廃絶は長い道のりである」とも述べ、「核兵器が存在する限り、アメリカは 自国と同盟国のために核抑止力を維持する」ことを語ったことは、意外と記憶されていない。「核抑止力を維持する」とは、「核兵器を手放さない」との決意表明である。

オバマはいつも表と裏、良い面と悪い面を語っているのに、マスコミが表の発言だけを報道するから、オバマの言動に怪しさが付いてまわるのだ。
核兵器を合法的に所有しているのは国連常任理事国の米英仏露中の5カ国で、それ以外にインド、パキスタン、そして北朝鮮が核を持っている。イスラエルも持っているだろう。
しかし圧倒的多数を所有しているのは米露の2カ国だけだ。
その数は1990年にはロシア2万5698発、米国1万9924発だった(外務省統計局)。その後、核廃絶が進み、クリントン大統領時代の下工作が功を奏してブッシュ大統領が大量に整理し、2005年には米国の核兵器は4896発にまで減少した(この時点でロシアは7360発)。ブッシュ政権下では4000発の核を廃絶した計算になる。ところが「核なき世界」を謳いあげたオバマの代では700発しか減らしていない。これをオバマの欺瞞と批判する声もあるが、それはオバマの言動を一面からだけしか見ていないからだ。オバマは極めて現実的なのだ。
日本は連合国の占領下から独立して以来、ずっと米国の「核の傘」の中にいる。駐留米軍の問題とも重なるが、これは米国の意図というより日本政府が米国にお願いしてきた感が強い。日本の国家予算に占める国防費の率が異常に低いのは、米国の「核の傘」に守られているためで、日本の経済的発展の理由がここにあるように語られることも多い。

対米独立を拒否し、米軍基地、米国にすがる日本

今回のオバマ広島訪問について、日本人は大まかに好感を持っている。
なかには、米国大統領はもっと早い機会に広島に来るべきだったとの意見もある。
じつはオバマは就任してまもなく広島に来るつもりだったらしい。時期としてはプラハ演説の後、つまり2009年秋9月か10月くらいの話だ。それを拒否したのは日本の外務省である。これはウィキリークスが暴露した公式電文中にあったものだ。なぜ外務省はオバマの広島訪問を拒否したのか。

2009年8月末の総選挙を直前にした8月15日、鳩山由紀夫は普天間基地問題について「最低でも県外」と発言。総選挙で大勝し9月16日に内閣総理大臣となった。鳩山は首相となる1カ月前に米誌『ボイス』に反米ともとれる論文を寄稿しており、日本の官僚や米国の一部利権屋たちは波風が起きることを警戒していた。また鳩山政権下で防衛大臣となった北澤俊美は「在日米軍は迷惑施設」と言って官僚たちの眉を顰めさせた。そうした状況下にあったから、外務省が「オバマ広島訪問」を拒否したと推測される(当時の外相は岡田克也。事務次官は藪中三十二)

こう書くと安定を求める綺麗事のようにも思えるが、明確に言えば外務省は「対米従属」(対米隷属)路線を変えたくなかったのだ。理由はカネである。
わかりやすい話としては米軍基地の建設・維持の「利権」などだ。米軍基地のお陰で美味しい汁を吸っている連中にとって、沖縄の米軍基地が無くなることは死活問題である。
ほんらい一つ一つ分析すべきなのだが、簡単に言い切ってしまうと、外務省に限らず、日本の官僚組織は昭和27年4月に日本が独立して以来ずっと対米従属(隷属)路線を歩んできた。それしか知らなかった。上司から部下に、先輩から後輩に、対米従属路線を歩むことだけが教えられてきた。そうした中から駐留米軍基地をカネづるにする連中が生まれ、育ってきた。米軍基地にたかり、そこから蜜を吸うしか生き方を知らない連中が増殖してしまった。これを助けているのが米国のジャパンハンドラーと呼ばれる利権屋たちである。

少なすぎる日本の防衛予算。それを補うものは…

日米安保条約を基本にした日米同盟は、すなわち日本が米国の「核の傘」に隠れるものである。米国の庇護の下、日本は防衛費を押さえ込み、それを他の分野に回したお陰で経済的に発展できたという暴論がある。防衛費を押さえ込んで経済が発展するなど嘘八百の理論なのだが、これが大手を振ってまかり通っている。
日本の防衛予算は今年(平成28年度)約5兆500億円。国家予算の5%ほどである。
余談になるが、世界には軍事費が国家予算を超えている国がある。そんなバカな話があるかと思われるだろうが、アラブ首長国連邦がそれだ。軍事予算は国家予算の120%に達する。どうしてこんなことになるかというと、中央政府には属さない首長国軍の軍事費が計上されているからなのだ(それにしても多すぎるが)
米国の軍事費は国家予算の17.6%。ロシアが15.2%。イスラエルも同率くらいだ。ヨルダン、カンボジア、モロッコあたりで13%。ネパール、ケニアが8%から9%で、だいたい世界平均はこの程度だ。中国の場合には国家予算が明確ではないが政府支出総額の7.3%(米国は政府支出総額の9.5%)。金額では米国に次いで世界第二位の2160億ドル。
国家予算との比率で少ない国ではペルー7.4%、タイ7.0%、トルコ6.8%。日本の5%は、やはり少ない。最低でも8%、国家規模からすれば10~12%くらい(8兆~12兆円)が適当だろう。それが5%、金額にしてたった5兆円で収まっている。しかもその中に「思いやり予算」が含まれている(思いやり予算は民主党政権下で削られ、最近多少復活し、平成28年度分は年間1900億円)
思いやり予算だけでなく、周辺対策費1826億円、米軍再編関連経費1426億円、その他補修、地代など平成26年1年間だけで6700億円が支払われたという分析がある。また米軍基地存続のために、福田赳夫内閣時代(昭和50年代)以降現在まで日本が20兆円も支払ってきたという説もある。両方とも共産党の主張だから多少割り引いたほうがいいかもしれない。あるいは最大でこの金額と考えるべきかもしれない。最大でこの金額だとすると、正直なところ、これは非常に安上がりな話なのだ。

冗談じゃない、頼んでもいないのに米軍が勝手に基地を作り、その費用を日本が負担するのはおかしい!と口を尖らす輩もいる。だがこんにちの国際社会で軍事費ゼロなどあり得ない物語なのだ。在日米軍の軍事費が総額でどれくらいか、評価は諸説分かれるところだ。米国の予算上では今年度(2016年度)の在日米軍費用は55億ドル(約5830億円)。しかしイージス艦や原子力空母、戦闘機、情報偵察装置、レーダー網を配備し、沖縄駐留海兵隊を含め5万人に及ぶ兵力を維持管理する費用は、最低で年間1兆円、最大に見積もると年間2.3兆円に達するという計算がある。
日本は防衛費5兆円ですべてを済ませ、1900億円(最大に見てで6700億円)で1兆円超の米軍を雇っているのだ。トランプが怒るのも無理のない話である。

トランプの「在日米軍撤退論」に怯える利権屋たち

米国の次期大統領候補トランプは在日米軍問題について「面倒をみているが、何も得ていない」と発言して話題になった。トランプは米軍が日本防衛のために支出している国防費の全額、2016年度で言えば5830億円の全額負担を日本に要求すると主張。安保条約も見直し、再交渉もしくは破棄を訴えている。
東西冷戦が終わったとき米国の経済学者がこんな言葉を口にした。「冷戦は終わった。負けたのはソ連と米国だ。勝ったのはドイツと日本である」。この感情的な意見を受け入れたわけではないだろうが、トランプはこうも言っている。
「自動車産業で経済大国となった日本に補助金を払い続けるようなことはできない」

トランプの発言について、米国や日本でもその評価は分かれている。過激な発言は大統領選のためのパフォーマンスであり、現実には在日米軍の費用負担増額は求めるだろうが、安保破棄や在日米軍撤退は行わないだろうとの観測が強い。大統領が決定するまでまだ半年を残しており、本当にトランプが大統領になるかわからない。対抗馬の民主党ヒラリー・クリントンに情報漏洩疑惑があり、FBIの捜査が始まったことや、彼女が米国の多くの女性からバッシングを受けていることを勘案すると、トランプに勝ち目があるようにも思える。
ではトランプが大統領になったら、彼は本当に在日米軍に関する見直しをやるだろうか。
100%間違いなく、見直しする。当然のことだ。そしてそれは、まず費用負担から始まるだろう。日本側の負担額が55億ドル(約5830億円)を越えても、反対運動は強まるだろうが、じつのところそれほど負担ではない。しかしトランプの本音は日本からカネを巻き上げるところにあるのではない。トランプは米国を普通の国にしたいだけなのだ。在外米軍そのものを見直し、本来の米国の姿にもどしたいだけなのだ。
トランプが大統領になったら、まず日本に対し在日米軍の費用負担増を要求するだろうが、日本がいくら金額を増やしても、2、3年後には「在日米軍完全撤退」を口にするだろう。それは在日米軍にたかり蜜を吸っている連中にとっては最悪の事態なのだ。

中国軍にとって最重要海域「南シナ海」

沖縄駐留の米軍が出て行ったら、沖縄に中国軍が攻め込んでくる――。そんな物語を耳にした方がいらっしゃるかもしれない。そこまで過激ではないが、尖閣諸島に中国軍が入り込んで来る恐れがあるとか、あるいは東シナ海の海底資源を巡って日中が激突するといった、ありそうな噂話を耳にされた方は多いだろう。注意すべきはその物語の奥底に、基地利権で生きる連中がいることだ。
この物語の背後には複雑な歴史と民族感情が絡まっている。その上に琉球の長大な物語や大東亜戦争が被さり、全体像が見にくくなっている。その結果、中国侵攻などという情報を信じたくなるかもしれないが、冷静に考えればわかる話なのだ。中国が沖縄に攻め込んでくることなど、あり得ない。

南シナ海問題と東シナ海問題とは別な次元にあることを理解すべきである。
もちろん海は繋がっているし、シーレーン問題も絡んでくるから、完全に分離できるものではない。しかし南シナ海の戦略的意義は東シナ海とはまったく別モノなのだ。それを理解する必要がある。
ウクライナ問題でプーチンが核使用について口にしたとき、世界は今なお核戦争の恐怖から脱出できていないことを誰もが理解した。核戦争は「絶対にない」ものではない。あり得る話なのだ。為政者たちはそう確信している。
米中の本格全面戦争が始まったら、開戦と同時に中国大陸40数カ所にある核ミサイル基地はすべて核攻撃で破壊される。これを制止するには、中国によるその後の報復核攻撃が可能か否かだ。もし核でやられたら、米大陸全土に反撃の核攻撃を行う戦力を中国が保持しているか否かだ。
国家にとって最重要課題は外交である。外交は経済力、軍事力、文化力によって成し遂げられる。敵と同等もしくは敵戦力を越えなければ、圧力に屈する。
中国にとって報復核攻撃が可能か否かは最重要課題である。大陸に分散させ、いかに隠そうとも、陸上の核ミサイル基地は開戦直後に消滅する。深い海の底に潜った戦略核原潜から報復攻撃が可能でないと、勝負できない。しかし中国は海洋面積が少なく、周辺はほとんど浅い海なので、原潜が潜っても衛星から丸見えになってしまう。では原潜が隠れることができる深い海はどこにあるのか――。それが南シナ海なのだ。
南シナ海は中国にとって、米国と対峙できるか否かの最重要海域なのだ。

では東シナ海とか沖縄にどんな意味があるのか。
仮に南シナ海の海底に潜っていた原潜から米大陸に向かって核ミサイルが発射されるとしよう。そのミサイルはどんな航跡を描くだろうか。おなじみのメルカトル図法で描かれた地図では理解しにくいが、地球儀上で南シナ海と米本土を結べば、それが東シナ海のとくに尖閣諸島上空を通過することが理解できる。打ち上げられたミサイルの航跡を掴むには、尖閣諸島あたりにサードミサイルのシステム(レーダー基地など)設置が望ましい。中国軍にとって東シナ海あるいは尖閣諸島の意味はそこにある。資源を求めているわけではないし、自国領にしたいわけでもない。まして沖縄諸島など、中国が欲しがる理由などまったくないのだ。

沖縄の米軍基地存続を巡って

中国軍が南シナ海に侵出したのは、フィリピン駐留の米軍がいなくなったからだ。米軍が姿を消せば中国が侵入してくる。だから沖縄駐留米軍は絶対に必要なのだ――そんな説を耳にした方もおられるだろう。これは沖縄駐留米軍基地をなんとしても存続させたい日本の一部勢力が作り上げた創作物語である。
駐比(フィリピン)米軍が撤退したのは1992年。フィリピンのピナツボ火山の噴火により米軍クラーク基地の滑走路が使用できなくなったことが撤退の直接原因だ。
しかしフィリピンでは第二次大戦後すぐに反米運動が起き、米軍撤退を望む住民運動が燃え広がっていた。また米国自身、在比米軍を早期に撤退させようとしていた。軍事的、戦略的に価値が低いということと同時に、コストがかかり過ぎることもあった。何より根本的に、ベトナム戦争以降、アジアから手を引こうという感情が米国全体を覆っていたためである。
在比米軍撤退から3年後となる1995年に南沙諸島ミスチーフ礁(中国とフィリピンが所有権を主張)に中国軍が進出して建造物を構築した。この事実をもって「在比米軍が撤退したから南沙諸島に中国軍が侵出した」と説明されることがある。これは事実ではない。先に述べた通り、米中正面対峙を考えたとき、中国にとって南シナ海は戦略的に絶対必要な海域なのだ。これを取らなければ米国とは外交戦が成り立たない。
南シナ海と沖縄とは、まったく異なる。

中国が沖縄に侵攻するとか、尖閣諸島を武力占領するとか、そんな無謀で無意味なやり方が選択されることはない。費用対効果から考えてもあり得ない。ただし軍事バランスが急激に崩れると、思わぬハプニングが起こる可能性はある。
トランプが新大統領になったら、当面は在日米軍費用負担額を大幅に要求されるだろう。支払金がいくら増えようが、沖縄基地存続派はさまざまな手練手管で基地存続運動を繰り広げるだろうが、在日米軍総撤退の日はそれほど遠くない。基地存続派がどう足掻こうが米軍が撤退する日は近未来にやってくる。そのときまでに日本は正しく憲法改正ができているだろうか。国軍を所有しているだろうか。
こう書けば、かなりの人々から批判の声が上がるだろう。世の中には憲法九条を死守すると息巻く人もたくさんいる。だからこそ、あえて主張したい。いまこそ真剣に憲法論議を行うべきであると。
7月には参院選が行われる(予想では6月22日公示、7月10日投開票)。アベノミクスが争点になるだろうが、問題はその後の憲法改正論議である。沖縄の基地問題だけではない、駐留在日米軍の今後を見据えて、日本は一刻も早く真っ当な国家に生まれ変わる必要がある。
そのために真剣な憲法論議を、あらゆる分野、あらゆるレベル、あらゆる階層・地域で活発に行う必要がある。その先頭に立つ覚悟が必要である。






〈国内情勢〉                            2016年4月9日

「日中緊張」が作りだされる今、日本はどう動くべきか

「核安全サミット」が開催されていた米国ワシントンで3月31日に、オバマ大統領・習近平国家主席による米中首脳会談が行われた。2013年6月に習近平が国家主席に就任してまもなく訪米し、第一回目の習・オバマ米中首脳会談が開かれたが、以降今回が6回目となる。米中両首脳は密接に意見交換しているが、その内容は芳しいものではない。今回の会談もマスコミ各紙の見出しを並べると「南シナ海問題で激突」「米中は完全な物別れ」「大揺れの東アジア安保問題」と雲行きが怪しい言葉が並ぶ。4月4日には、米海軍は「4月上旬に南シナ海で3回目となる『航行の自由作戦』を展開する」と発表した。日本のマスコミを見る限り「米中激突」という雰囲気が煽りたてられているようだが、現実に危険なのは米中ではなく、日中激突を画策する日本国内の怪しい人々の動きである。

米中は激突していない

新聞テレビの情報を見る限り、南シナ海をめぐって米中が激しいやりとりを行い、最悪の場合この海域で米中が衝突するかもしれないと危惧を抱く方もいるかもしれない。しかしそれはあり得ない。米中は互いの出方を確認し、政治的な駆け引きを行っているだけなのだ。

昨年10月25日に米軍は南シナ海で「航行の自由作戦」を展開すると発表した。この作戦では、横須賀を母港とする米イージス艦ラッセンが南シナ海の12海里以内を航行すると説明された。じっさい発表から2日後となる10月27日にはイージス艦ラッセンが哨戒機と共に南シナ海に侵入。中国の王毅外相は米国のこの作戦を「軽挙妄動」と烈火のごとく怒ったものだった。

だが米イージス艦が南シナ海で作戦を展開する6日前、作戦公表の4日前の10月21日には、米太平洋艦隊幹部の27人が訪中し、中国の空母「遼寧」の甲板上で歓迎式典を受けている。
米イージス艦の南シナ海入りは米中両国が事前に了解したもので、偶発的に両軍が衝突することはないよう、手はずが整えられていた。胸を張った米国の主張も、烈火のごとき中国側の怒りも、計算づくの芝居に過ぎない。

今回3回目となる「航行の自由作戦」も米中は了解づくでやっている。放っておけばいい。それが正しい対応なのだ。ところが将来、米国に代わって日本が南シナ海に出ていかなければならない可能性が高まっている。米中対峙に代わって日中対峙である。それは非常な危険を孕むことになる。

日本叩きが繰り返される米大統領選

米国では現在大統領予備選が行われており、民主・共和両党の候補者による討論が活発に行われ、その内容が日本の新聞テレビでも紹介されている。目下のところ民主党ヒラリー・クリントン候補、共和党ドナルド・トランプ候補が優勢に選挙戦を支配しており、このままいけばヒラリー対トランプの一騎打ちとなりそうだ。しかしネオコンの動向次第でトランプが共和党からはじき出される可能性も指摘されている。逆にトランプがネオコンと手打ち(合意)して、ネオコンの勢力を政権内に取り込んで指名を勝ち取る可能性もある。民主党ではサンダースがヒラリーを逆転する可能性も秘めており、まだ先は見えないが、ヒラリーにしてもトランプにしても、日本に対しては厳しい注文をつけるだろう。

財政的に逼迫している米国が、駐留米軍の費用負担の大幅増を日本政府に要求してくることは確実だ。朝鮮戦争やその後の東西冷戦の時代とは違い、21世紀の今日、米海兵隊の大部隊を沖縄に駐留させておく戦略的意味はない。沖縄の海兵隊をグアムとハワイに移転させても、米軍の東アジア戦略に何ら問題は生じない。さらにいえば、米国の新大統領は駐留米軍費用だけでなく、日米安保の経済的、軍事的見直しにも取り組むと予想される。

近い将来、米軍は沖縄から撤退する

沖縄駐留米軍について、本土の人々と沖縄県民の間には恐ろしいほどの意識の違いがある。本土の人々は沖縄が中国からの侵略の危機に瀕しているように思っているが、沖縄県民にはそんな意識は微塵もない。この意識の差を生んでいる元凶は新聞テレビ週刊誌などのプロパガンダである。細かな解説は省くが、ひと言でいうなら沖縄県民は歴史的にずっと中国贔屓(びいき)なのだ。沖縄には中国国籍を持つ日本人も多く、先祖が中国人という例も驚くほど多い。
「先の大戦の最終局面で、沖縄に攻め込んで残虐な戦闘を行ったのは米軍だ。戦後ずっと、基地の米兵は沖縄県民に対して非道な仕打ちを繰り返してきたが、中国は一度も沖縄に攻めてきたことはない。中国人が沖縄で悪さをしたこともない。なぜ本土の人々は悪逆非道な米軍の肩を持ち、中国敵視を煽るのか」――それが沖縄県民の思いである。

沖縄に米軍基地が存続する理由は、米軍側にあるのではなく、日本側にある。米軍が沖縄から出て行ったら中国が攻め込んでくるなどという話は、現実にはあり得ない。あり得ないのに中国の脅威を吹聴しているのは、基地という甘い蜜に群がる利権屋たちの策謀なのだ。

沖縄から米軍が撤退する日は、やがて来る。米軍にとって沖縄の戦略的価値がなくなっている以上、日本政府がカネを大量に出さなければ撤退するのが当然だ。そして日米安保から見れば、日本に東シナ海、南シナ海の防衛の一翼を担わせることも必然だろう。

東アジア全域で構築される中国包囲網

3月14日にベトナムの首都ハノイで「侵略的な中国を打倒せよ」というプラカードを掲げたデモ行進が行われた。28年前の1988年3月14日に南沙諸島(スプラトリー)で領有権を争って中国・ベトナム海軍が戦争をしたことがあった(スプラトリー海戦/長沙海戦)。この戦争でベトナム兵64人が戦死したが、今回のデモは戦死者を悼むと同時に、未だ領有権の結着がついていない南沙諸島問題に対して、ベトナム政府が対中国強硬姿勢を明らかにしたものと考えられる。
28年前の海戦以降、ベトナム政府は中国に遠慮して、事件の報道も追悼行事もしてこなかった。それが今回、デモ実施と追悼報道に転じたのは、中国に対する外交政策の転換と考えられる。

そして同じ3月14日に、マレーシアのヒシャムディン国防相が豪州ペイン国防相を初め、フィリピン、ベトナムとも南シナ海の中国軍事拠点構築問題に関する会談を行うと発表した。中国包囲網とも思われるこの動きの背後に米国が関与していることは想像に難くない。

3月16日には豪州で開催された「海洋安全保障会合」に出席した米太平洋艦隊スウィフト司令官は、中国が南シナ海で行っている人工島構築や軍事拠点化に強い懸念を表明。翌3月17日には米海軍ジョン・リチャードソン作戦部長は「中国がルソン島西方の南シナ海スカボロー礁で測量を行っており、新たな人工島造成の埋め立てを開始する」との見解を発表した。中国は既にフィリピンの目と鼻の先にある南シナ海で人工島を造成し軍事拠点化を進めており、この動きがスカボロー礁まで拡大されるとの懸念を、米国とフィリピンが認めている。
そして3月18日、米国とフィリピン政府はワシントンで6回目の戦略対話を行い、フィリピンの空軍基地5カ所を米軍拠点とすることを決めている。近々カーター国防長官がフィリピンを訪れ詳細を協議する予定だとされる。この中には海軍は含まれない見通しだ。

南シナ海を中心に中国包囲網が構築されつつある。それは視点を変えれば、米国が構築した「アジア諸国自身による中国包囲網」であり、米国の構想の中心にあるのは「対中国包囲網のリーダーとしての日本」である。言い換えれば米国は「日中対峙」「日中緊張」を画策しているのだ。

経済から見る限り米国は中国と敵対しない

米大統領選でトランプが中国に対して強硬姿勢を取り続けている。
「貿易でも軍事でも勝利する」
「日本や中国から雇用を取り戻す」と、その勢いは止まらない。
「中国製品の輸入関税を45%にする」「中国は米国民が飢え死にすることを望んでいる」などと発言したこともある。ではトランプが大統領になったら、米中は政治、経済、軍事の面で激突するだろうか。それは極めて考えにくい。あり得ないといったほうがいいだろう。
選挙期間中に派手な中国叩きの演説をしたからには、大統領就任直後に対中強硬姿勢を打ち出す可能性はあるが、すぐに効果がないことに気づき(初めから気づいていたが国民に理解させて)、対中協力姿勢に転じるといった形になるかもしれない。
とにかく米国にはカネがない。中国も経済成長が止まり「ハードランディング(J・ソロス発言)」を迎える状態にあるが、中国以上に米国経済は危ない。米政府は中国などよりずっと上手に失業率などの数字を誤魔化しているが、米国経済の実態は日欧のQEのお陰でなんとか生き延びているのが現状だ。

莫大な軍事費を使うつもりなど、米政府には毛頭ない。しかし南シナ海に次々と人工島を構築し領海を拡大する中国を放っておくことは許されない。莫大な軍事費を使わずに中国を牽制するにはどうすればいいのか――。中国を取り囲むアジア諸国の協力を得ることだ。そしてその場合、対中包囲網の主力、司令塔をどこに置くか。
日本以外には考えにくい。
日本と中国を正面対峙させる。最悪の場合、激突してもかまわない。それが米国の本音だと考えていいだろう。

第一列島線と第二列島線の狭間にある海空域を守るもの

4月3日、海自の潜水艦「おやしお」がフィリピンのスービック港に寄港した。海自潜水艦のフィリピン寄港は15年ぶりのことで大きなニュースとして取りあげられた。防衛省は「初級幹部自衛官の研修と友好親善が目的」としているが、南シナ海に進出する中国を牽制する狙いがあることは誰の目にも明らかである。正しく表現すれば、中国牽制のために海自潜水艦がフィリピンに行ったと「報道されること」が狙いである。

中国は(対米戦における)自国防衛ラインとして、第一列島線、第二列島線という軍事戦略を立てている。どちらも日本の一部を中国の守備範囲(制海・制空権域)に入れている。日本の国土をまるで自国のように扱っていること自体が大問題なのだが、中国自身はこれを防衛ラインと考えている。
外側の第二列島線とは、伊豆諸島から小笠原諸島、サイパン、グアム、そしてパプアニューギニアに至る線で、対米戦ではここが鍔迫り合いの場と想定される。
内側の第一列島線は、九州、沖縄、台湾、フィリピン、ボルネオ島に至る、より中国本土に近い場所で、この第一列島線のさらに内側(中国大陸寄り)に、問題となっている南シナ海人工島が建設されている。

米国としては、第二列島線より東(米国寄り)はハワイ、グアムをベースに米軍が守り切る空海域と考えている。問題は第二列島線より西(中国寄り)の第一列島線までの場所だ。それは東シナ海から南シナ海に至る空海域で、ここを中国の好き勝手にさせたくない。そのためには米軍は表面には立たず、フィリピン、マレーシア、ベトナムそして日本などが中国軍と対峙する形を作りたいのだ。米側が主力と考えているのは日本である。

自主独立、等距離外交への道

対米従属という言葉が使われ始めてからじつに長い年月が過ぎた。GHQによる占領とその後の独立、日米安保締結以降、日本はずっと対米従属路線を強いられてきた。その間、左翼陣営からだけではなく右翼側からも対米自立が叫ばれてきた。こんにち対米自立論が本気で語られるようになった背景に、米大統領選でのトランプの姿勢、発言が大きく影響している。トランプは日米同盟に疑問を投げかけ、日本を「非関税で米国に輸出して大もうけしたタダ乗り国」と批判し、「米国の核の傘から出て、自前の核兵器を持つことを認める」とまで言ってのけた。

日本はたしかに米国の核の傘に守られ、ソ連(ロシア)、中国あるいは北朝鮮を隣国に置きながら、自力で国土を防衛しようという努力をせずに経済発展を遂げてきた。戦後日本の経済発展を分析すれば議論は噴出するだろうが、対米従属が有効的だったことは否めない。しかし時代は大きく変化した。もはや米国は「世界警察」という圧倒的な唯一巨大国家ではなくなっている。経済的にも世界唯一の超大国ではないどころか、日欧に支えられて辛うじて巨体を維持している崩落寸前の様相を呈している。

政治、経済、外交、軍事……あらゆる面で米国だけに頼ることは無理な状況になりつつある。そうした状況下、集団的自衛権行やTPPが突きつけられたのは偶然のめぐりあわせではない。

対米従属を続けてきたお陰で、自力で日本を守ろうとする気概が失われている。軍事的な防衛力だけではない。経済的にも、政治的にも、そして何より文化的に日本を守り抜こうとする意欲が日本人から失われている。このままの状態が続けば、日本は国土もろとも文化に至るまで溶融し、骨格も筋肉もなく腐臭を放つだけの塵芥になり下がる。

四方を海に囲まれた島国日本。海洋国家日本。有史以来ずっと大陸の影響、半島の影響を受けながらも、この環境があればこそ、日本は独自文化を醸造醸成させることができた。採り入れるべきは採り入れながらも距離感を保ち、日本的な価値観を発展させることができた。いま必要なことは対米従属から離れ、等距離を保つ外交である。それは「反米」を意味しない。米国、ロシア、中国のどこが善でどこが悪なのか。それは局面場面で変わり、どこもが善となり悪となる。外交にとって重要なことは自主独立である。どの国とも等距離を保ち、ときに近づきときに遠ざかる。国のための政治活動を展開する。それしかない。







村上正邦の不惜身命


投稿日: 2016年1月14日 作成者: M_Murakami
ありがとうございます。
年賀に代えて。
平成28年の年明けです。
謹んで新春のお慶びを申し上げます。
三が日は穏やかな天気に恵まれ、皆様もきっと良いお正月を迎えることができたことと存じます。
 
私は今年のお正月を沖縄で迎えました。辺野古新基地建設問題で沖縄と国が正面から対決し、解決の目途は全く立っていません。こうした沖縄の息遣いを肌で知ろうとの思いもあって、沖縄の地で正月を迎えたのです。 穏やかな素晴らしい初日を拝むことができました。
今年もこの「不惜身命」のブログを渾身の力で書き続けます。お読みいただければ幸いです。
朝月夜凍てつく天上まさに粋
世捨て人忘れられたか春の風

●第3次世界大戦が始まった
私は沖縄で初日を仰ぎながら、今年は激変の時代、多難な時代の始まりだと感じました。我が国だけでなく、世界が歴史的な大変動、大波乱の時代に突入しつつあるということです。
こうした状況にあって、この激動期の時代を如何に生くべきか、日本国はどうあるべきかを真剣に考え、行動に移すのが私の使命と心得、今年も死力を尽くす決意を新たにしました。
今年は年明け早々、イランとサウジアラビアの国交断絶で俄かに中東がキナ臭くなってきました。昨年来のシリア情勢の緊迫化とイスラム国による血腥いテロで、中東やアフリカ諸国からの大量の難民が欧州諸国に流入し、各国を混乱に陥れています。フランスや欧州各地でイスラム過激派による自爆テロが頻発しています。
加えて1月6日、北朝鮮が突如、「水爆」実験を行い、隣接する韓国、中国、日本はもちろん世界に衝撃をもたらしました。
識者の中には、第3次世界大戦の始まりだ、との懸念すら表明されています。第3次大戦後70年余の間、世界では各地で小規模な地域戦争がしばしば起きましたが、地球上を覆うような大戦争は、国連や米国を中心とする大国の抑制で辛うじて抑止されてきました。
しかし、ここにきて状況は大きく変化しつつあります。
これまで数世紀の間、蓋をされていた宗教対立が、一気に火を噴き出してきたのです。国家単位による戦争という概念が無効になりつつあり、国民国家の国境を越えた宗教勢力が大地殻変動をもたらしているのです。
加えて、新自由主義による野放図な経済活動はすでに限界に達しつつあり、我が国のみならず世界各国でも貧富の格差が拡大し、社会不安が醸成されています。資本主義の限界と言っていいでしょう。成長一本やりの経済運営はもう破綻しているのです。アベノミクスは第一弾も第二弾も、いずれ失敗に終わるのは眼に見えています。

●日本人は本来の日本国を取り戻せ! 
私たち日本人は明治維新以来、「西欧に追いつけ、追い越せ!」をスローガンに近代化を推し進めてきました。第1次大戦後は世界列強の一角に上り詰めましたが、結局は70年前の敗戦という破局に至りました。いま考えてみれば、西欧の近代化をそのまま鵜呑みにして、西欧を模倣してきた結果が、敗戦という破局をもたらしたのです。
西欧流の近代化とは、「自然を克服し、自然を征服する」という極めて合理的な考えに貫かれています。しかし、我が国は四季に恵まれ、豊かな風土の中で、「人間は自然に生かされている」という感覚を持ち、自然と一体化する中で、生きがいを求め、共同体を築き上げてきました。明治以来の近代化は、こうした我が国の歴史と伝統を忘却し、無理やり捻じ曲げて、推し進めてきたのです。
 
世界の大地殻変動が起きつつある今こそ、我が国は本来の面目に還らねばならぬと考えるのです。
限りある地球資源の中で、この大自然と一体化して生きてきた先人の知恵に学び、真摯に「維新」を追求すべきです。
維新という言葉は、水戸藩の藤田東湖が使っています。東湖は『詩経』の一節にある「周は旧邦なりといえども、その命これ新たなり」という言葉を引用しています。「維新」、つまり古くから続く国が、革新を繰り返し、新生するという決意を述べたものです。
維新、それこそが自然の中でいかされてきた日本人の使命だと考えるのです。

●安倍総理は国家の大道を指し示せ!
通常国会が正月4日に召集され、国会では補正予算をめぐって現在、審議が行われています。この審議をテレビの国会中継で見て、我が国の国会はいったい何を議論しているのかという怒りにも似た思いが湧いてきます。
 
年初から世界を揺るがす大事件が生起しているにも関わらず、区々たるチマチマした議論に終始しています。世界史的な大地殻変動の中で、我が国の進むべき道は何か、日本人として、この事態にどう向かい合うべきかという大局に立った議論を期待していた私は失望を禁じ得ません。
激動の中に乗り出した明治維新期の政治家の決意と覚悟、そして勇猛果敢な生き方に学んで欲しいと思うのは、私だけではないと思うのです。
こうした混迷の時代だからこそ、政治家は国民に対し、国家の大道を指し示す堂々たる議論を巻き起こして欲しい。政権掌握4年目にあたる今年、安倍総理には気宇壮大、堂々と国民に国家の大道を呼びかけていただきたい。
 
感謝合掌

村上正邦の不惜身命
http://blog.shunpunokai.com/






〈国内情勢〉

今後4年間、解散総選挙のない日本は
激動、激変が続く世界情勢とどう向き合うのか


12月14日の総選挙で自民党が解散前より4議席減らして291議席(追加公認の井上貴博を含む)、公明党が4議席増やして35議席を獲得。自公与党は安定多数とされる3分の2(317議席)を9議席も越える326議席を確保した。野党は民主党が10議席増の73、共産党が13議席増の21と議席を増やしたが、第三極を担うと期待された維新は1議席減の41、次世代は17議席を減らして2議席に転落した。「アベノミクス解散」と首相が名づけた今回の選挙の意味は、集団的自衛権の今後の対応とその先にある憲法改正を睨んでのものと本紙は推測した。総選挙の位置付けについて、本紙の観測は選挙後も変わらないが、世界情勢を見据えながら今後の安倍政権の方向性を考えてみたい。

来年の景気は上昇するか

自公与党が3分の2以上の議席を確保した翌日、12月15日の東京株式市場日経平均は前週終値より272円安、翌16日にはさらに344円下げて、1万7000円を割ってしまった。原油価格の下落により産油国とくにロシア、ベネズエラなどの経済不安が市場を覆ったためと解説されている。自公与党の圧勝は織り込み済みで、市場関係者はむしろ「思ったほど自民の議席が伸びなかった」と、選挙結果には冷ややかだった。日本国内の選挙結果より国際情勢のほうが市場株価に強く影響することが、ここからも理解できる。

東京市場はその後、18日に+390円で1万7000円台を回復、19日にはさらに+411円と復活している。来春には日経平均が2万円を越す可能性が高いと見る分析家も多い。日経平均の上昇は日本の景気が好転する兆しであり、安倍政権のアベノミクスは成功していると見做す評論もある。だが通貨の増刷で財政赤字を支え、バブルを引き起こそうとするやり方は、決して健全ではない。カネ持ちの投資家や大企業の資金が株価を押し上げるのは短期的なことで、1990年代初頭のバブル崩壊の記憶がある以上、適当なところで投資家たちが市場から逃げ出すことは確実だ。そうなれば一気に不況に転じてしまう。日本の国内消費は依然として低迷しており、庶民大衆が好景気を感じられる状態が来る気配はまったくない。

アベノミクスが成功するか、失敗に終わるかは、まだ判断できる状況にない。成功に向かっていると強気の発言をする評論家もいるし、失敗と断定し安倍政権を批判する声もある。どちらかというと批判する声のほうが多い。

今回の選挙では、アベノミクスの悪口が野党候補から噴出していたが、どの野党もアベノミクスに代わる経済政策を出していない(共産党だけは出していた)。世界的に知られる英国の『フィナンシャル・タイムズ』紙も「日本経済を改善する方法はアベノミクス以外にいくつもあるはずなのに、自民党はアベノミクスしかないと言い張ってウソをついている。共産党以外の野党が対抗策を打ち出さないのも奇妙だ」と書いていた。『フィナンシャル・タイムズ』紙の指摘通り、明らかに野党勢力は怠慢だった。怠慢な野党など存在意義はない。怠慢ではなく、財務省に楯突くことが怖かったから対抗策を出さなかったのだとしたら、もはや野党には何の期待もできない。

安倍政権がいう経済成長戦略が成功するか否かは、来春3月末から4月には明確になってくるだろう。その時点でアベノミクスが成功しない雰囲気が生まれてきたら、夏前には日本経済に分厚い暗雲が垂れこめる。

世界が日本1国しかなければ、安倍政権の経済成長戦略「アベノミクス」は意味があるだろう。だが、米国に追従しているだけの金融緩和政策であるなら、そう遅くはない時期に日本経済は破綻を迎える。米国が、そして欧米が、あるいはBRICSがどう動くのか。日本経済の分析には世界情勢を見据える必要がある。これについては後に説明しよう。

集団的自衛権行使に向けて

今年(平成26年)7月1日に安倍政権は「集団的自衛権行使容認」を閣議決定した。このとき国内には反対論も強く、与党公明党からも異論が出ていた。審議に時間をかけるべきだとの声に対し、安倍政権は「日米防衛協定のための指針(ガイドライン)を年内に再改訂することが決まっており、それに間に合わせるためには7月1日閣議決定が必要だった」としていた。
ところが12月19日に、日米両政府は「日米防衛協定のための指針(ガイドライン)改訂の最終報告は来年前半に延期する」と発表したのだ。

この発表により、7月1日閣議決定の根拠はもろくも崩れてしまった。総選挙後に日米両政府が延期を発表することは、かなり以前から決まっていたものだろう。12月14日の総選挙日程には、そうした意味もあったことが理解できる。

これに関連して江渡防衛相は「集団的自衛権の行使容認を含む安全保障法制の整備と、防衛協定ガイドライン改訂は、できるだけ一緒にしたい」と説明している(12月19日)。この発言の意味するところは、「日米防衛協定ガイドライン改訂と集団的自衛権行使関連の安保法制整備は、4月の統一地方選終了後の話になる」ということである。

いずれにしても集団的自衛権行使容認に関しては、江渡防衛相が語るとおり、「安全保障法制の整備」が必要だ。しかし法令制定には与党内でもかなり紛糾する可能性が高い。すでに本紙は11月末に「解散総選挙の最大目的は「集団的自衛権」運用にある!」という解説記事を掲載しているが、公明党内にはなお集団的自衛権行使に疑問を持つ勢力も存在している。統一地方選後には集団的自衛権行使のための法案がいくつか審議されることになるが、政権側と与党内公明党との折衝は注目すべきところだ。

公明党の一部は、安保関連法案に反対するだろう。このとき、与党を割って出る覚悟が公明党にあるか否かが問題である。公明党が与党を離脱すれば自民党単独291議席で法案を通さなければならない。この場合、いわゆる「一本釣り」で無所属議員や野党の誰かが自民に同調する動きを見せるように働きかけるはずだ。しかし公明党が与党を割って出る可能性は極めて低い。公明党が与党から外れれば、創価学会の宗教法人としての疑念がいくつも表立って噴出するだろうし、自民党の中からは池田大作名誉会長の証人尋問を要求してくる可能性が高い。不確定ではあるが、集団的自衛権行使に関する細則は、揉めに揉めながら最終的には政府案で収拾するだろう。

憲法改正論議に向けて

12月14日の総選挙で与党が大勝利を果たしたことにより、憲法改正に向けた論議が活発になると、マスコミ各社は予想している。中国でも人民日報系の『環球時報』は、「自民党の圧勝は安倍政権のより一層の憲法改正への加速を意味する」と分析。北京の『京華時報』も「安倍首相は選挙では経済政策を焦点にしたが、今後は重点政策を安保や憲法改正に移すだろう」と分析している。本紙もこれらの分析と同様に、安倍政権が憲法改正に向けて大きく動き出すと確信している。ただしその時期は、4月の統一選よりずっと以降のこと。集団的自衛権行使に向けての法整備が優先され、改憲論議はその後、おそらく夏以降になると考える。

安倍首相は今年(平成26年)7月のテレビ番組(長崎国際テレビ)で憲法九条の改正に意欲を示している。すでに一昨年(平成24年)4月に自民党は憲法改正案を提示しているが、そこでは憲法九条改正案は以下のようになっている。


第二章 安全保障(平和主義)

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。

2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。

(国防軍)
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。

2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。

4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。

(領土等の保全等)
第九条の三 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。

【参考】現行憲法第9条 第二章「戦争の放棄」
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

安倍政権は以前から「広く国民の理解を得つつ、『憲法改正案』の国会提出を目指し、憲法改正に積極的に取り組んでいく」ことを公言していた。7月のテレビ番組で安倍首相は、憲法九条の改正により自衛隊の存在と役割を明記するとしたうえで、「改憲の基本は九条にある」と断言している。

来年後半以降は間違いなく憲法論議が巻き起こる。
そのとき、安倍首相の改正の狙いである九条が話題の中心になることも、おそらく間違いない。
しかし、もし九条だけ、自衛隊を国軍と規定するか否かだけが議論されるのだったら、それはあまりにもお粗末、あまりにも上っ面だけの、底の浅い論議で終わってしまう。
国民の多くが納得するためには、深い論議が必要であり、そのためには国民一人ひとりが憲法と正対すべきである。憲法について学ぶことは国民の義務と考えていいだろう。

憲法論議の素材として、本紙の「別館」で、本紙社主・松本州弘によるブログ版『国家と憲法』が掲載されている。憲法に関しては各々さまざまな形で学習され、またご意見もお持ちと思われるが、ぜひブログ版『国家と憲法』をご一読願いたい。

『考察 国家と憲法』(松本州弘)ブログ版 ⇒「行政調査新聞・別館」
http://blog.livedoor.jp/gyouseinews/
※本文は全3章から構成されている論文です。現在掲載中の本論外の補講も近々公表の予定。ぜひお立ち寄りください。


未曾有の金融危機が迫る

アベノミクスは「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「成長戦略」の3本の矢から成り立つと、安倍首相は説明する。金融政策、財政政策は首相のいうとおり粛々と実現に向かっているが、最後の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」は未だ実像が見えてこない。そもそもすべての政策は国際情勢によって大きく変化するものであり、とくにアベノミクスでは米国の経済情勢を注視することが重要である。

米国では雇用統計や失業率、消費者物価指数などが米政府により粉飾されている。中国でも同様な操作は行われているが、この作為的粉飾を忘れてはならない。米国の実体経済は改善されていない。改善どころか、ますます悪化の一途をたどっている。為替や金利すら、政府当局と金融界が談合して動かしている状態にある。

米国では一時、「シェールガス革命」が叫ばれたことがあった。シェールガスがエネルギー状況を激変させるというので、あちこちにシェール井が掘られ、稼働を開始した。「シェールガス革命」の言葉に踊り、「シェールガス・バブル」が巻き起こった。この状況下、資金調達のために、担保が少量で利回りの良いコブライト債権が多用されている。しかしコブライト債権は以前のサブプライムローンと酷似したもので、シェールガス革命が成功しない場合には、リーマンショックを越える大金融危機を誘発する可能性がある。

そしていま、世界的な原油安が米国シェールガス業界に襲いかかっている。

原油価格はいま1バレル60ドルほどに下がっている。じっさいにはサウジなどOPEC諸国はこれより安く原油を売っており、1バレル50ドルを切り、さらに40ドルを切る日が間もなくやってくるだろう。

「サウジは非伝統的な石油産出勢力が潰れるまで原油安を続ける。彼らが潰れたら、サウジは原油安をやめて元の価格に戻す」(「ブルームバーグ通信」)という情報があるが、これは正しい観測だ。ここでいう「非伝統的な石油産出勢力」とは米国のシェールガスを指す。つまり、わかりやすくいえば、サウジだけではなくイラク、イラン、クウェートさらにはロシアまでが結託して米国のシェールガス業界を潰しにかかっているのだ。

もちろん原油安は産油国にとっても痛手となっている。とくにウクライナ問題で経済制裁を受けているロシア経済は非常に厳しい情勢に追い込まれている。普通に考えればプーチンはサウジを非難するはずなのに、そうはせず、先物売りを仕掛けてルーブルの下落を誘導する米欧に激しい怒りをぶつけている。ロシアとしては、この苦境を乗り越えれば米経済が潰れることは間違いないと確信している。
いっぽう米国は、シェールガス業界救済のために大手石油会社を合併させて体力をつけさせるとか、あるいはQE(金融緩和)を再開するとか、何らかの手を打ってくる可能性もある。そうなると株式市場は高騰し、産油国は青息吐息状態に陥る。米ロの経済戦争が長引けば、世界の金融市場はますます不透明なものになるだろう。

原油価格を巡って、いま、世界を舞台にした金融戦争が始まったところだ。この金融戦争はどちらに転んでも日本にとってはありがたい話ではない。

激動、激変が続く国際情勢

金融市場の状況を一見しただけで、世界がいま、不安定極まりない状況にあることが理解できる。この金融戦争状況を横目に見ながら、中東やウクライナだけではなく、世界全域で危ない興奮状態が続いている。米国の産軍複合体に見られるように、軍事衝突を絶好のカネ儲けの機会と考えている勢力もある。こうした勢力がイスラム過激派を支援したり少数民族自立運動を支援する。最近50年間で最も危ない状態に全世界が置かれている。

こうした状況を百も承知で安倍政権は総選挙を実施した。そして選挙が終わったいま、永田町界隈では「今回の衆院は任期満了まで解散はない」という見方が圧倒的だ。平成30年(2018年)年末まで安定多数の与党で政局を運営する――それは明確にいうなら、集団的自衛権行使に関わる安保細則から憲法改正まで、世論が騒ごうが支持率が落ち込もうが、今回の政権でこれを乗り切る覚悟だということだ。

改めていうまでもない。安定多数を獲得した政権与党が、向こう4年間の政治に自信を持ち責任を以て運営にあたるのは当然のことである。集団的自衛権にしても憲法改正にしても、安倍首相がずっといい続けてきたもので、この姿勢を貫くことで世論が騒ぐことはないし、支持率が急落することも考えにくい。向こう4年間、この政権を維持する安倍首相の覚悟は、そんな当然のところにあるのではない。

いま世界は稀にみる混乱期に差しかかっている。噂される金融ハルマゲドンが勃発する可能性は高いうえ、テロ、紛争、地域戦争は、いつどこで起きてもおかしくはない。朝鮮半島有事も考えられるし、隣国と思いがけない突発事件が発生するかもしれない。そうした緊急事態に備える政権と考えるべきだろう。

さらに自然災害の問題もある。ご存じのとおり現在太陽は活動期にあり、地球も活発な運動を展開している。大地震、火山噴火は、世界のどこで起きてもおかしくない。

ここから先の4年間の日本を、日本人は安倍政権に委ねたのだ。日本の未来のために死力を尽くしていただこうではないか。






〈国内情勢〉

解散総選挙の最大目的は「集団的自衛権」運用にある!

安倍晋三首相が伝家の宝刀を抜き、解散総選挙が実施される運びとなった。民主党政権時に決まった「消費税10%への引き上げ」を平成29年(2017年)4月まで先送りすることを決定し、この判断について国民の信を問うために解散総選挙に踏み切ったと安倍首相は説明する。だが「解散総選挙」の本当の理由は、果たしてそれだけなのだろうか。

飯島勲参与の策謀

11月2日放送、読売テレビの人気番組『たかじんのそこまで言って委員会』に出演していた飯島勲内閣官邸参与が番組の途中でとつぜん「衆院は12月2日に解散して14日に総選挙が行われる」と爆弾発言を行い、出演していた人々だけではなく、スタジオ全体が大きくどよめく瞬間があった。同席していた辛坊治郎は「すごい。もう日程まで決まっている」と叫び、加藤清隆氏は「飯島さんが言うと、影響力が大きいから」と唖然とした表情を浮かべた。

じっさいに衆院が解散したのは11月21日だが、12月2日公示、14日投開票で、飯島勲の「予告」は的中している。「飯島は官邸参与だから、首相周辺の雰囲気として理解していたのだろう」と思っている人も多いようだが、事情通はそうは考えていない。

「番組の途中で飯島参与はメモを受け取り、そのメモを見ながらとつぜん解散総選挙を口にした。ふだんの飯島氏のやり方から考えて、あの時点で安倍首相が解散の決意を固め、番組の最中に手渡されたメモでそれを知った飯島氏が、あえて暴露したと考えられる」(週刊誌記者)

安倍首相の「解散の意」を知った飯島氏が、それを番組の中で明らかにしたという見方だ。だが飯島勲の動向に詳しい人物は、もっと突っ込んだ見方をしている。

「今回の解散総選挙は間違いなく飯島勲の策謀だ。小泉純一郎の『郵政解散』も飯島が仕掛けたものだが、今回はあのときのような強烈なインパクトがない。何のための選挙か、誰もわからない。インパクトが弱いこと、選挙の意味がわからないから興味が起きないこと、それこそが飯島勲の狙いではないのか」(永田町の事情通)

解散総選挙の真の狙いは何か

安倍首相は「消費税率10%への引き上げを2017年4月まで先送りする」考えを明らかにしたうえで、「こうした判断について国民の信を問うため衆院解散・総選挙を断行する」と表明。今回の解散を「アベノミクス解散」と呼んでいる。しかし新聞TVマスコミの多くは、安倍晋三の経済政策「アベノミクス」だけでなく、日米・日中・日韓を巡る安倍政権の「外交政策」、さらには「憲法改正を睨んだ解散」を今回の総選挙の目的だと解説する。視野狭窄のマスコミの中には、議員辞職直前にまで追い詰められた小渕優子を救うための選挙なのだと、したり顔で解説する者までいる。

「抜き打ち選挙で敵が態勢を整えないうちに圧勝し、今後の国会運営をやりやすくする選挙」と分析する評論家も多い。この見方は間違いではないだろう。しかし今回の解散総選挙の本丸は、集団的自衛権にある。マスコミや評論家はそれを理解しながら、集団的自衛権の話をしたがらない。

集団的自衛権運用に向けて

元外交官で、安倍晋三のブレーンの一人と目されていた岡崎久彦は、7月に集団的自衛権が閣議決定されたとき、「これで安倍政権は安泰だ」と涙を流して喜んだという。その岡崎久彦は10月末に逝去してしまったが、米国に追従、いや隷属するような集団的自衛権行使容認とは、彼が大喜びするほど重要なものなのだろうか。安倍の目標が憲法改正にあることは、岡崎自身もよく理解しているはずだ。憲法改正を遠望したうえで、まず米国の要望である集団的自衛権を受け入れるべきだと岡崎は考えていたようだ。

安倍晋三は第一次安倍政権以来、終始一貫して「憲法改正」を口にしてきた。今年に入って「憲法改正」を封印し、集団的自衛権行使容認に走ったのは、米国からの要請があったからだ。しかし集団的自衛権だけでは身動きがとれないことは、安倍も重々理解している。7月の閣議決定に関しても、「解釈の変更については、それは憲法改正をしなければ、これ以上はできないということだろうと思う」と述べ、現憲法下ではさらなる解釈変更はできないとの考えを示した(朝日新聞デジタル11月26日)。近い将来、憲法改正論議が繰り広げられることは間違いないが、まず当面は米国の要請に応えて集団的自衛権を運用するところにある。

8年前の平成18年(2006年)9月、小泉純一郎長期政権の後を継いだ第一次安倍内閣で、52歳になった直後の安倍晋三新首相は「美しい国、日本」「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げ、華々しいスタートを切った。「戦後レジームからの脱却」というスローガンは、第二次安倍政権も継承している。

「戦後レジームからの脱却」という言葉に、私たちは何ら違和感を覚えない。来年(平成27年・2015年)は戦後70周年の節目に当たるし、そろそろ本格的に「戦後体制」という殻を脱ぎ捨てたいと思うのは、ごく普通の考え方だ。

だが世界、とくに米国はそう考えていない。「戦後レジーム」という言葉の前に暗黙の形容詞が付いていることを世界の人々は知っている。日本の「戦後レジーム」とは、すなわち「米国が作った戦後レジーム」なのだ。安倍首相がどう考えようが、日本の国民がどう思おうが、「戦後レジームからの脱却」とは、「米国から押し付けられた体制から脱却する」という意味だと理解されている。

安倍首相が訪米した折り、オバマ大統領との会食も用意されず、共同記者会見も開かれなかったことからも、米国が安倍首相の「戦後レジームからの脱却」という言葉に過敏な反応を見せていることが理解できる。

米国から望まれた集団的自衛権の行使容認は、米国に忠誠心を示すものであり、それは「戦後レジームからの脱却」という言葉の反対側にある。「集団的自衛権行使容認」は「米国製戦後体制脱却」をヘッジするものと考えればわかりやすい。岡崎久彦が「これで安倍政権は安泰だ」と喜んだ意味が理解できる。

集団的自衛権行使容認の閣議決定で米国が納得したのだから、もうこれで大丈夫と思いたいが、じつは問題はこれからである。集団的自衛権行使のためには今後、さまざまな法案細則を立案し、国会を通さなければならない。だがそこに与党内部の壁が存在する。

公明党の内部事情

今回の解散総選挙の本当の狙いは集団的自衛権運用にある。マスコミや評論家の中にも、それを理解している者がいるのだが、問題は与党の一翼を担う公明党に関係するため、表現に苦慮し解説されていない。

すでに本紙は今年8月7日に、「『集団的自衛権行使閣議決定』のウラに見えるもの」という記事を掲載しているので、詳しくはこれを再読願いたいが、ひと言で言えば公明党内部は一丸ではなく、集団的自衛権に積極的賛成ではない勢力、どちらかというと反対の勢力が混在している。

来年には集団的自衛権行使に関する法案、細則が作成される。それらを国会で審議し、可決成立させなければ、安倍首相は「戦後レジームの脱却」を行う前に、さまざまな圧力により追い落とされるだろう。

7月の集団的自衛権閣議決定に際しては、自民党・高村正彦副総裁、公明党・北側一雄党副代表、内閣法制局・横畠裕介長官による三者会談で結論が出された。高村、北側は共に弁護士、そこに法制局長官を加え、法的には完璧なものとして閣議決定された。もちろん異論を唱える諸氏もいるだろうが、ここまでは手続き的にも法律的にも完璧である。しかしその運用に関する細かな法案となると、異論が噴出する可能性は高い。

何しろ「自衛権」という問題に関しては、これまでは砂川事件(昭和32年7月)の判決しか存在していないのだ。

このとき最高裁大法廷で裁判官の田中耕太郎長官が下した判決文の中に、「憲法第九条は、日本が主権国として持つ固有の自衛権を否定しておらず、同条が禁止する戦力とは日本国が指揮・管理できる戦力のことであるから、外国の軍隊は戦力にあたらない」とあり、これがわが国唯一の「自衛権」に関する判断とされてきた。

来年以降、安倍首相サイドが提出する集団的自衛権行使に関する法案の一部に対し、公明党が異論を唱える可能性は多分に存在する。与党内で決着しなければ、法案の提出など不可能になる。

万一、公明党が与党を割って出ても、自民党単独で法案を可決することができる安定多数を確保すること。それが安倍晋三・飯島勲が策謀した今回の総選挙である。

もっとも公明党内部には、与党を割って出ようとする勢力はない。与党から外れると、宗教法人問題その他で創価学会が苦境に陥る可能性があり、真正面から自民党に敵対しようとはしないだろう。ただし、与党として内部で法案に修正圧力をかけてくる可能性がある。

自民党は単独で安定多数を確保できるか

12月14日に設定された投票日、そして論点の乏しい選挙――。投票率が低水準に終わることは火を見るよりも明らかだ。投票率が低いと、いわゆる浮動票の数は激減し、組織票がモノを言う。飯島勲の目論見は、間違いなくそこにある。

だがそれは、自民党の圧勝を保証するものではない。

一般論として、組織票がモノを言う選挙では、共産党と公明党(創価学会)が有利となる。また前回の衆院選(平成24年12月)では、第三極を狙う野党が林立した結果、票を食いあい、結果として自民党が圧勝した。今回は野党が結束し、一強・自民党に戦いを挑む選挙区も増えて、決して自民党に有利だとは言い切れない。

さらに自民党にはマイナス要因がいくつかある。

日銀の金融緩和により大幅な円安が起こり、それがエネルギーに限らず輸入品の価格高騰を招いている。牛丼の吉野家に代表される外食産業は悲鳴を上げ、都市部はともかく地方は見るも無残な状況。農村政策に対する怒りは「反自民」の結束を招いている。一部の一流企業は賃上げで社員の懐が潤っているが、大多数の中小企業では実質的賃金がダウンし、今後の負担増を考えると、若者に未来が見えない。自民党が予想外の敗北となる可能性は、低いものではない。

そのリスクを背負って、それでも安倍晋三は解散総選挙に討って出た。

策士・飯島勲は12月2日公示から14日の投票日までに、何かサプライズを引き起こす可能性がある。それが何か、まったくわからない。日経平均が1万8000円を遥かに超えるのかもしれないし、対中、対韓で日本中が沸きあがる外交政策を見せるのかもしれない。拉致問題解決に向けての衝撃的展開があるのかもしれない。

この半月の間に、日本中が仰天するサプライズが起きる可能性は十分ある。何が起きるのか、期待を籠めて見守ろうではないか。■






〈国内情勢〉

拉致問題を乗り越え日朝国交正常化交渉を進展させよ

10月28、29日に北朝鮮の平壌で行われた日朝協議で、北朝鮮側は「過去の調査結果にこだわらず、新しい角度からくまなく調査を深めていく」と、拉致問題解決に向けての意欲を語った。拉致問題を最重要課題と考える日本政府の立場に合致し、言葉だけを聞いているとすぐにでも解決しそうな雰囲気が感じられるが、実体はそれほど甘いものではない。最近の日朝関係を、朝鮮総聯実力者の動きなどから俯瞰してみたい。

平壌日朝交渉で何が得られたか

北朝鮮側から拉致問題他の調査進捗状況の説明を受けるために、外務省の伊原純一アジア大洋州局長ら12名が平壌に入り、10月28、29日の2日間で10時間半に及ぶ協議を行ったことは、すでに新聞TV等のマスコミ情報でご理解されているだろう。訪朝団派遣に対しては、拉致被害者家族会や自民党の一部にも反対論、慎重論が強かったが、安倍首相はそれを押しのけて外務省担当者を北朝鮮に派遣した。

協議には北朝鮮側から8名が出席したが、特別調査委員会の徐大河(ソデハ)委員長、金明哲(キムミョンチョル)副委員長はともに国家安全保衛部副部長、特別調査委拉致分化会の姜成男(カンソンナム)は国家安全保衛部局長。表には顔も名前も出すことがないといわれる秘密組織、国家安全保衛部の重鎮、精鋭が協議に臨んだところからも、日朝交渉に全力を傾けようとする北朝鮮の意気込みが感じ取れる。

10月30日の夜、伊原局長は帰国後直ちに首相公邸に向かい、平壌での交渉内容を報告。その内容は明らかにされていないが、安倍首相は「拉致問題解決に向けた日本の強い決意を北朝鮮の最高指導部に伝えた。今後の迅速な調査と一刻も早い結果の通報を要求した」と今回の訪朝目的を説明し、「対話と圧力、行動対行動の原則の下、拉致問題の解決に今後とも全力を尽くす」と語っている。

しかし多くの日本人は、北朝鮮側から拉致被害者に関して多少の情報が提出されたのではないかと推測している。「これまで知られていなかった拉致被害者など十数名の名が出され、その名前に該当する人物をこれから日本側が調査するのだ」などという、嘘か本当かわからない物語を実しやかに語る情報通まで現れている。

拉致問題は本当のところは、どこまで進み、最終的にどうなるのだろうか。

朝鮮総聯議長などの北朝鮮訪問

日本と北朝鮮をつなぐ唯一の組織である朝鮮総聯(在日朝鮮人総聯合会)のナンバーワン・許宗萬(ホジョンマン)議長を初めとして、姜秋蓮(カンチュリョン)女性同盟委員長、張炳泰(チャンビョンテ)朝鮮大学校学長、裵眞求(ペジュンク)総聯副議長、梁守政(ヤンスジョン)商工連合会会長ら一行が9月6日に北朝鮮に入った。許宗萬に同行した4人は許宗萬同様、北朝鮮の国会議員にあたる最高人民会議代議員だが、このとき彼らとは別便で許宗萬議長の妻と長男も北朝鮮に入国した。

今年5月に行われたストックホルムでの日朝協議を受けて、北朝鮮に対する制裁が一部解除された。これを受けて8年ぶりに許宗萬議長らが北朝鮮に飛んだのだ。

北朝鮮の核実験、ミサイル実験を非難して、日本は2006年10月以降、独自に制裁を行ってきた。その制裁とは日朝間の「ヒト・モノ・カネ」の流れを止めるものだった。「ヒト」に関しては、北朝鮮国籍者と政治家の入国を拒否したため、北朝鮮最高人民会議議員(国会議員)である許宗萬は、日本から出国することはできるが、一旦出国したら二度と日本に戻れなくなってしまうのだ。

それでも許宗萬は北朝鮮に行こうとしたことがあった。金正日総書記が亡くなった(2012年)ときだ。しかしこのとき北朝鮮本国はそれを許さなかった。拉致問題や総聯本部ビル問題を初めとして難問山積の日朝間に許宗萬議長が極めて重要な立場にあることは、日朝双方が理解している。北朝鮮当局が許宗萬の北朝鮮入りを拒否したのは当然のことだった。

ストックホルム日朝協議の結果、制裁の一部が解除され、北朝鮮の最高人民会議議員である許宗萬らの日本再入国が認められることになり、今回、総聯幹部による8年ぶりの母国北朝鮮訪問が実現したのだ。久しぶりの訪朝であったので課題は多かっただろうが、最大の目的は許宗萬議長と金正恩第一書記の初対面にあった。総聯が抱える諸問題について金正恩第一書記がどう考えているか、それを質す決意が許宗萬にあったはずだ。またそれ以前に、許宗萬が総聯議長という重責を今後も担っていくことを金正恩が認めるか否かも問題だっただろう。

今回訪朝した5人を平壌空港に出迎えたのは、楊亨燮(ヤンヒョンソプ)最高人民会議常任委員会副委員長と金養建(キムヤンゴン)統一戦線部部長。この2人が出迎えに出るのは、総聯初代議長・韓徳銖(ハンドクス)、二代目議長・徐萬述(ソマンスル)が訪朝したときと同じだ。ただ今回、報道はされなかったが、空港で一人の老人が許宗萬と抱き合う場面が朝鮮日報紙に掲載されていた。じつはこの老人こそ姜周一(カンジュイル・姜寛周カンガンジュとも)だったのだ。

姜周一とは元対外連絡部部長(現225局局長)。対南(対韓国)非合法工作活動の責任者であり、拉致された日本人を適材適所に振り分け、工作活動に従事させた部署のトップだった人物である。拉致された人間ひとり一人に関して、どこに配置されどのような任務を与えられたか熟知する人物だ。

平成14年(2002年)9月17日に小泉純一郎首相(当時)が訪朝し、金正日総書記が日本人拉致を認めて謝罪し、蓮池さんなど5人が日本帰国を果たした。その後、北朝鮮に残された蓮池さん、地村さんの子供と曽我ひとみさんの夫と子供が日本に来るために、日本政府はさまざまな手立てを使った。

じつは蓮池夫妻、地村夫妻、曽我ひとみさんは、日本をわずかな期間だけ訪問するが、すぐに北朝鮮に戻るという約束で日本に来たものだった。それを「北朝鮮には戻すな」という圧倒的な世論の力を背景に、戻ることを拒否し、そのうえ「子供など家族も日本に」と要望したことに対し、当初北朝鮮は怒り狂ったものだった。

このとき北朝鮮側の裏方のトップにいたのが姜周一だった。姜周一は総聯の許宗萬(当時責任副議長)を間に立たせて飯島勲秘書官と話し合い、拉致被害者家族の日本帰還を実現させたのだった。拉致問題に関しては、それができる真の実力者だった。

金正恩の健康状態悪化、面会できなかった許宗萬議長

今回の訪朝で許宗萬総聯議長は、北朝鮮当局と拉致被害者のことを話し合うはずだった。5月のストックホルム日朝協議で、拉致問題を含む日本人問題に関して「包括的調査のために特別調査委員会を立ち上げ、調査を開始する」ことが謳われ、北朝鮮がそれに沿って委員会を立ち上げたことは、すでに日本政府にも通知されていた。拉致問題解決の鍵を握っているのが姜周一で、その姜周一と許宗萬が平壌空港で抱き合った姿からも、拉致問題解決に向けて北朝鮮当局が本気なのだという雰囲気が見てとれた。

しかし事態は思った方向には進まなかった。

9月25日から北朝鮮の最高人民会議が開かれ、許宗萬はそこに出席している。しかし議場には、肝心の金正恩第一書記の姿がなかったのだ。

9月初旬に金正恩第一書記が足を引きずって歩いている映像が流され、「痛風だ」「糖尿病が悪化した」「骨折しているのではないか」といった憶測情報が飛び交っていた。9月末開催の最高人民会議に金正恩第一書記が姿を見せなかったことから、「北朝鮮でクーデターが起き、金正恩が拘束された」などという、根も葉もない出鱈目情報まで出てきていた。あり得ない捏造話はともかく、9月下旬に、フランスから優秀な外科医が平壌にやってきたことは事実である。さまざまな情報を整理すると、金正恩第一書記は「外科的な手術の必要があった」ようだ。しかしそれは「内科的な問題は一切存在しない」と考えられる。

金正恩第一書記の新たな映像が朝鮮中央通信社から10月14日に流され、クーデター説は吹き飛んだが、総聯の許宗萬議長と会えなかったことは事実。ということは、拉致問題解決に関して、許宗萬は直接話し合うことができなかったことになる。これは日本にとっては、悪いニュースだ。

さらに衝撃的な情報が飛び込んできた。拉致問題の本当の責任者であり、拉致問題解決の鍵を握る姜周一が亡くなったというのだ。

姜周一は以前から重い肝臓病を患い治療中だった。それが10月3日に、心の友と慕っていた許宗萬に看取られ他界したという。許宗萬の日本帰国が予定より大幅に遅れたのは、姜周一を看取りその葬式に参列したためだった。

拉致問題解決の鍵を握る男は、もうこの世には存在しない。

許宗萬と安倍晋三をつなぐ者

意気込んで8年ぶりに北朝鮮の土を踏んだ許宗萬議長は、最大目的だった金正恩第一書記に会えず、拉致問題解決の鍵を握る心の友、姜周一の死に立ち会い、憔悴落胆して日本に帰って来たと思われた。ところが帰国後の許宗萬はハイテンションで、妙に浮かれ、はしゃいでいるようにも見える。何故か。

金正恩第一書記から手書きの手紙をもらったためだという。

その手書きの手紙は便箋10枚で、内容としては許宗萬が指導する朝鮮総聯の業績を全面的に讃え、今後の若い人々の教育を含め、総聯の運営すべてを許宗萬に完全に一任するというものだという。さらに、歴代の在日朝鮮総聯関係者の中の幾人かを「革命烈士の墓」に葬ってほしいとか、また数人に叙勲をお願いするとか、朝鮮総聯からの要望は完璧に満額回答だったというのだ。

それは許宗萬議長にとっても朝鮮総聯にとっても、喜ばしいことなのだろう。だが日本にとっての問題は別だ。肝心の拉致問題はどうなっているのか。その進展がない限り、日本は北朝鮮を信用する事はできないし、日朝国交正常化交渉は一歩も前に進まない。

金正恩第一書記直筆の手紙は、総聯幹部を初めとして、かなりの人々に許宗萬が自慢げに見せびらかしている。だがこの手紙とは別に、拉致問題と朝鮮総聯本部ビル問題に関して、北朝鮮当局から核心的な話が許宗萬に伝えられたことも間違いない。

かつて小泉純一郎首相時代に、拉致問題のキイマンである姜周一と官邸の飯島勲の間を許宗萬がつなぎ、家族の日本帰還を達成させた。姜周一は亡くなってしまったが、許宗萬が北朝鮮の責任者と官邸をつなぐ役割を担っていることに変わりはない。

今回もまた、許宗萬は飯島勲と連絡を取っているのではないかと当初は推測した。ところが許宗萬は飯島とはまったく接触していないのだ。許宗萬が連絡を取っているのは、菅義偉官房長官である。

北朝鮮による「拉致」とは何か

5月末のストックホルム日朝協議を終えたところで、北朝鮮当局は特別調査委員会の報告が「夏の終わりから秋の初めになるだろう」と口にしていた。

ところがその後、「再調査の第1次報告が当初予定より遅れる見込み」(9月19日、日本政府発表)と、何となく怪しい雰囲気が出始める。

しかし本紙は別ルートから、「報告はいつでも出せる状態にある」という宋日昊(ソンイルホ)日朝国交正常化特使の言葉を入手している。

希望的憶測や捏造情報はさておき、冷静に分析すれば見えてくるものがある。

北朝鮮当局は、拉致したり、あるいは自分の意思で北朝鮮に入国した日本人を、重大な関心をもって監視し続けていた。脱北者の証言からも、それは間違いない。つまり宋日昊の言葉通り、特別調査委員会の再調査など待つ必要はなく、北朝鮮は日本人すべての動向を完璧に手の中に握っているのだ。だから「報告はいつでも出せる状態にある」のだ。

北朝鮮による「拉致」問題に関して、誤った解釈をしている日本人が多い。

そもそも「拉致」とは何なのか。それを誤解している可能性がある。

拉致とは何か。これについては「漆間3原則」が的確に物語っている。漆間3原則とは、元警察庁長官、後に麻生内閣の内閣官房副長官になった漆間巌が作ったものだ。それによると「北朝鮮による拉致」とは
1. 北朝鮮が国家として関与
2. 本人の意思に反している
3. 強制的に連行された

という3つの要件を満たしたものを指す。

この3点を満たす事件は、想像より少ない。精査すればわかるが、「拉致された」といわれている人々の中には、本人が北朝鮮に強い関心を抱いていたり、ときには憧れていた場合などもある。珍しい一例ではあるが、北朝鮮の男性に惚れてしまい、明らかに自分から北朝鮮に行ってしまった女性もいる。家族は「巧みな言葉に騙されて行ってしまった」と考えているようだが、成人女性が惚れた男の国に飛んで行ってしまったものを「騙された」「拉致された」というのは、勝手すぎる。

もちろん、どこから見ても完全に「拉致」されたとしか考えられない例もある。

たとえば昭和53年に地村保志さん、濱本富貴惠さんの2人が福井県小浜市で、また同年同月に蓮池薫さん、奥土祐木子さんの2人が新潟県柏崎市で拉致された事件などである。日本政府はこれらを含めた12件、17人を「拉致事件」と認定している。この17人のうち、13人について北朝鮮は正式に拉致を認め、謝罪している。残り4人については、「北朝鮮には入国していない」と突っぱねている。

そして拉致を認めた13人(男6人、女7人)のうち、5人は日本に帰国を果たし、残り8人は「死亡した」としているのだ。

つまり「拉致は13人であり、5人は帰国、残りは死亡。以て拉致問題は解決」というのが北朝鮮の言い分なのである。

すべては横田めぐみさんに集約される

拉致問題に関しては、政府が認定した12件、17人とは別に、未認定の大量の「拉致の可能性がある事件」が存在する。心象としては、政府認定以外にもかなりの数の拉致事件があったとしたいが、断定できる証拠はない。その他もろもろ拉致問題に関してはさまざまな主張や意見がある。だがこうしたすべては、詰まるところ「横田めぐみさん事件」に集約されているのが現実である。

被害者家族が強く主張しても、当の本人が自ら進んで北朝鮮に渡った可能性もある中で、事件当時13歳の少女が拉致された事件だけは、まぎれもない拉致事件なのだ。国際情勢も何も知らない無垢の少女が、自ら進んで北朝鮮行きを望み、自力で北朝鮮に渡ることなど絶対にあり得ないからだ。

平成14年(2002年)の小泉純一郎・金正日会談で「8名死亡」が伝えられ、横田めぐみさんは「死亡した」とされた。めぐみさんと結婚してキムウンギョンさんの父ともなった金英男は「めぐみは1994年に自殺した」と述べている。しかし日本に帰国した地村(濱本)富貴惠さんは、自殺したとされる日より後に「隣にめぐみさんが引っ越してきた」と証言しているし、脱北者の証言からも2000年以降までめぐみさんが生存していた可能性が高い。脱北元政府高官の情報として、「横田めぐみは生存しており、知ってはいけないことを知りすぎたため日本に帰すことができず、他人の遺骨を日本側に渡した」というものもある。なおこの元高官は、その情報を「日本政府に伝えてある」とも証言している。

いま北朝鮮との協議の中で、横田めぐみさん問題こそが最大になっているのだ。これを解決できるか否か。すべてはそこにかかっている。

横田めぐみさんは帰ってくるか

めぐみさんは北朝鮮で対南工作員の金淑姫に日本語、日本文化を教える教育係だったとの説もある。また金正恩第一書記の母、高英姫に代わって彼を育てたという説もある。あるいはめぐみさんが北朝鮮の最高峰の霊能者となり、崇拝の対象になっているとの情報もある。

どれも面白おかしい、人目を惹くための怪情報であって、真実ではない。こうした怪情報は「嘘に決まっている」ものだが、それは併せて「めぐみさん生存情報もこれと同じで、嘘に決まっている」と、思考の方向を誘導している可能性が高い。

横田めぐみさんが本当に生存しているか否かは、正直なところわからない。脱北者証言や各国情報機関などさまざまな情報を合わせると、生存の可能性はかなり高いものである。では横田めぐみさんは帰ってくるだろうか。

残念ながら、その可能性は低い。絶対に帰ってこないというものではないだろうが、可能性としては低いと言わざるを得ない。

なぜか。

亡くなった金正日総書記が「死亡した」と明言したからである。金正日総書記の言葉は、神の言葉である。それを覆すことはできない。仮にめぐみさんが生存していたとしても、「生きていました」とはいえない。その現実を日本人は理解すべきなのだ。

さる8月末、石井一(元自治相。民主党)が自身の旭日大綬章記念パーティーでこんな発言を行って顰蹙(ひんしゅく)をかった。

「政府は横田めぐみその他を返せと騒ぎまくっているが、とっくに亡くなっている」

石井一もバカな言葉を口にするな……程度の感想で納得してはならない。よほどのバカでも公の場でこんな発言はしない。衆院議員11期、元国家公安委員長、民主党筆頭副代表だった怪物政治家のこの発言は、明らかに意図的なものである。それが北朝鮮側からの要請だったのか、日本政府からのお願いだったかは不明だが、日本中で禁句のようになっている「めぐみさんは既に死んでいる」という発言をやったところに意味がある。

北朝鮮側はいますぐ横田めぐみさんを「生き返らせる」ことはしない。

日本政府もそれは重々理解している。

拉致問題を越えて

宋日昊(ソンイルホ)日朝国交正常化特使は「報告はいつでも出せる状態にある」といっている。北朝鮮のさまざまな状況を考える限り、拉致した横田めぐみさんに関して、彼女がどこでどんな生活を送り、今どうなっているかは、北朝鮮は熟知している。めぐみさんだけではない。拉致被害者全員が、いまどんな状況にあるかは知りつくしている。「報告はいつでも出せる」――ただし、その回答が真実とは限らない。

北朝鮮側は「拉致は13人であり、5人は帰国、残りは死亡」という金正日の言葉を覆すことはない。考えられることは、この13人以外に、北朝鮮に拉致または本人の意思で入国した人間の氏名を公表し、日本への帰国を希望している者を新たに発表するかどうかだけである。

拉致問題に関して、胎を据えていないのは、むしろ日本側のほうなのだ。

北朝鮮からの正式回答が想定内で終わってしまえば、日本の世論は北朝鮮との国交正常化交渉など絶対に許さないだろう。想定内の「拉致13人、5人帰国、残りは死亡」だけでは安倍政権の存続すら危うくなる。ここに未確認特定失踪者をできる限り多く加え、彼らを帰国させることで、国交正常化交渉への糸口としたいのだ。北朝鮮からの回答が遅れているのではなく、日本側がより多くの失踪者帰還を求め、その交渉が長引いているというのが実情だろう。

日本側には、日朝国交正常化交渉を急ぎたい外務省と、拉致を国家テロと考え国際法に則って厳正に対処したい警察の対立がある。

第二次世界大戦が終結して来年で70年になる。これほどの年月を経ながら、日本は未だ2つの面で戦後処理を終えていない。1つはロシアとの平和条約締結であり、もう1つは北朝鮮との戦後処理、国交回復である。未だ処理できていないということは、国際的に考えて、外務省の能力が疑問視されるのは当然である。ロシア問題は間もなく片づく可能性が高いが、北朝鮮との問題は解決の糸口さえ見えていない。外務省が焦る理由は、そこにある。

いっぽう拉致を国家テロと考える警察としては、「まず現状回復(拉致された人間を日本に戻す)」を求め、それができない場合には「損害賠償」を行うべきだとする。

外務省と警察庁の対立は根深いようにも思えるが、基本的には法に則って粛々と厳正に対処していくしかない。決して解決不能の問題ではない。これを解決不能にしているのは、日本人を呪縛しているあの言葉である。

「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化交渉はない」――。

小泉純一郎のこの言葉に、日本人全員が呪縛されている。

たしかに拉致は国家テロである。長い年月の間に、故国の土を踏むことなく亡くなってしまった人もいるだろう。それは悲しく、残念なことだ。しかし、だからといって拉致問題が解決不能なわけではない。

そしていま、日本政府も北朝鮮政府も、何としても解決しようと前のめりになっている。だが前のめりになり焦って、将来に禍根を残す解決法だけはとりたくない。

では、どうすれば良いか。

日朝国交正常化交渉と拉致問題を分けて進めるしかない。

いま日朝両国は、拉致問題解決に向けて双方が全力を挙げている。この形を継続することを条件として、並行して日朝国交正常化交渉を開始すべきなのだ。国交正常化交渉の中からも、新たな「拉致問題解決法」が出てくる可能性もある。

世論がその方向に向かえば、問題は一気に解決に向かうと思われる。■






〈国内情勢〉

「集団的自衛権行使閣議決定」のウラに見えるもの

「集団的自衛権の行使容認」が7月1日に閣議決定された。5月初めから与党協議会で検討され、6月初旬には問題なく閣議決定される予定だったが、公明党との折り合いがつかずに紛糾していたもの。その間に一部マスコミが与党内対立を煽り、あるいは情緒的手法に訴えて大衆運動を盛り上げようとした。「集団的自衛権閣議決定」を巡るゴタゴタ、そして問題の核心とは何なのか。その深奥を追っていくと、公明党内の矛盾、さらには東アジアを巡る厳しい軍事情報までが浮上してくる。

創価学会の意思を決定する者

第一次安倍政権(平成18~19年)以来、安倍晋三は一貫して「憲法9条の改正」を掲げていた。現憲法の「天皇」条項など、基本はそっくり生かして9条だけを改正し、自衛隊を「国軍」とする強い意志を持っていた。それが今年になってなぜ「集団的自衛権行使容認」に変わったのか。米国からの要望があったためである。これは重大な問題なので後述する。

「集団的自衛権行使容認」を閣議決定すると決まった時点で、公明党との折衝は菅義偉官房長官に投げられた。菅義偉は秋田県出身、法政大学卒。神奈川選出の小此木彦三郎(自民党)の秘書を11年勤め、その後神奈川県から衆院に選出された人物で、旧くから神奈川県を舞台に創価学会と太いパイプを持っていた。そのため学会との折衝に適任とされたのだ。

創価学会とはご存じの通りSGI(創価学会インターナショナル)会長である池田大作の「鶴のひと声」ですべてが決まるワンマン体制組織である。今回の「集団的自衛権行使容認」にしても、池田大作がOKとすれば、誰も口を挟むことなく早期に決定していただろう。ところが今、池田大作は的確な政治判断ができない状況にある。

余談だが、これまでに何度も池田大作死亡説が流されたことがあり、既に死亡しているといった話をお聞きになられた方もいるかもしれない。死亡していなくても、植物人間説、ときにはホルマリン漬け説まで流されているが、これらは根も葉もない悪意的風説である。池田大作は現在、意思の疎通が可能な状態にある。ただし重要事項に関して正常な判断ができるような状況にはないというのが真実である。

ワンマン独裁体制が終焉する組織は古今東西、混乱するもの。混乱を避けるために採られる集団的指導体制は、いつの場合もどこかで危うくなり、多くの場合分裂する。これは一般論であり、創価学会が今後どのような未来を歩むのかはわからない。

池田大作の体調が優れず、決定権を持つワンマンがいない創価学会では、会長代行、事務総長、理事長の3者指導体制が敷かれているといわれる。この中で創価学会会長代行の原田稔(73歳)には「決定権」は何一つ預けられておらず、単なる「飾り物」状態。学会を動かしているのは事務総長の谷川佳樹(57歳)と理事長の正木正明(60歳)。次期会長と目されている谷川も、婦人部の信頼を得ているとされる正木も、学会では共に「最大実力者」と噂され、将来的にはこの2人を頭として分裂するとの噂もあるほどだ。

菅義偉官房長官は谷川、正木の両実力者と膝を詰めて会談し、「集団的自衛権行使容認」の閣議決定を了承してもらったのだ。

学会の両実力者がOKしたからには、この話が拗れることはないように思えた。あとは与党内での文言のすり合わせだけで、どんなに揉めても6月末の国会会期中に閣議決定がなされる状況にあった。

ところが5月17日に創価学会広報部が「集団的自衛権行使容認は、閣議決定ではなく憲法改正手続きを経るべき」「国民を交えた、慎重の上にも慎重を期した議論によって、歴史の評価に耐えうる賢明な結論を出されることを望む」という見解を発表。創価学会広報部発表のこの意見をそっくり丸呑みした公明党の山口那津男代表が閣議決定にストップをかけ始め、その状況を朝日新聞が大々的に取り上げた。スンナリ決まるはずの閣議決定が、山口代表のところで停止してしまったのだ。

「反戦」に動いた学会婦人部。引っくり返した飯島勲

創価学会婦人部は「学会最強」とか「実働部隊」と呼ばれ、選挙時に絶対必要な人的パワーの供給源でもある。どこの組織、どの政党でも婦人部、婦人票は重要だが、学会はそれが特別といわれる。その創価学会婦人部は、どこの婦人部にも見られることだが「平和大好き」人間が多い。理論ではなく、情緒的に「武力」というものにアレルギー反応を見せる。今回もひと言で分析するなら、学会婦人部の「武力嫌い=理由もなく感情的に反戦」派が集団的自衛権行使容認に反対し、山口那津男代表を取り込んで閣議決定に待ったをかけたといったところだ。

一般論だが、この推察は正しいだろう。しかし、朝日新聞が一面トップで取り上げなければ、これほどは揉めなかったとの観測もできる。婦人部が創価学会広報部を動かし、山口那津男を使って閣議決定に待ったをかけさせたウラに、もう一つ存在があったのではないかとの穿った見方も可能である。では、そのもう一つの存在とは何か。朝日新聞社のビル内に同居しているニューヨークタイムズ社東京支局である。はっきりいえば、NYタイムズ東京支局を動かす米国の一部勢力である。それが朝日新聞を動かしたのは、今回が初めてのことではない。

米国内にも日本の憲法9条改正賛成派と反対派がいる。日本の集団的自衛権行使に積極的賛成派と反対派がいる。日本が武装すると、日本からカネを簒奪することが難しくなると考え、日本の武力保持に反対する勢力がある。これに関する細かな分析は別な機会に譲るとしよう。とにかく米国の一部勢力が創価学会を使って、あるいは学会婦人部の動きに便乗して、集団的自衛権閣議決定にストップをかけようと動いたのだ。この動きを引っくり返したのは飯島勲・内閣官房参与だった。

朝日新聞が創価学会広報部見解を引用して、公明党・山口代表が「集団的自衛権行使の閣議決定に反対」と大々的に報道し、自民党、公明党、創価学会が凍りついたように固まってしまったとき、菅官房長官に電話がかかってきた。相手はそのとき米国ワシントンに飛んでいた飯島勲官房参与だった。

「この問題は私が解決する」

飯島勲はこういって菅官房長官を安心させた。

このとき、なぜ飯島勲がワシントンにいたのか。恐らく、日朝国交正常化、北朝鮮による拉致問題に関する日米間の極秘の調整をするためだったと思われる。その飯島が朝日新聞の学会広報部見解を読むや、動いた。つまり、慌てて米国が飯島を使った。オバマ政権が集団的自衛権閣議決定を急いでいたことが、このことからも理解できる。

翌6月10日――それは創価学会が定めた「婦人部の日」でもあったが、飯島勲はワシントンのホテルで講演。創価学会広報部の意見を丸呑みした公明党の山口代表との関係について、「政教分離の大原則」という立場から鋭く突っ込みを入れたのだ。

創価学会と公明党の関係を質して恫喝する手法は、かつて亀井静香や石原慎太郎なども行ったやり方で、旧い手法ではあるが、これが見事に功を奏した。結果として山口那津男は話し合い決着路線に乗り、自民党・高村正彦副総裁、公明党・北側一雄党副代表、内閣法制局・横畠裕介長官による三者会談で結論が出されることになった。

ここから先は法律論の世界であり、情緒で片づける問題ではない。ちなみに高村も北側も弁護士であり、ここに内閣法制局長官が加わって作成された「集団的自衛権行使容認の閣議決定」内容は法的には完璧なものと考えていいだろう。

集団的自衛権行使容認に関し、国民はどう考えているか。これが正直なところ判断が難しい。たとえば朝日新聞の調査では「反対56%」とされているが、産経新聞の調査では「容認63%」となっている。世論調査とは無作為に世の中の人々の意見を訊ねているように思われる方もいるだろうが、多くの場合、質問者の求める方向にかたよる。本紙周辺には集団的自衛権賛成論者が圧倒的に多かったが、全体としてはたしかに国論が二分された感があった。ただし反対論者の中に、「憲法を改正し、自衛隊を国軍にしろ」とする強い意見もあったことは記憶すべきだろう。

米国・中国間の「相互確証破壊」問題

冒頭にも記したが、安倍晋三は当初から「憲法9条を改正して自衛隊を国軍に」と公言していた。それがなぜ集団的自衛権に変わったのか。

米国の要請によるものだ。

米国も当初は安倍のいう「憲法9条改正」を支持していた。その米国が日本に対し集団的自衛権行使容認を強く迫った理由は2つある。1つは中国軍の台頭、もう1つは米国の軍事費削減(衰退)である。極東の軍事バランスが微妙に崩れそうになったところで、日本に集団的自衛権行使容認を取りつけようとしたのだ。

中国軍が強くなったことは誰の目にも明らかで、2014年の中央国防予算は前年比12.2%増の13兆4400億円。最近25年間はずっと2ケタの軍事費増が記録されている。滅茶苦茶に軍事費を増強し続けているのだから、軍事力が強大になったことは疑う余地はない。

さてそれでは、仮定の話だが、もし米国と中国が全力を傾けて戦争をしたらどうなるだろうか。そんな仮定の話は難しい――というようなことはない。簡単に答えが出る。米国の圧勝、というか、初めから勝負にならないのだ。

米海軍は43隻の巡航ミサイル原潜を保有している(他に攻撃型原潜14隻も保有)。この中のたった1隻の原潜さえあれば、中国国内のミサイル基地40~50カ所を核攻撃により一瞬で殲滅し、さらに同時に中国の主力艦船、潜水艦、空母を撃沈できる。つまりたった1隻で中国の攻撃力を完全に無力化できる。米国が中国に対し先制核攻撃を行えば、中国は文字通り完璧に壊滅してしまう。

同じことが中国にもいえるのではないか。中国が米国全土に先制核攻撃を行えば、米国も壊滅するのではないか――。そんな問いが返ってくるかもしれない。そう、米本土は中国の核攻撃で壊滅するだろう。だが世界中の海に散らばり、存在すら極秘になっている米原潜は、直ちに報復核攻撃を行い、中国は壊滅してしまう。

核保有国の間では「相互確証破壊」こそが唯一の切り札である。

自国が核攻撃されたら、必ず報復核攻撃で相手国を壊滅させることができる、それが相互確証破壊である。

米国はその力を持っている。

だが中国は、先制核攻撃を受けたら壊滅するだけで、報復攻撃ができない状態にある。

南沙、西沙諸島の海を中国が確保する意味

中国が米国に対し対等な軍事力を保有するために必要なことは、巡航核ミサイル原潜を秘密の場所に隠しておくことだ。そうしなければ米国と対等にはなれない。

中国の原潜は今のところ潜水艦と呼べるような代物ではなく、騒音をまき散らす存在だが、いちおう潜水艦である。深い海の底に潜れば、誰の目にも見つけられない。

では、どこに隠すのか。中国周辺の海域は浅く、偵察衛星から丸見えの海しかない。近海で考えられる唯一の場所は、南沙諸島、西沙諸島の海域なのだ。

南沙諸島、西沙諸島(スプラトリー、パラセル)海域には大小200といわれる島々、岩礁などが散在するが、人が住んでいるのはそのうちの13島。フィリピン、ベトナム、マレーシア、台湾などの人々が住んでいる。西沙諸島最大の島はウッディ島(永興島)で、ここには中国軍が膨大量の砂を入れて2500m級の滑走路を建設している。中国軍はこの島を巨大な要塞に仕上げ、南沙、西沙諸島海域を完全支配しようと考えている。南シナ海のこの海域の深度は200m以上で、原潜が隠れるのに最適なのだ。

それでは、この海域さえ押さえれば中国は相互確証破壊能力を保持し、米国と対等になれるだろうか。それでも完璧とはいい難い。

米国の巡航ミサイル原潜は世界の海に散らばり、どこから攻撃してくるかわからない。中国の原潜が南シナ海に潜めばそれなりの効果はある。しかし南シナ海海底の深くに沈んで姿を見せなくても、米本土を狙う核ミサイルの軌道はほぼ確定できる。地球儀を使って南シナ海と米本土を直線で結ぶと、それが東シナ海尖閣諸島上空を通過することが理解できる。

敵が発射した核ミサイルを撃ち落とすには、2回のチャンスがある。発射直後か、成層圏再突入時か、そのどちらかだ。

中国軍が米本土に向かって核ミサイルを撃った場合、撃ち落とすチャンスは発射直後の尖閣上空か、または米本土の上空しかない。本土上空の防衛とは、一か八か、守り切れるか守れずに壊滅するか、生死どちらかとなる最後の賭けである。それに比べ、発射直後のミサイルは速度も遅く、撃ち落としやすい状況にある。尖閣の軍事的意味がいかに重要か、理解できるだろう。

中国軍としては尖閣を自国領として確保しておきたい。最悪の場合でも尖閣を軍事的緊張地帯としておき、日米の完全支配下には置きたくない。それは中国が米国と対等に渡り合えるための絶対条件でもあるのだ。

わが国自衛隊の軍事力

米海軍が43隻の巡航ミサイル原潜と攻撃型原潜14隻を保有していることは、先に述べた。原潜の数に頼るだけではなく、米海軍が世界最強の海軍であることは世界中が認めている。その強さはまさに圧倒的なのだ。では、米海軍に次ぐ世界第二の実力海軍所有国はどこか。かつて七つの海を支配した英海軍か、あるいは史上最強の呼び声が高いミストラル級強襲揚陸艦などを保持する仏海軍か。――この質問についても迷うことなき正解が用意されている。世界第二の海軍力を所有しているのは、日本の海上自衛隊である。海自のシステムは米軍に依存しているところが多いのだが、その面を除けば海自の戦闘能力は米海軍に匹敵すると評価されている。

現時点で、核兵器さえ考慮に入れなければ、日本の海自と中国海軍との力の差は、大人と赤ん坊以上の途轍もない開きになっている。オバマ大統領が「尖閣諸島は日米安保の適用範囲にある」と、日本側の求める満額回答で応えたことに中国が衝撃を受けたのは、そうした理由による。原爆の脅威をチラつかせながら日本の海自・海保と渡り合えば勝てるかもしれないと考えていた中国にとって、オバマのひと言は「核兵器で脅すな」といっているようなものなのだ。核兵器の脅威を使えない中国は、一般市民(漁民)を使ったテロ戦とかゲリラ戦を展開するしか日本と戦うことができない。

海自の能力がここまで上がったのはこの数年のこと。湾岸戦争、イラク戦争など海外派兵を繰り返して、その技術力、戦闘能力が格段に進歩したものだ。下地として帝国海軍由来の時空軸に対する正確無比な認識、隊の連携、機動力の緻密さ等々があったと思われるが、世界の海軍には真似のできない戦術を朝飯前のようにこなしてしまう技術を海自は備えている。

航空自衛隊の能力もまた、世界が舌を巻くほどのものだ。

空自が保有する戦闘機は360機以上。主力戦闘機F-15の運用は米軍に次いで世界第二位。日本の空自が得意とする「防空能力」に関しては世界の空軍を寄せ付けない能力を保有し、「防空戦力世界第一位」の称号は世界が認めるものである。

最後に陸上自衛隊だが、近年の日米合同島嶼防衛訓練により、これまた世界超一級であることを示すことができた。

細かな戦力分析は、まだまだ可能だが、ご理解いただきたいことは日本の陸海空自衛隊の戦力は非常に優れ、米軍が頼るべき存在に成長したということである。

それに比して米軍は今、軍事費削減に喘いでいる。

米軍は第二次大戦の勝利以降、巨大化していった。その背景には朝鮮戦争、ベトナム戦争、イランイラク戦争、湾岸戦争、アフガン侵攻、イラク戦争といった、強引な介入が存在した。これらの強引に起こした戦争のお陰で、軍産複合体は潤ってきた。しかし余りに巨額になった軍事費を支えるだけの財力は、米国にはもはやない。そこで米国は今後10年間にわたって軍事費を削減、兵力をカットすることを決定した。

米軍費削減により極東の軍事バランスが変化しようとしている。

とくに南シナ海海域を基地化し、この海域に巡航ミサイル原潜を潜ませて米国本土を狙おうとする中国の狙いを阻止する必要がある。併せて東シナ海の尖閣周辺を完全掌握しておきたい。この思いが「憲法9条改正」などといった時間のかかるやり方をストップし、「集団的自衛権行使閣議決定」に走らせたのだ。

すでに南シナ海に向けては、日本の古いタイプの護衛艦10隻をフィリピンに有償供与する計画も持ち上がっているし、ベトナムにも同様に6隻の護衛艦を供与しようという動きも出ている。護衛艦供与は、その操船技術とか装備品(武器弾薬を含む)を考えれば、日本の海自が連携して極東海域に出ていくといえるだろう。米国が集団的自衛権行使容認を急がせた理由はここにあるのだ。

最後に――安倍政権の先行き

米国は誕生してからずっと安倍政権を信用していない。安倍の初訪米時(平成25年2月)のオバマの冷たい処遇からもそれは明白である。あたかも忠犬ポチのように振る舞い続ける安倍だが、安倍の側にもたしかに米国に疑念を抱かせる雰囲気が見られる。安倍政権の北朝鮮やロシアとの外交に、米国は不満と疑念を持っている。

集団的自衛権行使閣議決定を乗り越えた安倍晋三を米国は「お役御免」にしたい可能性が高い。安倍政権とは初めから対立を続けてきた中国、韓国としても、新たな政権との関係修復に期待したいところだろう。そんな状況下、7月13日の滋賀県知事選では民主党の三日月が勝利。10月末の福島県知事選は厳しく、11月中旬の沖縄県知事選は独自候補を見送って仲井真に相乗りし敗北だけは逃れることになる。自民党の勝利がないまま来春の統一地方選に臨む可能性が高い。頼みのアベノミクス効果は都心部だけが潤い、地方はますます傷み、安倍人気にも翳りが見え始めている。9月初旬の内閣改造に多少の期待が寄せられるが、それで支持率が爆発的に回復するとは思えない。

そうなると起死回生の逆転満塁ホームランを狙っての、安倍の訪朝、拉致問題解決が現実味を帯びてくる。北朝鮮の状況を見る限り、それほど単純に問題が解決するとは思えないが、水面下の交渉は継続されている。冷静に分析して見れば、安倍政権としては支持率回復のためにここにわずかな期待を残す程度だ。

内閣改造も北朝鮮との拉致問題も重要であることはたしかだ。それと同時に、集団的自衛権行使容認の閣議決定を新たなカードとして生かす方法を考えることこそが、安倍政権にとって、そして日本の未来にとって最善の方法ではないだろうか。■






〈国内情勢〉

汚染水処理は日本の技術で行え!
米国押し付け路線からの脱却が急務


311東北大震災から2年半余が過ぎ、被災地の人々も多くは日常を取り戻しつつある。しかし福島原発周辺は、いまだ事故の後遺症を引きずり、多くの人が故郷に戻れない状態が続いている。事故後の原発は現在、コントロールされている状況にあると安倍首相は明言したが、除染、汚染水処理問題は日本人の深い傷となっている。この問題を何としても早急に片づけなければ、日本に未来はない。

福島はコントロールされているのか

9月14日に国産新型ロケット「イプシロン」が打ち上げられ、日本中が沸いた。米国の技術に頼る液体燃料ロケットとは異なり、固体燃料ロケットは日本独自の技術。低コストで効率的なロケットの打ち上げ成功は日本の技術力を内外に強くアピールした。

イプシロンの技術は高く評価されたが、いっぽうで福島原発の汚染水問題は日本の評判を下げ続けている。2020年のオリンピック・パラリンピック東京招致を決めたIOC総会で安倍首相は「状況はコントロールされている」と胸を張り、また汚染水に関するIOC委員からの質問には、「汚染水による影響は、福島第一原発の港湾内の0.3平方キロメートル範囲内で完全にブロックされている」と答えたが、これには日本国内の多くが首を傾げた。オリンピック招致のために首相は嘘をついているのでは――国民の多くがそんな疑念を抱いたに違いない。

案の定というか、IOC安倍発言から1週間後の9月14日に、東電は「タンク北側20メートルの観測用井戸で13日に採取した地下水から、トリチウムを1リットル当たり15万ベクレル検出した」と発表した。8日採取分と比べると濃度は5日間で36倍上昇。地下水のトリチウム濃度は日を追うごとに高まっていて、とてもではないが「状況はコントロールされている」とは考えられない。

じつはこの前日の13日に東電幹部の山下フェローが「今の状態は、申し訳ありません。コントロールできていないとわれわれは考えております」と、安倍首相とは食い違う発言をしている。しかし直後に菅官房長官が「放射性物質の影響は発電所の港湾内にとどまっていると認識している」と述べ、安倍首相の発言に誤りはないと強弁。官邸の強い発言を受けて、東電側は13日夕方になって改めて釈明。「汚染水の港湾内への流出や敷地内の貯水タンクからの漏えいなど、トラブルが発生しているという認識について言及したものであります」と述べ、安倍首相の発言と東電の認識に、違いはないと説明した。

いったい本当のところは、どうなのか。

マスコミの一部には「放射能の総計は2京7000兆ベクレルという天文学的な数値で、さらに漏れ出ないか心配」「緊急事態宣言を」(8月23日「東京新聞」)といった報道も見られる。この2京7000兆ベクレルという数字が事実なら、広島原爆の1100倍という莫大な数値で、人類の手には負えないレベル。もはや絶望的と考えた方がいい。米CNNも「非常に深刻」と報道。海外メディアの中には「福島は解決不能」といった表現も見られる。ネット上にはさらに衝撃的な数値が並べられることもあり、なかには「日本を捨てて海外に脱出するしかない」という主張もある。安倍首相がアジアや中東を歴訪した理由の一つは、脱出する日本人のための海外拠点探しにあったなどという話も飛び出している。かつて映画にもなった『日本沈没』(小松左京)が現実化するという話で、暗澹たる気分になってしまう。現実はいったいどうなのだろうか。

昨年(2012年)12月に福島原発の港で捕獲されたムラソイという魚は、放射性セシウム濃度が25万ベクレル(基準の2540倍=東電発表)という、人が食べたらすぐにでも死ぬ可能性があるような値だった。

自然環境調査の専門家集団、ASRは綿密な科学データに基づいた地図とシミュレーション動画を発表。日本列島から太平洋に汚染海域がどんどん広がっている状況を世界に発信している。

またグリーンピース・ジャパンなどもスーパーなどで抜き打ち検査を行い、魚介類の放射線量を公表したことがある。それによると「不検出」から最大「47.3ベクレル/kg」だった。こうした状況を受けてのものだろうか、韓国は今年(2013年)10月9日から太平洋側の8県(青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉・栃木・群馬)からの水産物輸入を規制すると発表している。海に面していない栃木や群馬の魚を規制するとは何だと、つい首を傾げてしまうが、福島に近い地域だから、湖沼の魚類も規制するということだろう。

東電発表の線量は「大本営発表」

放射線量に関してはネット上に山ほどデータが出ているので、すでに興味深い数値を入手されている方もいらっしゃるだろう。そうした数値のことはともかく、安倍首相のIOC発言以降の東電発表が、どこかおかしいと感じられた方もいるのではないだろうか。

これまで、「政府と東電がグルになって国民を騙している」という噂が強かった。多くの方々がこれに近い認識を持っていたのではないだろうか。そうした中、オリンピック・パラリンピック招致のために、安倍首相は「状況はコントロールされている」と大見栄を切った。首相がこう大見栄を切った以上、東電は「コントロールされている(嘘の)数値」を発表し続けるはずだ。それが、そうではなかった。政府と東電は、ピタリと密着しているわけではない。13日の山下フェローの「コントロールできていない」発言に菅官房長官が怒りを露わにしたことからも、政府と東電が一体化していないことが理解できる。

誤解されている方もいるだろうが、福島原発周辺の放射能線量に関しては、東電以外の発表はない。

東電以外に、たとえば東芝とか日立などが線量を計測しているだろうが、そうした数値は微塵も表には出てこない。発表はすべて東電発表の数値である。推測データが流されている場合もあるが、それは単なる推測。「近くまで出向いて極秘に計測した」とか、「緻密で完璧な計算からはじき出された」などというオバケ数字がネット上に流されることはあるが、それはあくまでも無責任な推測であり、信用できるものではない。

福島原発関連の放射線量は東電だけが数値を公表している。公表された数値は、大本営発表数値だ。もし東電が本気で嘘をついていれば、それを見破ることは至難の業だ。その東電が安倍首相の「コントロールされている」発言を、いったんは否定するコメントを発表した。これは政府と東電の間に不協和音があるということに他ならない。

すべては米国のため

原発開発と、原発の日本導入の経緯をひもといていくと、果てしのない物語になってしまう。誤解を覚悟で、思い切り簡単にこの経緯を述べておこう。

第二次大戦後の1950年代初頭、米国では原発開発競争が行われていた。その中心は、米国最大の重電機メーカーGE社と、米海軍と親しい関係にある総合電機メーカー・ウエスティングハウス社だった。結果としてウエスティングハウス社が勝利し、GE社は採用が見送られた。しかし莫大な開発研究費用を取り戻したいGE社は、出来損ないの原発を日本に売ろうと考えた。

もともとエネルギー不足に悩む日本には、原発を開発したいという意欲があった。

原子力委員に就任していた湯川秀樹博士は、昭和31年当時、日本の原発に関し、「すべて国産」を主張していた。いちばん初めの基礎部分から国産でやらなければ将来性もないし、危険だというのだ。

そしてこの当時、日本国内には密かに日本完全独立の強い意志が存在した。対ソ、対中という共産圏諸国を相手に、将来的には核武装も必要だとする認識があった。だからこそ、原発開発は自力で行うべきだとの主張があった。しかし米国にとって、日本が独自に核開発を行うことは絶対に許容できなかった。

日本の経済界もまた、ゼロから費用のかかる研究開発より、費用対効果の意味から米国製原発導入を求めた。さまざまな思いが交錯した末に、米CIAエージェントだった正力松太郎(コード名=ポダム)の活躍でGE社の原発が導入されることになった。こうして米国で採用されなかった出来損ないのGE社製原発の日本導入が決定した。この時点で日本が米国に隷属する形が決まった。

311大震災が人工地震であるとか、意図的に福島原発が狙われたなどという物語がある。一部には頷ける主張もあるので、これを言下にSF的空想作り話と退けたりはしない。しかし、311巨大地震が人工か天災かの議論は別として、福島原発の事故は起こるべくして起きた必然だった。地震も津波も想定していない、出来損ない原発だったのだから。

311大震災でメルトダウンし、放射能をまき散らす原発を何とかしなければならない。

そこで、ストロンチウムとセシウムについてはゼオライト(沸石)という鉱物を使っての濾過が考案され、トリチウムに関しては汚染水をタンクに閉じ込める手法を採ることになった。ゼオライトは米国からの輸入に頼り、汚染水タンクは国産だが大元は米国製。極言すれば、福島の汚染水対策はすべて米国産業界の景気に役だったわけだ。それは今も米国を潤している。

ちなみにストロンチウムとセシウムについては、サンド濾過法が効果的だと早くからいわれていたし、他にもさまざまな除去法が考えられる。また日立は、吸着剤を使ってストロンチウムとセシウムを99%以上除去するシステムを開発し公表しているが、いまなおゼオライトに頼っている。トリチウムに関しては、希釈すれば(薄めれば)海に流せないわけではない。事故前には日本の原発は年間400兆ベクレルのトリチウムを海に流していたし、現在でも米国は年間1500兆ベクレルのトリチウムを海洋放出している。また、9月16日にも、放射性物質を外部に出さないために設置したせきの水位が、台風18号の影響で上昇したため、東電は排水を行っている。おそらく東電も経産省も、最終的にはトリチウム汚染水を海に放出するつもりなのだろう。

こうして眺めてみると、日本の原発は開発、導入当初から「米国のために」作られたものだった。そして事故後も「米国のために」処理が続けられている。この枠組みを作ったのは自民党でも民主党でもない。官庁と東電である。そもそも日本の政府とは、官僚たちにとっての飾り物であり、日本を動かしているのは官僚だ。この認識を全国民が持つべきだと思う。

日本復活への序章

トリチウムに関して、希釈して海に流せばいいかのように書いたが、いくら薄めても海に流していいものではない。トリチウムは自然界に普通に100京ベクレルほど存在するものだが、だからといって安全だというものではない。とくにストロンチウムやセシウム等の放射線が重なると、免疫機能を奪い、心臓病や発ガンといったリスクを増大させる。だがこれまで各国がトリチウムを垂れ流してきたことも事実。トリチウムは分離、除去が不可能といわれているが、最近になっていくつかの除去法が考えられている。ストロンチウム、セシウムに関しては前述のように日立の吸着剤システムによる除去法が公表されているし、東芝は米国ショーグループの機器による汚染水処理システムに取り組んでいる。

除去法や処理システムは極めて専門的な分野なので、これ以上は立ち入らない。理解していただきたいのは、311大震災後2年半余も過ぎているのに、どう考えても政府はこれまで、放射能除去、除染に本気になっていなかった。東電からの情報が正確に伝わらないのか、それとも経産省、原子力安全保安院あたりで情報がストップしていたのかは不明だが、政府は除去、除染に本腰を入れてこなかった。

政府は放射能線量に対して、高を括っている様子がありありと見える。外野がやかましいが、放射線量はまだ大丈夫だという安心感をずっと持ち続けていた。

東京が五輪開催地として名乗りをあげ続け、対抗する候補地が東京の弱点として福島原発汚染問題を突きつけるという事態が起きた。これに対して安倍首相はIOC総会で「状況はコントロールされている」と発言し、それは世界を駆け巡った。こう見栄を切った以上、政府は責任をもって福島原発汚染水対策をやるべきだし、福島復興に本気になる必然が生まれた。安倍首相の面子を潰すななどといっているのではない。安倍の面子など、どうでもいいことだ。世界が不可能と思っている福島を完全復興させることができれば、日本の技術力は世界を驚嘆させるだろう。■



        



 

【国内情勢 過去の記事】

#

記事タイトル

  掲載年月日

1

無限の闇が横たわる日本と半島の距離

 2015年6月25日

2

安倍晋三は戦略的政治家なのか

 2015年5月7日

3

修復不能の日韓関係

 2014年10月12日

4

猪瀬直樹に抗辯する 直ちに都知事を辞任し都民、国民に土下座すべし!

 2013年11月25日

5

なお息づく日本の心 目頭を熱くさせた大和撫子の義挙

 2013年10月4日

6

日本と韓国の関係は「敵対」以外存在しないのか  2013年8月29日

7

タイムリミット迫る!拉致問題解決は不可能か?(紙面版)

 2013年6月12日

8

安倍政権TPPに邁進!日本を破滅に向かわせることは断じて許されない!

 2013年3月4日

9

舞い込んできた大きな夢!エネルギー革命で日本が変わる!  2013年1月8日

10

アベノミクスと国防軍=ミニバブル経済と憲法改正  2013年1月1日

11

領土問題で右往左往する弱小国家日本。根源は米国の戦略「東亜分割統治」だ!

 2012年8月14日

12

礼儀知らず、非礼、あげくに不敬!日本を「破廉恥国家」に導く野田政権を糺す  2012年3月17日

13

TPPに対し反対論(慎重論)にならざるを得ないこれだけの理由

 2011年11月23日

14

民主党・野田新政権が誕生!日本復活のために、国民は何をすべきか。  2011年9月4日

15

日本から消えて失くなったもの 日本人の手の中で光り輝くもの

 2011年7月16日

16

日本浮上の障害、菅直人<死に体内閣>が来秋まで持ち堪えるという衝撃の情報

 2011年7月6日

17

満身創痍の片肺飛行になるだろうが雄々しく立ち上がる能力を日本は立派に保持している!生まれ変わった庶民大衆の底力で、日本を再生させよう!

 2011年4月5日

18

未曾有の被害を出した東日本大震災(紙面版)  2011年4月3日

19

八百長・菅政権を打倒し真の日本復活を成し遂げよう!

 2011年2月19日

20

TPPは「日本復活」の鍵か、「日本消滅」への一歩か

 2010年12月2日

21

無能で有害な政治家が歓迎される「国家」日本の悲劇  2010年9月23日

22

どこに行く?民主連立政権 第5回  2010年3月15日

23

どこに行く?民主連立政権 第4回  2010年2月21日

24

どこに行く?民主連立政権 第3回

 2010年2月11日

25

どこに行く?民主連立政権 第2回

 2010年2月1日

26

どこに行く?民主連立政権 第1回

 2010年1月26日

27

米欧中の狭間で揺れ動く日本 民主党政権はどこに向かって舵を切るのか

 2009年12月5日

28

民主党政権誕生!新しい時代を切り開くために覚悟を固めよう  2009年9月7日

29

「竹島」の狙いは総額数千兆円の海洋資源 韓国が仕掛けてきた「外交戦」こそ絶好の好機!全面勝利を目指して良識派陣営は結集せよ!

 2005年5月2日

 




いま原子力


Copyright © 2015 行政調査新聞. All Rights Reserved.


QLOOKアクセス解析